ケ  ツ  デ  カ  し  ず  く   作:ぎののん

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仕事が忙しすぎて2ヶ月ぶりの更新です(土下座)




オウサカ・シズク・ケツデカ

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏休みだー!!」

 

 地獄の定期考査が終わり、虹ヶ咲学園は夏休みへと突入していた。

 約1ヶ月半の休み。その長期休暇を無駄にしないためにも、国際交流学科一年三人組は、入念な夏休みの計画を立てていた。

 

「といっても、桜坂さんはあまり休みらしい休みはないんだね」

「うん。演劇とスクールアイドルの活動を両方するとなると、それほど多く休みは取れないかな」

「せっかくの休みだってのに、部活している奴らは大変だなぁ」

「好きでやってるからね。私は別に苦に感じることはないよ」

 

 なるほどなぁ、と呟く海里。

 背もたれにもたれると同時に、慶と目が合った。

 

「……んだよ」

「そういや慶はまだバスケ部に入らないのかなーって思ってよ」

「何度も言うけど入らないよ」

「アメリカに行った時はバスケした癖に?」

「……」

 

 しずくは、少し不安そうな表情で二人のやり取りを見守る。

 海里が何かしらバスケの話題を上げると、いつも慶は塞ぎ込むように難しい顔をしてしまう。

 

(……また、その表情……)

 

 あれほど現地の人を圧倒するくらいのスキルを持ってもなお、バスケから離れざるを得ない事情があるのかもしれない。

 踏み入りたくても、踏み入れない領域。変に触れてしまって嫌われてしまいたくない。その思いが、足枷となってしずくの歩み寄りを鈍らせる。今の彼女には、ただ見守ることしか出来なかった。

 

「あれは仕方なくだよ。そうでもしないと桜坂さんを解放しそうになかったし」

 

 何事もないように、慶はオレンジジュースの入った紙コップを傾ける。諦めたのか、海里も苦笑を浮かべてその手の話から引くことにした。

 

「まぁこんなやつの話はどうでもいいから置いといて」

「うぉい! どうでもいいなら聞いてくるなよ!?」

 

 さらっと非情なことを吐きながら、海里はスマホでカレンダーのアプリを開く。

 

「とりあえず、しずくちゃんの休みを聞かないことには始まらないからな。教えてくれ」

「うん。私の休みはね」

 

 小綺麗な手帳を見ながら、予定を海里に伝えていく。それを見て海里は、小難しい表情を浮かべてしまう。

 

「思ったより休みが少ないな……」

「ごめんね。こればかりはどうしようもなくて」

「いや、大丈夫」

 

 何か考え事をしている海里のカレンダーを、慶は横から見る。ふと、とある日に視線が留まった。

 

「ライブ、あるんだ」

 

 その呟きに、しずくは答える。

 

「うん。ソロ限定なんだけど、規模的には全国大会でね、侑先輩が経験を積むって意味でも出てきたらどうだーって」

「侑先輩?」

「うん。スクールアイドル同好会を支えてくれている人なんだ。代表、みたいな感じかな」

「へぇー。そんな人もいるのか」

 

 少し興味ありげに、話す素振りを見せる慶。

 そんな彼の様子を見て、しずくはとあることを閃いた。

 

「そうだ! 柏葉くん! 西宮くん! この日のライブ見に来てよ!」

 

 突然の申し出に、慶は少し面食らう。

 一方の海里は、目を輝かせながらその話を聞いていた。

 

「本当か!? 行かせてもらおうぜ慶!」

 

 我に返り、その日に予定がないかを確認する。

 特にこれといった予定がないことを把握した慶は、しずくに笑みを向けた。

 

「うん。行かせてもらうよ。桜坂さん」

「ふふっ。楽しみに待ってるよ!」

 

 その日は、予定している全てのイベントを終えた夏休みの最終日。

 しっかりとカレンダーにその日を刻み込み、密かに楽しみに微笑んだ。

 

 

 

 ──スクールアイドル姿の桜坂しずくの尻を謁見できる。その下卑た考えと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 イベント一日目。

 夏といえば、という話し合いで真っ先に出てきた場所に、慶と海里は早速向かっていた。

 

「海だ──!!」

 

 荷物を置き、両手を空に突き上げる海里。

 ここは桜坂家の別荘。鎌倉の海を一望できる丘の上に建っており、広がる景色は最高の一言だった。

 

「にしてもしずくちゃん、こんなにも豪華な別荘を持っていたとは……」

「そうだね。お嬢様とは聞いていたけど、さすがに驚いた」

 

 豪邸、と言えるほど大きくはないが、一般人である二人からしてみると、別荘があるだけでも相当なお金持ちと思えてしまう。

 

「……俺、一生しずくちゃんに媚びていこうかな」

「早々にクズになり下がるな……いや、元々クズだったっけか?」

「ほぉ~? 一生しずくちゃんの尻ばかりみようとするゴミカスに言われたかないんだが?」

「お尻はいいんだよお尻は! 絶対に金に汚い方がゴミカスだから!!」

「謎理論展開するのやめろや!!」

 

 先程までの爽快ムードは一瞬にして消え失せ、二人は両手を掴み合って取っ組み合う。笑いながら睨みつけ合う視線がぶつかり合い、軽く火花を散らした。

 

「お待たせ……ってなにやってるの?」

「「男と男のプライドの喧嘩!」」

「喧嘩って……仲良いんだから喧嘩とかしないの」

「「仲良くないっ!!」」

「びっくりするくらい息ぴったりなのにその言い訳は苦しくない?」

 

 呆れた様子で、取っ組み合う二人を見つめるしずく。

 

「おやおや? 喧嘩かい?」

 

 その後ろから、二人の様子をじっと見つめている見知らぬ女性の姿があった。

 聞き覚えのない声に、一瞬で動きを止める慶と海里。ぎこちない動きで声が聞こえてきた方を振り向く。

 

「はぅあ!?」

 

 胸を押えて、大声をあげる海里。

 慌てて二人は乱れた服装を整え、女性の方を向いた。

 

「お、お初にお目にかかります!」

「おお~緊張しちゃってるねぇ。こりゃあ、彼方ちゃんの美貌に当てられちゃったかな?」

 

 彼方と名乗った女性は、意地悪げにニヤニヤと笑みを浮かべる。その仕草に、海里が5mほど後ろに吹き飛んだ。

 腰くらいまで伸びている髪の毛。アメジスト色をした綺麗な瞳。そしてゆるふわ系の顔立ちや雰囲気。その全てが、可愛らしさと美しさを両立していた。

 

「あの子、大丈夫~?」

「大丈夫です。あれが平常運転なんで」

「鼻血の噴水が上がってる光景が平常運転か~」

 

 妙に納得したかのような笑みを浮かべて頷く彼女。その視線の先には、鼻血の噴水によって綺麗な虹が浮かび上がっている光景があった。

 

「てか鼻血で虹ってかかるんだ。自由研究の題材にしようかな。もちろん海里を使って」

「そろそろ本気で西宮くんが泣いちゃうよ……?」

 

 血も涙もない発言を連発する慶に、流石のしずくも止めに入った。

 

「ふぅ、危うく4回は死ぬところだったぜ……」

「3回は死んだんかい」

 

 鼻血を拭きながら、その場に立ち上がる海里。ティッシュを鼻の穴に幾重も詰め込み、万全の体制で再び彼女と相見えた。

 

「あ、あのっ!」

「んー?」

 

 海里は、顔を真っ赤にしながら、それでも視線を彼女から外さずに見続ける。それに応えるように、彼女も海里のことを見つめた。

 深呼吸を何度も繰り返し、覚悟が決まった表情を浮かべる海里。そして。

 

 

 

「け、結婚してくださいッッ!!!」

 

 

 

 と、叫んだ。

 辺り一面に海里の愛の叫びが木霊する。慶としずくはぽかんとしたような表情を、彼女は少し驚いたような表情を浮かべていた。

 

「んー、ごめんね?」

「はぅあぁ!?」

 

 しかし、見事に玉砕。

 海里は胸を押えて、先程とは違う意味合いでその場に崩れ落ちた。

 

「まぁ、なんだ。ドンマイ」

「ちくしょう勝ち誇ったような表情でこっち見てくんなクソ童貞ヘタレカスゲス野郎……!!」

「暴言のオンパレードすぎる」

 

 落ち込む海里を無理やり立たせる。

 

「まぁまぁ、そう落ち込むでない若人よ~」

 

 そんな彼に彼女は歩み寄った。

 

「そもそも自己紹介すらしてないでしょ? まずはそこから始めないと〜」

「はっ!? た、確かにそっすね! あなたの美貌に魅了されて忘れてました!」

「へへへ。褒め上手はモテる証だぜ?」

 

 グッドサインを向けられて、海里は嬉しそうに照れる。一方の慶は、納得いかないような目で彼を見ていた。

 

「さっきの優越感はどこへやら、だね。思った展開にならなくて悔しいんでしょ?」

「うぐっ……桜坂さんって意外と容赦ないよね……」

「柏葉くんばかり優勢なのも面白くないからね」

「僕たちをおもちゃか何かと勘違いしてない?」

「さぁ、どうでしょう」

 

 ニヤニヤしながら慶の方を見つめるしずく。

 たまに、小悪魔チックな一面を見せるんだよな。そんな事を考えながら、慶は小さく息を吐いた。

 

「西宮海里です! 国際交流学科の1年です! お願いしやっす!」

近江彼方(このえかなた)です。ライフデザイン学科の3年生だよ〜。よろしくね~海里くん〜」

「うっす! お願いしやす! 彼方さん!」

 

 お互いに握手を交わす二人を、面白くないとでも言いたげな表情で慶は見つめていた。

 

「おかしいだろ……海里は、ほぼ全ての女性から嫌われるべき存在の人間のはずなのに……」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるケツ魔人。今だってチラチラしずくちゃんのケツ見てるじゃねぇか」

「流石にそれはないよ西宮くん。まだ水着姿にすらなってないし、ワンピースでお尻のラインも見えづらいんだから。ね? 柏葉くん」

「……」

「ねぇなんで目をそらすの」

「ふがっ!?」

 

 片手で両頬を押さえられる。

 慶を睨みつけるしずくは、歴戦の猛者とも呼べるべき凄まじい覇気を滲み出していた。

 

「ね? 見てないよね?」

「……えーと……」

「見・て・な・い・よ・ね?」

「う、ういっす!!」

 

 正直に話すと殺される。

 直感でそう感じ、慌てて言葉を合わせる。それを聞けて満足したのか、しずくは笑顔を浮かべ、手を離した。

 

「ふーん。なるほどなるほど……」

 

 二人の様子を、彼方は興味深そうに観察する。

 

 

 

 そして、何かを閃いたのか、意味ありげな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!」

 

 海里が大声をあげる。

 目の前に広がるのは、とても煌びやかな海の景色。日光を反射して輝く海面は、まるでダイヤモンドを散りばめたようだった。

 

「久しぶりの海だぜ! 楽しもうな! 慶! しずくちゃん!」

 

 高いテンションで、海里は豪快に笑いながら振り返る。

 

「いいよー桜坂さん! その角度でキープ!」

 

 そして、顔を真っ赤にして涙目になっているしずくの、水着姿の尻の写真をひたすらに撮っている慶の姿を見て、一気にテンションがどん底までに引き下げられた。

 

「これが天国ってやつか……!! ついに夢にも見た桜坂さんの水着姿のお尻……!! 桜坂さんのお尻のここが凄い! 大きいけれど身体とのバランスが抜群で、黄金比を保てているんだぞ!」

「うぅ、前のランニングの時に変な約束しなきゃよかったぁ……」

「俺の知らないところでなんて密約交わしてんだよ」

 

 呆れた表情で見つめる海里とは対象的に、慶の表情は幸せそのもの。完全に緩みきっており、気味の悪い笑みすらも浮かべている始末だった。

 

「よし、待ち受けにしよう」

「それだけはやめてっ!!」

「ぶべらっ!?」

 

 躊躇のない変態発言に、容赦のない平手打ちがクリーンヒット。心地よい音と共に、慶の顔が左に90度捻れた。

 

「一癖も二癖もある友達を持っちゃったね〜しずくちゃん」

「うぅ……度々、人選を間違えたと思う時があるんです……」

「間違えたと思うじゃなくて、間違えてるんだよしずくちゃん。あと彼方さん! 荷物持ちます!」

「これだけだから大丈夫〜ありがとね」

 

 笑みを浮かべながら、ビーチに設置されている椅子へと腰を下ろす彼方。しずくを見つめるその目は、意味ありげに煌めいていた。

 

「でも、しずくちゃんも満更でもなさそうじゃない?」

「そ、そそそ、そんなことないですよ!?」

 

 慌てふためく彼女を見て、彼方は面白おかしく笑いながら、耳打ちする。

 

「しずくちゃん、それってさ、ごにょごにょ……」

「────ッ!!」

 

 顔を真っ赤にして、しずくはそっぽを向く。

 相変わらずしずくちゃんは可愛いなぁ、なんて思いながら、彼方はサングラスをかけて寝転がった。

 

「それじゃあ、彼方ちゃんは若人の楽しむ声と海の音を聞きながら眠りにつくぜ〜」

「彼方さん! お供します!」

「眠りにお供はいらないかな〜」

「あっはい」

 

 見事に撃沈した海里を横目に、しずくはチラッと慶の方を見た。

 必死になって、平手打ちによって捻れた首を戻そうとしている。尻ばかり褒められるのは癪に障るが、それでも悪気がないことは重々承知。褒められるのは嫌いじゃないからこそ、許してしまう。

 

 

 

(しずくちゃん、それってさ)

 

 

 

 先程、彼方に言われた言葉が脳裏をよぎる。

 認めたくなかった。しずくの尻ばかり見る人を、行動原理の9割が尻のためだと豪語する人を、そんな気持ちで見てしまったら、なんだか負けてしまっているような気がしてしまうから。

 

 

 

(あの子のこと、好きなんじゃない?)

 

 

 

 それでも、時折自覚してしまう。

 彼といると、楽しいと感じてしまう。

 この気持ちの正体が分からないほど、しずくは鈍感ではなかった。

 

「やばい。首が戻らない」

「何やってんだお前。こういうのは無理やり戻すのが一番手っ取り早いんだよ」

「は? お前マジでやめろ。本当にやめろ。ねぇ聞いてますか海里さん? やめろって言ってるのになんで僕の頭を掴んでいるんですか?」

「フンッ!!」

「ほぎゃああああああ!?」

 

 相も変わらず馬鹿をやっている慶。

 最初こそ目立たない、冴えない男子だと思っていた。けれど、実際には優しくて、明るくて、面白くて。

 

 

 

 そして──他の尻には目もくれず、しずくの尻ばかり追い求めてくる変態で。

 

 

 

 世界中探しても彼しか持っていないであろうその魅力に、性癖に、知らぬ間に惹かれてしまっていたのだろう。

 

「ふぅ、スッキリしたぜ」

「ふざけんなお前!! 絶対助ける為じゃなくてストレス発散のためにやっただろ! 首から出たら行けない音が鳴り響いたんだけど!! 」

 

 またしても、ギャーギャーと騒ぎながら喧嘩を始める二人。

 

 

 

「あははっ」

 

 

 

 そんな彼らを見て、心の底から楽しむかのように、しずくは笑った。

 

 

 

「……青春ですなぁ」

 

 

 

 ボソッと彼方が呟く。

 それは誰の耳に入る訳でもなく、蒼天の遥か先へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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