ケ  ツ  デ  カ  し  ず  く   作:ぎののん

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桜坂の尻肉気持ち良すぎだろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜坂しずく。

 虹ヶ咲学園の一年生であり、演劇部とスクールアイドル同好会を兼部しており、校内人気もかなり高い方に位置する女子だ。

 身長やその他もろもろのスタイルは普通より少し上くらいだが、顔が良く、通りかかる数少ない男子の視線を奪うこともしばしば。

 だが、そんな清楚の権化のような彼女には、ある秘密が存在していた。

 

 

 

 それは、尻が大きいということ。

 

 

 

 彼女のスリーサイズはバスト80、ウエスト58そしてヒップが脅威の83。

 普段はそれほど気にしているような素振りを見せることはなく、スクールアイドルの写真撮影などでは自分の武器のように見せることもある。

 しかしそれは、スクールアイドルの時の話であり、それ以外の時は密かにこの尻の大きさを気にしていた。

 

(最悪だ……)

 

 そして、彼女は遂に自身の尻の大きさに反逆される運命となった。

 

「……」

「ねぇ」

「……」

「ねぇってば!!」

「うわぁ!? はい!」

「なんでさっきから私の……その……お、お尻ばっかり眺めてくるの! やめてって言ったよね!?」

 

 しずくが階段から滑り落ちた時に彼女の尻の下敷きとなった転入生の男子──柏葉慶が、彼女の尻フェチになってしまい、こうしてセクハラまがいな事をされてしまう羽目になってしまったのだ。

 

「え? あぁごめん。桜坂さんのお尻がまるでモナ・リザのように美しかったから眺めちゃった」

「人のお尻を勝手に有名絵画を見る感覚で眺めないで!!」

 

 虹ヶ咲学園は全校生徒が3000人、一学年1000人程の在校生がいる。

 故に本来ならば滅多に会うことがないはずなのだが、まさかの慶もしずくと同じく国際交流学科に編入されたおかげで、二人は一緒のクラスになってしまった。

 普通科ならばクラスが多いのでまだ一緒のクラスになる確率は低いが、国際交流学科は人数が少なく、クラスも三つしかない。

 

 つまり、あと三年弱の間、しずくと慶は同じクラスになり続ける可能性が高いというわけである。

 

「うぅ……これからずっと私はお尻を見られて生活していかなきゃいけないのね……」

「直接味わうのが一番いいけど、こうしてスカート越しの桜坂さんの尻もいいな」

 

 ブツブツと呟く慶の言葉に、しずくは耳まで真っ赤にして俯く。ただ、形はどうであれ自分のことを褒めてくれているからか、彼に対して強く否定の言葉をぶつけることは出来なかった。

 

「あのっ、柏葉くんっ」

「ハッ!? は、はいっ」

 

 しずくが振り向き、頬をふくらませて慶の方を見る。途端、催眠術が解けたかのように慶は慌てふためき、しずくから視線を逸らした。

 

(……あれ?)

 

 先程まで険しい表情でしずくのお尻を分析していた慶が、目を合わせようと振り返ったらしずくの方を見なくなってしまう。そんな彼の変わりように彼女は首を傾げた。

 

「ご、ごごご、ごめんなさい……! き、君のような可愛い子と面と向かうと、恥ずかしくて直視出来なくて……!!」

 

 先程とは立場が逆転。

 今度は慶が耳まで真っ赤にさせて俯いてしまった。

 

「ふふっ」

 

 しずくは、思わず笑いがこぼれてしまう。

 

「な、なんで笑ってるんだよぅ」

「ううん。ただの変態さんかと思ってたけど、何だか可愛らしい一面もあるんだなって思って」

「うぐっ……」

 

 頭を掻き、照れながら彼は少し不満げにしずくの顔を見る。

 出会ってから視線が合うことがなかった二人。ようやく、しっかりとお互いに視線を合わせることに成功した。

 

「あっ……」

「ようやく目が合ったね。柏葉くん」

「う、うん」

 

 しずくはゆっくりと慶に歩み寄り、再度微笑む。

 

「これからはお尻だけじゃなくて、ちゃんと私の方もちゃんと見て話してね。友達、なんだから」

「……いいの? 僕なんかと友達になっても」

「うん。確かに変態さんだし、ことある事に私のお尻ばかり見るセクハラおじさんだけど」

「ぐふっ!? お、桜坂さん……オーバーキルにも程があるんだけど……」

「あははっ! そうかもね! でも、柏葉くんはそれ以上に私の事を助けてくれた恩人さんだし」

 

 慶が目を見開く。

 そして「参ったな」と呟くと、彼は困りながらもしずくに向けて笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ。これからもよろしくね。桜坂さん」

「うんっ。よろしく」

 

 しずくは慶に手を差し伸べる。

 少し躊躇いを見せたが、彼はその手をしっかりと握った。

 

「それじゃあ行こっか。柏葉くんも第2言語にフランス語を選んでるんでしょ? ならついてきて! 教室教えてあげる!」

「あ、うん。ありがとう桜坂さん」

 

 二人は頷き合い、再び歩み始める。

 出会いこそ奇抜なれど、それもまた一期一会。こうして出逢えた以上、必ず意味があると信じて、しずくは彼と友達になることを選んだ。

 ここからがスタート。慶という異性と友達になって交流を深めていくことで、女優としての自分を磨く。その第一歩を、しずくは踏み出した。

 

 

 

「面と向かって話すのは緊張したけど、桜坂さんのお尻を見ていたらなんだか落ち着くなぁ……」

「ほんと、ほんっとお願いだから、できる限り周りに人がいる時はやめて欲しいんだけど……!!」

 

 

 

 そして慶は、しずくと友達になることで異性に対する苦手意識を克服すると共に、自身の桜坂しずくお尻フェチを磨く為のその第一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあってねぇ」

 

 虹ヶ咲学園にあるスクールアイドル同好会の部室にて、しずくは困った顔でため息を吐く。そんな彼女の愚痴に似た呟きを聞き、同級生たちは信じられないような目で彼女を見た。

 

「いやいやしず子……あんた満更でもないでしょ」

「そ、そんなことないよ!? 逆になんでかすみさんはそんな風に受け取ったの!」

「すみませんしずくさん……私もそんな風に受け取ってしまいました……」

「右に同じ。りなちゃんボード『ニヤニヤ』」

「えっ!? 栞子(しおりこ)さんと璃奈(りな)さんも!?」

 

 同級生たちの酷評を聞いて、その場に突っ伏す。

 

「確かにその人は引くレベルの変態だけど、尻を見られてそこまで抵抗もないしず子もしず子じゃん」

「むしろ、お尻を見られていることに快感すら感じてそう」

「そ、そうなのですか!?」

「違うからッ!! 栞子さんは二人の妄言を信じ込まないで!!」

 

 そのように同級生たちから思われていることを知って、内心かなり焦っていた。

 言われてみて振り返ってみると、かすみの言う通り、恥ずかしさこそあれど尻を見られているという不快感はあまり感じなかった。

 

「はっ!? まさかしず子……男の子に自分のお尻を見せつけるのが性癖とか……!?」

「かすみさん?」

「ひぃ!? し、しず子、笑顔が怖いよ!? ごめんなさいかすみんが言いすぎました許してください!」

 

 璃奈の後ろに隠れるかすみを見て、しずくは大きなため息を吐いた。

 自分の尻が他のスクールアイドル同好会の一年生に比べたら大きいことは理解している。時にそれを武器にしたような写真を撮ることはあれど、決して性癖などではない。

 

(そんなのじゃ、ないもん──)

 

 彼の顔が、頭の中に浮かんだ。

 普段はあまり活発じゃなさそうな表情なのに、尻を見る時はどこか格好良さを感じる顔付きになる。そのギャップに、少しばかり魅力を感じてしまう自分も存在していた。

 

「しずくさん?」

「栞子さん? どうかした?」

「いえ。ですが少しばかり嬉しそうな表情をしていたので、どうしたのかなと」

「え? そうかな?」

 

 栞子に指摘されて、しずくは自分の手を見る。

 

「ううん。多分気のせいだと思うよ」

 

 そして苦笑を浮かべた。

 彼は確かに気になる存在だ。でもそれ以上でもそれ以下でもない。だから彼のことを考えて嬉しそうな表情を浮かべることは、万が一にも有り得ない。そう結論づけた。

 

「はーい! 休憩終わりー! 今度は全員で合わせてみよー!」

 

 その声に一年生たちは返事し、練習を再開するためにダンスルームへと足を運ぶ。もうその時には、彼の事をすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しず子お疲れ様ー!」

「かすみさんもお疲れ様」

「ばいばい、しずくちゃん」

「璃奈さんも気をつけてね」

 

 かすみと璃奈に手を振りながら、しずくは駅の中へと入っていく。

 彼女の実家は神奈川県の鎌倉にあり、そこからわざわざ一時間かけて虹ヶ咲学園に通学している。今日も暗くなりつつある景色を見ながら電車に揺られるかと、考えながら電車に乗り込む。

 この時間帯の電車はかなり混み合っており、座れたら奇跡と言えるほど座席が確保できない。故にしばらく座れないだろうなと、しずくは考えていた。

 

「あっ」

「ん?」

 

 ふと、前から聞き覚えのある声が聞こえた。

 吊り革を持ちながら、俯いていた顔を上げる。そこには、驚いた様子で座席に座っている慶の姿があった。

 

「お、桜坂さん!?」

「か、柏葉くん!?」

 

 かくいうしずくも、驚きの声を上げた。

 

「桜坂さんもこっち方面なんだ……」

「そうなんだ。それにしても驚いたなぁ。私と同じ方面の生徒は虹ヶ咲にはいなかったから尚更だよ」

「そ、そうなんだ。ちなみに桜坂さんはどの駅までなの?」

「鎌倉なんだ。そういう柏葉くんは?」

「鎌倉!? 僕も鎌倉だよ!」

「えっ、うそ!?」

 

 さらなる共通点を見つけ、お互いに再度、驚きの声を上げる。いつしか、しずくの瞳がキラキラと輝いていた。

 一時間今まで一人で電車に揺られていたのが、こうして知り合いと共に帰ることが出来るようになった。その事実が、友達と一緒に帰りたいと考えていた彼女にとってあまりにも嬉しい誤算だったからだ。

 

「そうなんだ! もしかしたらお互い気付かないうちに昔に会ってたりしてっ」

「可能性もなくはないよね。そっかぁ。桜坂さんも鎌倉だったのかぁ」

 

 嬉しそうに呟く慶。

 自分と同じことを彼も考えているのだろうか。

 

「これで休日も桜坂さんのお尻を堪能出来る確率が格段に上がったな……」

「真剣な顔してストーカーみたいな発言しないでくれるかな?」

 

 前言撤回。

 自分の尻の事しか考えていない彼を見て、しずくは額に手を当てて何度目か分からないため息を吐いた。

 

「えぇ!? なんで!?」

「逆になんで当たり前かのように堪能できると思ったの!? 」

 

 絶対に柏葉くんには住所を教えないでおこう。そう心に誓ったしずくであった。

 

「そういうわけだから、私のお尻目的で出会うのは禁止です! わかった?」

「うぅ……仕方ない……百歩譲って学校の時以外は満喫しないようにするよ……」

「いや、全然百歩譲れてないよ? 百歩譲るならせめて学校の間も満喫しないで?」

 

 本気で落ち込んでいるのが目に見えてわかるほど肩を落としている慶を見て、しずくは苦笑を浮かべた。

 形はどうであれ、自分のある部分に惚れ込んで注目してくれることには悪い気はしない。あとはもう少し、外面的ではなくて内面的なところにその興味が向いてくれたのならば文句はないのだが。

 

「それじゃあせっかくだし」

 

 少しでもそちら方面に興味をずらせないだろうかと思い、しずくは慶に話しかけた。

 

「お互いの事をもっと深く知るために、色々話し合おうよっ」

 

 しずくのその申し出に、慶は控えめに頷いた。

 そこからは、話が弾みに弾んだ。しずくが青藍高校から虹ヶ咲学園に編入してきたこと。慶が途中から編入試験を受けて虹ヶ咲学園に来た理由など、その内容は様々なものだった。

 

「へぇ〜。柏葉くんのお友達のために虹ヶ咲学園にわざわざ来たんだね」

「そうなんだよ。あいつは僕がいないとダメでね。すーぐ女子にセクハラ紛いな発言するんだよ」

「え……柏葉くんもめちゃくちゃするじゃん」

「僕のどこにセクハラ紛いな発言があったの?」

「まさかの自覚がなかった系!?」

 

 お互いの過去を知れ、楽しさでいっぱいだったり、新たな新事実が浮き彫りになって頭を悩ませることになったり、様々な感情が飛び交いはしたが、最終的にはしずくも慶も、笑顔でお互いに話を進めていた。

 

「あ。桜坂さん、隣空いたよ」

 

 三十分ほど電車に揺られて、ようやく一人が座れる分の席が空く。

 少しだけ横により、しずくの座れるスペースを確保する彼。その素朴な優しさに、しずくはほんの少しだけ胸が弾んだ。

 

「ごめんね。ありがとう柏葉くん」

「大丈夫。部活終わりで立ちっぱなしもしんどいでしょ? ほら」

「それじゃあ遠慮なく──」

 

 感謝の意を述べた後、しずくは慶の隣に座ろうと腰を下ろした。

 

 

 

 ──刹那、彼の足に再びあの感触が襲いかかる。

 

 

 

 慶の目がこれでもかというくらい見開かれる。

 

(こ、これはッッッ!!!)

 

 彼の視線の先には、自身の太ももに乗り上げたしずくの尻肉。充分なスペースを確保したつもりだったのだが、それだけでは彼女の尻は収まりきらなかったようだ。

 突然の至福が彼に舞い降りる。もちろん、普通ならばここで『桜坂さん、お尻が……』と言い、今後のために彼女からの信頼を得るべきなのだろう。

 

(桜坂さんの尻肉、気持ち良すぎだろ!!)

 

 しかし彼は、そんな事よりも目先の利益──しずくの尻肉の感触を思う存分楽しむことにした。

 

「おっふ……」

「柏葉くん? どうしたの?」

「い、いや!? なんでもないよ!?」

 

 当の本人は気付いていないのを言い事に、ここぞとばかりに感触を自身の体に覚え込ませていく。

 普段の慶は温和な性格で、とても優しく人間味の溢れるような存在なのだが、ことしずく印の尻フェチに目覚めてからは、彼女の尻が絡むとこれ以上ないほどクズに成り下がるようになってしまった。

 

「本当に? 少しばかり顔が赤いけど──」

 

 不思議そうに首を傾げながらも、しずくは彼の視線が向けられている先を見て、そしてようやく気が付いた。

 

 

 

 自身の尻肉が、彼の太ももに乗り上げられている事に。

 

 

 

「な、ななな……!?」

 

 一気にしずくの顔が紅に染まる。

 その反応を見て、慶は慌てて弁護した。

 

「ち、違うんだ桜坂さん! これは、その……本当にたまたま偶然起きた事で、意図してやった事じゃなくてだね……!!」

「そ、それでも気付いてたのなら堪能せずに私に教えなさぁぁぁい!!」

「不可抗力ッ!?」

 

 

 

 が、その無駄な努力も虚しく。

 

 

 

 電車内に慶の頬を目掛けて振り抜いたしずくの平手打ちの、甲高い音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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