ケ  ツ  デ  カ  し  ず  く   作:ぎののん

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君のおしりがッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 波乱だった留学も無事に終わり、虹ヶ咲学園国際交流学科の一年生たちにはいつもの日常が舞い戻ってきた。

 

「定期考査だぁぁぁぁ!!」

 

 はずだった。

 頭を抱え、その場に崩れ落ちるたくさんの生徒。

 生徒たちにとって地獄の期間である考査期間。それがついにやってきたのだ。

 

「ほら海里。現実から逃げない」

「うぅ……こういう時にひみつ道具とかあれば最高なのに……ケイえも〜ん」

「ったく、仕方ないな……」

 

 ふぅ、と息を吐いて海里に向けて手を差し出す。

 

「授業料1万円だけどいい?」

「笑顔でなんてこと言いやがるんだお前。あと妙にリアルな値段出してくんな」

 

 食堂の机で向かい合い、お互い睨み合う。

 そんな彼らの元へ、呆れた様子で歩み寄る人物がいた。

 

「もう、また喧嘩?」

「聞いてくれよしずくちゃん!! 慶のやつ、勉強教えてやるから5000万円寄越せってぇ!」

「要求したのは1万円なんだけど」

「あ、要求はしたんだ……」

 

 赤いリボンを揺らし、スカートを折って慶の隣に座るしずく。その手には水色のコッペパンが握られていた。

 

「え」

「ん?」

 

 ギョッとする慶を見て、しずくは不思議そうに首を傾げる。彼の視線は、しずくの後ろに隠れるようにこちらを見つめている少女に向けられていた。

 

「お? なになにしずくちゃん。その子に俺の事を紹介してくれるの?」

「ひぃ!? あ、新しい女子が……!!」

 

 真逆の反応を示す二人を見て密かに笑ったしずくは、隠れている少女の後ろに回り、肩に手を置いて前へ押しやった。

 

「ほーら、かすみさん! 隠れない隠れない!」

「そ、そんなこと言われても! かすみん、こうして男子と面と向かって話したことほぼないから緊張するの!」

 

 ベージュ色の髪を人差し指でクルクルさせながら、彼女は恥ずかしそうに二人を見る。途端、二人は前傾姿勢で彼女を凝視した。

 

「ひぃ!?」

 

 軽い悲鳴が、かすみと呼ばれた少女の口から漏れる。それでもなお気に留めていないのか、彼らは観察を続けた。

 方や全身を見るように、方や尻ばかりを凝視するように、目を光らせていた。

 

「「……はぁ」」

「どうやらかすみさんは二人の基準に満たなかったみたいだよ」

「初対面で失礼すぎるでしょ!? こんなやつらと知り合いなのしず子!?」

「知り合いじゃないよ。尻合いブベッ!?」

「知・り・合・い・だ・よ・ね?」

「う、ういっす!」

 

 暗黒微笑を浮かべるしずく。

 右腕で顔を押し付けられている慶。

 何やらブツブツと呟く海里。

 かすみの目の前には、まるで地獄と呼んでも過言では無い光景が広がっていた。

 

「地獄絵図すぎるぅ……やっぱり来なかったらよかったぁ」

「もう、そんな事言ってたらまた点数がにゃんにゃん、になるよ?」

「それはよくないね。22点は非常によくない」

「なんで分かるの!? というか、鼻血出過ぎじゃない!?」

 

 両方の鼻の穴から鼻血をジェット噴射しながら、慶は真顔で頷く。椅子からはおよそ2cmほど浮いていた。

 

「しずくちゃんのにゃんにゃんを聞いて動揺してるんだよな」

「別にこれっぽっちも動揺なんてしてないけどね」

「だそうだ。しずくちゃん、どうする?」

「にゃんにゃんっ」

「君のおしりがッ!!」

「おもっくそ動揺してんじゃねぇか」

 

 敢えて尻を向けながら挑発するかのように猫ポーズを取るしずく。それを見た慶は、まるで当然のように鼻血の勢いが増し、ずきゅんどきゅん上昇し、そしてばきゅんぶきゅんと天井に突き刺さった。

 

「ケツデカ伝説……卑怯すぎる……」

 

 そのような言葉が聞こえてきたのと同時に、少しばかり痙攣していた慶の身体がピクリとも動かなくなってしまった。

 

「逝ったな」

「惜しい人を亡くしたね……」

 

 二人してハンカチを取りだし、目元を抑える海里としずく。

 

「……もう帰ろうかな……」

 

 彼らの様子を見て、かすみは心の底からそう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さ、僕たちなりの挨拶を済ませたところで」

「もうツッコミするのも疲れたからスルーするねしず子」

「かすみさん、全ては慣れだよ」

「これだけには一生慣れたくないんだけど」

 

 食堂の机を挟んで、向かい合って座る四人。

 何故、今回しずくがかすみを連れてきたのか。その経緯を知るために、両方の鼻の穴にティッシュを詰め込んだ慶が訊ねる。

 

「えーと、中須(なかす)かすみさん……だよね? 初めまして。柏葉慶です。自己紹介としては」

「私のお尻ばかり見たり触ったりしようとしてくる変態さんでーす」

「ちがわい! いや、違わないけど!」

 

 その場に立ち上がって反論する慶を見て、しずくは楽しそうに微笑む。かすみはそんな二人の様子を頬杖つきながら。

 

(お尻狙われてるのに楽しそうに仲良くしてるしず子も変態さんなんだけど)

 

 と思ったが、口にはしなかった。

 

「次は俺だな! 西宮海里! よろしく!」

「この人はあれだよ。一言で言うと『雑魚』だよ中須さん」

「うるせぇ女耐性雑魚の分際で!」

「お前は全てにおいて雑魚だろ!」

 

 突然の喧嘩が勃発。

 それすらもしずくは少し楽しそうに笑って見ていた。

 

「しず子……変わっちゃったね」

「え、なにが!?」

 

 悲しそうにかすみは呟く。その目はどこか悲哀に満ちており、大いにしずくを困惑させた。

 

「そうだ。こんな馬鹿と喧嘩するのは置いといて」

「なんで今になってこの子を連れてきたんだしずくちゃん?」

「えっとね、さっきもチラッと言ったんだけど……」

 

 何故かすみを『触れるな危険』の二人に邂逅させたのか、しずくは淡々と説明した。

 

「と、言うわけなの」

「なるほどなるほど。つまり俺たちと勉強会をするために、って事だな」

「うん。というわけで、かすみさんの赤点を回避するために、やむを得ないと思って……」

「ちょっと待って? その言い方だと僕たちの事を危険因子だと思ってたりしない?」

「さぁ? 気の所為じゃないかな?」

 

 しずくは、わざとらしくとぼけた。

 

「そういう理由なら仕方ねぇな! どれどれかすみちゃん! 俺が勉強を教えてやるよ!」

「さっきまで絶望してたやつが何を見栄張ってんだか」

「うるせぇ! さぁさぁかすみちゃん、分からないのはどの教科だ?」

「え、えーと。数学、なんだけど」

 

 教科名を口にした途端、周りの空気が一瞬にして凍りつく。海里はもちろんの事だったが、しずくもそのうちの一人だった。

 

「す、数学かぁ……へぇ〜」

「どうしたの海里。教えるんじゃないの?」

 

 ニヤニヤとぎこちなく顔を逸らす海里を見つめる慶。その表情は心の底から現状を楽しんでいるようだった。

 

「い、いやぁ。俺の頭の良さは数学なんて教科に収まらないくらいに凌駕しているからさ。俺が教えたら駄目かな〜って思ってよ」

「確かに凌駕してるから駄目だね」

「だ、だろ!?」

「授業中をどう過ごしたら全教科赤点なんてとるんだか」

「うおい!? せっかく隠してたのに何バラしてんだお前!?」

 

 詰め寄ってくる海里の顔面を片手で押さえながら、しずくの方を見る。目が合うと同時に、申し訳なさそうに彼女は苦笑した。

 

「桜坂さんも数学は苦手なんだね」

「面目ない……本当は私がかすみさんに教えられたなら良かったんだけど、今回の範囲はどうしても自信なくて」

 

 困ったように慶を見るかすみとしずく。

 こうなった以上、腹を括らなければ。そう考えた彼は、鞄の中から数学の問題集とノートを取り出した。

 

「じゃあ僕が教えるよ。数学の内容は国際交流学科と普通科で変わんないと思うし」

「うう、ありがとう〜。しず子が無理ってなって諦めてたよ〜」

「ふふ。良かったねかすみさん。ついでに私も教わっていいかな? さっきも言ったけどあまり自信がなくて」

「構わないよ。数学は僕の得意分野だし」

 

 慶の成績は上位10位に食い込むほど優秀だ。

 その中でも数学は毎回ほぼ満点。他教科も常に9割近くを叩き出すくらいには秀才だった。

 

「ほら、類人猿カイリ=ニシミヤも頑張れ」

「誰がホモ・サピエンスだ!!」

「いや類人猿だからホモ・サピエンスより下なんだけど。何ちゃっかりグレードアップさせてんだよ」

 

 またもや噛み付こうとしてくる海里の顔面を問題集で押さえつけながら、慶はかすみとしずくのノートを見る。しずくは基本問題ならばスラスラと解けていたが、かすみはその段階で色々と詰まっていた。

 

「あれ? どうしたらいいんだっけ……」

「中須さん。三平方の定理って覚えてる? それを使えばそれはすぐ解けるよ」

「えーと、直角はここだから……本当だ! 解けた!」

 

 嬉しそうに喜ぶかすみ。

 彼女の笑顔を見て、思わず慶は微笑んでしまった。

 

「なぁ慶! 直角ってなんだっけ!」

「せっかく微笑ましい気持ちになってたのに全てを台無しにするようなクソ質問やめてくれない?」

 

 のも束の間、海里からの基本中の基本の質問が飛んできてこれでもかというくらい顔を顰めた。

 

「高校生にもなって直角知らないって何? よく虹ヶ咲学園の編入試験に通ったねそんなので」

「んなもん鉛筆転がしてりゃ入れるだろ」

「真剣に試験に望んで落ちてった人たちに今すぐ土下座してこい」

 

 一切海里の方を見ずにかすみとしずくのノートを見続けていると、今度はしずくが少し難しそうな表情をして考え込んでしまった。

 

「うーんと……ごめん柏葉くん。この問題わかる?」

「どれどれ、あー。これはここをこうすると……」

「本当だ! ありがとう〜助かったよ〜」

 

 かすみと同じく、しずくも嬉しそうに笑って再びノートと向かい合う。教えた時に、相手がこういう表情を浮かべてくれるのが好きだった。

 

「慶! 二等辺三角形の性質ってなんだっけ!」

「もうお前は自分で調べろ」

 

 海里の方向の耳を片手で押さえながら、慶はかすみとしずくに指南していく。なにやら海里がギャーギャー叫んでいたようだったが、彼の声をノイズと判断した慶の耳は、その一切を遮断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 無事、テストが終わって成績が返される日がやってきた。

 あれから、慶はかすみとしずくに一週間という期間を費やして数学を教えこんだ。もちろんその間に自身の勉強も忘れずに行ってはいたのだが。

 

「げ、12位か……」

 

 12位という成績に、少しばかり表情を暗くする。

 今までが10位以内に入っていた分、彼にとって納得いかない結果だったようだ。

 

「まぁ、それでもよくやった方かな?」

 

 しかしそれは、基準をかつての高校に合わせた場合の話。母数が圧倒的に増えた虹ヶ咲学園での12位はかなり高い位置に属するため、そこまで悔しさはなかった。

 

「12位って凄いじゃん! 私なんて80位くらいだよ」

「学年に1000人単位いる虹ヶ咲学園じゃあ、80位も相当なものだよ。さすがだね桜坂さん」

「えへへ。ありがとう。柏葉くんのおかげで数学も8割くらい取れたし、今回は満足かな?」

「それはよかった」

「しず子ー! かしおー!」

 

 二人で話し合っていると、かすみが嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。

 

「かすみさん! どうだった?」

「数学! 数学ね! 68点も取れた! こんなに取れたの生まれて初めて!」

「やったじゃん! えらいえらいっ」

 

 まるで犬のようにしずくに頭を撫でられ、目を細めるかすみを見て、慶は微笑んだ。

 

「これも全部かしおのおかげだね! ありがとう!」

「どういたしまして」

「これからはかすみん直々の家庭教師にしてあげてもいいよ〜?」

「それは遠慮しとこうかな……」

 

 何やら怪しげな表情でこちらを見つめてくるかすみ。慶は目を合わさないように顔を逸らしたが。

 

「むぅー」

「お、桜坂さん?」

 

 そこには膨れ面で睨んでいるしずくの姿があった。

 

「おやおや? しず子〜。もしかしてかしおを取られた嫉妬ですかな〜?」

「ち、違うもんっ! ただ柏葉くんはみんなのものだって思っただけだからっ!」

 

 慶は、何やら言い合いを始めた二人を微笑ましく見守ったあと、ふと後ろを見た。

 

「あ、あああああ……」

 

 自身の成績表を見て、その場に崩れ落ちている海里。チラッとその成績表をチラ見したが、そのあまりの成績の悪さに、慶は軽蔑するような視線で彼を見つめた。

 

「……全教科赤点、ご苦労さま」

「あがががががが」

「単位を落としまくったから、このまま補習を受けての再テストも合格しなかったら留年だろうね」

「ギガギガフンフンガガガガガ」

「レジ○ガスかお前は」

 

 ため息を吐き、心底呆れた表情を浮かべながらも海里に対して手を伸ばす。

 

「……海里がいないとつまんないから、さっさと補習受けて再テスト合格するぞ。僕も手伝ってやるからさ」

「すまねぇ……」

「頑張ろう。相棒」

 

 さし伸ばされた手を、海里は申し訳なさそうに掴む。そんな彼を見て慶は苦笑し、彼を思いっきり引き上げ立ち上がらせる。

 

 

 

「……授業料1万円な」

「お前、やっぱり悪魔だわ」

 

 

 

 そして、無慈悲な契約を無理やり締結させた。

 

 

 

 

 




超絶遅くなってすみませんでした(土下座)
ここで一つお知らせです。
知り合いの絵師さんになんとこの小説の扉絵を描いていただきました。本当にありがとうございます。
これからも、ぜひこの小説を追ってもらえるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
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