基本的に、年頃の女の子はこの手の話が好きなものである。かつてないほどキラキラした目で俺を見る彼女に、もう嫌な予感しかしなかった。
「ねえサヤくん二十一回告った彼女の話ホント!?」
「よォし三ツ谷正座しろ」
「エマちゃんに言ったの俺じゃねーし」
そう言って三ツ谷はにこにこと笑うが、俺は言いふらすなと言ったはずなんだが。ねえホントなのと詰め寄るエマちゃんをちょっと待ちなさいと押しとどめつつ、愉快そうにこっちを見るクソガキ(うち一人はでかいガキ)に目を向ける。
先日真一郎の馬鹿が三ツ谷の前で口を滑らせやがったときは、真一郎を締め上げることで事なきを得たはずだった。真一郎にはそれ以上言ったらお前のエグい黒歴史をエマちゃんに全部バラすと脅しを掛け、三ツ谷にはツーリング連れてってやったんだから言い触らすなと言い含めた。
しかし
「言い触らすって、広く知らしめるためにいろんな人に言うことだろ? けど俺はパーちんひとりにしか言ってないからセーフ」
「何でお前そういうところで悪知恵働かすの?」
さらっと言い放った三ツ谷の隣で、納得したように場地が頷いた。
「じゃあパーちんが一虎に言ったんだな。俺は一虎から聞いた」
「俺は場地から。んでエマに言った」
「何てことしてくれんだ万次郎お前。変な伝言ゲーム成立させんな」
「大丈夫だってセンセー、仲間はずれはカワイソーだしケンチンにもちゃんと言っとくね」
「気遣いの方向が斜め下すぎ」
いや龍宮寺も興味ねーだろそんなもん。
思春期のガキはとかくこの手の話が好きなものだが、
ため息をつきたくなるのを意地で堪えながら、諸悪の根源に目を向けた。
「で、エマちゃん相手なら俺が吐くかもとか入れ知恵したのはどこの真一郎だ?」
「だっはっは! お前相変わらず年下の女の子に甘いのな!」
「うるせえわ。いくら自分がモテねーからって俺に八つ当たりすんなっつってんだよ告白二十連敗野郎(記録更新中)」
「はァ!?」
「真兄やっぱマジでモテないんだ~」
「エマ!? やっぱって何!?」
「見る目があんな、エマちゃん」
俺がそう言えばでしょ、と胸を張る彼女。まだまだ小さいと思っていたが、さすがにだいぶ身長が伸びたなと改めて思う。
真一郎の腹違いの妹だというエマちゃんとは、何年か前、彼女が兄貴の忘れ物を店に届けにきたときに顔を合わせた。俺や他のやつにに対しても人見知りせずちゃんと挨拶をしていて、真一郎の妹なのにしっかりしているもんだと皆して感心したものだ。その後もここで何度か顔を合わせ、気をつかわずに話せる程度には懐かれていると思っている。
が、だからって何でも言うこと聞いてやるわけではない。上目遣いのおねだりが俺に通用するとは思わないで欲しい。
「でもサヤくんはモテそうだよね~」
「そらドーモ」
「ね~彼女さんの話聞きたいな~」
「言わねー」
「えー!!」
教えてよ~、と揺さぶられても俺の返事は変わらない。ダメで~す、とされるがままに揺さぶられていると、にやりと笑った馬鹿がエマ、と妹を呼んだ。
あ、と何か思い出した顔をしたエマちゃんは、容赦なく切り札を切る。
「教えてくれないならサヤくんに泣かされたって言い触らすからね!!」
「まじでやめなさい」
どういう入れ知恵してくれんだ真一郎この野郎。
昨今では各所で問題を起こしてくれる一部のクソ馬鹿どものために、教師というのは必要以上に清廉潔白であることが求められている。まして俺は何の功績も後ろ盾もない新任一年目、妙な噂ひとつで面倒ごとに発展する可能性は十分にある。洒落にならない。
それが嫌なら教えてとエマちゃんは笑顔で言うが、いやホントマジでいい歳した野郎の恋愛話とか何が楽しいのサムいだけだろ畜生。まさか本当に変なことを言い触らすほど分別のない子ではないと思うが、嘘泣きくらいなら普通にやりかねない。この、
そこから起こり得るどんな状況を考えても、まず間違いなく大人しく吐いたほうが平和に終わる。あー……、と口から情けない声が落ちた。
よし、あとで真一郎殺そう。
「……何が知りてえっての」
「やったぁ!」
無邪気な笑顔を見せる彼女の後ろで、ぼそぼそと「マジでセンセーエマに弱えな」「これから何かあったときはエマに言おうぜ」「いいな。そうしよ」ってうるせえんだよクソガキども、俺にも立場ってモンがあるんです。
諦めてその辺の工具箱に座り込めば、楽しそうなエマちゃんも俺の前で座り込む。さっとその後ろに続くように滑りこむガキども、お前らは外で遊んでなさい。
「センセーがエマの言うこと聞いてるってだけですげー面白い」
「めちゃくちゃ嫌そうなセンセー見てるのが面白い」
「そんなに聞かれたくなさそうにしてたら聞かなきゃって思う」
「エマちゃん、こういうやつらにだけは捕まらないようにな」
「大丈夫、眼中にないから!」
「安心した。真一郎、笑ってんのは勝手だがお前後で見とけよ」
「いや~今ここに
反射的に投げたボルトを軽々とキャッチしやがったそいつに舌打ちをひとつして、で、とエマちゃんに顔を向ける。
「つってもそんなに話すことないけど」
「え~! じゃあまず出会いは? 付き合ったのはいつ?」
「中学同じだったからその頃から存在は知ってた。クラス違ったし話したことはなかったけど。告られたのは高校のとき」
「高校は違うの?」
「違うよ。俺がよく行ってたコンビニでそいつがバイト始めて、それでたまに話すようになった」
きゃー、とエマちゃんは目を輝かせるが、まあよくある話だと思う。
俺も何となく顔と名前くらいは覚えていて、向こうも何故だか俺のことを知っているようだった。家近いの、みたいな雑談をレジついでに交わす程度の友人未満だったが、いつだったか無謀にも遅くまでバイトを入れていた彼女を家に送ってからはもう少し話すようになった。
別に下心があったわけじゃない。タチの悪い不良もいた時代だったし、ちょうどその日コンビニ前で明らかに彼女を見てニヤついている馬鹿野郎どもがいたせいだ。案の定絡んできたので俺は穏便に注意するだけのつもりだったのだが、逆上して殴りかかってくるのは本当にやめてほしい。
『女ひとりに野郎数人で絡もうとしてる時点でマジでダセェからやめた方がいいぞって、完全に喧嘩売ってると思うよ?』
『そうか? だいぶ言葉選んだつもりだったんだけど』
返り討ちにした不良をその辺に捨て、俺は薄暗い街灯しかない道を彼女と並んで歩いた。
仕方なくとは言え目の前で喧嘩をしたのに、彼女が俺を怖がる様子はなかった。
『でも助かっちゃった。ありがとう鞘谷くん』
『いいよ、成り行きだし。でもあんま遅い時間までバイト入れねー方がいいんじゃねーの』
『わかってるんだけど、深夜のお給料いいんだよね~』
そう困ったように笑う彼女は、別に物怖じしない、というわけではないと思う。クズども相手には怯える様子も見せたし、危ないことに対する恐怖心もちゃんと持っている。でも、やるべきと思ったらその恐怖を乗り越えようとしてしまうやつだった。
欲しいものがあるのだ、と彼女は言った。それも、絶対に自分で稼いだお金で買いたいのだと。
『鞘谷くんて、バイク好きなんだよね?』
『そうだけど、俺言ったっけ』
『ううん、噂で聞いた。工業高校行ったのもその関係なんでしょ?』
『? うん』
『私もね、好きなものがあるの』
だから頑張るの、と言った彼女、早瀬真尋。
そのときの真尋の顔を見たとき、俺は思った。こいつ、俺が何を言おうとも絶対にやめる気はないな、と。
そして真尋は実際、こうと決めたら本当に聞かないやつだった。それこそ俺が何度振ろうとも諦めなかった程度には、退くことを知らないやつだったのだ。
「ぱっと見結構大人しそうに見えるのにな。マジで諦めないまま突っ走ったもんな真尋ちゃん。サヤのことも、自分の夢も」
「夢? その『好きなもの』?」
「ああ、写真撮るのが好きなんだよ。自分のカメラ買うためにバイトしてたんだと」
その日以来、少しずつ真尋との会話は増えていった。タイミングがあえばバイト帰りに送ってやることもあったし、コンビニ以外でも会うようになった。
生憎と俺は真一郎と違って女と話すことに身構えることはなかったし、何でもすぐ恋愛ごとに結びつけるタイプでもなかったので、本当にただのダチとして真尋に接していた。真尋の話は写真のことばかりだったが、決して退屈はしなかった。その「好き」の在り方が、俺がバイクに向けるものと似ていたからだと思う。
撮影の技術、撮った写真、次に撮りたいもの。自分が綺麗だと思った画を切り取るのが楽しいのだと真尋は言った。好きなものに対してこれ以上なく情熱を費やし、プライドをもって真摯に向き合っていた真尋は、月並みな表現だが、たしかに輝いて見えた。
俺のバイクの話も喜んで聞いてくれて、まあ普通にかなり仲は良かったと思う。何かのきっかけで俺と真尋のことを知った
「本当にそうだよ!! むしろ何で振ったの!?」
「そりゃただのトモダチだと思ってたから」
「最低!! 気を持たせすぎ!!」
「いや最初に振ったときにアイツ『だよね』って笑ったからそれはない」
「しかもそのあとも変わらずトモダチやってたよな」
「真尋サン心つっよ」
いや、一応俺も気を使うべきかと考えはしたのだ。気持ちは嬉しいが応えられないと言った時点で、もう気楽に話すことも出来なくなるのかなと。ただ、俺が思うよりずっと真尋が「普通」なんか乗り越えてしまうやつだっただけで。
「一回振ったその次の日に二回目告ってきたからなアイツ。正直耳を疑った」
「悪いけどマジで笑っちまったわソレ聞いたとき。何て言ってたんだっけ真尋ちゃん」
「『一晩寝たら返事変わるかなって』」
「まじ最高」
思わずと言ったように強すぎる、と三ツ谷が呟いたが、たぶん三ツ谷の思っている十倍くらいは強かった。強いというか手強かった。
さすがに三回目の告白は三日目ではなかったが、それでもふと俺が気を抜いた瞬間にぶっ込んでくるものだから何回か飲み物を噴きそうにはなった。それも十回を超えると慣れてきて普通に返せるようにはなったが、それでも真尋は諦めない。
『……俺、恋愛とかよくわかんねーし、多分頷くことはねーと思うぞ』
もう半分親切のつもりでそう言っても、真尋はただ笑うだけ。
『好きなものを好きでいるのも、好きって口に出すのも、全部私の勝手だよ。サヤくんが迷惑だって言うならやめるけど、迷惑ならサヤくんはちゃんとそう言ってくれると思うし、そもそも会ってくれないでしょ?』
だから諦めないよと言い切った、自分の「好き」にどこまでも忠実な彼女。ただ、その手が実は震えていたことに気づいてしまったとき、俺は。
納得しがたいらしいエマちゃんはむむむと唸り、じゃあと勢いよく顔を上げた。
「いちばん聞きたかったこと! 二十一回目でサヤくんが頷いたのはどうして!?」
「どうしてって……何エマちゃん、誰かに長い片思いでもしてんの?」
「ケンチンにずーっと相手にされてない」
「マイキーうっさい!」
あーなるほど、と頷けば、恋する女の子は顔を赤くして頬を膨らませた。
龍宮寺はわりと精神年齢も高くて年の割にタッパもあるし、エマちゃんが好きになるのもさほど不思議ではなかった。ただし最大のライバルが自分の兄貴になるのはかなり気の毒と言わざるを得ない。今日だって自分とこの店の手伝いとやらがなければ万次郎にくっついて店に来ていたことだろう。
うーんエマちゃん、見る目はあると思うが運がない。
「……龍宮寺を頷かせたいなら万次郎を独り立ちさせるのが先な気がする」
「まじそれ。あいつはマイキーに甘すぎ」
「基本マイキーの面倒見るので手一杯って感じだもんな~」
「万次郎、とりあえず朝ひとりで起きるとこからな」
「え~無理じゃん?」
「言っとくけどそれ真兄もだからね!!」
妙に大人びている龍宮寺なら、ヨメを最優先できないならたとえ好きでも頷くべきじゃないとか思ってそうな気はする。誠実というか変な方向で真面目というか、まあエマちゃん頑張れというか。
とにかく、とエマちゃんは今日イチ真剣な目を俺に向ける。その気迫についのけぞった。
「振り続けた真尋さんにOK出したの、何かきっかけとかあったの!? それまでの告白と何か違ったりした!?」
「……えー……」
きっかけというきっかけがあったわけではない。別に二十一回目の告白だけ特別だったというわけでもない。
強いて言うなら、本当にコイツ俺のこと好きなんだなと思ったというくらいだ。
『逃がしていーのか? サヤ』
お節介にもそう口を出してきたのは、たしか武臣だ。何だよ、と返せば、性格の捻くれた黒龍の副総長は愉快そうに笑いながら俺に言った。
『あんなにお前のこと好きなやつ、たぶん一生掛けてもそうそう出逢えねえぞ?』
お前のバイク好きに理解があるやつもな、とからかうように飛んできた言葉。ついうるせえと憎まれ口を返したが、言われたことは間違いではないと思った。振り続けてるのに俺に笑顔を向けるやつも、バイクの話を楽しそうに聞くやつも、俺のダメなとことか出来ねえこととかそういうのもわかっていながら隣を歩こうとしてくれるやつも、きっと他にはそういないだろう。何で俺なんだろうと自分で思ってしまうくらいには、真尋は俺のことが好きだった。
何回目の告白からだったか、俺は気づいていた。俺に好きだと言うとき、真尋の手はいつも震えていた。振られたあとは、いつも通りに見えてもちょっとだけ声が大人しかった。
真尋は無茶で無鉄砲な、恐怖も躊躇いも全部乗り越えて突っ走ってしまうタイプだが、決して恐怖や躊躇いを知らないわけではない。
振られるのが怖くても、毎回勇気を振り絞って俺に「好き」を伝えてくれていたんだと、そう気づいてしまったら。
「……すげーなと思ったから?」
考えすぎて行動が一歩遅れる俺とは正反対の、思いたったら即行動の暴走機関車。どちらかというとじーさんや真一郎に近いその気性は、俺にとっては羨ましくも見えた。そういうやつと一緒にいるのは疲れることもあるが、それ以上に愉快で爽快だったりもする。
真尋のそういう姿をいちばん近くで見ているのも悪くないと、結局そう思ってしまったのが運の尽きというか。「いいよ」という俺の言葉を三回聞き直した暴走機関車は、やはりというかまっすぐ俺に抱きついてきた。真尋の額が当たった肩がそれなりに痛かったことをよく覚えている。
すげーって、とエマちゃんは不満げに口を尖らせるが、俺はもう苦笑するしかない。
「根負けだよ。しつこさに負けたの」
「嘘! もっと何かあったんでしょ!?」
「嘘じゃねーよ。まーエマちゃんも諦めなきゃそのうち龍宮寺も振り向いてくれるんじゃねーの。頑張って万次郎に勝てよ」
「は? ケンチンは俺のだし俺が負けるとかありえねーけど?」
「お前そういうとこ真一郎の弟だよな」
は、と万次郎以外の全員が目を瞠るのを笑いながら、ハイ俺の話終わりと立ち上がる。真一郎まで驚いた顔しやがって、こいつは自分が度を超えた傲慢だという自覚が薄くていけない。
買ってきた雑誌でも読もうと背を向けると、サヤくん最後にしつもーん、と背中に声を投げられる。何だよと首だけで振り向くと、三ツ谷がひらひらと手をあげていた。
「サヤくんさ、仕事も忙しそうなのに結構ここ来てるって言うじゃん。んで時間が空いたらバイク流してんでしょ? いつ真尋サンと会ってんの?」
「ああ、言い忘れてたけど正確に言うと真尋は元カノ。俺は振られたことになってっしアイツは今海外」
「は、」
「どーゆーこと!?」
どういうことと言われても、正直俺もよくわからない。
大きな写真コンクールで成果を見せた真尋は、世界的にも有名だという写真家に声を掛けられたらしい。真尋にとっても憧れのひとだったらしく、自分のもとで技術を磨かないか誘われたとかなり浮かれた様子を見せていた。
が、詳細を聞いてきた真尋は何故だか珍しくも悩んだ様子で、理由を尋ねれば言いにくそうに口を開いた。
「写真の師匠の拠点がイギリスなんだとよ。ヨーロッパを中心に、師匠について世界中を飛び回って写真撮ってるらしい。すげえよな」
イギリスを中心に、日本に帰国するのは年に数回あるかないか。世界中を飛び回るだけあって、普通に連絡を取るのも難しい。だから正直少し悩む、と俺の手を取りながら言った真尋に、俺は言った。
『お前は馬鹿か?』
自分の「好き」にどこまでも忠実で突っ走れるのがお前のいいところだろうがよ、と。
どこまでもアクセルを踏み抜いて、止まる気など欠片もない。まっすぐ前しか見えていなくて、ついてこれないやつはおいていくと言わんばかりの暴走機関車。真尋はきっとそれでいい、そうあってほしいと思っている。
俺は、真尋のブレーキにだけはなりたくなかった。
『行きたいんだろ』
これでも俺は、結構真昼の撮る写真が好きだったりする。真尋が切り取る世界は、いつだって色鮮やかで綺麗だった。
俺の言葉を聞いた真尋は少し黙って、そっと俺の手を離した。言葉にしなくても、その顔を見れば答えなんてわかりきっている。
『わかりきったことでうじうじ悩んでんじゃねーよ』
『本当だね。……佑』
ありがと、と落とされた声は、少しだけ湿っていた。
しかし真尋がしおらしい姿を見せたのはそのときだけで、空港で大きなスーツケースを転がすころにはもうすっかりいつも通りの顔。ただただ楽しみで仕方がないという様子の真尋に、俺ももう笑うしかない。
じゃあそろそろ、と振り向いた真尋は、悪戯っぽく笑って言った。
『待ってなくていいからね』
待ってろと言われなくても待っているつもりだったのに、まさかそんなことを言われると思わなくて少し驚いた。どういう意味だと聞き返すより先に、真尋に口を塞がれる。
『……帰ってくるたびに告白するし、たとえ佑が心変わりしてたって絶対諦めないから』
またいいよって言わせてみせるからね、と笑った真尋は、その宣言通り帰国しては俺に突撃し、旅立つときは別れ話をして去って行く。
このやりとり必要か、と尋ねても、何せ真尋は真尋なので俺の言うことなど意にも介さずけじめだからと譲らない。毎度振られる俺の身にもなれと言っても、それを佑が言うのと言われれば返す言葉もなく。
『……ハイハイ好きにしろよ。気ィ付けてな』
『うん好きにする! いってきます!』
そうして彼女は日本を飛び出し、ごくごく稀に手紙を送りつけてくる。
出先から送っているらしいそこには、「天気が良かったよ」「いい写真が撮れました」などの雑にもほどがあるメッセージカードと、自分で撮影したらしい写真が数枚。まあお互いマメな方でもなし、言葉が足りないくらいでいいと俺は思っている。
何せ危険のほうが避けて通りそうな暴走機関車だ、元気でやっていないわけがない。
「……真尋ちゃん、次いつ帰ってくるとか言ってた?」
「年明けに帰るとか言ってた気がするけどどうだかな。すっぽかした挙げ句二月くらいに忘れてた~とか手紙送ってきそう」
「うわめっちゃ真尋ちゃん言いそう」
「さ、サヤくんいいのそれ……?」
全く理解できないという様子でエマちゃんは言うが、俺からすればいいのも何も、というか。小さく肩をすくめ、ただ笑ってみせた。
「そういうやつじゃなかったら、きっと付き合うこともなかったよ」
*
「じゃーあれか、職員室の机の引き出しに入ってる写真って真尋サンが撮ったやつ? 何か滝のやつ。あと手帳にも何か挟んでるよな」
「何で知ってんだ場地お前」
「見た」
「俺が聞いてるのはそこじゃない」
*
「ねえ真兄」
「んー?」
「サヤくん、実はめちゃくちゃ真尋さんのこと好きだよね?」
「ははっあれで無自覚なんだぜ、笑えるだろ?」