サヤセン   作:ふみどり

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ツーリングの帰り道・みつやくん視点

 寄りかかった背中の広さに、俺の知らない何かを覚えた。

 真一郎くんも褒めていたサヤくんの運転は、とにかく快適だった。加速や減速もスムーズなら、車体も常に安定している。しっかり掴まっていろと言われたから掴まっているが、別に手を離していても問題ないだろと言えるほどのそれ。しかも妙にバイクのエンジン音は綺麗に響いていて、ジェイソン自身が気持ちよく走っているのが感じられる。たぶんエンジン(しんぞう)に負荷をかけすぎない、バイクにとって理想的な運転をしているのだと思う。こんな走り方考えたこともなかった。

 

「……サヤくんマジで運転上手くない?」

 

 信号待ちのタイミングで思わずそう言えば、振り向きもせずに当然だと軽く返される。ちゃんと教習所に通って免許を取ればこういう運転も出来るのだろうかとちょっと思ったが、いや違うなとすぐに思考を打ち消した。これはきっと、心からバイクを愛しているからこそ身につく乗り方だ。

 ジェイソンをキズモノにしたら許さないと言ったサヤくんの顔はひどく真面目だった。あの馬鹿野郎どもがハーレーに傷を付けたときは怒らなかったと言うけれど、それはきっと「キズモノ」の意味が違うからだ。たぶん、サヤくんはバイクに傷がつくのが嫌なのではない。バイクが原因で誰かが傷ついて、バイクの名誉に傷がつくのが嫌なのだ。

 マジでただのバイク馬鹿なんだなこのひと、と改めてその背中にしっかりと掴まる。青信号で発進したジェイソンの振動が、ただただ心地いい。

 ついつい込み上げてくる眠気を押し込めるようと、サヤくんの上着をつかむ手に力がこもっていく。やべーこれ裾が皺になるな、と申し訳なさも込み上げたが、このひとは全然気にしないだろうという妙な確信もあった。

 今日は俺が無理矢理着いてきたツーリングなのに、温泉の入浴料も朝飯代もうっかり全部奢ってもらってしまった。何食いてーのという言葉に一番安いものを選べば、ガキがバレバレの遠慮すんなと本当に食べたかったものを言い当てられてしまった。兄ちゃん業休みならちゃんと休んどけと、変な気をつかうくらいならそもそも着いてくるなと、そう言い放ったサヤくんは確かに俺より一枚も二枚も上手で。息をするくらい自然に子供あつかいされたのは、ずいぶんと久しぶりだったような気がする。

 正直、ちょっと悔しい気持ちはある。でも、何となくくすぐったい気持ちがあったのも否定できなかった。頼るとか甘えるとかそういうのはもう卒業したつもりでいたけれど、所詮俺もただの中学生、まだまだガキに過ぎないのだ。サヤくんを見ていると、そう思う。

 

「……いいな、」

 

 思わず口をついてでた言葉に、自分で笑う。当分はきっとガキ扱いされてしまうだろうけれど、それを照れくさく思えるうちは難しいだろうけれど。

 

 ―――いつか、こんなオトナになりてえな。

 

 心地いい眠気と必死に戦いながら、俺は目の前の広い背中に身を預けた。

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