たぶん半グレの大人に奇襲でもかけられたんじゃないかな。
強い、という話だけは聞いていた。
真一郎くんも「いつもいやいや喧嘩してたけど強かった」と言っていたし、最強コンビだったというワカくんやベンケイくんも「まあまあ。俺のが強いけど」「俺らと殴り合って生きてンだから上等」だって笑ってた。「滅多にねえけど、キレたときは鬼だな」と冗談っぽく言っていたのは確か武臣くんだ。だけどセンセーが「先生」に拘ってるところがあるのは何となくわかっていたし、きっとその姿を俺が見ることはないだろうとちょっと残念に思ったりもしていた。
「……ガキ同士の喧嘩なら見ない振りしたんだがな」
ざり、と俺の目の前でよれたスニーカーがコンクリの地面を踏みしめる。何とか立ち上がろうと腕をつく俺たちに向けて、頭打ってんなら動くな、と低い声が落ちた。
額から滴った血の音すら大きく響く静けさに、息を呑む。俺たちも、因縁つけてきたアイツらも、誰ひとりとして声を出すことが出来ない。普段なら絶対ェ有り得ねえことだが、今回は認める。認めたくなくても、認めるしかなかった。
今ここにいる全員が、センセーにビビっている。
「いい歳してガキに手ェ出してさ、恥ずかしくねーの? しかも何だよその鉄パイプ。
まあ、それくらい弱ェんだろうけど、と。
その言葉に思わずと言った風にひとりが前に出る。出た、と思った瞬間には鈍い音とともにそいつは視界から消えていた。背後の壁に叩きつけられた安っぽいスーツは、もはやぴくりとも動かない。
いつもレンチやドライバを器用に操る手が、今はかたく拳を作っている。
「……勘弁しろよマジで。俺ァ喧嘩は嫌いだってのに」
これまで俺や他の誰かが何をしても、センセーは一度も怒らなかった。叱ったり注意をすることはあっても、声を荒げたことだってない。だから俺は、センセーは怒らないやつなんだと思っていた。そんなこと、あるわけねーのに。
顔なんか見なくてもわかる。背中越しでも伝わるものはある。唸るような低い声。いつでも動けるよう、イイ感じに力を抜いた姿勢。何よりも、背中に伝わる燃え上がるような気迫。
間違いない。センセーは今、めちゃくちゃにキレている。
「けど、誰のモンに手ェ出したのかは理解してもらわねーとな」
来いよ、とセンセーが指を鳴らす。
ごき、と響く骨の音に、スーツのクソどもが怯んだように後ずさった。
「テメェらまとめて地獄行きだ」
大勢の敵を前に少しもビビることなく言い放ったその背中は、最強に格好良かった。
場地くん目線なので難しい言葉使わないように気を付けたんですけど、まだ足りなかった気がする。地味にきつい場地くん語彙縛り。