大筋は公式通りですが、いろいろと捏造して設定もくっつけました。解釈違い注意。
五人で並ぶ、その背中に憧れた。
その中心にいるのはいつも真一郎くんだったが、格好良かったのは真一郎くんだけではない。武臣くんも、ワカくんもベンケイくんも、__何度黒龍に勧誘されても蹴り続けたという、サヤくんも。
ふざけるときは徹底的に悪ノリするくせに、キメるところはバシッとキメる。そんなひとがひとりいるだけでもかっけーのに、五人も揃っていればもう目が離せなかった。
気づけば俺は、ただただその背を追い続けていた。
「お。元気にしてたかネンショー帰り」
「……知ってたんすか」
「まあな。でかくなったじゃねーか、青宗」
S・S MOTORSの壁に寄りかかるように座る俺に、にかっと以前と変わらない笑顔が向けられる。正直、ちょっとほっとしてしまった。
最後に会ったときはまだ大学生だったサヤくんも、今では無事に教師になったと聞いている。もう俺みたいな
真一郎いねーの、と鞄をそのへんに置くサヤくんは、ネンショー帰りとか言っておきながら全く気にしていない様子だった。
「コンビニ。すぐ戻るからちょっと店番しててくれって言われて」
「気軽に店番頼むなよあの馬鹿。……ああ、そいつのメンテに来たのか」
「年少に入ってる間、メンテ出来なかったんで……バッテリー上がっちまって」
「そらそうだ」
元が中古だしちゃんと見てやんないとな、とサヤくんは軽くボディをなでる。
「よく磨いてあんじゃん」
「トーゼン」
「はは、そりゃやった甲斐があるな~」
サヤくん曰く「勉強の憂さ晴らし」でパーツをかき集め、完全に趣味で仕上げたというナナハンキラー。自分にはジェイソンがあるからと、ジュースを奢ってやるよくらいのテンションで譲られたそれ。さすがに慌てふためいた俺に構うことなく、サヤくんは『ただし俺が教師になったあとは俺に見えるところで乗らないように』と悪戯っぽく笑って運転やメンテのやり方を教えてくれた。
いつかはちゃんと免許取るんだぞと念を押しながらも、遠慮せずに乗り回せと俺に鍵を握らせたサヤくんの手の感覚は今でもはっきりと覚えている。
『まー、アレだ。同じもん好きになった……仲間意識? みたいなやつ。気にすんな』
『同じもんって、』
『好きだろ、黒龍』
思わず目を瞠ると、サヤくんはちょっと居づらそうな顔をしてアイツらには絶対言うなよ、と目を逸らした。いやマジで言うなよフリじゃねーぞと言葉を重ねられ、つい噴き出した。
『おいコラ青宗』
『や、……これはわら、……っ』
『あ~~~~~クソ。言うんじゃなかった』
いつも憎まれ口ばかり、しかもたまに結構ガチな喧嘩もするくせに、やっぱりどうしたって仲が良いのはとっくに知っていた。たとえ黒龍の仲間ではなくても、(本人が言い張るには)不良じゃなかったとしても、そんなこと関係ないくらいに信頼し合っているのは見ていればわかる。だけどまさか、サヤくんの口からそんな言葉が聞けるなんて。それも、同じものを見つめている存在として、俺を見てくれるなんて。
お前その辺にしとけよと、震え続ける肩をスパンとはたかれる。何となく強めの力がこもっているのは完全に照れ隠しだろう。
『どーせお前、これから黒龍に入るとか馬鹿言うんだろ』
『馬鹿じゃねーけど。入る』
『マジ物好き』
止めても聞かねえンだろうし、とサヤくんは少し困ったように笑った。今にして思えば、きっとサヤくんは当時の「黒龍」のことを知っていたんだろうと思う。だから俺に、いざというときに走れる
『……間違えんなよ青宗、ワルいことすんのがかっけえんじゃねえ』
懐かしむような、悔やむような、そんな表情でサヤくんは言った。
『意地張って強がって、筋通して、……だから最強に格好よかったんだよ、
黒龍に入るなら、お前もそうなれ。その言葉を、忘れたことはない。
だから、それが出来たとは言えない今の自分がひどく恥ずかしかった。黒龍に入って「今」を知った俺は、ただ暴れた。これは違う、俺の憧れた黒龍じゃない、絶対に
俺が上にのぼりつめれば変えられるかもしれないと思って八代目総長に近づいたが、ハメられて結果ネンショー行き。しかも俺が年少にいる間に、黒龍は潰されたという。
あのまま「黒龍」を穢されるくらいならそのほうが良かったと思う反面、「黒龍」を守れなかった不甲斐なさも残る。
結局俺は、
「……青宗、」
名前を呼ばれると同時に眼前にレンチが迫る。反射的にキャッチすると、何ボサッとしてんだと何も変わらない声が飛んだ。
「真一郎おせーし、出来るとこだけでも先にやっちまうぞ。まさかメンテの仕方忘れたなんて言わねーだろうな」
「! やる」
「おー」
慌てて立ち上がり駆け寄ると、前よりも目線が近くなったことに気づく。俺を見るサヤくんの目は、優しかった。
「いつまでもみっともなく背中丸めてんな」
湿気たツラでバイクいじんじゃねーぞ、と勢いよく背中をはたかれた。全てお見通しだと言わんばかりの面白そうな表情を見て、もういろいろとぐちゃぐちゃな感情を通り越して、すべてをひっくるめて、目の奥が熱くなる。慰めではない、きっと励ましともまた違う言葉は、ただただ胸に強く響いた。
あ、と俺の口が動く。何を言おうとしているのか、自分でもわからない。だけど何か言わなければならない、と思ったそのときだった。
遠慮の欠片もなく、ばたんと店のドアが開かれる。
「わり、遅くなった! コンビニでこいつらと会ってさーって、サヤも来てたのか」
「ほらな、サヤのぶんも買ってきて正解だっただろ。どうせいると思ったぜ」
「うるせえわ。何、酒?」
「お、マジでネンショー帰りもいるじゃねーか。相変わらずちっせーなぁオイ!」
「お前と比べんなよデカブツ」
「あ? 今なんつったワカてめぇ」
「あン? デカブツにデカブツっつって何が悪ィよ」
「お前ら俺の店で喧嘩すんな!」
一気にうるさくなった店内に、零れそうになった涙も引っ込んでしまった。ちらりと隣に目を遣れば、サヤくんは小さく苦笑して肩をすくめる。そしてまた皆に目を向けて、今にも殴り合いを始めそうな最強コンビを面白そうに眺めている。
ずっと変わらない、いつもここに溢れていた気安い空気。ひとつ軽口が飛べば十倍にも百倍にもなった言葉が返ってきて、誰かと誰かが一触即発になれば煽る声と諫める声が飛ぶ。絶えない笑い声はすぐ近くにあるようで、ひどく遠くにあるようにも聞こえる。
嗚呼、と心が叫ぶ。いつか、きっといつか、とレンチを握る手に力がこもった。
俺の憧れた五つの背中は、まだまだ遠い。けれど、いつかきっと。