青薔薇の恋(From:BanG_Dream!)   作:渋川ジュン

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プラチナ

「よっしゃー! 気合い入れてくぞー!!」

 

 ガルパ杯三日前。最後の練習で、例の彼は雄叫びを上げていた。

 

「随分気合いが入っているわね」

 

「はい! この湧き出るやる気を抑えられそうにもありません!」

 

 化粧してるにもかかわらず服装は普段着なので、少々笑いを誘っていたが。音楽に対するモチベーションは本物のようだった。

 

「チュチュさんに誘われて練習を見学したんですよね。何か、得られるものはありましたか?」

 

「ない!」

 

「!?」

 

 困惑する私たちを他所に、桐也くんは背筋を伸ばす。全く意味がわからない。

 

「思ったんですよ。『Roselia(俺たち)、全然こいつらに負けてないな』って!」

 

「それは得られることがあったということでは……?」

 

「羽沢さん、謎な人……」

 

「ヘイヘイヘーイ! 悪口はそこまでだぜー!」

 

「今日の彼、ずいぶんと元気ね」

 

「桐也がここまでうるさいのって中々だよね~」

 

 湊さんと今井さんの言葉に、私、氷川紗夜も賛同すると言わんばかりに首を縦に振る。

 

 ここ最近は彼に振り回されっぱなしだったが、久しぶりにドラム100%の桐也くんを見た気がした。──数日前のあれは、無かったことにする。とにかく、今はガルパ杯。みんなの情熱を、私一人の都合で潰すわけには行かない。

 

「羽沢さん……興奮してて……面白いです」

 

 白金さんが笑っているのを見て、何故だかこちらまでホッコリとする。

 

「とはいえ、ムキになって他人と勝負する意味はないと思うわ」

 

 湊さんはマイクの電源を入れると、そんなことを言った。

 

「最高の演奏ができたかどうかは、自分たちにしか分からないもの。そうでしょう?」

 

 誰一人として異論は無かった。そう。大事なのは、一年前、一か月前、一週間、一日前、一時間、一分、一秒前の自分たちより前に進んでいるか。

 

 そういうものだ。音楽というものは。

 

「準備はいい?」

 

「出来ました」

 

「おっけー!」

 

「大丈夫……です」

 

 湊さんの呼び掛けに、桐也くん、今井さん、白金さんは応じた。

 

 それを見て、私も口元を引き締める。

 

「──準備完了です」

 

 今井さんと目が合った。最近、彼女に避けられているような気がしていて。

 

 バンドに私情を持ち込んでいたからだろうか。仕方の無いことだ。邪念に囚われた私を非難する権利が彼女にはある。それでも、

 

「紗夜ー。今日も頑張ろう!」

 

 今井さんは私に向かってウィンクをした。あまりにもいつもと変わらない様子だったから、思わず笑みがこぼれてしまった。

 

 ──それから、私はひたすらにギターを弾いた。弾き続けた。気づけば恋などというものは忘れていた。些細なきっかけで人間は地獄にも天国にも向かうのだと、身を持って教えられたのだ。

 

 ◾︎

 

 俺たちRoseliaは、ガルパ杯の前日リハーサルを行うためにはるばる隣の県の会場まで来ていた。

 

 リサに恋心に勘づかれたことで一時はどうなるかと思ったが……友希那さんや白金さんがいつも通り接してくれたのと、チュチュが素晴らしい演奏を披露してくれたこと、そして紗夜さんとリサの頼もしい後ろ姿を見て、俺は調子を取り戻すことが出来た。

 

「広いね~」

 

「いい景色だわ」

 

 舞台はここ、メットライフドーム。名前の通りドーム型の施設で、プロが大型ライブをする時に使うような施設だ。

 

 GSP杯に期待する業界人は多いと聞く。ガールズバンド時代を牽引する七組のグループが参加するともあって、かなり注目されている大会だ。アピールにはうってつけの舞台である。

 

 初めての本番がドームか……とにかくデカい。自分がちっぽけであることを再認識させられる。

 

「緊張……してますか?」

 

 ステージの上に立って客席を見渡していると、白金さんが声をかけてきた。

 

 あまり彼女とは話したことがない。だから、話しかけられたのは少しびっくりだな。

 

「してますね。今は素の状態だから余計に」

 

「そうですか……でも……大丈夫です。『ライブは楽しまなきゃ損だよ』って……あこちゃんも……言ってました」

 

「そうですか。あの宇田川さんが」

 

 彼女は確か、明日のライブに足を運んでくれる予定だったはず。金輪際、中途半端な演奏は聴かせられないな。

 

「あの、羽沢さん」

 

 白金さんはこちらを振り向くと、

 

「自分だけの音……響かせて。ファンの皆さんが……あなたを待ってます」

 

 小さく笑って、そう言ってくれた。

 

 最初は無口で地味な人だと思っていたが、関わっていくうちに情熱的で一生懸命な人だと知るようになった。彼女はRoseliaにとって欠かせない存在だ。

 

「白金さん」

 

 俺は深呼吸すると、力強く言った。

 

「ありがとうございます。良いステージにしましょう!」

 

 彼女は口元を緩めて、

 

「はい……!」

 

 貴重な笑みがこぼれていた。俺という存在を、認めてくれている。この人を裏切るような真似だけは絶対にしないように誓った。

 

 ◾︎

 

「アタシたちが……」

 

「大トリ?」

 

 リサと友希那さんがそう呟く。機材のセッティングをした後、俺たちはガルパ杯主催者のPoppin’Partyボーカル、戸山香澄さんと話をしていた。

 

「はい! 本当は参加するバンド全員で集まって決めれたら良かったんですけど、都合がつかなかったみたいで……」

 

 勝手にくじで決めちゃいました、と戸山さんは笑う。

 

「でも、昔から交流のある皆さんとフェスで会えることはすごく嬉しいです! 私、キラキラドキドキしてます!」

 

「戸山さん。こちらも会えて嬉しいわ」

 

「キラキラ……?」

 

「『香澄語』って言われてるやつだね~」

 

 リサはそう言って笑うと、戸山さんの腕を掴んだ。

 

「香澄ー。最高のガルパ杯にしようね♪」

 

「はい! リサさん、友希那先輩、紗夜先輩、燐子先輩、Toyaさん、明日はよろしくお願いします!」

 

 俺たちは頭を下げた。不思議と戸山さんには人を惹きつける魅力がある。彼女の音楽に対する思いには敬意を払うと同時に、圧倒的な演奏で応えようと思った。本番は明日。

 

 今夜はよく眠れそうだ。

 

*

 

 ガルパ杯当日。ドームは超満員で、メディアや音楽関係者も多く駆けつけていた。

 

 全ての入場者が出場する全バンドを知っている訳では無いので、新規ファンを取り込むチャンスでもある。俺も曲を聴いたことがあるのはアフグロとパスパレ、RASだけであとは知らない。

 

 1.Morfonica

 2.ハロー、ハッピーワールド! 

 3.Afterglow

 4.Pastel*Palettes

 5.Poppin’Party

 6.RAISE A SUILEN

 

 このようなタイムスケジュールになっている。そして、お祭りの最後を飾るのは――もちろん、そう。

 

「あとは出番が来るのを待つだけね」

 

 待機室にて、友希那さんがそんな事を呟く。

 

「ええ。今井さん、調子はどうですか?」

 

 紗夜さんもリラックスしている様子。

 

「もうサイコー! 燐子は?」

 

「もちろん……ライブが楽しみです」

 

 各自、待機室で中継映像を眺めながら気持ちを高めている。

 

「──頑張ろうね、桐也♪」

 

「あぁ」

 

 かく言う俺もまた、椅子に座って小さく頷いた。お祭りのラストを飾るのは『Roselia』だ。

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