青薔薇の恋(From:BanG_Dream!) 作:渋川ジュン
フェスは順調に進んでいる。大きなトラブルもなく、二番目の『ハロー、ハッピーワールド!』までを終えた。
Morfonica──通称モニカは月ノ森のお嬢様で構成されたバンドだった。バイオリンの音色は唯一無二で、ボーカルの声も良かった。トップバッターの重責を果たしてくれたと思う。
ハローハッピーワールド──通称ハロハピは、なんかこう楽しそうだった。ちびっ子に人気があるらしく、入場者に子供が多くいたのはそういうことだ。
観ているこっちまで笑顔になるようなパフォーマンスで、ボーカルのバク転がすごい。明るい演奏は、俺の心の汚い部分を洗い流してくれた。あとギターのシェイクスピア談話で会場が盛り上がった。
「次は、あたし達の番だね」
美竹蘭はそう言った。本番を目前に控えたAfterglowが連絡通路で円陣を組んでいる。五人全員が同じ大学に進学しており、大変仲良しである。
「絶対成功させようね!」
「モカちゃんの超絶ギターテク、期待しててね~」
「アタシもかっ飛ばしていくぞー!」
「それじゃあみんな! えいえい、おー!!」
シーン。ひまりさんは顔を真っ赤にする。
「もうー! なんでいつもやってくれないのー!」
「わざわざ口に出すことじゃないと思うし」
「時間も無いしな……」
「うわーん!!」
何やら楽しそうだった。単身Roseliaの待機室から移動してきた俺は、声をかけるべきか悩んでいた。
迷惑かな。でも、好きなバンドだし。妹もいるし。
ここは行くしかないだろ!
「つぐみ──と、アフグロのみんな!!」
俺は笑顔で手を振った。ところが、
「……」
反応が大変宜しくない。やはり邪魔になってしまったか──
「Roseliaにこんな人いたっけ?」
「でも、この声。どこかで聞いたことある」
「どなたでしょう~~?」
不審者認定されていた。そっか、今女装してるんだっけか。
これ以上追及されるのはマズい。さっさと戻るか……。
「あ、もしかしてお兄ちゃん?」
赤黒のライブ衣装に身を包んだつぐみが、こちらに近づいてそう言った。
まさか女装している兄貴に気づくとは。やはり俺の妹は出来がいい。
「そうだ。よくわかったな」
「あー! あの羽沢珈琲店で会ったお兄さん!」
そう言ってから、ひまりさんは俺の服装を眺める。髪は紫のキャミソール。上から青いバンダナをつけていて、け〇おんの色違いりっちゃんみたいになっている。
顔は化粧をしており、赤色のカラーコンタクトが入っている。黒色のドレスに青薔薇の装飾が施されていて……初見ではまず、男とは分からないだろう。
喋らなければの話だがな。
「女装してるって話、ホントだったんですね~。つぐのお兄さん、女の子~」
「そうだな──いや、そんなことはいいんだ。これからアフグロの出番だろ? 俺、一ファンとして応援してるから! 期待してるぞ!」
言ってから気づく。なんだか、妙に実直でらしくないコメントをしてしまった。
「ありがとうございます。あたし達のステージ、見ててください!」
「モカちゃんの超絶ギターテクに注目~」
「こら、モカは変なこと言わないの!」
「つぐみのお兄さんに応援されたら、なおさら演奏に熱が入りますよ!」
「はい――って、巴さうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「!?」
巴さんがおる!!!!!!!!
背高い! ノースリーブ! 姉御肌!
「俺、大ファンなんです!! 今日も最高のドラム期待してます!」
「ぶ、ぶちかましますから、着いてきてくださいよー!」
「巴ちん、照れてる~」
「さ、行くぞー!」
こうして、Afterglowはステージへと羽ばたいて行った。みんな仲良しで何よりだ。
Roseliaも昔はギスギスしていてどこか余裕がなかったと聞くが……真実は分からない。大切なのは今だ。
『〜♪』
待機室に戻ると、既にライブは始まっていた。友希那さんは声出しで不在。白金さんはヘッドホンをしてキーボードを弾いている。
一方、紗夜さんとリサは楽器を置いて、中継映像を眺めていた。
「お、桐也。もうアフグロの演奏始まってるよ~」
「妹さんが出ているのですから。きちんと見ましょう」
「わかってますよ」
一応ファンですから、と言ってから俺は荷物からサイリウムとハチマキを取り出した。
「Hey Y.O.L.O! ハイ! ハイ! ハイ!」
「桐也……」
「想像を遥かに超える本気度ですね」
美竹さんの歌には否応ない魂がこもっている。青葉さんのギターは正確でロックだ。ひまりさんもミスなくベースを弾いている。巴さんのドラムは相変わらずスゲェ。つぐみのキーボードも数年前に野外で聴いた時よりも遥かに上手くなっている。
五人の音が合わさって、初めて最高の音楽ができる──それを体現した素晴らしい演奏だ。
「今度のワンマンライブも絶対行こう──!」
「本当に好きなんですね」
隣の紗夜さんが何食わぬ顔で呟く。それを見て、俺はサイリウムを振る手を止めた。
「ただの一ファンですよ」
「……熱狂的なファンの間違いだと思うんですが」
「ほら、桐也! つぐみが挨拶してる!」
「なんだって~!?」
俺は心からアフグロのライブを楽しんでいた。紗夜さんは半分呆れながらも、微笑んでいるように見える。
そうだ。昔から、妹が友人と楽しそうにバンド活動をしているのが羨ましかった。俺にも熱中できるものが欲しくて、知人が誰もやってないPCゲーに手を出したりだとか、勉強に力を入れたり──それでもソロプレイだったから。
今こうして、Roseliaのみんなと音楽が出来てることを本当に誇りに思っている。紗夜さんやリサには心を揺さぶられっぱなしだが、どちらも大切な仲間であることには変わりない。
『Afterglowです。ありがとうございました!』
バンドって最高だな。
五人の演奏を見て、心からそう感じた。
「いいライブだったねー! 次はPastel*Palettesかー」
「確か、桐也くんは白鷺さんのファンでしたよね?」
「はい。パスパレへの興味はイマイチですけどね」
「それは意外ですね。CDを全て買い揃えていそうなものですが」
「はい。アイドルってよりは、子役としての千聖さんが好きなので」
俺はそう言うと、急ぐように席を立った。
「あれ、桐也ー。どこ行くの?」
「決まってるだろ」
俺はドラムスティックを持って、ニヤリと笑う。
「打ち鳴らしだよ。パスパレの後のブレークタイム中には戻ってくる」
出番はおおよそ一時間半後。そろそろ気合いを入れないとな。俺は他の誰でもない、Roseliaのドラマーなんだから。
「良い心がけです」
紗夜さんもまた机に立てかけてあったギターを持って、立ち上がった。
「最高のライブにしましょう」
「はい!」
彼女はとても真剣な顔をしていた。好きなんだ。笑っても怒っても、なんでもないような顔して佇んでいる時も。
不思議と力が、湧いてくるんだ。