青薔薇の恋(From:BanG_Dream!)   作:渋川ジュン

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丸山、スキャンダル疑惑

「チサトさん! 明日は久しぶりのオフですね!」

 

 パスパレの練習後。若宮イヴが開口一番にそんなことを言った。

 

「そうだけど……どうかしたの?」

 

「縁日を回りたいのです! 日本の祭りにはまだ行ったことがなくて!」

 

「そうね──」

 

 白鷺千聖は思考を巡らせる。明日の予定は特にない。これは奇跡である。本来ならば、多忙な彼女にとって休日など無いに等しいからだ。

 

 要は千聖もまた夏祭りに行きたかったのだ。しかしプライベートもパスパレのメンバーと過ごすのは……それはそれで悩ましい。

 

「どうしたのー? 千聖ちゃん、イヴちゃん!」

 

 すると、まんまるお山に彩り女が目の前に現れた。彼女の練習着はダサい黄色Tシャツから進化し、更にダサい赤ジャージになっている。

 

 素材の良さを殺しきる恐ろしい服装だ。後で説教しよう──そんなことを思いながら、千聖は応える。

 

「今、イヴちゃんと夏祭りに行く話をしていたのだけど……」

 

「そうなんだ~」

 

 どうせ彩ちゃんはすぐに行きたいと即答するだろう──そんな目論見が見事に外れた。

 

「それじゃ、練習お疲れ様~」

 

「!?」

 

 二人は戦慄する。何があったのか。お茶目担当こと丸山がこんなにも食い付きが悪いなんて。

 

「お、お疲れ様……」

 

「でした……」

 

 バタン。彩が練習場から去った後、二人は顔を見合わせる。

 

「あれは男が出来たわね」

 

「尾行しましょう!」

 

 かくして二人は一緒に夏祭りに行くことになった。イヴの勝ちである。

 

 ◾︎

 

「わぁ! チサトさんの浴衣姿、とっても可愛いです!」

 

「ありがとう。イヴちゃんも似合っているわ」

 

 夏祭り当日。まだ明るい場内を二人で歩いていた。今回の目的はそれぞれ違う。イヴは「ジャパニーズ祭りのご堪能」千聖は「彩ちゃんの彼氏チェック」だ。

 

 とはいえ千聖も祭りを楽しみにしていた。幼い頃から仕事仕事で、こういった催し事には参加出来ずにいたからだ。道行く人に勘づかれないように、警戒しながら歩く。

 

「後で花音とも合流するわ」

 

「カノンさん! GBP杯以来ですね!」

 

 イヴは目を輝かせながらそう述べた。千聖はこういった純粋無垢な部分が好きだ。

 

「彩さん。これ以上は──」

 

「ダメだよ、桐也くん……」

 

 !? 

 

 千聖は反射的に後ろを振り向いた。今の会話はなんだ? 絶対彩ちゃんだよな? 桐也って誰だ? というか、そもそも別人の可能性も──しかし、疑いがあるなら真実を追求するまで。人混みの中をかき分けて、二人は進軍する! 

 

 彼女の声には特徴がある。今のは完全に本人と一致していた。

 

「……逃してしまいましたね」

 

「私としたことが──」

 

 千聖は悲しみに沈んだ。体育があると思ってウキウキで学校に来たら全校集会に変わっていた──そんなレベルで萎える。

 

 しかし彼女もただでは倒れない。彩に芸能人としての自覚はあるのか──それを確かめなければ。スキャンダルが発覚したら危険で、かつそれがパスパレともなると尚更だ。

 

「ですから……!」

 

「桐也くん。これは大事なことなの──」

 

 千聖の耳はそれを捉えた。もう逃すまいと駆け出した足は、丸山の元へとたどり着いた。

 

「もう逃がさないわよ、彩ちゃん!」

 

「成敗です!」

 

「千聖ちゃん!? それにイヴちゃんも!?」

 

 木陰にいた彩を捕まえて、千聖はほっと息をついた。彼女はかなり焦っている。やはりクロか──

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 刹那。隣にいる茶髪の男性が雄叫びを上げながら後ずさりした。

 

 彩より驚いている。誰なんだこの男は──千聖は耳を抑える。

 

「彩さん!! ごめんなさーい!!!!!」

 

「桐也くん!?」

 

 超高速で逃げていった。千聖とイヴは不審に思いながらも、彩の方に視線を向ける。

 

「彩ちゃん。どういうことかしら?」

 

「ええと、その──」

 

「補陀落は許されません! せめて変装しないと!」

 

 浴衣姿の彩に言い逃れできる要素は無かった。それでも、彼女は大きく首を横に振る。

 

「これは勘違いだよー! さっきの人はAfterglowのつぐみちゃんのお兄さんで……」

 

「それで?」

 

「な、ナンパ避けに……ちょうど良くて」

 

「それで?」

 

「桐也くんは千聖ちゃんの大ファンで、会ったらヤバいって言ってたから逃げてたのー!」

 

 辻馬は合う。ただ、強引な言い訳にも聞こえる。

 

 そもそも名前呼びだし──千聖はため息をついた。

 

「潔白の証明としては少し弱いわね」

 

「うぅ……」

 

 すると、彩の目の前に救世主が現れた。

 

「丸山さん。こんな所にいたのですね」

 

「この前の練習ぶりだねー!」

 

 氷川姉妹がその場に登場したのだ。神様ー! と言わんばかりに彩は日菜に抱きついた。

 

「日菜ちゃんに紗夜ちゃん! 会いたかったよ~!」

 

「とーくんはどこに行ったのー?」

 

「先に来ていると言っていたはずですが……」

 

 千聖とイヴは顔を見合わせる。ますます状況がわからなくなった。

 

「日菜ちゃんに……紗夜ちゃん?」

 

「こんにちは。偶然会いましたね」

 

 紗夜さんはそう言った。別にそういう訳でも……千聖はそう言いかけた口を慌ててつぐむ。

 

「そうね。私たちは花音と三人で回ろうと思っていたの」

 

「そうなんだー。ホントはあたしもみんなで回りたいんだけどね〜」

 

「桐也くんの命が危険ですから」

 

 紗夜はにべもなくそう言う。イヴが疑問を呈する。

 

「どなたですか? トウヤさんというのは……」

 

「Roseliaのサポートドラマーだよー。千聖ちゃんの大ファンで、よく千聖様千聖様って騒いでるの!」

 

「GBP杯にいた綺麗な女の子のことかしら?」

 

「女の子っていうか……」

 

 この説明が面倒だ。日菜は、どうせバレるんだし別に言ってもよくなーい? というスタンスだったが、紗夜に圧力を掛けられ仕方なく黙っておくことにした。

 

「あのね、実は彩ちゃんが────」

 

 千聖は彩にかけた疑惑を二人にも説明した。すると、日菜は笑って手を横に振った。

 

「そんなわけないじゃーん。とーくんにはもう好きな人いるし」

 

「そうなんですね! てっきりアヤさんに彼氏が出来たのかと」

 

「桐也くんはつぐみちゃんのお兄さんで、ほら。さっき私が言ったでしょ?」

 

「あの話は本当だったのね……」

 

 思わぬ形で彩の潔白が証明されることとなった。

 

 ただ一人、紗夜だけはポカーンとしていたが。

 

「どうせだし、桐也くんを千聖ちゃんに会わせてみない?」

 

「それはいいですね。そろそろ挨拶しておかないと」

 

 あれ? 冗談のつもりだったのに……彩は首を傾げる。紗夜は彼のことが好きではなかったのか。

 

 好いている人ならば、わざわざ他の女性に会わせようとは思わないはず──いや、ただ単に恋愛観の違いか?

 

「とーくん捕獲は任せて! 左腕はあたしがやるね!」

 

「ミギウデは私にお任せ下さい!」

 

「拘束する部位の話!?」

 

「浴衣姿で少々歩きにくいですが……手分けして探しましょう」

 

 そう言って、紗夜はズンズンと人混みをかき分けて進んで行った。あんなに献身的な人物だったかしら? と千聖は首を傾げる。気難しくて尖ったイメージがどうしてもあったから。

 

「ここだけの話ね」

 

 彩は千聖とイヴの前に立つと、

 

「紗夜ちゃん。好きな人がいるの」

 

 バレバレだよねー、と言って彼女は笑った。

 

「そうなのね」

 

「あはは。それが誰なのかは、すぐにわかるよ」

 

 もうわかってるわよ、と千聖は小さく呟く。そうだ。彩ちゃんはいつもどこか抜けている。

 

 今回もわかった気になって、わかってないことがある。

 

 じゃあなんでお祭りに彼と二人で来ていたの? ナンパ避けは理由にならない。だってされている所見たことないし。

 

「彩ちゃん。ちょっと悔しいんでしょう?」

 

 千聖はそう言った。彩はパチリと瞬きをすると、

 

「な、何が……?」

 

 ポカンとした。どうやら本当に自覚していないみたいだ。

 

 やはり勘は当たっていたか。……けれど、ここまで鋭い必要は無いと思う。

 

 千聖は、気づく必要のない心の機微にさえ反応してしまう。それを自分だけが知っているのが嫌だ。この世界に一人であるような気がして。

 

 こんな大人にはなりたくなかった。

 

「あっ、千聖ちゃん」

 

 すると、彩が彼女の前に焼き鳥を差し出した。

 

「美味しそうだったから、買ってきちゃった。一緒に食べよ?」

 

 あまりに屈託のない笑顔でそう言うのだから、つい千聖は吹き出してしまった。

 

「ふふっ、そうね。頂こうかしら」

 

「な、何がおかしいの……!?」

 

 あたふたする彩を他所に、千聖はクスクスと笑っていた。

 

「何でもないわよ。ありがとう」

 

 やはり彩ちゃんは嫌いになれない。そう思いながら、ホクホクの鶏肉にかじりついた。

 

 美味しかったかどうかなんて、もはや言うまでもないだろう。

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