青薔薇の恋(From:BanG_Dream!)   作:渋川ジュン

21 / 26
友希那と蘭と

 湊友希那は病院から出ると、大きなため息をついた。

 

 唯一の生きがいだった歌が歌えなくなったからだ。声帯がやられていたのが原因で、彼女の歌声が戻るまでロゼリアは活動停止となった。

 

 まだ桐也にだけは休止を伝えられていない。早く言わなければ──彼女はそんなことを思いながら、駅の改札を出た。

 

「あっ……」

 

 すると、目の前で見覚えのある赤メッシュが柱に寄りかかっていた。ギターケースを背負い、スマホをいじっている。

 

「湊さん。……奇遇ですね」

 

 蘭は友希那に気づくと、小さく頭を下げた。

 

 何かと衝突しやすい二人だが、何も嫌い合っているわけじゃない。もしそうならば、顔を合わせた時点で去っている。

 

「その、喉……大丈夫なんですか?」

 

 別に気にしてる訳じゃないですけど、と蘭は付け加える。

 

 友希那はフンと鼻息を鳴らすと、

 

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

 

「だ、だからそんなんじゃ……!」

 

「九月までに治すわ」

 

 そ、そうですか──蘭が赤面してそう言った。

 

 気づけば夜が満ちている。二人には祭りの音が鮮明に聞こえていた。

 

 ──湊さんの歌が聴けなくなるなんて、それは絶対に嫌だ。

 

 そう思っていたから、大事に至らなかったということが蘭にとっては本当に嬉しかった。

 

「そうだ。リサさんと花火見なくてもいいんですか?」

 

 音楽の話ならペースを握られてしまうが、リサの話ならどうだ。蘭は反撃とばかりにそう言った。

 

「リサ?」

 

 それでも、友希那は鉄の仮面を崩さない。

 

 崩さない……ようにしていたが。

 

「な、な、なんのことかしら──突然、変なことを」

 

 わかりやすく取り乱していた。

 

 蘭はそれを見て、わざとらしくため息をつく。

 

「あたし、湊さんが思ってるより勘いいですから」

 

 何食わぬ顔でそう言うと、今度は缶をプシューっと開けた。

 

「み、美竹さん。未成年にビールは──」

 

「サイダーですよ。これ」

 

 そう言って水色のカンを見せつける。友希那は唇を噛んだ。完全に動揺しているのがバレている……これは許されない。

 

「あたしは悪くないと思います。その……価値観も人それぞれだし」

 

 蘭の言葉を聞いた瞬間、友希那は深呼吸をした。それから、かつてないほど弱々しい声で語る。

 

「その……リサにはもう好きな人がいるから……あまり邪魔出来なくて」

 

「そうですか。花火ぐらい見に行ったって良いと思いますけど」

 

 そして、蘭はさらに畳み掛ける。

 

「……今、リサさんとモカがお祭りの会場にいるから。一緒に行きましょう」

 

 一旦家に帰ればよかった、と軽く後悔しつつも彼女はギターケースを背負い直した。

 

「え?」

 

「だから、二人はバイトが一緒だったから──」

 

「いや、そうじゃなくて。美竹さんも……その」

 

 彼女はタジタジしていた。友希那の言いたいことがわかった蘭は、猛然とした勢いで首を振る。

 

「ち、違います。モカとは幼なじみで親友ってだけですから」

 

「……そう」

 

 友希那が小さく肩を落としているのを見て、蘭は目を細めた。

 

 やはり湊さんとは馬が合わない。何を考えているか分からないし、時々自分が眼中にも入ってない感じが伝わってきて嫌になる。

 

 それが気に入らないったらありゃしない。

 

 ──それでも、こうして彼女をここで待ち続けていた。

 

 そんな自分がいたのだ。こんなのは『いつも通り』じゃない。きっとただの気まぐれだ。

 

 ◾︎

 

「あっはは。蘭ってば可愛い~」

 

「そうなんですよね~。素直じゃないのもまた良きかな~」

 

 今井リサと青葉モカは、私服姿で屋台を回っていた。特に何か目的がある訳ではなく、ひたすらに駄弁っていた。

 

 大抵は蘭と友希那の話であったりするのだが……お互いよりもお互いのパートナーのことに詳しいのだ。

 

「お祭りは楽しいねー!」

 

「そうですねー。蘭と湊さん、早く来ると良いな~」

 

 すると、ある屋台がモカの足を止めた。

 

「これは……『山吹ベーカリー』!」

 

 目をキラキラと輝かせて銀髪の戦士は歩いていく。嗅ぎ覚えのあるいい匂いに、誘われていく──

 

「ごめんね、たった今売り切れちゃって……」

 

「そんな……!!」

 

 沙綾が残酷にもそう告げると、彼女は膝から崩れ落ちた。モカちゃんの生きる源が──本気で落ち込む。

 

 リサはそれを見て苦笑いを浮かべる。モカはさっきも公園の前でパンを食べていたからだ。こんなに買ってもらえて、山吹ベーカリーは大喜びだろう。

 

「沙綾ー。GBP杯、お疲れ様!」

 

「ありがとうございます。リサさん、お久しぶりですね」

 

「そうだねー。折角だし、夏休み中に遊びに行こーよー! そうだ、ちょうど沙綾に似合いそうな服があって……」

 

 悲しみに沈む銀髪美少女を他所に、二人は談笑する。

 

 モカちゃんは地面の冷たさを知った。

 

「お待たせ」「待たせたわ」

 

 すると、彼女らの元に件の二人組が現れた。

 

 犬猿の仲とまで称された、美竹蘭と湊友希那だ。

 

「友希那~!! 久しぶり!」

 

「蘭。お久~」

 

 でかいギターケースを背負っていた蘭は、周りの注目を集めていた。

 

 いったん中庭の方に移動しようか──と四人は歩みを進めることに。

 

「え?」

 

 結果、沙綾は一瞬にして取り残されることとなった。

 

 久しぶりに知り合いが来てくれて楽しかったのに。まるで四人の中で何かが渦巻いているような……。

 

 これ以上は考えても仕方の無いことだ。私も香澄たちの所へ向かおう──そう思い、屋台の灯りを消した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。