青薔薇の恋(From:BanG_Dream!) 作:渋川ジュン
「桐也──!」
四人で合流し、しばらくしてから今井リサは例の彼を見つけるなり駆け出して行った。
友希那は、その後ろ姿を遠目で見つめることしかできずにいた。
「あれ……邪魔しようとは思わないんですか?」
「好きな人が他の男性と話してるのに~」
蘭とモカはそんなことを言った。しかし、友希那は首を振る。
「別に邪魔しようだなんて思わないわ」
白いロングスカートと紫の髪のコントラストが美しい。彼女は小さく息をつくと、
「愛する人の幸せを願うのは当然のことでしょう?」
にべもなく言い放つ。その言葉に、モカは大きく頷いた。
「カッコいい──! さすが、青薔薇の女王様~」
「……やっぱり湊さんとは考えが合わないです」
「そう? 美竹さんも同じに見えるけれど」
「き、気の所為ですから!」
蘭は怒り気味にそう吐き捨てる。
すると、予想よりも早めにリサが三人の元に帰ってきた。
「ただいまー!」
「リサさん、お帰りなさい~」
茶髪が揺れて、先程とは違う匂いがしている。
「ごめんねー。桐也の着付け直してたら時間かかっちゃって……」
明らかな嘘に聞こえるが、実際あの男なら有り得る……友希那は否定しなかった。
「まぁいいわ。リサ、これからは二人で花火を見ましょう」
!?
いきなり友希那が仕掛ける!
「え!? えっと、それはどういう……」
困惑するリサの手を引くと、友希那は離れた場所へ歩いていった。
その後ろ姿を見て、モカは微笑む。
「形勢逆転、とはまさにこのことですな~」
「……これは脈アリかも」
蘭は真顔で頷く。昔はリサさんの方が湊さんのことを気にかけていて、むしろそれしか見えなくなったって。そんな悩みも聞いたことがある。
もしモカもそういう風に、自分のことを思ってくれていたのだとしたら──それ以上に幸せなことなんて無いのに。
「どうしたの、蘭?」
「いや、何でもない」
モカが顔を覗き込んでくる。やめてくれ。あたしは誤魔化すのがあまり上手じゃない。
「さては、Afterglowに思いを馳せてましたな~?」
珍しく外したね。
「そうかもね」
本当は微妙に違う。それさえもわざとかもしれないけど。
「蘭が一人だけクラス離れちゃって、寂しい思いしてたから~。五人で集まれる時間を増やそう──そうやってつぐが提案したのが、バンド活動だったよね~」
「うん。何故かひまりがリーダーになって、みんなでたくさん練習した」
「巴ちんと蘭がよく喧嘩して、大変だったね~」
「……それは言わないで」
もう大人だから、と蘭は強がってみせる。前髪が夏の風に揺れた。
「ねぇ。モカ」
急に名前を呼ばれて驚いたのか、彼女は少し目を見開いた。
「何~?」
「今日だけ、あたしの我儘を聞いて欲しい」
蘭がそう言うと、モカは口角を上げた。
「いつものことでしょ~。蘭のワガママ、常時発動中だもん~」
「真面目に聞いて」
ほいほい、とモカは頷く。
「それで、ワガママって──」
「あたしも…………その…………」
蘭が何かを言いかけて口をつぐんだ時。
聞き覚えのある声が、彼女の頭に響いた。
「こんばんは、蘭ちゃんとモカちゃん~! GBP杯以来だね〜」
「ま、まりなさん! お久しぶりです」
心臓が止まるかと思った。CIRCLEの敏腕スタッフだ。この人なら、別に大丈夫だけど──
そんな動揺する蘭の心をさらにかき乱す女が、まりなの横から飛び出してきた。
「こんなところにいたのか、我が妹よ♡♡」
「ちょっと、止めてって──!」
モカの目を疑うような光景が広がっていた。
青メッシュの女性が、思いっきり蘭に抱きついていたからだ。
「えっと、いつの間にお姉さんができたの~?」
「こ、この人は親戚の人。断じて姉妹じゃないから」
蘭の引き剥がそうとする手を押さえながら、その女性は口を開いた。
「やっほー☆ そちらは我が妹のお友達かな?」
「いかにも、いかにも~」
なんだかんだでノリのいいモカはすぐに適応した。おそらくこの人はかなり年上だ。酒が入っているからか、蘭よりもよく喋る。
「あたし、青葉モカって言います〜。モカちゃんって呼んでくださいね~」
「モカちゃんよろしくぅー! 私は
まるで蘭を真似ているかのような髪型だ。顔も結構似ている。ただ、背は高いし大人っぽいし何故かまりなさんと一緒にいるし……不思議な人だ。
「あ、冬優子は高校の同級生でね。私の親友なんだ」
まりなが補足する。常識人とヤバい奴の対比構造が熱い。
「ご存知でしたか? 私と冬優子さんが親戚ってことは」
「いやいや、今日初めて知ったよ。冬優子は地方でライブハウスの経営をしてて、普段はあんまり会えないんだけど」
「まとまった休みを貰ったから、実家に帰ってきたってわけさ☆」
がはは、と豪快に笑う。モカは悪い気分じゃなかった。
この人、面白いじゃん。
「あのー、冬優子姉さん~。蘭のことどう思ってますかー?」
「ちょ、モカ。やめてよ……!」
白いTシャツの下にピチピチのジーンズを履いていた冬優子は、ニタッとした笑みを浮かべると、
「好きだよー。どれくらいラブかって言うと──食べちゃいたいくらいカナ?」
「蘭ちゃん逃げて! 超逃げてー!!」
「も、モカ! 酔った冬優子さんはいつも以上に面倒だから、変な質問しないで!」
「わかりみ~」
わかってないでしょ、と蘭は呆れ顔で言った。
気づけば先程までの甘酸っぱい雰囲気はとうに消えており、残るは榎本冬優子とかいう爆弾の火薬臭であった。
「ところで、我が妹よ」
冬優子はニヤリとした笑みを浮かべると、蘭の肩に腕を回した。
「私たちはもうすぐで行くからさ。モカちゃんと良い雰囲気作っちゃいなよ~」
「い、いきなり何ですか!」
良い雰囲気を壊したのはそっちでしょ──そんな言葉が出てくる。
「蘭の恋愛は応援したいからね~。カワイイ妹だし☆」
「なんでわかって……っ! あと妹じゃないです!」
二人はいとこ同士でイチャイチャしていた。
「なんだか楽しそうですね~」
「何の話だろう……」
モカとまりなは遠巻きにそれを眺めていた。
「もうすぐで花火始まるしー。ついでに告っちゃえば?」
「そ、そういうのじゃないですから! モカとは友達ってだけで……!」
「はいはい。それじゃ、またネ♡」
そう言って冬優子は去っていった。その後ろ姿をまりなが追いかける。
「急に邪魔してごめんね、二人とも~!!」
「大丈夫ですよー。祭りエンジョイ、エンジョイ~」
「……またCIRCLEで」
その勇姿を見届けた後、蘭はどんよりとした瞳で頷いた。
「はぁ。今日はツイてない……」
「何言ってるのー。蘭ちゃん、世界一の幸せガールだよ~」
そう言うとモカは彼女の耳を奪った。
「一緒に花火、見ようね」
「……っ!」
蘭は赤面してモカの方を見つめる。
銀髪美少女はイタズラな笑みを浮かべた。
「冬優子姉さんになってあげる~」
「それは絶対に嫌だ!」
二人で顔を見合わせてから、クスクスと笑った。
花火は、間もなく打ち上がる。