青薔薇の恋(From:BanG_Dream!)   作:渋川ジュン

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Roselia、活動休止……?

 東京の女子大生、今井リサは都内のスタジオでライブの練習をしていた。いかにもギャルというような茶髪と化粧に、赤く派手なベースがよく映える。

 

『ベースやってたんだけど、ブランクあるから初心者に近いんだ〜☆』……などという常套句はもう通用しない。20歳になったRoseliaのベーシストは、プロと比べても何ら遜色のない技術と自信を身に着けていた。

 

「……今井さん。ちょっといいかしら」

 

 リサはふと演奏を止める。同じバンド仲間である氷川紗夜に名前を呼ばれたからだ。

 

「どうしたの~?」

 

「宇田川さんのことなのですが」

 

「あこがどうかしたの?」

 

「あの子、最近はどうにもドラムに上手く音が乗らないようで」

 

 言われてみればたしかに、とリサは頷く。今年から高校三年生のあこには大学受験が控えており、その影響からか最近はどこか演奏に身が入らぬ様子であった。

 

「うーん……」

 

 リサが腕を組んで困っていると、入口のドアが開いた。

 

「こんにちは。……二人とも。深刻そうな顔をしてどうしたの?」

 

 友希那と燐子がスタジオに入ってきた。リサはちょうど良かった、と言ってから状況を説明する。

 

「あのね、あこのことなんだけど──」

 

 ☆

 

 翌日。リサはスマホをいじりながら、大学の正門を潜り抜けた。

 

 ちなみに、Roseliaはあこ以外のメンバー全員が同じ大学に進学している。リサだけキャンパスが違うので、残念ながら他のみんなには会えないというわけだ。

 

「あ、インスタの更新忘れてた……」

 

 また、現在はコンビニのバイトはしておらず、代わりにSNSの広告収入などで小遣いを稼いでいる。インフルエンサーのTOKO程では無いが、フォロワーは軽く10万を超えており、コアなファンもいるとのうわさだ。

 

「まぁ……それより」

 

 リサは携帯を閉じると、大きなため息をついた。正直、あこのことで頭がいっぱいだったからだ。彼女はこれからどうするのだろう。もし受験のために一時的に抜けるようなことがあれば、一体、Roseliaはどうなってしまうのか──

 

「……ん?」

 

 リサが難しい顔をしながら食堂を歩いていると、友人を見つけた。今日は珍しく一人で席に座ってご飯を食べているみたいだ。

 

 特に何も考えず、彼女は声をかける。

 

「やっほー、桐也♪」

 

「うおっ!? ……って、お前か」

 

 桐也は完全に一人モードに入っていたのか、驚きの声を上げた。しかし、声の主がリサとわかると、すぐに表情を緩める。

 

「そっと声をかけてくれよ。ビビるだろ」

 

「これでも小声で話しかけたつもりなんだけどね~。……そういえば、Afterglowが新曲出したんだってね! CDはもう買った?」

 

 リサはせわしなく話しかけながら、さり気なく桐也の前に座った。

 

 彼は小さく頷くと、スプーンでカレーをひとすくいする。

 

「とっくに買ったよ。妹がメンバーだからだとか、そういうの関係無しにアフグロは気に入ってるからな」

 

 不愛想にそう言うと、そのままカレーを口に運んだ。──その姿は、まったくもってつぐみには似ていない。

 

「『Damashii』だっけ。どうだった?」

 

「うむ。なんというか、筆舌に尽くしがたいというか――要はね」

 

 桐也は中途半端なところで言葉を切った。

 

 リサが不思議に思っていると、彼はゆっくりと顔を上げてから、答えた。

 

「めちゃくちゃ良かった……最高傑作だ!!」

 

 あまりにまっすぐな笑顔であった。リサは桐也の愛の強さに若干引きながらも、同時にアフグロが羨ましくなった。

 

「そっかー。やっぱりさ、昔からずっと仲良くて、大学生になっても好きなことやり続けてるのってなんか良いよね〜」

 

「あぁ。正直羨ましいな」

 

 桐也は小さく笑った。

 

「しかも全員、演奏がうまいんだよな。特に宇田川巴さんはすごい。あの手数を正確に捌ききるなんて、もうプロの域だ」

 

「うんうん。背も高いし様になってるよね〜」

 

 そうだな、と桐也は頷いた。やはり思うところがあったのだろうか。桐也はそのままコップの水を飲み干すと、恨めしそうにつぶやいた。

 

「……つぐみ達はいいよな。俺なんて、バイトと実家の手伝いだけで大学生活が終わりそうだってのに」

 

 いやいや、と茶髪ギャルは否定する。

 

「そんなことないでしょ~。まだ大学二年だし、R()o()s()e()l()i()a()()()()()()と、こうやって二人きりになれてるくらいには幸せだって!」

 

「Roseliaの今井リサ、ねぇ……」

 

 桐也は噛みしめるように呟いたが、そのまま苦笑いを浮かべた。

 

「悪いが、お前のバンドは苦手なんだ」

 

「!?」

 

 突然、彼はそう言い放つ。あの優しい桐也がそんなことを言うなんて──リサはショックを受けた。

 

「Twitterで変なファンに絡まれたからな」

 

「理由しょぼくない?」

 

 勘違いであった。しかし、冷静に考えてみれば、彼がそんなひどいことを素で言うはずもなかった。桐也はつぐみと血が繋がってるだけあって、非常に温厚である。若干表情の変化に乏しいところはあるが、テキパキ仕事が出来て、おまけに損得勘定を度外視して人助けもする、心優しい性格だ。

 

 それなのに、ちょっと奥手なところがあって……小心者というべきか、草食系というべきか。不思議な人なのだ──とリサは思う。

 

「……」

 

 しかし割と顔がいいのに、何かと自分に無頓着なところがある。今も現に全身に黒のスウェットを身にまとっており、休日のおじさんの恰好かと見間違うほどである。素直にGUで買った方がもう少しましなファッションができるだろう。

 

「ほら、カレールー付いてるよー?」

 

「え、どこだ!?」

 

「今取ってあげるから~」

 

 桐也は恥ずかしがって目をつむる。リサはあくまで親切心で、そのカレールーをふき取った。

 

 そう、思い込むことにしたのだ。

 

(そ、そうだ!)

 

 そして、リサはあることを思いつく。もし、あこが受験勉強でRoseliaとしての活動を休止する場合……桐也にその代わりを務めてもらえればよいのではないかと思ったのだ、

 

 しかし私情が絡んでいる以上、言いにくいことこの上ない。それに、バンドの未来に関わることを独断で決めていいものなのか……。

 

「そういえば、Roselia(ウチ)のドラマーが受験勉強であんまり来れなくなっちゃってさ~……」

 

 とりあえず、さり気なくバンド事情をほのめかしておく。もちろん、自分のやっていることが卑怯なのはわかっていた。しかし、今は彼をRoseliaに引き込もうとする自分を止められそうにもない。

 

「ホラ、接点って大事じゃん?」

 

「いや、まぁそうだけど……それがRoseliaの話となんの関係が?」

 

「ええと、諸事情でサポートのドラマーが欲しいんだけど~、なかなか見つからなくてさー、困ってるんだよね~……」

 

 桐也はドラムが上手い。そして、ある程度ガールズバンドに理解がある。こんな人材を放っておくわけにはいかない。

 

 あこの活動休止は寂しいけれど、桐也とバンドをすることで、Roseliaも得られるものが必ずあるはずだ。問題は、彼が首を縦に振ってくれるかどうかなのだが……。

 

「……何が言いたい?」

 

 察しが悪い。そこで、リサの決心がついた。

 

 はっきり言わないと、まともな回答は得られない。もう、遠回しにお願いするのはやめよう──と。

 

「桐也」

 

 彼女はその名前を呼んだ。桐也は何食わぬ顔で、リサの目を見る。

 

「お願い。Roseliaのサポートメンバーに……」

 

「お断りだ」

 

「なんで!?」

 

 食い気味に断った。桐也は鼻息をフンと鳴らすと、

 

「どこの誰かも分からない奴と演奏ができるか!」

 

 そう、少し強い口調で言ってみせた。

 

 ……やはり一筋縄ではいかないか。しかし、それでも彼の腕には確かなものがある。

 

 ここで引き下がる訳には行かない。

 

「……じゃあわかった。言い方を変える」

 

 リサは諦めなかった。こんなことで折れるメンタルではない。

 

「今度、Roselia(あたし達)のライブに来て。それで、決めて欲しい」

 

 彼女は全力で頭を下げる。断られるのは想定済みだ。覚悟は出来ている。

 

 それでも、桐也に来て欲しくて──ただ、それだけだった。

 

「わかったよ。チケットはどこで買えるんだ?」

 

 ……え? 予想外の返事に、リサは変な声が出た。

 

「教えてくれよ。早く取りたいからな」

 

 そう言ってポケットから携帯を取り出す桐也を見て、彼女は呆然としていた。

 

「えっと……ライブに来てくれるの?」

 

「そう言ったはずだが」

 

「……絶対だよね?」

 

 リサがそう訊くと、桐也は呆れたように息をついた。

 

「あのさ、お前が俺の事をどう思ってるかは知らないけども」

 

 桐也は拳を握りしめる。

 

「友達に本気でお願いされたら、断る理由がないだろ。誰かに望まれる限り、俺は観客にだって、ドラマーにだってなってやる。そういう男だ」

 

 桐也は立ち上がると、リサの肩に手を置いた。彼女は僅かに頬を赤らめる。

 

「その代わり、ライブは前の方の席にしてくれよ。俺は目が悪いから」

 

 そう言い残して、桐也はどこかへ消えていった。

 

「ま、待ってよ!」

 

 リサはその背中を追いかけた。彼の思考が理解できない。あんなに嫌がっていたはずなのに、どうして……? 

 

 桐也んことはよく分からない。あたしにはまるで分からない。

 

 もしやお願いしたら、本当に何でもしてくれるのでは――しかし、それ以上考えるのはやめた。顔が赤くなりすぎて、今朝塗ったチークの意味が無くなってしまう。

 

 あたしも、はやく昼食を食べなきゃ。

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