踏み台転生したらなんかバグってた   作:泥人形

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デビル・シークレット

 

 第七秘匿機関とは、確かに校長の保有する私設部隊ではあるが、しかし、その本部は学園内に存在しない。

 メインとなるメンバーが学園とは関係のない……校長が直々にスカウトした人間が多いのだから、特におかしな話では無いだろう。

 具体的な場所はついぞ教えてもらえなかったが、それでも学園とはほど遠い場所にあるという。

 とはいえ、今のような状況になった以上、リーダーである校長がアクセスしづらい場所を本拠地とし続けるのは合理的では無いだろう。

 そう言った事情から、いっそ学園自体を本部として機能させてしまうのかと思っていたのだが、

 

「いやいや、そんなんしたら噂になりまくってまうやろ……ただでさえ、お偉いさんの多くは七つの破滅について信じてへんのや。今の段階で変に睨まれたくはあらへん」

 

 と、半笑いで返されてしまった。

 アルティス魔法魔術学園の校長は、基本的にその時代における、最強の魔法魔術師がなる決まりだ。

 しかしそれは、その強さを以て学園を守って欲しい、という思いと共に、重い役職を与えて常にコントロール下に置きたい、という政府のお偉いさんの気持ちがセットになっているが故のシステムである。

 要するに、あんまり問題を起こすと相応以上の罰を課されかねない。

 結局のところ、暴力は権力には敵わないという訳だ。

 加えて、今の校長……つまりナタリア・ステラスオーノは、築き上げてきた伝説と並行して、問題を起こしてきた人物でもある。

 何か不可解なアクションを起こせば、きつく睨まれる可能性があった。それは出来れば避けたい事態である……は? 今思ったけど、これ普通に人徳の問題じゃん。

 ここに来て個人の問題が、致命的な全体の問題になるのは校長失格すぎるだろ……。

 マジで悔い改めてくんないかな……とは思うものの、であればどうするのか? という疑問について、パーフェクトな解答を用意してきたのだから、文句は言えなかった。

 まあ、なんというか……ざっくりと言ってしまえば、校長は学園と本拠地を接続したのだ。

 もちろん、物理的な意味ではなく、魔法魔術的な意味合いである──つまり、

 

「空間転移、ね。俺の知らない魔法魔術がまた出てきたな……」

 

 学園敷地内に存在する教会の一つへと足を踏み入れ、奥に飾られている鏡に手を触れながら、魔力を流し込む。

 そうすれば、浮かび上がってきた魔法陣が手のひらに移るので、その状態で祭壇に触れれば、本部へと瞬間移動出来るという訳だった。

 俺としては、この微妙な面倒臭さにゲームっぽさを感じ、思わずテンションを上げてしまうのだが、他のメンバーからはまあまあ不評であった。

 立華くんなんてあからさまに「めんどくさっ……」という顔をしていたほどである。

 とはいえ、このシステムは実に画期的なものと言えるだろう。

 というのも、空間転移なんて技術自体が、未だにしっかりと確立された技術では無いからである。

 校長曰く、迷宮(ダンジョン)の仕組みを用いているだとか。

 そもそも迷宮に入ったことすら無い俺に、その説明は一ミリも伝わらないのだが……。

 

「ま、すぐに分かるか……暗証番号(Crittografia)2963:開通(Apertura)

 

 祭壇に触れながら、そう呟くのと同時。世界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひょ~~! お久じゃのぅ、お前様~!」

「なになになになになになに誰誰誰誰誰誰誰」

 

 転移が完了すると同時に、突撃してきた銀髪の幼女に押し倒された。

 当然ながら、見覚えは無い。

 こちらで知り合った人間どころか、ゲーム内キャラを思い返しても、全く該当しないほどである。

 何でこんなところに幼女がいるんだよ……。

 

「うん? 何じゃ、余のことを忘れたと申すか?」

「忘れたも何も、初対面だと思うんですけど……」

「失礼なやつじゃのう……アレだけ激しくやり合った仲じゃろうに」

「何!? それは何の記憶なの!? 怖い怖い怖い!」

 

 存在しない記憶をこれでもか、と溢れさせてくる幼女だった。本気で恐怖を覚えてしまい、ブルブルと身を震わせてしまう。

 見たところ、十歳にも満たない風貌であり、膝まで達するほどブカブカな白のTシャツ(最強! とドデカく書かれている)を着ているのだが、自己主張が激しめな紅の瞳をギラリと光らせており、妙な大人っぽさを感じてしまう。

 参ったな。

 本当に分からない。

 校長の時と違い、何となく知っているような気はする……という、片鱗すら感じない見知らなさだった。

 というか、そもそもの話、ここまで典型的なロリババアみたいなのが知り合いにいるわけないだろ!

 ファンタジーでしか許されない存在過ぎだった。いや、ファンタジー世界ではあるんだけれども……。

 

「え、余のこと、本当に分からんの……?」

「え、俺達、そんなガチな顔されるような仲だったの……?」

 

 滅茶苦茶切なそうな顔を向けて来る幼女だった。

 途端に申し訳ない気持ちが湧き上がってきてしまうので、本当にやめて欲しい。

 あと、そろそろ俺の上から退いて欲しかった。

 ワンチャン誤解されかねない体勢だからね? これ。

 

「やれやれ、仕方のないやつじゃのう……」

「俺が悪いみたいな方向性で話を進めるのはやめないか?」

「お前様ほどの悪を、余は見たことないがのう」

 

 言いながら、ピッ! と幼女が人差し指を向けてきた。ちょうど、手を銃の形にするようにして。

 突然、見た目相応にチャンバラでもしたくなったのかな、なんていう思考は、しかしすぐさま覆された。

 

「王核限定解除────之なるは、始まりにして終わりの破滅」

「────ッ!」

 

 反射だった。

 思考を一瞬たりとも挟むことなく、幼女────魔王を突き飛ばした。

 鋭く杖を引き抜き、鋒を向ける。

 

「射撃魔法:重複展開!」

『Magia di tiro:Distribuzione duplicata』

 

 蒼色の魔力が渦巻き、多重の魔法陣が形を為す。

 詠唱破棄しても良かったが、今はまだこちらの方が、一つ一つの火力が高い。

 色々と疑問はあったが、そんなもんは後で良い。

 抵抗はあるだろうが、ここでもう一度、行動不能まで落とし込む──!

 

「うおぉぉぉぉぉぉん! 待て待て待て待て待て待て待て待て! 余は無害! 無害じゃからそれ引っ込めんかぁ!!!?」

「は?」

 

 二十を超える魔法陣を展開すると同時に、魔王は泣き叫びながらその場に寝転がって腹を見せた。

 さながら犬がする服従姿勢である。

 え、えぇ……?

 始まったかと思われたシリアスが、瞬き一回分にして霧散してしまった。

 なに……何なのこいつは……。

 思わず俺も、魔法陣を消してしまう。

 

「見れば分かるじゃろ、魔王じゃい、ま・お・う。お前様が徹底的にボコした、偉大なる魔王様じゃ」

「いや、それはもう分かるんだが……そうじゃなくて、というか、もっと分からないっていうか……」 

 

 何で幼女姿になってんだよ……。というか、人型になれるもんなの? 威厳もクソも無いし、何だか色々と驚いてしまう。

 

「それはお前様が、余を限界まで削り飛ばしたからじゃろうが……人の形をとるだなんて、余とて久し振りじゃ」

「その姿が一番消耗が少ないってことか……?」

「まあの。つーか、余だって元は人間じゃからな、当然じゃろ。口調も当時のモンじゃ」

「!!?」

 

 本当に知らない情報が出てきた!!! は? マジで知らない。何それは?

 え? めっちゃ強くて長生きしてる魔族だから、魔王って呼ばれてんじゃないの?

 いや、確かに言われてみれば、その辺は明言はされてなかったと思うけど……。

 元、人間……?

 急に脳がバグるような情報をサラッと出すのはやめろ。

 ここ最近はそういう想定外が無かったから、耐性が下がってんだぞ。

 

「随分と大昔の話じゃがな。軽く千年は前じゃろうよ」

「へ、へぇ……」

「クカカッ、何を呆けた顔をしとるんじゃ」

 

 人の気も知らず、魔王が軽快に笑う。

 マジで何笑ってんだ、とグーパンを入れたいところなのだが、見た目が見た目なだけに、どうしても躊躇してしまう。

 もっとこう……如何にも魔族です、みたいな姿になってくれたら嬉しいんだけどな────いや、いいや。違うだろ。

 仮に姿が幼女だろうが、力を失っていようが、野放しにするのは普通にダメだろ。

 一発くらい殴って、気絶させておいた方が良いんじゃないか?

 

「ええい! すぐに暴力を振るおうとするのはやめんか。余とて、自身の今の立場くらいはわきまえておる。ここまで迎えに来たのじゃって、アテナの許可が下りてのことじゃぞ」

「アテナ先生の……? ていうか、そういうことなら、大分前から目覚めてたのか……」

「ざっと一か月ほど前じゃがな。こうしてある程度、自由に動くことが許されたのは、今日が初めてじゃが」

 

 大方、今のように余の口から、余のことを説明させたかったのじゃろう。と、分かり切ったような口調で言う魔王だった。

 まあ、確かに他人から今のような説明を受けていたら、何度か鼻で笑っていただろうし、半信半疑になっていたことだろう。

 そういった、無駄な時間を無くしたかったというのなら、一応は納得が出来そうだった。

 ていうか、アテナ先生いるんだ。

 あの人、呼び出すくせにいざ向かえば、メッセージが残されているだけだから、今回もそうかと思っていた。

 ずっと姿を見かけないし、ついに学園を追放されたのかな……と思っていたのだが。

 

「お前様、アテナへの当たりが強すぎじゃろ……まあ、別に良いんじゃけど。とにかく、そういうことじゃから、そろそろ行くとするかの」

「……どこへ?」

「はぁ? そんなもん、アテナのところに決まってるじゃろ────今日は大切な話がある、と聞いてはおらんかったか?」

 

 言って、魔王はニヤッと笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少年~~~~~!!! 会いたかったよ~~~~!! 元気してた!? 怪我してない!? 順調に力はつけていたかい!?」

「いや、いらないいらない! そういうのはもう良い! 似たようなことさっきやったから!」

「ちゃんとご飯は食べていたかい? 風邪とかはひいてなかった? 勉強に困ったりもしていなかったかい?」

「もしかして俺の親とかだったりする感じ?」

 

 実家に帰った時の学生が受けがちな質問を連発してくるアテナ先生だった。

 相変わらず以上の、強烈な圧を伴っており、若干引いてしまう。

 会わなかった分だけ、何かしらのエネルギーがチャージされてんの? みたいな爆発具合だった。

 やっぱり毎日会わないと、普通の会話が出来ないのかもしれない。

 抱きしめられそうになるのを回避しながら、切実にそう思った。

 

「え? せんせーと毎日会いたかったって? もう、仕方のない子だなぁ、きみは……」

「頬を赤らめながら無理ある捏造し始めた! 怖すぎるだろ」

「大丈夫、すぐ怖くなくなるよ」

「怖さが二段階くらい上がりましたよ、今」

 

 これ以上物理的に距離を縮めるのはやめよう、と固く誓う俺だった。

 何をされるか分かったものではない。

 ただでさえ、俺は実力的にこの人に敵わないのだ。

 

「何をイチャついとるんじゃ、お前様は……」

「今のがイチャついてるように見えたのか? 本当に?」

「うわっ、急に据わった目で見てくるのはやめんか! 普通にビビるじゃろ!」

 

 ちぇい! とペシペシ蹴って来る魔王だった。

 何度見ても「これが……魔王か……」という気持ちになってしまうな。

 このままでは殺されてしまう……と怯えていた俺がマジな馬鹿に見えてくるのでやめて欲しかった。

 もう少しこう……威厳とか保っててほしい。

 いや、実際に戦った時のこいつは強すぎるくらい、強かったんだけど……。

 

「それより、他のメンバーとかは呼んでないんですか? 緊急だって聞いたんですけど」

「ん~? うん、そうだね。せんせーが会いたかったから、呼び出しちゃった……って言うのは半分冗談なんだけど」

「半分はガチなんだ……」

 

 この人、俺のこと好きすぎるだろ……。 

 あんまりそういったことを言われ続けると、変に絆されそうになって困る。

 

「学園外のメンバーは結構忙しいからねぇ、順次伝えていく予定さ。だから、まずは少年に……ってね」

「レア先輩たちを、呼ばなかった理由は?」

「質疑応答は一人の方が楽だから、かな。それに、二人っきりが良かったし」

「ナチュラルに余を除外するのはやめんか! 今日の主役は余じゃろ……!?」

「は? 主役はいつだって少年なんだが……!?」

 

 ピョンピョンピョーン、とジャンプする魔王と睨み合うアテナ先生だった。

 信じられるか? この二人、原作だとラスボスなんだぜ……。

 あまりにも馬鹿みたいな光景すぎて、つい忘れそうになってしまうのだが、この二人が揃ってるとか、それだけ言うと緊張感が走りまくる状況であった。

 普通に考えて、この並びは俺が殺されるやつだろ。

 何でそこの間で、中学生みたいな主張をぶつけ合ってんだ……。

 

「どうでも良いんですけど、結局本題は何なんですか?」

「ん、そうそう、それなんだけどね──」

「──()()()()()()()()()()()()。もうそこまで迫ってきておる」

 

 アテナ先生の言葉を引き継ぐように、魔王はそう言った。

 いつの間にやら椅子に座っており、実に偉そうに足を組みながら。

 余裕ありげな表情で、煽るように。

 アテナ先生からガンガン睨まれているのを、ちっとも気にすることなく。

 

「既に、余の身から第一の破滅は取り除かれた……しかし、それでも残滓くらいは残っておるのじゃろうな。分かるんじゃよ、他の破滅の、気配とでも言うべきものがの」

「……それは、どこまで分かってるんだ?」

「生憎、これだけじゃ。何時来るか、どこに来るか……そういった、具体的なところまでは分からぬ。ただ、近づいて来ておるということだけは、分かるという話じゃの」

「ふぅん……カスのドラゴンレーダーみたいなもんか」

「良く分からんが侮辱されてることだけは分かるからの!?」

 

 完璧なしたり顔を崩して「んがーっ!」と吼える魔王だった。実に平和だな、と思わず考える。

 というか、校長やアテナ先生が魔王を生かしてるのは、これが狙いだったのか……。

 アテナ先生の未来の知識はもう、ほとんど役に立たない────というのも、彼女の知っている未来と今は、既に変わってしまったからだ。

 同じタイミングで、次の破滅が来るとは限らない。

 まあ、だからと言って、弱ってるとは言え魔王を飼うなんて、ぶっちゃけ正気じゃないと思うが……。

 アテナ先生(黒帝)は事情が事情だし……って感じだが、魔王はまた別だ。

 さっさと駆除した方が今後の為になる────いや、もちろん、味方に出来るのならば、心強くはあるのだろうが。

 普通じゃないからなぁ、校長もアテナ先生も……。

 

「もう少し、詳しいことは分かんないの? 例えば……一か月とか、二か月とか、それくらいの曖昧さでも良いから」

「ん……こればっかりは、感覚的なものじゃからのう。今すぐではないが、半年以内には来る……といったところじゃろうな」

「ふぅん……」

 

 意外と当てになるな、と思った。

 少なくとも半年以内に来る、ということが分かるのは大きすぎる。道理で最近、また校長が学園にいないことが増えた訳だ。

 色々と、準備しているのだろう。

 

「それじゃあ、もう一つ質問」

「ふん、何でも申すが良いわ」

「今のが、全て真実である証拠は?」

「……? ……!! もしかしてお前様、余が嘘を言っているとでも言いたのか!?」

「むしろ何で、その可能性を考慮されないと思ったの?」

 

 誰もが、一番最初に疑問に思うところだろうが……!

 言っておくけど魔王の言葉とか、信頼に全く値しないからね?

 歴史的に見ても、長いこと敵対し続けてきた、言わば人類の敵である魔王に、信憑性とか無いから。マイナスぶち抜けてるから。

 

「はぁ~……やれやれ、これだから人類は嫌なんじゃ。疑い深くて、面倒臭い」

「元人間だったやつが、良く言うな……」

「魔王として過ごした期間の方が長いからのう……故にこそ、余は敢えて言うぞ。余は真実しか話しておらん、とな」

「根拠は?」

「ある訳ないじゃろう……」

 

 そもそも、と魔王は言葉を付け加える。

 見るからに仕方ない、といったポーズで、ため息交じりに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。封印なんて狡い真似でなく、弱っていたとは言え、真正面から打ち破られたのは、初めてじゃったぞ?」

「……えっ!? そんな野生の獣みたいなルールでお前、生きてたの!?」

「流石にそれは聞き捨てならん侮辱じゃからな!? 特異点とは言え、マジでハッ倒すぞお前様ァ!」

 

 ガターンッ! と椅子を倒しながら、ファイティングポーズをとる魔王だった。

 お、やるか? とこちらも構えようとすれば、不意にアテナ先生が言う。

 

「ああ、それ。ちょっと聞きたかったんだけど、良いかい?」

「む、なんじゃ……」

「きみは少年のことを、()()()って呼んでるけど、それってどういう意味なのかな」

 

 スッと目を細めたアテナ先生に対して、魔王は「ふん」と鼻を鳴らした。

 

「何じゃ、知らんかったのか……いや、それも無理ないのかの」

「……というと?」

「こやつはどう見ても異常じゃろうが。魔力が多い、頭が良い、才能がある……そういった意味では無く、存在からして異質じゃ。()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

「あらゆるものにおいて例外。世界の破滅にも、創造にも立ち会う何か。世界が変わる時、必ず起点に在る者。そういった存在を、七つの破滅はそう呼ぶ────ま、ざっくり言えば、()()()()()()ってところじゃな」

 

 また一つ、賢くなれたのう? と笑う魔王に対して、少しだけ考えさせられる。

 今まで何となく、なあなあで流してきたのだが。

 ()()()()()()()()()()()────と。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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