踏み台転生したらなんかバグってた   作:泥人形

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何か……12000文字になっちゃった……。


ターニング・ポイント

 

 覚えのある紅の焔が、ふわりと空気に解けていく。

 レア先輩の温もりが、風に流れて消えていく。

 この眼はハッキリと現実を捉えているのに、恐ろしいくらい頭は回らなかった。

 いや、だって……は?

 何だ、これ?

 

「っ、日之守くん! しっかりして!」

 

 そう叫んだネフィリアムに、強引に引き寄せられた。

 まるでこれから逃げるとでも言うかのように────いや、違うな。

 実際に逃げようとしているんだ。

 月ヶ瀬先輩のパーティメンバーは、既に扉の外へと連れ出されていて、立華くんが葛籠織と月ヶ瀬先輩の手を引いている。

 それはこの場で取れる、最適解ではあるのだろう。

 

「逃がすものかよ。あらゆる生命は終わりだっつってんだろ」

 

 パチンッと音がした。

 反射的にネフィリアムを押し退けた瞬間、即座に起動した守護魔法は欠片と化して、数瞬の明滅後には身体が壁にめり込んでいた。

 身体が異常を察知するのに数秒遅れた。

 痛みが後から追いかけて来る。

 

「がっ、ぐ、ぁ……?」

 

 飛びそうになった意識の尾を引っ掴むと同時に、せり上がってきた血を吐き出す。

 ガラリと音を立てながらその場に落ちて、そこでようやく呼吸の仕方を思い出した。

 その中で、じわりとじわりと思い知らされる。

 依然としてごちゃつきまくっている頭でも、はっきりと。

 第一の破滅とすら、こいつは格が違う。

 

弓引くは天の射手(Spara attraverso i cieli) 汝の罪は今許される(Giudica il peccato)!」

這い出でるは深き影(strisciare fuori ombra profonda) 光の下を並び駆ける(corri vicino alla luce)!」

 

 黒白合わせて二百本の矢が撃ち放たれる。

 決闘時よりも、精度と火力を底上げされたそれらは、しかし辿り着く前に霧散した。

 揺蕩う黒焔に貪られるように。

 

「……接続者と、候補者か? ハッ、足りてねぇな」

 

 闇色に染まった瞳が、彼女たちを見る。

 ゆるりと腕が上げられる。彼女たちが展開した守護魔法が、数秒保つことなく黒焔に吞み込まれた。

 

「射撃魔法:重複展開!」

『Magia di tiro:Distribuzione duplicata』

 

 黒焔の中から二人を引きずり出した、立華くんが吼える。

 展開された三十の魔法陣から、オプションをスキップした弾丸が飛び出し、それごと圧し潰された。

 三人が三人とも、その場に強制的にひれ伏せられる。

 

「主たるものまでいたか……豪勢な面子に囲まれてるな、特異点」

 

 第一の破滅とは違い、随分と馴れ馴れしくそれは言う。

 嘗められてるのが分かる。それだけの余裕があちらにはある────違う。

 あいつ、俺が攻撃できない……()()()()()のが分かってるんだ。

 第二の破滅は、()()()()()()()()()()()()()()()

 未だにレア先輩の意識は生きているということを。

 未だにレア先輩の魂は失われていないということを。

 分離させる方法はどこにもないと言えるほどに、密接に混じり合っているということを。

 かといって、第二の破滅ごとあの肉体を破壊してしまえば、それはイコールで()()()()()()()ということに、他ならないことを。

 否応なく理解してしまったが故に、決断出来ない状態に陥ってしまったことを、アレは理解している。

 

「実に人間らしく弱いな、特異点。ま、知ってたからこそ、こういう形を取ったんだが」

 

 指先が向けられる。拙い、と思う前に視界はブレた。

 月ヶ瀬先輩に抱きしめられて、そのまま空を翔けていく。

 

「しっかし、ここまで効くのは予想外だぜ。案外脆いな、特異点」

 

 黒焔が追いかけて来る。飛行魔法の限界値まで迫る速度で翔ける月ヶ瀬先輩に、しかし易々と追いついてくる。

 大口を開いた黒焔に、二人揃って叩きのめされた。

 

「拍子抜けだぜ……あ~あ、迷宮と融合したり、感情まで獲得したりしたってのに、無駄足か────仕方ねぇ。それじゃあ始めようか、第二の滅亡を!」

 

 止めなければ、とは思う。

 そうしなければならないと、強く思う。

 レア先輩に残された、たった一言が頭の中で何度も思い返されて、吐き気がした。

 

「ねぇ、甘楽くん」

「なん、ですか」

 

 息を整えながら、それでも立ち上がった月ヶ瀬先輩が、俺を起こしてくれる。

 ダメージはまだ、そこまで大きくない。戦おうとするのなら、戦えるだろう。

 

「レアちゃんの焔は、何か教えてくれた?」

「……自分を、殺してくださいって」

「そっかぁ……それじゃ、倒してあげないとだね」

 

 ほんの少しも悩むことなく言われた台詞だった。

 その声に迷いはない。

 彼女の藍色の瞳は強く、第二の破滅を見据えている。

 いや、はえーよ。何でそんな決断をすぐ下せるんだ。

 

「あはは、そんなにおかしなことじゃないよ──ただ、レアちゃんがそう望んだのなら、そうしてあげるのが、親友の役目だと思うから。

 それに、レアちゃんの身体をあれ以上、変なのに好き勝手させられないでしょ?」

 

 わたしに止められるなら、わたしが止める。それだけだよ、と月ヶ瀬先輩は笑った。

 強い人だな、と改めて思った。

 見習って、隣に立つべきなのだろうとも思う。 

 

「甘楽くんは、優しいから。きっとたくさん考えちゃうんだと思う。

 でもね、レアちゃんもそんなことくらい分かってて、その上で、きみに言葉を遺したんだってこと、分かって欲しいな。

 きみは、レアちゃんの英雄なんだから」

 

 言って、月ヶ瀬先輩は空を翔け、杖を振るった。

 それに合わせるように、立華くん達も攻撃を始め、その度に薙ぎ払われる。

 常軌を逸した実力を持つ彼女たちでさえ、まるで虫けらのように弄ばれている。

 しかし、それも当然の帰結と言えるだろう。

 そもそも、第二の破滅を想定した戦いは、基本的に俺を主軸としたものだ。

 

「良いねぇ、本命があのザマで落胆したが……少しは楽しめそうじゃねーか!」

 

 だから、直に戦いは終わるだろう。

 彼女たちの抵抗は、定められた滅亡をほんの少しだけ遅らせることしかできない。

 そうだ、死んでしまう。今、一人一人倒れていっているように。

 立華くんも、月ヶ瀬先輩も、葛籠織も、ネフィリアムも、死んでしまうのだろう。

 それだけはダメだ。誰一人にだって、俺は死んでほしくない。

 

 ──だって、少なくともわたくしにとって、日之守様は英雄なんですもの、ね?

 

 不意に、そんな一言が頭を過る。

 迷宮に入る前、レア先輩にそんなことを言われたんだっけ。

 英雄、か。

 似合わないな、と改めて思った。

 こんな有様では、到底その名前は受け取れない。

 あまりにも、相応しくない────それでも。

 そうだとしても、そう信じられたのならば。

 きっと、それには応えなければならないのだろう。その願いを、叶えなくてはならないのだろう。

 それが、信じられた者の、責務なんじゃないだろうか。

 託された者が、為すべきことなんじゃないだろうか。

 

「あーーーーー! クソッ! 砲撃魔法:重複展開!」

『Magia del bombardamento:Distribuzione duplicata』

 

 開いた合計百門の砲台が、口を開いて砲撃を吐き出した。

 空から降り注ぐように、第二の破滅を呑み込むが、少しのダメージも入った様子はない。

 

「あーん? 何だ、元気じゃねぇか。隅っこで泣く時間は終わったか?」

「チッ、せーな。殺してやるよ」

「ハハッ、良い度胸だ! 特異点なら、そうこなくっちゃなあ!」

 

 急速に魔力を練り上げる。

 同時に場の魔力の制圧に取り掛かり、第二の破滅が薄く笑った。

 

「なるほどな、第一がやられる訳だ。人の身に余るだろ、それ」

「は? 何だ、ビビって媚でも売りに来たか?」

「ハッ、雑魚が調子に乗るなっつってんだよ」

 

 反射で展開した守護魔法を突き破った蹴りが、腹にめり込んだ。

 宙に浮くと同時に、黒焔は群れを成して落ちてくる。

 

「がっ……ゔ、あぁ……!?」

 

 頭から足先まで、食い破られながら炙られる感覚が、全身を隈なく埋め尽くす。

 それらを力ずくで払いながら、杖を持ち上げた。

 血が出過ぎてフラフラする、身体がもう倒れたいと叫びをあげる。

 けれども、それで良い。これが絶好調だ。

 思考だけはクリアで、眼も良く視えている。

 目にもの見せてやるよ。

 

「久遠の彼方 祓われざる──」

「おいおい……そんな初歩の初歩で抵抗しようとか、笑えすらしねぇぞ」

 

 第二の破滅が呆れたように手を打ち鳴らす。ただそれだけで、()()()()()()()()()()()

 ……あ?

 有り得ない、と思うより先に、黒焔の群れは視界を埋め尽くしていた。

 一点集中させた砲撃魔法で道を作り、そこから抜け出せば、第二の破滅は笑う。

 

「一つ、授業をしてやるよ、特異点。魔導ってのはな、より深く理解している者を、主として選ぶんだ」

「主として、選ぶ……?」

「そうだ……例えば、こんな風にな」

 

 第二の破滅が指先を向けて来る。そこにあったのは、先程消された蒼色の光だった。

 それが黒々と焔に染め上げられていき、「よく覚えて死ねよ」と、第二の破滅は言った。

 

「展開────"第壱砲撃魔導:無窮"」

 

 瞬間、それは撃ち放たれた。

 俺のそれよりずっと強く、第二の破滅に改変された砲撃に、全身が包まれ焼き焦がされていく。

 それが消えた頃にはもう、両の足で立つことすら出来なかった。

 声を出すことすら出来ない。砕け散った杖が手から滑り落ち、前のめりに倒れそうになって、首を掴まれた。

 

「原型残るのかよ、すげーな。今の、最大出力だぜ?」

「あー……生温い、シャワーみたい、だったけどな」

 

 ペッ、と血を吐いてやろうかと思い、押し留まる。

 身体はレア先輩なの、卑怯すぎるだろ……。

 見慣れない闇色の瞳に覗き込まれて、悪寒が背筋を駆け抜けた。

 

「……何だよ、これだけか。期待外れ──いや、人の身にしては、上等か」

「随分、上から、目線だ、な……」

「上だからな。ハッ、もう良い、飽きた」

 

 グッ、と首を掴む力が増した。

 こんなことをせずとも、一秒もいらずに殺せるだろうに。

 まるで愉しむように、それは少しずつ力を増していく。

 

「あばよ、特異点。呆気なく、つまらなかったぜ」

 

 力が増していく。痛みが増していく。

 意識が薄れ、呼吸が途切れ、死が迫って来る。

 圧倒的な力の前に、ダラリと力は抜けて。

 

「────沈みなさい(Lavello)!」

 

 聞き覚えのある声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 影の中へと消えていった少年に、第二の破滅は少しだけ瞠目し、それからゆるりと首を動かした。

 フッ、と少しだけ笑う。

 無駄な抵抗だな、と。

 

「はっ、はぁ、はぁっ……」

 

 その先で息を切らすのは、一人の少女──アイラ・ル・リル・ラ・ネフィリアムだった。

 先程まで、自身と周りに回復魔法をかけながら、日之守の戦いを見ることしかできなかった彼女は、それでもギリギリでの救出に成功した。

 立華たちの影に出現した彼女は、今も大切そうに、気絶した日之守を抱きしめている。

 

(逃げられ……はしないわね。かといって、撃退は不可能だわ。少なくとも、私では無理。日之守くんが、もう一度起きてさえくれれば、逆転の目はあるかもしれないけれど……)

 

 自分達と同じように、あっさりと敗北を喫した日之守を、しかし、ネフィリアムは未だに信じている。

 それは、日之守を盲目的に信じているから────ではない。

 明らかに、今の日之守の動きは精彩を欠いていたからである。

 メンタルが万全ではないのだろう、とネフィリアムは予測する。そしてそれは、実際に正しい。

 日之守は動揺や困惑といった感情を、使命感だけで押し込んでいた。

 それが結果的に、自らのパフォーマンスを、酷く落としていたということにも気付けずに。

 

「健気なもんだな、人の子ってのは。そんなに特異点が大切か?」

「随分と頭の悪い質問をするのね。そんなこと、言うまでもなく、当たり前じゃない」

「ハッ……じゃあ、そうだな。そいつを俺様に寄越せば、お前は助けてやる……つったら、どうする?」

「断固拒否に決まってるでしょう。あなた、三流の悪役みたいなことを言うのね」

 

 強気なことを言うネフィリアムの身体は、しかし恐怖によって震えている。 

 それなのに、その瞳だけは確かな強さを放っていて、だからこそ、第二の破滅は理解できなかった。

 

「……恋愛感情ってやつか、下らねぇな」

「あら、感情を獲得したとか何とか、言っていたように記憶しているのだけれども……それは嘘だったのかしら?」

「獲得したからこそ、だ」

「ということは、理解は全然できていないってことなのね……ふふっ、まるで生まれたての赤ん坊みたい」

 

 一つ、教えてあげましょう。とネフィリアムは言った。

 その手にある少年の頭を撫でてから、その場に寝かし。

 守るように前に立ってから。

 

「私ね、日之守くんに言ったのよ。『私は日之守くんのことを、一番に愛する自信があるわ』って」

 

 大気中の魔力が、少しだけ騒めいた。

 ネフィリアムを中心に、渦巻くように。

 

「一番って、何も私の中で一番ってだけではないの。世界中の誰よりも、私が一番に愛する自信があるってことなのよ。まあ、彼は照れ屋さんだから、まだ受け取ってもらえてないのだけれども」

 

 片想いも楽しいわ、と恥ずかしそうに笑いながら、ネフィリアムは言う。

 頬は少しだけ赤らんでいて、この場には似合わないけれど、見た目相応の女の子らしい。

 

「話が見えねーな、だからどうしたんだっつーんだよ。そんなモンは、今だって何の役にも立ちゃしねーだろ」 

「だから、教えてあげると言っているでしょう────()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 アイラ・ル・リル・ラ・ネフィリアムという少女は、この世界に存在するあらゆるものよりも、日之守甘楽という少年を愛している。

 日之守甘楽という少年の為ならば、命の一つだって惜しくはないし。

 日之守甘楽という少年の為ならば、誰の運命だって変えてしまうだろう。

 それはきっと、()()()()()()()()

 

深淵より極黒を(Ombre profonde dall'abisso)

 

 渦巻いていた魔力が、騒めいていた魔力が形を与えられる。

 闇よりも濃く、黒よりも深い影が、産み落とされていく。

 

呑まれゆく運命には慈悲を(Abbi pietà del destino che ti inghiotte)

 

 それを見て、しかし第二の破滅は鼻で笑った。

 根源魔術──確かにそれは、人類が行使できる最強の奥義。

 魔術の秘奥、その一つである。

 けれども第二の破滅にとって、その程度は児戯に過ぎない。

 第一の破滅とは違い、第二の破滅の顕現度合いは、比較にならないほどなのだから。

 

想いを此処に(metti qui i tuoi pensieri)

 

 それでも高まり続ける魔力を、抗うことをやめない姿勢を、第二の破滅は面白く思う。

 だからこそ、真正面から打ち破ろうと手を上げた。

 黒焔が蠢く。

 

底無き影は(l'ombra senza fondo) 悉くを受け容れるだろう(accetta tutto)

 

 それすら呑み込むほどの影が、際限なく広がり続けていく。

 この場の制圧権は、既にネフィリアムの手の中にあった。

 それを握りしめて、彼女は叫びをあげる。

 

我が身に宿りし影は(L'ombra che alberga nel mio corpo)────《極夜(Notte)》!」

 

 熱く燃える感情が、ネフィリアムの中を駆け回る。

 彼女の持つ愛情が、あらゆるものに劇的な変化をもたらしていく。

 ネフィリアムは想う。もっと一緒にいたいと。もっと生きたいと。もっと傍にいたいと。

 だから────だから、日之守くん。

 これが終わったら、私、貴方にアイラって呼んで欲しいわ。そして、私は貴方のことを、甘楽って呼ぶの。良いでしょう?

 

我が愛は此処に在り(il mio amore è qui)

 

 遍く全てを食い広げる影の群れが、迷宮内を支配する。

 深く、広く、果て無く続く影はさながら夜そのもの。

 概念すら上書きするそれを前に、第二の破滅は己の一部とも言える黒焔を対峙させ、

 

「──な、んだ、これは……!」

 

 一方的に食い消すどころか、完全に拮抗したのを感じ、思わず声を零した。

 どちらかが、優勢になるほど押し込めてはいないし、押し込まれてもいない。

 それ自体がもうおかしい。有り得ない。あってはならないことだ!

 魔術が魔導と、同等の火力を発揮するなど──!

 

「認めねぇ────認めねぇ! 感情一つで、何かが変わるなど!」

「必死になればなるほど、認めてるも同然だと思うわよ、ベイビーちゃん?」

 

 軽口に乗るように、放たれる根源魔術は限界を軽々と超えていく。

 それは偏に、彼女の持つ愛情故に。

 出力が際限なく上がる黒焔に、彼女の影は、全く負けないほどのものへと変貌していく。

 それは、正しく異次元の戦い。その余波だけで、街が一つ消し飛んでもおかしくないほどの拮抗。

 世界の行く末を定める分岐点(ターニングポイント)だった。

 

 

 

 そこから、少し離れたところ。

 倒れ伏す仲間たちの真ん中で、薄っすらと甘楽は目を覚ました。

 戦いに起こされるという形で意識を取り戻し、その戦いに言葉を失い。

 それから、抱きしめられていることを理解した────いや、ちょっと待って。

 何かすげぇ柔らかいのが温もりと共に押し付けられてる気がする!!

 

「え? え!? なに、何……!?」

「あっ、馬鹿、動くな……!」

 

 返ってきたのは、立華くんの声だった。

 それに気づいて、少しだけ冷静になってみれば、確かに考えるまでもなく立華くんである。長い金の髪や、この小さな身体は彼女そのものだ。

 ……いや違う! だとしたらもっと問題じゃん!!?

 だってこれ、()()()()()()()()()()()形になるわけだよな!?

 

「わー! 馬鹿馬鹿、暴れるな離れようとするなこっちを見るな!」

「無茶苦茶言うねきみ!? 無理無理無理無理! え? ほんとに何やってんの!?」

「僕だって好きでこんなことしてる訳じゃない! さっきの攻撃で服が破けちゃったんだよ……! だから、そのまま身じろぎしないで、前だけ見てて!」

 

 今頃顔真っ赤にしてんだろうな……というか、耳まで真っ赤にして言う立華くんであった。

 いや、だからといって、何で抱き着いてるんだよ……という疑問は、すぐに解消された。

 身体の傷が治っていく、失われた体力が戻っていく。消費された魔力が補填されていく。

 これ、回復魔法をかけてくれながら、同時に魔力の譲渡までしてくれてるのか。

 

「それだけじゃない……というか、それだけならここまでしてない……!」

「えぇ……じゃあ何なの……」

「君に、僕の勇者の力を貸し与えてる。その為に、こうして……その、素肌を合わせてるんだっ」

「──────」

 

 言葉を失った。けれどもそれは、別に「何言ってんのこいつ? やば……」とドン引きしている訳ではない。

 なるほど、と深く頷いてしまったのだ。

 『蒼天に咲く徒花』における勇者の力とは、魔王への特攻でもあるが、それは極端に押し上げられた『悪性への特攻』と言い換えても良い代物だ。

 要するに、相手の悪性が強ければ強いほど、それは効力を増す。

 例えば魔王相手であれば、その攻撃力は最大で十倍にまで膨れ上がったほどである。

 貸し出しとか出来るんだ……と思ったが、思い返してもみれば、原作でもキスしたヒロインには譲渡できていた。

 普通に肌の接触だけで出来たのかよ。

 

「これで多分、もう少しまともにやり合えるだろ……それと、だ。日之守」

「まだ、何か?」

「うん……少し、聞きたいことがあるんだけど」

「ん、良いよ」

 

 全身で感じる立華くんに、死ぬほど心臓を鳴らしながら、深呼吸と共に話を促す。

 これ、俺の鼓動聞こえてないよな……?

 

「君、ドキドキしすぎだろ……」

「うるさいな!? そっちだって凄い心臓鳴ってるじゃん!」

「こんな状況でしない方がおかしいだろう……!」

 

 ゔーっ、と互いに唸り合ってから、黙り込んで一拍を置く。

 早く話せよ、という話であった。

 

「えーっと、第二の破滅って、迷宮と融合したって言ってたけど、それってつまり、第二迷宮(シークレットフロア)迷宮主(ダンジョンボス)も、あいつってことで良いんだよな……?」

「その認識であってると思う。多分、間違いない」

「そっか、それじゃあ、もう一つ。迷宮から脱出する方法って、迷宮主を倒すだけなのか?」

「俺の知る限りは、それだけだけど……」

「迷宮を破壊とか出来たら、脱出できたりしない?」

「えぇ……随分野蛮なこと聞いてくるねきみ……いや、出来ると思うけど」

 

 というか、正確なことを言えば、迷宮主を倒せば迷宮脱出となる訳では無いのだ。

 迷宮主を倒すことで、迷宮全体が瓦解し、跡形もなくなることで、脱出となるのである。

 だから、完全に破壊し尽くせば、脱出となるのはそうであった。

 まあ、だから何? という話ではあるのだが……。

 

「いや、だってさ、迷宮で受けた影響は、迷宮から出れば元に戻るんだろう? それってつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「────うお、えっ、天才?」

 

 え? いや……いける。いけるいける! その理論なら全然いける!

 ビックリするくらい蛮族じみた発想ではあるが、これまた驚くくらい隙が無い!

 問題は、どうやって破壊するかだが……。

 

「まあ、迷宮自体は魔法魔術で破壊できるからな……俺だけでも、そこそこ壊せるとは思う」

「うん、だろうな……タイミングを合わせられれば、僕らの方でも後押しできるから、それで全壊させられると思う。ただ──」

「ん、分かってる」

 

 言いながら、チラリと戦場へと目を向けた。

 未だに変わることなく拮抗は続いているが、ネフィリアムの消費が激しい。

 あのままだと、押し切られてしまうだろう────そして、それに代わるのならば、やはり俺以外にはいない。

 出来るのか? と自問すれば、余裕、と自答が返ってきた。

 滅茶苦茶ボコボコにされた貸しもある訳だしな、百倍にして返そう。

 言ってやりたいこともあるし。と、眼をギュッと瞑って立ち上がりながら、短く息を吐いた。

 

「俺の魔導が初歩ってことは、応用もあるってことなんだよな……」

 

 まあ、言われてもみれば、当然のことではあるのだが。

 更に発展させるという思考が無かったのは確かだったので、目から鱗って感じであった────多分、形は自由なんだ。

 

「久遠の彼方 祓われざる闇の先 沈まざる光の雫」

 

 例えば以前使った魔導は、ただ放出するだけだった。

 それに比べ、第二の破滅は焔を意思あるものかのように扱っている。

 魔術と一緒だ、使い手によって、幾らでもそれは形を変える。

 

「理こそは我に在り 堕ちた(そら)はこの手の中に」

 

 だから、もっと自由にやろう。

 軽く死にかけたせいか、あるいは立華くんに力を貰ったからか、調子は万全を通り越して、万能感すらあるくらいなんだから。

 

「恐れるならば我を見よ 讃えるならば我が下に」

 

 いつになく眼が良く視える。世界の形が良く捉えられる。

 自分の中に混ざった、勇者の力を洗練させて、編み込んでいく。

 

「勇あるものよ 集い纏え」

 

 第二の破滅と、同じ土俵で戦うのは不利だ。

 大規模魔導のぶつけ合いだと、あちらの方が練度は高い。

 

「展開────"第弐装甲魔導:夢纏"」

 

 だから纏う。魔導そのものを、外套のように仕立て上げる。

 その一部を切り取って、立華くんを覆い、頭をクシャリと撫でた。

 

「わっ、ちょっ、何するんだ!?」

「いや、ちょっとしたお礼……みたいな? とにかく、ありがと。いってきます、頼んだよ」

「~~~っ! いってらっしゃい、任せてくれ」

 

 トンッ、と軽く地面を蹴った。それだけで、第二の破滅の眼前へと辿り着いた。

 視線が交錯する。

 

「ハッ、死んでなかったか。何をしにきた?」

「礼をしに来た」

 

 詠唱抜きで魔導を手繰る……正確には、纏った一部を手繰る。

 武器であり、防具であるそれを、指でなぞって形を変えて────()()()()()()()()()()()()()()()

 

「がっ、ああ、あぁぁあああああ!?」

「おっ、良かった。上手くいった」

 

 蒼色の閃光の中に、第二の破滅が消えていく。

 何、死にはしないだろ。

 どうせきっちり元通りになるんだ────いや本当、そう分かっただけで気が楽だな……。

 やりたいようにやって良いんだ、という安心感が、思考をフルで回転させる。

 十全に身体を動かせる、意識が明瞭になっている。

 反動で後ろに下がりながら着地すれば、力を使い切ったようなネフィリアムがそこにいた。

 

「悪い、待たせたな」

「本当……待たせ過ぎよ。私、泣いちゃうかと思ったわ」

「何でそんなに泣いちゃいたがるんだよ……悪かったって。後は、俺に任せて」

「ええ、お願いね」

 

 ふらりと倒れたネフィリアムを横抱きにして、立華くん達に預ける。

 さて、第二ラウンドだ。

 

「あっさり死んでくれるなよな、第二の破滅」

 

 

 いや……それにしても立華くんの、滅茶苦茶でかかったな……。

 そりゃ服の上からでもデカいデカいとは思っていたが、直に触れ合うのとは別物過ぎた。

 ヤバすぎるだろ、アレは……。

 本当に、迷宮内にいる間だけの、一時的な奇跡の産物で本当に良かった……。

 仮にずっと続くんだとしたら、普通に俺の方が参ってしまうところだった。

 ふ~~、あっぶねぇ~……!

 

 

 

 

 

 

 

 
ご神託チャット▼


名無しの神様 うわーーーーー!??!?!?!?

名無しの神様 半裸の美少女と半裸の美少年が抱き合ってた!!!

イカした神様 スクショ百万枚撮った

名無しの神様 安心しろ、動画もバッチリだ

名無しの神様 天才か?

名無しの神様 これが、ボケナスの本気……!?

名無しの神様 こんなのもう、ボケナスなんて言えないじゃん……

名無しの神様 ボケナス様だよこんなの……

名無しの神様 滅茶苦茶絵になってたの面白すぎんだわ

名無しの神様 さっきまで完全にお通夜だったとは思えないくらい盛り上がってきててワロタ

名無しの神様 マジで誰も発言してなくておしまい感漂ってたからな

名無しの神様 次は普通に普通の転生して幸せに生きて欲しいとか思ってたわ

名無しの神様 ほんそれ

名無しの神様 逆転ホームランにもほどがあるんよ

名無しの神様 アイラちゃんが滅茶苦茶やり始めたとか思ったら、何かバグ守が覚醒してて草

名無しの神様 あいついっつも覚醒してんな

名無しの神様 流石にアイラちゃんに謝って欲しい

名無しの神様 でもかっこいいから許しちゃうよ

名無しの神様 日之守のあれ何? 何か……魔導とかいうのを、纏ってる?

名無しの神様 まあそんな感じだよな

名無しの神様 雰囲気が完全に超死ぬ気モードなんだよね

名無しの神様 纏ってるのもマントっぽいし、かなりそれっぽいよな

名無しの神様 リボーンオタクにしか分からない会話やめろ

名無しの神様 何だよ、超サイヤ人って言えば良いのか!?

名無しの神様 すげぇ分かりやすくなって草

名無しの神様 最初からそう言え

名無しの神様 ボッコボコじゃん

名無しの神様 流石に第二の破滅くんが可哀想になってきた

名無しの神様 日之守さんの前になんか立つから……

名無しの神様 シンプルに自殺志願者のそれなんだよ

名無しの神様 南無……

【来る!】蒼天に咲く徒花 バグキャラ日之守甘楽 攻略RTA【第二の破滅!】

 

 

 

 

 


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