踏み台転生したらなんかバグってた   作:泥人形

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あいらセカンド

 

「修学旅行……? 全然知らないイベントが発生したな」

「学生失格みたいな台詞が出てきたな……」

 

 お前なんの為に学生してんの? みたいな顔で、立華くんがため息を吐く。珍しく男性モードだった。

 困ったことに、本気で思い出せないのだが、アルティス魔法魔術学園の三年生には修学旅行があるらしい。

 というか、三年ごとにあるのだとか。

 毎年、三年生と六年生が旅行に行く形になる訳だな。無論、行く先は違うらしいが。

 確実にこんなイベントは無かったはずなのだが、最近の俺の記憶はちょっと信用ならないので、断言できなかった。

 ていうか、絶対に事前から知らされていたはずなのだが、それすら記憶にない。

 ああ、関係ないイベントね、と割り切ったか、あるいはマジで興味がなかったかの二択だろう。

 とはいえ俺は、修学旅行と聞けばもう、それだけでワクワク出来る人間なので、恐らく前者だと思われるのだが……。

 

「甘楽君、貴方、修学旅行の話が出た直後に荷造りし始めたじゃない……」

「存在しない記憶を溢れさせるのはやめろ……えっ、マジで?」

「一応言っておくが、班決めだってとっくにしたからな」

「う、嘘だ……俺を騙そうとしている……」

 

 授業をそっちのけに狼狽え始めた俺に、逆に二人が困惑し始めた。

 どうやら本当のことらしいな。

 左隣でいつも通り、すやすや眠りこける日鞠を起こしても、きっと同じ答えが返ってくることだろう。

 それに、今思い返してみれば、俺のベッドの隣に謎のリュックが佇んでいた気がしないでもない。

 しかし、そうは言っても流石にこれを、忘れっぽいで片付けるのは無理があった。

 何かしらの記憶障害が発生していると考えるべきだろう────やっぱり、魔導か?

 気軽に扱えるようになったとはいえ、普通に脳への負担が大きいし、あまり多用しない方が良いのかもしれない。

 

「……本当に、覚えていないのか?」

「ん、いやいや、ちょっと忘れてただけ。ちゃんと思い出したよ。ここ最近は、色んな事が畳み掛けて来てたからな……少し抜けちゃっただけ」

 

 監視役とかもついちゃったしな、と付け加えれば、立華くんは納得したように頷いた。

 アイラの方は未だにジト目を飛ばしてきているが、ここは敢えてスルーさせてもらう。

 事情を話したところでどうしようもないし、そもそもそういう場面になったら、魔導は使わざるを得ない。

 禁止にするなんて言語道断だ。普通に無理だろ。

 出来れば日常的に使って、少しずつでも効率化したいまであるのだから、それもなおさらだ。

 ただ、アテナ先生や校長辺りには、話しておいた方が良いかもしれないが……まあ、その程度である。

 こういった秘密は出来れば抱えたくないのだが、余計な心配もかけさせたくなかった。

 あと単純に、全力で戦うことを他人に憂われたくない。

 俺、魔法とか魔導とか使うの、シンプルに好きなんだよ……。

 

「ところで、修学旅行っていつ?」

「はぁ……明日よ」

 

 ……マジで? 展開が早すぎない?

 この前入学式やったばっかりだったと思うんだけど、そんなに早い時期にやるんだ、とカレンダーを見れば、示されるのは五月の半ば。

 ミラとアイラと一悶着があったのが、四月の中旬だったと思うんだけど……。

 そこからの記憶が丸ごと飛んでいる訳では無いし、穴抜けという訳でも無い────単純に、修学旅行に関する記憶だけ抜けてるのか?

 何でまたそういう、変なところを……と顎に手をやれば、「やっぱり覚えてないんじゃない」と、呆れたようにアイラがため息を吐いた。

 

 

 

 

 取り敢えず部屋へと戻り、過去の俺が荷造りしたというリュックの中身を漁る。

 出てきたのは幾つかの着替えと、下着、それから洗面用具くらいである。実にコンパクトで無駄のない荷造りだった。

 ひゅ~! 旅慣れしてる人みたいでかっこいい~! と自画自賛してやらなければ、ちょっと悲しくなるくらい最低限の荷物であった。

 携帯ゲーム機とまでは言わなくとも、トランプやお菓子の一つも入ってない辺り、ガッツリ陰キャ気質が全面に表れている。

 まあ、そうは言っても、今時足りないものがあったら、現地で買えたりしちゃうからな。

 日之守家はまあまあ良いとこなので、お金に困ることも無いし。

 これはこれで良いか、とリュックを放り、ベッドに寝転びながら旅のしおりを開く。

 すげぇな。全く見覚えが無いのに、ちょくちょく俺のメモが書き込まれている。

 記憶喪失者になった気分である────いや、気分って言うか、まんまその通りなのか?

 

「小説とか読んでると、ちょっと憧れたりもするけど、実際なったら不便極まりないもんだな……」

「あら? 何の話か、聞いても良いかしら?」

「んー? だから、記憶喪失だよ。やっぱり記憶失くすのって不便だし、精神的にも良くないなーってはな、し、を……は?」

 

 ちょっと待って今の誰?

 旅のしおりから目を外し、身体を起こそうとしたら、上から人が────アイラが降ってきた。

 長い黒髪を靡かせて、勢いよく。

 ボフンッ! とそこそこの重みを感じさせる音と共に。

 俺に跨り、険しさを隠そうともしない、ブルーの瞳でガンガンに睨み付けてきながら。

 俺の頬へと、手を添える。

 

「今の話、詳しく聞かせてもらえるわよね? か・ん・ら?」

「…………聞かなかったことに出来ない?」

「嫌よ、言っておくけれど、聞かせてくれるまで離さないから」

 

 もし力ずくで退けようとするのなら、大声で叫ぶわよ、ときっちり脅迫までしてくるアイラだった。俺の尊厳に関わってきてしまうので、本当に勘弁してほしい。

 お前が叫んじゃったらこの絵面は、どう頑張って好意的に解釈しても、女子を男子寮に連れ込んで、襲おうとしてる男子の図になっちゃうんだよ。

 かなり言い逃れようがなかった。

 ふー……と小さく長いため息を吐きながら、幾つか言い訳を用意する。それから、全部無駄だな、とゴミ箱に投げ捨てた。

 そもそも俺、あんまり口上手くないし……。

 聞き間違いじゃない? と白を切るには、あまりにも遅すぎであった。

 

「あー……それじゃあ、言い方を変えよう。今は、聞かないでおいてくれないか?」

「……っ、ダメよ。ダメ、流されないわ。私は確かに都合の良い女で良いけれども、それだけじゃないのよ?」

「だよなぁ……」

 

 一瞬いけそうだったんだけどな、無理だったかー、とひとりごちる。

 特に期待はしていなかったが、失敗したとなれば、それはそれで残念だ。

 というか、こうなった以上はもう全部言うしかない。

 この場を丸く収められるほど、上手な嘘が吐けるほど器用じゃないし……。

 黙秘権を行使することで、ギスるのは勘弁願いたいところだった。

 やれやれ。

 割り切るとするか。

 

「言葉通りだよ、記憶が無い。飛んでる……全部って訳じゃ無いし、本当に一部分だけど。全然思い出せないことが増えてきた、それだけだ」

「それだけって……」

「何でアイラが泣きそうな顔してんの」

 

 言うほど大事では無いよ、と頭を撫でる。

 これでアイラの名前を忘れている、とかであれば話は変わってくるが、そういう訳ではない。

 全く問題ないとは、流石に口が裂けても言えないが、今すぐどうこうしないといけない、という話でも無いだろう。

 本当に、魔導を使用していることが原因なのかどうかも、確定じゃないんだしな。

 そうとは思いたくないが、単純に俺がド忘れしている可能性だって、まあ、無くも無い。

 

「だから、大丈夫。大切なことは全部覚えてるし、心配ないよ」

「そんなの……分からないじゃない。忘れるってことは、忘れたことさえ、分からないんでしょう?」

「そりゃそうだけど……」

 

 俺自身のことも、周りの人間のことも、七つの破滅のことも覚えてる。思い出そうとして、変な欠落がある感じもしない。

 それならまあ、大丈夫だろ。

 取り敢えず、これさえ覚えているのなら最低限、俺は使い物になる。

 ……近すぎるように思える距離感をどうにかするのなら、少しは忘れた方が良いんだろうけれど。

 それを願うのはあまりにも不義理だし、そもそもそれは、俺の方が寂しいので遠慮したかった。

 どういった意味であれ、良く絡んでくれる人のことはみんな好きだから。

 好きで忘れたいことなんて、早々は無い。

 

「ま、どうしようもないことってのは、往々にしてあるもんだろ。しばらくは必要経費と思って、割り切るよ」

「貴方のその、自分のことに対する妙な頓着の無さは、何なのかしら……見てるこっちが、やきもきするのだけれども」

「そんな人を、自己愛の無いやつみたいな言い方しなくても……」

 

 驚くかもしれないが、俺は基本的に、俺のことが好きだ。大体の場合において、自分のことを肯定してやれるくらいには。

 だからそんな、自分のことをどうでも良いとは思っていない。というか、そうじゃなかったら、死にたくないとか思わないだろ。

 訳の分からんイレギュラーばかり起こっているが、そもそも俺の行動の軸には、「死にたくない」があるくらいなのだ。

 

「違うでしょう? 自身の命が天秤に乗った時、貴方は『死にたくない』じゃなくて、『死にたくないけど……まあ、仕方ないか~』で済ませられる人間じゃない。そこが怖いし、不安だし……何よりイラつくわ」

「思ってたより色々出てきたな……」

 

 ストレートなくせに、ごちゃ混ぜな感情表現だった。

 何とか弁明したいところであったが、しかし、どうにも言葉が思い浮かばない。

 俺って意外とそういう風に見られていたんだな、と的外れなことを考えてしまうほどであった。

 なにせ"足枷"を嵌められたばかりでもある。

 

「でも私、甘楽君のそういうところも、好きよ。好きだけど嫌い、嫌いだけど好き。出来れば改めて欲しいところだけれど、狂おしいほど愛おしい部分だわ」

「すげぇ屈折した感情だ……」

「貴方がそうさせてるの、分かってる? ……なんて、言っても分からないでしょうね」

 

 でも、それで良いわ。と、アイラが嘆息しながら言った。何を言っても、無駄だろうから、と。

 少々ムッとしてしまうような言われようであるのだが、特に反論が無いのでどうしようもなかった。

 というか、正面から「好き」とか言われたら、普通に嬉しさの方が勝る。

 

「それに、そもそも貴方に、この辺の思考を身に着けることが、不可能であることくらい、私にも分かるもの────だから、考えたわ。私、甘楽君の後付け良心回路になろうって」

「……つまり?」

「私、甘楽君が死んだら後を追うことにするわ。それに、貴方が記憶を失う度に、泣きます」

「クソ重たい!? しかも大体間に合ってるし!」

「ちょっと待って!? 間に合ってるってどういうことかしら!?」

 

 絶叫と絶叫が重なり合って、「やべっ」と声を漏らした。

 三年生としての生活が始まってもう、一か月以上経つが、婚約関係についてはまだ誰にも話していなかった。

 月ヶ瀬先輩の言葉に甘えて、取り敢えず形式上、そういう関係性を維持してるだけの状態であるから、というのが一番の理由であるのだが、その他にも、無駄に人間関係をゴチャらせたくなかったからである。

 ただでさえ、刺されるとかいう不穏な《予知》をされているのだ。情報開示にも、慎重になるというものだろう────まあ、それも、今この瞬間無駄になったのだが……。

 クソでかいため息を一つ。それから、事情を端的に伝えれば、絶句したアイラが練成された。

 人って絶句する時こんな顔するんだな。

 滅茶苦茶真顔で超怖いんだけど。これ俺、今刺されたりしないよね? ね? 未玖ちゃん? 大丈夫だよね?

 

「……しょせん、私は二番目の女って訳ね。ふふっ、ええ、分かっていたわよ」

「うわっ、自己肯定感がまた地に落ちてる! げ、元気出しなよ……飴ちゃんとか舐める?」

「甘楽君は私を、小学生か何かだと思ってないかしら? そうね、今の私を元気にしたいなら、キスの一つでも用意して欲しいところだわ」

「…………」

「待ってちょうだい? 何故急に気まずそうな顔で目を逸らすのかしら? ねぇ、甘楽君? ちょっと、こっち見て? 私の瞳を見なさい?」

 

 ぎぎぎ……っ! と俺の顔を自分に向けさせようとするアイラだった。

 マジでやめて欲しい。反射で素直な反応をしてしまい、もう冷や汗でびしゃびしゃなのである。

 ちょっと追及するのは勘弁してほしかった。

 俺自身でさえ、忘れたいのに忘れられず、滅茶苦茶記憶に刻み込まれた瞬間であるのだ。

 思い出すだけで、何だか思考が鈍くなってしまう……とか思っていたら、ガッチリと目を合わせられた。

 

「……一人ね。月ヶ瀬先輩……かしら」

「!?」

「あちらから強引にした形ね……」

「!!?」

 

 見ただけで分かんの!? 相手からシチュエーションまで!?

 超すげぇ!

 魔法使いとか、魔術師よりよっぽどファンタジーじゃん!

 どういう五感してるんだよ……いや、あるいは世界観に合わせた、近未来チックな技術だったりするのか……!?

 

「……いえ、違うわね。正確に言えば、もう一人」

「……? ……!!」

 

 もしかして未玖の分までカウントしたのか? こいつ……。

 家族まで含めるなよ。流石にノーカンだろ。

 正確すぎてちょっと引く。

 判定が厳しすぎだった。

 

「まあ、相手が誰だとか、何人だとかは、正直そこまで気にはしないのだけれどもね」

「いや仮に、複数人相手がいたら俺、滅茶苦茶不義理なやつじゃない……?」

「互いが納得しているのなら、それで良いじゃない。周りの声なんて所詮ノイズに過ぎないわ……そう、だからね、甘楽君」

 

 薄っすらと微笑んだアイラが、耳元に口を近づけてきた。

 これまで保っていた距離を零にして。

 口づけするかのように、重なり合ってきたのだ。

 

「誰が本命かなんて、私、興味の欠片も無いの」

「ブレないな、お前は……」

 

 ブレなさすぎて、ちょっと心配になるレベルだった。

 普通はそここそを、一番気にするものなんじゃないの?

 生憎、まともに恋愛をしたことが無いから、何とも言えないが。

 

「だから、誰と付き合おうが、何人と結婚しようが、どうでも良いのだけれども────私を傍に置いてくれないのなら、話は別。何番目だとしても、砂粒くらいの小ささだとしても、本当の愛を与えてくれないのなら、私は私を、抑えられる自信が無いわ」

「……………………」

 

 かなり過激派な思考だった。

 何かちょっとは丸くなったかなぁ、とか思っていたのだが、全然そんなことは無かったらしい。というか、俺が知ってるより、更に変な方向に重くなっていた。

 え? 怖い……怖すぎるんだけど……。

 どうしてそっちの方向に進化してるんだ、愛人の席に固執するんじゃない。

 水一滴くれれば一日生きていけるわよ、みたいなことを平然と言うのもやめろ!

 こいつの未来が今から心配すぎだった。

 自己愛が足りてなさすぎである。俺を見習ってほしい。

 

「良いのよ、私は。甘楽君が愛してくれるのなら、それで十分だもの」

「俺が愛する前提の人生になってる! もうちょっとよく考えなよ、長いよ? 人生」

「問題ないわ。貴方に愛されない人生なんて、私いらないもの」

「他人に軽率に命をかけるのやめようよ……」

 

 覚悟の決まり方が、常人のそれじゃ無さすぎだった。

 はぁ、とため息を一つ。

 本当にこいつは、こういうやつだよな……。

 今更その感情を向けてる先を、間違ってるだなんて到底言えないけれども、こういうところがあるから、距離を作りたいと思ったのも事実だった。

 嫌とか嬉しいとかじゃなくて、アイラの場合、本気で後を追ってきそうなんだよ……。

 マジでやめて欲しい。

 あの世でバッタリ会うなんてことになったら、普通に俺が悲しかった。

 

「まあ、でも、分かったよ」

「何が分かったのか、140字以内で纏めてくれるかしら?」

「嫌な詰め方やめろよ……しかも140字って……」

 

 ツイートさせる気か? 得意技だから任せとけ。

 

「色々と、気を付けるよ。俺が大切にしてる俺ってよりかは、周りに大切にされてる俺を、大切にするように」

「ふぅん……分かればいいのよ」

「ただ、記憶については黙っててもらえるか? 実際のところ、話したところで解決しないし」

「ええ、それは勿論。元よりそのつもりよ────ふふ、二人だけの秘密って、燃えるわよね?」

「いや、この後アテナ先生には伝えるけどな」

「!!?」

 

 再び絶句し、「どうして!?」という顔をしたアイラを無視し、アテナ先生へとメッセージを送る。

 明日からは修学旅行だからな、今日中にさっさと話をつけておきたい。

 爆速で返ってきた返信を確認しながら、「悪いな」と俺は笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次の更新は早くて一週間後くらいです。
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