踏み台転生したらなんかバグってた   作:泥人形

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そろそろ書き溜めが怪しくなってきましたぁ!


ひろいんずアピール

 

 修学旅行先は日之和(ヒノワ)と呼ばれる、極東の島国であった。

 呪術が生まれた土地であり、呪霊の発祥地とされているところ。

 そして何をどう考えても日本をモチーフにしましたね、みたいな国である。

 いや、ね。分かるよ、極東の島国とかもうそのまんまって感じだし。

 何より街並みは如何にも和風といった雰囲気であるし、ちょっと視野を広げてみれば天守閣とか見えるもん。疑いようがないほどに日本である。

 しかし当然ながら、『蒼天に咲く徒花』には登場しなかった国である。その為ここでは何が盛んで、どういった人たちが住んでおり、どのようなイベントが発生するのかはさっぱりわからない。

 色んな意味で未知の土地である。

 ただ、《ヴァルキュリア呪術騎士学校》が存在する国であるという一点だけで、まあ何かしらのイベントが発生しちゃうんだろうな……という確信だけは得ていた。

 流石に俺の影響でポッと突然現れた国という訳でもあるまいし、俺の知り得ないイベントが起こる……あるいはこの修学旅行自体がイベントの一環である可能性は非常に高い。

 つーか絶対に何かしらのアクシデントが起こる。

 数多のイベントやイレギュラーに巻き込まれまくる二年間を過ごしてきた俺の本能は、冷静にそう理解していた。

 何ならワンチャン、第三の破滅とか来ちゃってもおかしくはない。

 魔王の察知能力も大して役に立つもんでもないからな。

 しかし、だからと言って四六時中警戒なんてしていたら身が持たないだろう。

 そう考えるのであれば、まあ、今くらいは遊びに全振りしても良いのかもしれないなと思った。

 

「……いや、流石にはっちゃけすぎじゃろ。ワンパク小僧か?」

「まあ年齢的にはギリ許されるんじゃないか? 今年で十五だし、俺」

 

 さっさと飛空戦艦から降り、パパッと今日泊まる旅館に荷物を置いてきた俺は、旅館の外でパーティのみんなを待っていた。と言っても、いつものメンバーではあるのだが。

 アルティス魔法魔術学園の修学旅行は何と初日から自由行動である。それってもう、何を修学するんだよって感じではあるのだが、まあゲームだしな……。

 特におかしいというほどのことでも無いし、学生の身からしてみたら文句の一つもない。むしろ気分としては最高に近いんじゃないんだろうか?

 集団でただ旅行に来ただけみたいなもんだからな。

 

「それにしても、大分時間かかってるな。荷物置くのにそんなにかかるもんか?」

「女子には準備に相応の時間が必要なんじゃよ」

「そういうものか……」

 

 そうと言われてしまえば、女子ではない俺には頷くことしかできない……いやっ、待て! 立華君は女の子判定しても良いのか?

 確かに最近は女性体でいることが多かったが……。

 身体が女性だからお前は女性! と決めつけるのは、今の時代的にちょっとリスキーな気がしないでもなかった。もちろん、その逆も然りであるが。

 ただでさえ魔法魔術界は精神性だったり、魂だったりの存在が重んじられがちなのだ。

 でもなぁ……立華君、女性体の方が気に入ってる説が濃厚なんだよなあ。

 まあ、彼(あるいは彼女)自身がその内決めるだろうし、それまではノータッチとしておこう。

 ぶっちゃけ、あまり踏み込みたくもないし……。

 変に俺の言動から影響を受けて欲しくなかった。触らぬ神に祟りなしってな。

 

「ヘタレじゃのう」

「喧しいな、これ以上責任とか負いたくないんだよ……」

 

 責任を負わせたり、責任を負ったりするというのは、それだけで深く重い関係性を作ってしまうものだ。

 そう考えるのであれば、やはりそういったものは出来るだけなくした方が良いだろう。

 周りの人の為にも、自分自身の為にも。

 

「あら、珍しく難しい顔をしているのね。待たせ過ぎてしまったかしら?」

「や、ちょっと考え事を──」

 

 してただけだよ、と紡ごうとした言葉はしかし、形にはならなかった。

 刺されたという訳ではないし、もちろん致命傷になるような攻撃を受けた訳でもない──いや、いいや。

 ある意味では致命傷級の攻撃を受けたと言うべきだろう。

 何故ならば──

 

「着物姿、だと……!?」

「ふふっ、どうかしら? 似合ってる?」

 

 黒地に花柄をあしらわれた着物に身を包んだアイラは、いつもと比べて幾らか大人っぽく見えた。

 元より長い黒髪と着物と言うのは相性が良いのだろう。普段から着てても違和感がないほどのピッタリ具合で、シンプルに見惚れてしまった。

 ザ・大和撫子と言わざるを得ない。

 雑に言えば美人のお姉さんって感じだ、ハッキリと言えばかなり好きである。

 それなりのシチュエーションで出会っていたら一目惚れしていたかもしれないな。危ないところだった。

 

「似合ってる、凄い綺麗だ」

「そ、そうやってストレートに褒められると照れるわね。ありがとう、甘楽」

 

 少しだけ頬を染めながらはにかむアイラ。すげぇな、こうやって見るとアイラが正統派清楚系美少女みたいだ。

 とてもではないが俺の愛人ポジに固執している異常者には見えない。

 

「甘楽は制服のままなのね、着物は好きじゃなかった?」

「いや、そもそもそういうサービスしてたことすら知らなかったからな……」

 

 知っていたら、いの一番に着替えさせてもらっていた自信があった。

 流石に今から向かうのは時間を食い過ぎるだろうし、残念だが今回は見送りだな。

 くっ、俺としたことが……!

 

「あは~、お待たせ~!」

「おっ、と」

 

 背後から近づいてくる音で察して振り向けば、日鞠が飛び込んできた。

 反射で受け止めて抱える。

 

「おぉ~、ナイスキャッチ、かんかん~!」

「日鞠は何着てても自由だな……」

 

 戦闘用の衣装という訳でもあるまいし、あんまり飛んだり跳ねたり走ったりしたら着崩れちゃうんじゃないの? という心配があった。

 もしそうなったら俺、直してやれないぞ……。

 ついでに言えば、アイラも立華君も無理そうである。ていうか、こっちの人じゃないと無理だろ。

 しかし日鞠はそんな俺の懸念を意にも介さず、纏った着物を見せつけてくるのだった。

 こちらはクリーム色がベースとなっており、金色の帯が締められている。

 何というか、全体的に派手だった。けれども嫌らしさはなく、日鞠独特のふわふわとした雰囲気とマッチして、良く纏まっている。

 どちらかと言えば、美女というよりは美少女と言うべきだろうか。

 元より彼女が持ち合わせていた少女性が強く押し出されているようで、端的に言えばすっげー可愛かった。

 

「むん……」

「ちょっと? 甘楽? 私の時とちょっと反応が違い過ぎないかしら? 顔に『安易に感想を言いたくない、語彙をちょっと練らせて欲しい』って書いてあるのだけれども?」

 

 私を前座みたいに扱うのはやめてくれないかしら! と叫ぶアイラだった。お陰でハッ、と正気に戻る。

 あ、あっぶねー……。

 感想考えてるうちにかなり見惚れちゃってたんだけど。

 あまりにも身近なので、ここ最近はほとんど意識もしなくなってしまったが、それでも日鞠はとんでもない美少女だ。

 珍しい装いも相まって、改めて『ヒロイン』であることを思い知らされる。

 無論、一度そういう目で見てしまえば、アイラでさえ直視しづらかった。

 

「まあ、何だ。可愛いよ」

「えへへ~、ありがと~」

 

 結局端的な一言に纏めることになってしまったのだが、色々感情が詰め込まれていることは伝わってくれたのだろう。

 何か二人して照れてしまったせいで、付き合いたてのカップルみたいな雰囲気が作り出されてしまった。何なんだよこれは。

 

「童貞処女カップルみたいな雰囲気を形成するのはやめてくれないかしら……」

「いや言い方、言い方が最悪過ぎるでしょう? もうちょっとこう、オブラートに包もうか」

「でも、間違ってはいないでしょう?」

「正しすぎることが問題なんだよなあ」

 

 何かちょっと深そうなセリフになってしまったが、全然深くなかった。ピチャピチャ水遊びできるくらいには浅い。

 まあでも、正論ってよく人を傷つけるし、逆説的に虚実というのは、人を癒してくれるものなのではなかろうか。

 そんなアホみたいなことを考えていれば、ちょんちょんと肩をつつかれる。

 

「待たせたな……に、似合うか?」

 

 振り返ればそこには女神がいた。

 見慣れていたはずの金の長髪は神々しさを増しており、不安げに揺れた蒼空色の瞳には、思わず引きずり込まれそうだった。

 そして何より、白をベースにし、青色で装飾された着物は彼女と完全にマッチしている。

 外見年齢が少々引き上げられながらも少女性は保っており、同時に神秘性が底上げされていた。

 端的に言って、崇拝してしまいかねないほどだった。現代の巫女か?

 

「クソッ、これ以上なく似合ってるよ! けど何で女性体なんだよ……!」

「ふふん、こっちの方が似合うかなって思ったんだ」

 

 かつてないほど正しい判断だった。やっぱり正しさこそが本当の美しさを見せてくれるんだなって。虚実とかその辺に捨てておけ。

 

「ここまで露骨に別格の反応されると嫉妬する気にもならないわね……」

「むぅぅ~っ」

「いや痛い痛い、結構勢い付けてから蹴るのはやめろ。大丈夫だ、日鞠も可愛いから」

「私は?」

「言ったろ、綺麗だって……いやなんかその、別に格付けとかしてる訳じゃないんだよ」

 

 三人とも美人で可愛い。それで良くないか? 

 今となってはもう、そういう関係の人間を作るつもりは一ミリたりともないが、それを加味した上で、うっかり惚れてしまいそうなくらいなのである。

 全員、絶世の美少女ですとお出しされてもおかしくはないことを自覚して欲しかった。

 何かもう、ここだけ周りからガッツリ距離を取られて数多の視線を受けちゃってるからね?

 もっと言えば俺だけ「お前邪魔だから消えろ」という意志をガンガンにぶつけられているまである。

 まあ、俺も逆の立場だったら、そう思っていただろうし、こればっかりは仕方ないな。

 ちょっとだけ耳を傾けてみるか。

 

「百合の花束に薔薇が一輪混ざってんじゃねぇぞ……!」

「つーか何だよあのオッドアイ、厨二病か?」

「バッカお前、あれ日之守さんだぞ」

「あっ、あの性癖爆発甘楽さん……!?」

「違う、異常性癖爆発英雄甘楽さんだ」

 

 ちょっと待てッ!

 嫉妬が一瞬で終了したのは良いが、代わりに俺の二つ名がとんでもないことになってるぞ!?

 滅茶苦茶漢字が多いし、良く吟味してみたらただの悪口じゃねぇか……!

 俺の性癖を悪く言うんじゃねぇ! と叫びそうになったが気合で堪えた。人には得手不得手があるからな。

 許容量の少ない愚かな人類にキレても意味はないだろう……と荒ぶる心を落ち着かせた。

 

「貴方って性癖の話になると途端に別人のようになるわよね……」

「気のせいだろ、いつだってこんな感じだよ、俺は」

 

 それより、そろそろ行こうかと声をかける。

 あまりここで時間を潰しても仕方がない、折角旅行に来たのだから、やはり名所を巡るのが醍醐味だろう。

 予定等は立てていたのだろうが、残念ながら俺の頭がすっかりとその辺を忘れ去っている。

 いつの間にかリーダーのようなポジションについているアイラに感謝の念を送りながら、付いていくように歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 で、その後。

 あちこち名所を回り、やっぱこれ日本だな……という感想を毎度引き出しながらも楽しみ、夕方も近くなってきた頃合い。

 人っ子一人いない道のど真ん中で、俺は呆然と一人で突っ立っていた。

 まあ、何か……アレだ。

 

「はぐれた上に迷ったな」

「お前様方向音痴すぎるじゃろ……」

「それは魔王もじゃん!」

「いやぁ、こんなはずじゃなかったんじゃがのう」

 

 てへぺろを決めた魔王は影にすっこんだ。いや、ね。そうなんだよ。

 アルティス魔法魔術学園で幾度も作り直され、その度に改造を施され、今ではワンオフとなった俺の杖は酷く優秀であり、かなり分かりやすく道を示してくれているのだが、何か迷っちゃうんだよな。

 ついでに言えば、「しっかたないのう、余に任せておけ」と自信満々に出てきた魔王も実は方向音痴であったことが発覚したため、かなり詰みの雰囲気が漂っている。

 本当にどこなんだよここは。誰かに聞こうにも、聞く人が見当たらないんだけど?

 気分の問題なのかは知らないが、妙に具合も悪いしよ……。

 あーあ、飛べれば一発なんだけどなあ。

 残念ながらこの国では禁止されている……というか、魔法使いや魔術師の権威がかなり弱い。

 完全に呪術騎士の国と言った感じだ。

 まあ、そうでもなくとも無暗な魔法魔術の使用は厳禁であるのだが。

 学園の保有している土地で過ごすことがほとんどだから、この辺の意識が抜け落ち気味だ。

 

「とはいえ、どうしたもんかなあ。手を叩いたら忍者とか現れて、道案内してくんないかな。日本だし」

「やってみたらどうじゃ?」

「ふむ……」

 

 パンパンッ、と手を打ち鳴らす。

 シュバッ! と一つの影が傍らに現れた。

 

「うっ、うわああぁぁぁぁあーーーー!?」

「ッ()ぇな、お前が呼んだんだろうが」

「いやまさか本当に出てくるとか思わないだろ……ていうか、ミラ? 何でここに?」

 

 そんな俺の質問にミラは呆れたような、げんなりしたような顔を見せ、やれやれと言わんばかりに肩を竦めた。

 

「オレの役目は、日之守(ヒノ)クンの監視・護衛だって言ったろ。今回も朝から同行してたぜ」

「嘘だろ……全然気付かなかった」

「ハッ、隠密は得意分野なんでな。まあ、日之守(ヒノ)クン相手だと、本気で隠密んなきゃならなかったから、つい迷い都に入るのを止められなかったんだが」

「迷い都?」

 

 かなり不穏な名前の街だった。ゲームだったらダンジョン扱いされてるタイプの名前だろこれ。

 

「別名:呪術騎士の街だ。ここらに住んでるやつらは全員呪術騎士でな、濃い呪力がここら一帯を包んでるんだよ。呪力に耐性の無い人間が入ったら方向感覚が壊れ(バグっ)て出れなくなる呪いの街だな」

「超怖ぇー! マジで入る前に止めろよ!?」

「いや、入るにも作法(パス)が必要だからよ。普通は入れねぇんだ、日之守(ヒノ)クンがおかしいって訳だな」

「何もしてないのに変なやつ扱いされる要素だけ増えていくの何なんだよ……」

 

 今回に限ってはただただ歩いてただけなんだが……。それでも厄介事に巻き込まれるのはもう、才能飛び越して呪いの領域だろ。

 俺は悪くない。悪くない、よね?

 こんなこと考えた時は、大体自業自得の面が大きいのでつい不安になる俺であった。

 

「ま、今回ばかりは日之守(ヒノ)クンのせいじゃねぇっぽいけどな」

「と言うと?」

「迷い都に呪術騎士以外が迷い込むことはまず有り得ねぇ……つまり、招待された可能性が高いって訳だ──ま、安心しろよ。オレが守るからさ」

「……自衛くらいは出来るっての。過保護か」

 

 軽いやり取りをしながら臨戦態勢へと入る、空気が少しヒリついたような気がした。あるいは、自分がそうさせているのかもしれないが。

 杖を片手に、思考をフルで回転させ──

 

「ッ!」

 

 上空から飛来した砲撃にピッタリ合わせて砲撃魔法を撃ち放った。中空で拮抗し、互いに霧散する。

 そして、それを切り払うように落ちてくる、一つの閃光。

 あ、やばい。これ無理だ──魔法だけじゃ対処しきれない。

 一目でわかる、アレは()()()()()()()()()

 

「悪い、魔王。使う」

「気にするでない、ほれ、早う使わんか。詠唱はもうこっちでしておるぞ」

「展開────"第弐装甲魔導:夢纏"」

 

 瞬間、蒼の衣は俺とミラを隠し。

 赤と黒に彩られた合計五つの砲撃が降り注いできた。

 それを受け止め、払う。

 

「あぁ!? めっちゃ重っ」

「ちょっ、日之守(ヒノ)クン待て──」

「待ってる暇とかない!」

 

 とにかく一撃入れる。

 ミラの腰を掴んで引き寄せ、鋭く下がりながら夢纏を一点に集中した。

 これで倒せるなら御の字だ。倒せなくとも、時間が稼げればその間に退散できる。

 同時、謎の襲撃者と目が合った。

 灰色の髪の男だった。俺よりは年上だろう、少しだけ大人びた様子で。

 けれども瞳は鋭く細められている。

 その手にあるのは一丁のライフルだった。その周りには四つのビットが浮遊していて、同じように砲撃準備へと入っている。

 

「えぇ、何それカッコイイ……」

「ハハッ、そうだろ? 俺もそう思う。良い趣味してるな」

 

 直後、互いの砲撃は撃ち放たれた。

 ちょうどど真ん中でぶつかり合ったそれらは、先程と同じく互いを霧散させて終わる──そう、それは分かっていた。

 それは恐らく、あっちの男も。

 そうでもなければ、この瞬間に至近距離で目は合っていない。

 穿つように飛び出てきた右手を紙一重で躱し、その額に指を当てた。

 

「──ッ」

「遅い」

 

 夢纏は使い切りの魔導ではない。俺の身体への負担を考えなければ、永久的に発動し続けていられる魔導である。

 放出した魔力が大きければ大きいほど、補充した際の負担は大きいが、一撃程度の補充であればすぐだ。

 詠唱無しで発動した砲撃魔導が、灰髪の男を射抜──けない。

 

「っぶねぇ~。良いねぇ、盛り上がってきた」

「どっから出てきたんだよ、それ……」

 

 砲撃魔導を耐えきった巨大な盾を構えた男が、ニヤリと笑って銃声を撃ち鳴らす。それを回避するルートを潰すように、ビットは起動していた。

 だから壊す。放たれた砲撃を迎え撃ちながら、そのまま掴んで爆発させる。

 一基、二基、三基、四基。ついでにライフルの半分を消し飛ばしてみせた。

 

「おいおい、好い気になるなよな。呪術騎士の本領は、接近戦だぜ?」

「だから、近づかせないんだっての」

 

 大盾を片手に、灰髪の男が笑う。

 つられるように、笑みが浮かんだ。

 これは長期戦になるだろう。

 護衛なのだから、ミラにも手伝って欲しい──という気持ちと、この男とは二人で戦いたいという気持ちが、内心でぶつかり合った。

 

「そこまでだ!」

 

 直後、そんな心境をぶっ壊すように、ミラがどこからか出現させた斧を道に振り落とした。

 ズガァン! とけたたましい轟音と共に、俺達の間を破壊する。

 

先輩(アニキ)、何やってんだ。アンタ……」

「おいおいミラ、男同士の対決だぞ? 水を差すなよ」

「オレの護衛対象だってのも理解(わか)ってんだろ、これ以上やるんなら、オレだって動くぜ」

 

 ミラの言葉に「はぁ~、やれやれ」と嘆息しながら男は銃を収めた。ついでにドローンみたいなのも収納する。

 え? 何? 何なの? 兄貴って何? ミラのお兄ちゃんなの?

 意味不明過ぎて疑問符を撒き散らかしていれば、灰色の男がツカツカと歩み寄ってきた。

 

「俺はリオン・ディ・ライズ。ミラの先輩だ。悪いな、破滅を二つ倒したっていう坊主の力を見てみたかったんだ」

「やり方が強引過ぎるだろ……」

「こうでもしなくっちゃ機会なんて作れないだろう? それに、楽しいと感じたんじゃないか? 君も」

「むっ」

 

 差し出された手を握り返しながら、図星を突かれる。

 あまり認めたくない事実だったので黙って睨めば、ライズさんは快活に笑った。

 

「そう睨むな、俺だってそう思ったんだからお互い様だ──それに、そう思うのも当然だと思うぜ?」

「当然?」

「ああ、何せ俺は()()()()()()()()()()()だからな。ヴァルキュリア呪術騎士学校最強とは俺のことだ」

 

 なんて、クソデカ情報を滅茶苦茶圧縮しましたみたいな一言をライズさんが言うものだから、一瞬脳がエラーを吐き出して停止する。

 そして、少しの時間をかけて、ようやく再起動した頭は一つの答えを導き出した。

 

「……つまり、幼馴染の彼女を先輩に寝取られた人!?」

「……№2だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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