踏み台転生したらなんかバグってた   作:泥人形

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はめつクレーム

 
ご神託チャット▼


名無しの神様 修学旅行イベが始まったと思ったら推定2の舞台に行くし、当然みたいに破滅戦始まってワロタ

名無しの神様 そもそも修学旅行イベすら未知のイベントなんだよなあ……

名無しの神様 イベントっつーか、本来はプチ要素なんだけどな

名無しの神様 極々稀に「修学旅行に行ってきたよ! ステータスがちょこっとアップ!」みたいなのが出てくんだよ

名無しの神様 普通にレベル5くらい上がるからRTAでは必須だぞ

名無しの神様 はぇ~、そうなんか

名無しの神様 まあ百回やったら一回出るくらいの確率だからな。知らん方が普通や

名無しの神様 転生させるとこの辺確定で見れるのは有難いな

名無しの神様 まあそれも明らかにぶっ壊れているのですが……

名無しの神様 日乃和って何ですか……

名無しの神様 呪術騎士また増えちゃったよ

名無しの神様 明らかに2と絡み始めちゃってんだよなあ

名無しの神様 第三の破滅が行間で処理されてるの面白すぎ

名無しの神様 しかもこれから第四の破滅戦だし

名無しの神様 灰髪の男は暫定2の主人公だし

名無しの神様 ボケナスもヒロイン'sも、ついでにワイらも日之守の説明で絶句したもんな

名無しの神様 バグカス「もしミスったら確定で死ぬから、そうなったらあとよろしく(へらへら)」

名無しの神様 その場にいた全員「……………………?」

名無しの神様 ついでのワイら「何やこいつの精神性、気持ち悪っ……」

名無しの神様 これ一度転生してるから死への重みが薄まっちゃってるんじゃ……

名無しの神様 いや普通一回死を経験してたら、より怖くなるだろ死ぬの

名無しの神様 大体の転生者はそうだよな

名無しの神様 ──しかし例外がここにある

名無しの神様 本当にあるのやめろ

名無しの神様 あー、与太話してたらもう始まるやん、第四の破滅戦

【はてさて】蒼天に咲く徒花 バグキャラ日之守甘楽 攻略RTA【攻略できるかな】

 

 

 

 

 やってきてしまった修学旅行最終日。

 朝から自由行動ではあるのだが、キャイキャイと楽し気な他の生徒とは対照的に、普通にテンションが低い俺だった。

 ちっ、もうちょい遊びたかったな──なんて文句を今更言える訳も無いので、大人しく指定の場所へと集合する。

 そこには既に多くの……多分、呪術騎士が揃っており、先頭にはラウレストおじいちゃん先生とリオン、それからミラがいた。

 アルティス魔法魔術学園からの増援は無いらしい。まあ、遠いしな。

 ワンチャン、アテナ先生はいるかと思ったが……いないのならば仕方ない。

 多少の違和感はあるが、呑み込める程度のものだ。

 

「ごめんなさい、遅くなりましたか?」

「いや、早いくらいじゃよ……うむ、ちゃんと他のメンバーも来てくれたようじゃの」

「大分苦労しましたけどね」

 

 意図せず、疲れ切った声を出してしまう──というのも、立華くんとアイラは、この作戦に反対だったからだ。

 アレだけ言ったのに、全然自分のことを大切にしていない! とガチな説教を懇々とされてしまった。

 普通に申し訳なくはあるのだが、何とか今回ばかりは仕方ない、ということで矛を収めてもらった次第である。

 唯一そうではなかった日鞠も、俺が決めたことなら今更反対しても意味はない、というスタンスに過ぎなかった上に、今は自分のことで手いっぱいといった様子だった。

 旅行中もずっと、自身の実力と向き合っていたらしい。

 ストイックだな……と思うのは、少し違うか。

 足りないことが分かっていて、それを放置できるような少女ではない。

 自身を高めるといった行為は日鞠にとって、呼吸するのと同じようなことなのだと思う。

 いつかとんでもない実を結びそうで、ちょっとだけ怖かった。

 

「それで、()()が第四の破滅の器ですか……えぇっと、九尾の狐でしたっけ?」

「正確には九尾の狐の半死体、だな」

 

 もっと詳しく言えば、九割五分くらいは死んでいるんだが。と答えてくれたリオンが軽く笑う。

 

「昔々の大昔に、この国で暴れた超級の大呪霊。その成れの果てさ。俺達のご先祖様が叩きのめして、石に変えることで封じ込めた」

「何で殺さなかったんだ? そうできなかった訳じゃないだろう?」

「いいや、そうできなかったのさ。あまりにも高い生命力を誇っていたこいつを、俺達のご先祖殿は殺すことが出来なかったから、石に変えて少しずつ殺すことにしたんだ」

「それで、今になってやっと殺せる段階まで来たってことか……」

 

 なるほど、と頷いた。

 確かにそれほどの存在であれば、破滅の受け皿にはなれるだろう。ついでに言えば、倒しやすさもグッと上がる。

 第一の破滅が不完全な魔王に憑依したせいで、充分な実力を発揮できなかったように、これに取り憑いてしまえば、第四の破滅と言えど、万全とは程遠い力しか振るえないのは間違いない。

 耐久力も相当低いはずだ。下手な魔法でも通りそうなもんである。

 

「器は一級品、戦力も十分。それじゃあ後は俺次第か……」

 

 普通に嫌だな……と思った。プレッシャーがデカすぎるんだよ。

 ミスったら俺は倒れるし、第四の破滅は出てこないし、空気も何もかも最悪になることは間違いない。

 

「ひっ、日之守っ」

 

 まあでも、やるっきゃないよなぁと意識を切り替えていれば、立華くんに手を掴まれた。

 スカイブルーの瞳が、不安げに揺れている。

 

「……何で俺より、立華くんが緊張してんの」

「しない訳ないだろう!? 絶対、絶対成功させるんだぞ!?」

「分かってるって、大丈夫。何度も言うようだけど、俺だって、出来れば生きたいって思ってるんだから」

 

 きっと成功させるよ、戦闘では頼りにしてる。そんなことを、頭をポンポンと叩きながら言う。

 小さく頷いた立華くんに、俺も小さく頷いてから、九尾の狐へと歩み寄った。

 

「ハハッ、モテるじゃないか、甘楽」

「う、うざっ……そういうんじゃないっての」

 

 リオンの軽口に淡泊な返答をしながら、石と化した九尾の狐を見上げた。

 全長はどれほどあるのだろうか。正直ちょっと見当がつかないくらいにデカい。

 それでも近くに寄って観察すれば、小さく静かに脈動していることが分かった。

 なるほど、確かにこれは五分ほど生きている。

 あるいは、九割五分死んでいる。

 

「これでも生きてるってのが凄いな……」

「最後にして最大の大呪霊って話だからな。軽く数千年以上はこうらしいぜ?」

「凄いな……それじゃまるで魔王だ」

 

 というか、文字通り呪霊からしたところの、魔王的存在であるのだろうが。

 最盛期はそれはそれは恐ろしい存在だったのだろう──死にかけの今でさえ、プレッシャーは一級品だ。

 昔の人は、良くこんなもんを封印できたな……。

 

「えーっと、すまん。俺はどうすれば良い?」

「九尾の狐の鼻面に、憑依させてる方の手で触れてくれ。後は俺の方でやる」

 

 了解ッ、と威勢良く言ったリオンが、そっと九尾の狐へと手を触れた。

 その掌の上に、俺の手を重ねる。

 

「準備は良いか?」

「ああ、いつでも。頼んだぜ、甘楽」

 

 相変わらず緊張の一つも感じさせないリオンの一言に、合わせるようにして息を抜く。

 ほどほどにリラックスをしてから、目を閉じた。

 意識を集中させると同時に、言葉に乗せて切り離す。

 

「──久遠より、彼方へ声を」

 

 

 

 

 

 

 ──声が聞こえた。

 

 それは絶望だった。あるいは希望だった。

 それは肯定だった。あるいは否定だった。

 それは悲壮だった。あるいは楽観だった。

 それは正義だった。あるいは不義だった。

 過去から未来に渡り、無数に広がるあらゆる世界を見つめ、繰り返されるそれらに、ついにどこかの誰かは諦めの吐息を吐いた。

 いっそ無くなってしまった方が良いと。

 こうなってしまったのならば、ゼロからやり直した方が良いと。

 諦観から生まれた、次なる希望を見つめる声とも言えた。

 

「君たちは間違えた。いいや、君自身が間違いなんだ」

 

 気付けば多くの声は止み、俺はただ一人、光の一つもない真っ黒な空間に放り出されていた。

 何も見えない──いや、正確に言えば、一つだけ見える。

 暗闇しかない空間の真っ只中で、一つだけしっかりとした輪郭を持つ誰かが、静かに声を紡いでいる。

 

「間違いは伝播する。伝播した間違いは、やがて世界を覆い、破壊する。それが、分からないという訳ではないだろう?」

 

 声は力を増し、その輪郭は徐々にハッキリと描かれていき、やがて人の形を象った。けれどもそれは、本来の形という訳ではないようだった。

 ただ、対話するのにちょうど良い形だった。あるいは、対話ではなく、主張かもしれないが。

 とにかく()()────第四の破滅は、此処まで来た俺に、言葉を投げかけてくる。

 

「僕たちは、この世界の仕組みそのものだ。僕たちがいるからこそ世界は成り立つし、世界が在るからこそ、僕たちは成り立つ。であれば、そう。僕らは絶対的な正義であるとも、言えるのに。どうして君たちは、君は抗うんだ」

「……昔から、正義は自称した時点で正義じゃなくなるって、相場が決まってるだろ。つまりは、そういうことなんじゃないの」

「戯言だな。言葉遊びをしたいんじゃないんだよ、僕は。僕たちは」

 

 文字通り、のっぺらぼうである第四の破滅は、小さく溜息を吐く。

 相互理解は不可能であることを悟ったように。

 もしくはそうであることを、再認識したように。

 力を交わし、言葉を交わしても、なお理解には程遠い。

 決して相容れない存在であることを、言葉以上に肌で感じ取っていた。

 

「君の存在は、世界そのものに傷をつける。ただ生きているだけで、星に消えない痕を残せてしまう、厄介なバグだ」

「随分失礼な物言いだな……ていうか、別に俺だって、望んでこうしてる訳じゃないし……」

 

 気付けば日之守甘楽(こう)だった。今更それに文句をつける気はないが、こうも真っ向からボコボコに罵倒されれば、幾ら俺でも傷つくというものである。

 というか、普通に俺のアンチなんだよな……。

 人気者にアンチは付き物とは言うが、それならもっと俺にもファンが付いていて然るべきだろ。

 このままじゃアンチしかいない配信者みたいな図になってしまう。泣くぞ、俺が。

 

「けれども、今の君があるのは、君だからこそ──バグだからこそだ。許されない、許されてはいけない間違いだからこそ、君はここまで辿り着けている」

「いや、俺を悪し様に言い過ぎだろ……傷ついちゃうからね? だいたい、そんな存在から否定されても、困る。俺が何したってんだよ……」

 

 能動的に何かした記憶があんまりないんだけど……。大体の場合において、起こった事件の対処に回ってばかりなイメージがある。

 仮に第一、第二の破滅を倒したことについて言われているのであれば、それこそお門違いというものだ。

 そっちが襲って来た、だから叩きのめした。

 シンプルかつ正当性のある理論だ。ひっくり返されることはない。

 

()()()()()()()、それだけさ。間違いそのものがイコールで君なのだから、当然いるだけで訂正されるべきだ。そうだろう?」

「それで納得できるほど、俺は自分に関心がない訳じゃないんだけど……とんでも理論でごり押すのはやめろ」

「世界と自身を天秤にかけて、迷わず自分を取れるのか。天晴れだな、ここまで来れば」

「そっちの言い分が自分勝手すぎるだけだろ。上から目線でマウント取ってくるのはやめろよ」

 

 ハッキリと言って、対話のようで対話になっていなかった。

 とにかく俺を否定したい第四の破滅くんと、気合で肯定する俺って感じである。

 どのような言葉であっても、その一片も伝わる気がしない。

 互いの言葉や意志というものが一方通行で、ただ通り過ぎているだけだった。

 このままでは、ただ俺のメンタルが削られるだけで終わってしまう気がしたので、問答無用で肩を掴んだ。

 この世界は、ザックリと言ってしまえば精神世界──のような場所である。

 この辺はどう定義するかによって、コロコロと変動しそうなものであるのだが、とにかく気持ちを強く保っていなければならない世界だと思えば、間違いはない。

 気持ちで負けた時点で、召喚は失敗して、俺は実質的な死を迎える。

 そして、口喧嘩になったら勝てる気がしなかった。だから、さっさと力ずくで引きずり出す。

 つまり──

 

「ごちゃごちゃめんどくさいな……良いからもう、殴り合いに移行しろよ……!」

「急に理性をかなぐり捨てたな、特異点。しかし、ああ、そうだ、そういう在り方の方が()()()て僕たちとしても、気が楽だよ」

「今更になって哀れみの類を向けようとしてたことを開示するのはやめない? 遅すぎるんだけど……」

 

 後悔してももう遅い系の、長文ラノベタイトルみたいなことを口走ってしまった。てか、やっぱり第四の破滅(こいつ)、感情あるよな?

 第一の破滅みたいなのがデフォルトで、第二の破滅みたいに、情緒豊かなのがイレギュラーなのかと思っていたのだが、どうにも違うらしい──いや、いいや。そうじゃないのか。

 第二の破滅が感情を取得したから、それがそのまま他の破滅にも適用されたと考えた方が、辻褄が合いそうだ。

 まあ、初めに聞いた声も踏まえてみれば、取得したのではなく、思い出したの方が近いのかもしれないが。

 その辺りは考察しても仕方がない。今はただ、こいつを召喚する為に、全力を尽くすべき時だ。

 

「……傲慢だな。僕たちから僕を切り離し、なおかつ持っていけると、本当に思っているのか?」

「思ってなきゃ来ないし、その可能性がないなら、お前がこうやって姿を現すことはなかっただろ」

「僕の、僕らの中身というものを、まるで理解していないな。しかし、ああ、そうだ。望むのであれば、見ていくと良い。その先に理解があることを、願っているよ」

 

 言いながら第四の破滅が、俺の手を外して握る。

 冷たくも、温かくも無かった。そこには一切の熱はなく、ただ”何も無い”と握手させられているようだった。

 そしてその困惑が、次々と塗りつぶされていく。

 苛烈なまでの精神の引っ張り合いが起こっている──訳ではない。その段階は、握手した瞬間に通りすぎた。

 第四の破滅は、やれるものならやってみろと言わんばかりに、全てを俺に委ねた。

 だから、第四の破滅は今や俺の全身に……全魂に、そのまま寄り掛かっている状態だ。

 必然、その中身、その精神性、全てが詳らかに共有される。

 声はなく、音はなく、言葉はなく、文はなく、文字はない。

 あらゆる表現を飛び越えたその先で、ただ、間違いがあった────俺があった。

 それが過去か、現在か、あるいは未来なのかは分からないが。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 誰かが傷ついているだとか、苦しんでいるだとか、死んでいるだとか、そういうことではなく。

 ただ、そこには終わりがあって。

 それこそが、俺自身だった。

 

「なるほど、全然分からん」

 

 いやもう、本当に分からなかったので、そう言うしかなかった。

 言葉にすると全部比喩表現みたいになっちゃうんだけど。

 何だよ、俺自身が終わりって。

 最後の月牙天衝か何かか?

 そうだとしたら、ちょっとカッコイイなと思ってしまった俺がいた。

 

「え!? 全然違う! 君のせいで星が、世界が終わると言っているんだ! 僕は!」

「知らねーよ。てか俺、あんなことしないし。したくもないし……」

 

 そもそも世界をリセットしようとしているのは破滅側であり、俺はそれを食い止める側だ。

 立場が逆転しているし、俺にそうするだけの理由がない。

 とんでも幻覚見せるのはやめろよ……普通に落ち込むだろ。

 

「だっ、だから、何度も言っているだろう!? 君の存在そのものが許されないんだ! それはつまり、君の意志は関係ないってことだ。故にバグであり、特異点なんだよ、君は……! あぁもうっ、全然分かってない顔するんじゃない……! くそっ……!」

 

 それが、第四の破滅の最後の言葉だった。

 元より引っ張り合いではなく、背負っていたような形である。

 精神の共有を行われてなお、正気を保てた時点で俺の勝ち……なんだと思う。

 魂が自身の身体へと戻る感覚に、第四の破滅が付随して来るのを感じる。

 此処に来た時とは真逆で、真っ白に染まった光に、視界は完全に覆われた。

 

 

 

 

 

 




体調完全に終わったのでちょっと感想返信後回しにします、申し訳ない……。

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