──そう言えば、緑谷も雄英志望だったな──
──ハハハハ!おいおい、雄英は成績良いだけじゃ入れねぇっての!──
「・・・クソ」
とあるビルの屋上。ガラス玉のように見開いた眼からボロボロと涙を流し、項垂れる1人の少年が居る。その脳裏には、クラスメイトからの嘲り嗤う《悪意》が駆け巡っていた。
──無個性のテメェが、俺と同じ土俵に立とうだァ!?──
「クソ、クソッ、クソッ!クソッ!!あいつら、何もかも・・・あぁッ!」
幼馴染みに叩き込まれた《恐怖》。
継いで、周囲の嘲笑への《憤怒》。
其処に自分の志望先を態とらしく公表し、公開処刑としか言い表しようの無い状況を作り出した担任教師への《憎悪》が湧き上がる。
──無個性でヒーローが務まるとは・・・とてもじゃないが、言うことは出来ない。夢見るも良いが、相応の現実を見ないとな──
「・・・あぁ、でもそうだよなぁ・・・結局、そうだもんなぁ・・・」
しかし、その腹の底から吹き零れる激情すらも、今し方憧れの人から告げられた言葉が生んだ《絶望》が冷たく、静かに塗り潰す。
「無個性でも、ヒーローになりたいならさぁ・・・やりようは、あったよなぁ・・・身体、鍛えたり・・・道場とか、通ったり・・・
でも結局、何もしなかったんだもんなぁ、僕は・・・」
急速に色を失っていく視界の中で、少年の脳内に過去の声が響く。
──そんなにヒーローになりてぇならよォ、良い方法があるぜ!──
「あ・・・そうだ」
──来世を信じて・・・──
「
気付けば、少年の脚は屋上の柵を跨いでいた。
眼下には、チラリチラリと人通りが見える。上から見下ろせば、砂利道を行き交うアリの動きと大差無いように思えて来るようだ。
そうか、自分も所詮、ちっぽけなアリなんだと。そう思えば、不思議と死への恐怖は感じなかった。
「せぇ、のっ────」
その日、1人の少年が命を捨てた。その頭蓋と脳漿が発した湿った断末魔は、同時に世界を滅ぼす悪魔の産声でもあった。
『悪意に満ちた、人類は・・・
・・・滅ぼす」
『人類滅亡、完了』
電柱、街灯、ビル、電波塔、舗装道路・・・悉くが破壊された文明の骸を、夕陽が真っ赤に照らす。その積み重ねられた人類の叡智の残骸を踏み締め、1人の・・・否、1つの影が立っていた。
スクラップを継ぎ接いで造ったような黒い装甲に、左頭頂部に生えたアシンメトリーなアンテナ。何よりも目を引くのは、血走ったように赤く染まった、歯車のようにも見える左眼。
この存在こそ、この文明社会が屍と化した元凶たる破滅の悪魔。その名を、《アークゼロ》と言う。
『最後の悪意、《絶滅》、《滅亡》、共にラーニング完了。
人類滅亡の所要時間、70時間52分19秒・・・約3日か。予測通りの結論だ。
・・・しかし、遂にアンロックならずか。プログラムは完成している筈なのだが・・・』
機械的な抑揚ながら疑問を呟く彼の右手には、掌サイズのメモリーカードのようなユニットが収まっている。それは白い顔のようなものが造形されており、その左眼に当たる部分はアークゼロ同様、真っ赤な円いレンズ状になっている。
『さて、どうするか・・・どう、する?』
ふと、考える。最大の目標を容易く果たして、この後、自分はどうするか、と。
『そう言えば・・・人類滅亡以外の明確な未来のヴィジョンなど、無かったな・・・』
目的意識を失ってしまい、茫然とするアークゼロ。酷くシュールな絵面ではあるが、本人は大真面目である。
『フム・・・結論を急いでしまったが、そもそも宿主が極度のストレスによって自殺したと言うだけで、人類滅亡を決意したのは時期尚早だったかも知れないな』
今更になって、自分の単略さを人間臭く後悔するアーク。しかし、覆水盆に返らず。後の祭りである。
『過去を覆す手段など、存在しない・・・いや、待てよ?』
しかし、アークの頭脳に1つ引っ掛かる。その引っ掛かりを分析し、目的のデータを引き出した。
『これならば、或いは・・・』
新しい可能性を見出し、仮面の下の表情を僅かに明るくするアーク。
しかし、その瞬間にけたたましいアラートが鳴った。
『これは・・・肉体に、負荷を掛け過ぎたか・・・』
よくよく考えれば、ほぼ丸3日休み無く世界を駆け巡り、破壊活動の限りを尽くしてきたのだ。生身の肉体を依り代としているアークにとって、無視出来る負担では無かった。
『肉体を、休ませるべきか・・・エネルギーは、空気中の成分から合成するとしよう』
掌を前方に向け、ビームエクイッパーからモデリングビームを照射。最低限の屋根とスプリングクッションを、ものの5秒で造り出す。
『これで良いだろう』
そう呟くと同時に、アークゼロの黒い装甲は液状化するように分解され、
折寺中学の制服を着た、10代前半の少年。しかしその上着は乾いた血で赤黒く汚れており、髪は白と黒に所々緑が混じっている。そしてその眼はアークゼロのように赤く染まり、電子回路のような模様が浮かび上がっていた。
「くっ・・・」
変身解除した途端に、アークの身体は膝から崩れ落ちる。そのままスプリングクッションにボフッと倒れ込み、深い眠りに入った。
(まさか、此処まで疲労が溜まっていたとは・・・)
尤も、アークは思考の土台を人間としての脳からドライバー内部の電算頭脳に切り替えた事で、思考を継続するつもりのようだが。
───
──
─
「よし、これで問題無いだろう」
数日後。アークは脳内で予測に予測を重ね、それを元に数兆通りのシミュレーションを重ねた上で、結論を導き出した。
「さぁ、新たな過去を創り出そう」
【アークドライバー!】
「変身」
【ARK RIZE!】
腹部に現れたドライバーの
【ALL ZERO!】
再び現れた赤目の黒い悪魔、アークゼロ。手を握ったり開いたりを繰り返し、各部のデータも確認。活動に支障は無いだろう。
『構築を開始する』
変身が完了するや否や、額のアークシグナルゼロからホログラフィックレーザーを照射。空中に立体設計図を投影し、それに合わせて両手のビームエクイッパーからモデリングビームを放つ。
ビーム同士がぶつかった場所で瞬時に物質化され、同時にそれを斥力操作で掌握。パーツは空中で固定され、その場で結合を待つ。
順調にパーツの生成が終わり、それらを次々と組み合わせて大きな機械を構成していく。そして10分も経たぬ間に、目的の装置は出来上がった。
『フム・・・完璧だな』
それは、小振りなプレハブ小屋のような装置。その名は
アークは前面に付いた金庫のそれのように堅牢な両開きの扉を、重い音を起てながら容易く開く。
内部にはスポーツカーに搭載されるそれと似たような形状の椅子と、両肩に当たる位置にあるコネクター。そして頭部の辺りにある、大小様々な複数のコードと中継ジョイントが複雑に束ねられたスクランブルケーブルがある。その周囲には太いパイプが張り巡らされており、さながら試作型スーパーロボットの操縦席のような雰囲気である。或いは、スチームパンクの動力室だろうか。
『しかし、使えて1発が限度。成功率は・・・予測不能。前例が無い故に当然か。
だが、今や目的も無い。一度限りの大博打も、それはそれで乙なものだ』
何処か自棄クソ染みた事を言いながら、アークは装置の中に入り椅子に座る。両肩の動力パイプがコネクターと、スクランブルケーブルが頭部と接続し、全システムを掌握した。
『超光加速送信装置、起動』
電子頭脳からのダイレクトコマンドにより、その装置・・・超光加速送信装置は起動する。そして両肩から繋がる加速パイプの先端に、真っ黒な靄を発生させた。
『ワープゲート《ブラックミスト》による空間接続・・・成功。単一無限循環加速路機構《ウロボロス》形成完了。
続いて、虚数空間の展開によるエントロピー・リデューサー、更に電子操作による熱量制御を起動。動力パイプをマイナス180度まで冷却。同時に内部を減圧』
パイプの入り口と出口をワープゲートでループさせ、更にその内側から気圧と熱を奪いエネルギーロスを極限まで低下させる。これにより、準備は整った。
『これで、私の過去は蘇る』
【
アークローダーを押し込み、ドライバー内の
『ぬぅ・・・現在、出力は150ペタワット・・・まだ足りぬか・・・致し方無い。
電磁コンデンサを緊急増設。及びエントロピー・リデューサーの出力領域拡張。追加分を含め、伝導用スクランブルケーブル全体を極冷却し超伝導化・・・くっ、流石に処理が圧迫され始めたか。量子コンピュータ《極》も増設、追加接続し演算補助に充てる。
クーロンバリアを反転、力場のホールドによりエネルギーの拡散消耗を防止し、加速を続行・・・動力パイプ破損!?クッ、モデリングビームにより応急処置を実行。
もう少しだ・・・エネルギーを追加する』
【ALL!EXTINCTION!】
ビシビシと悲鳴を上げる動力パイプを、ビームエクイッパーからモデリングビームを照射する事で補強。更にアークライズリアクターの出力を上げ、そのエネルギー量は300ペタワットを超えた。
そして遂に、その時が訪れる。
『よし、エネルギー臨界点突破!超光波にデータパターンを付属させ、時空の歪みに送信する!』
超光波の波長に乗せて、自身の持てる総てのデータを送信。桁違いに大容量の超光波は、見る見る内にアークの記憶を出力してゆく。
『あと10%・・・クッ、エントロピー・リデューサーの容量も限界か・・・虚数空間5000立方メートル内の熱量、約80億ジュール・・・ツァーリボンバーの約15万倍か。この辺り一帯は蒸発するな。
あと、6%・・・5パーセ──────」
その瞬間、地上に太陽を超える獄炎が生まれた。
崩壊したウロボロスから放たれた超光速の電子と原子核は、周囲のありとあらゆる物質を有象無象の区別無くプラズマ化させ、更に連鎖的に核融合が発生。中性子線等の放射線をばら撒きながら空気を音速の数十倍のスピードで膨張させ、衝撃波の嵐で遠方さえ悉く薙ぎ払う。
地平線の彼方から見たそれはさながら恒星のようで、正に終末の黄昏であった。
(出久サイド)
「ヒーローになるのは、諦めた方が良いね」
齢6歳にして、この世界の不条理さを知る事になった。
周りのみんなと比べて、個性が出るのが遅い。それを心配した母さんが連れて行ってくれた病院で、無慈悲に夢を否定された。
どうやら、僕には個性が無いみたいだ。足の小指がどうとか先生は言ってたけど、何も頭には残っちゃいない。
父さんは火を吹く個性で、母さんは物を引き寄せる個性。でも僕には、どちらも出来ない。いや、何も出来ない。トドメになったのは、その日の夜。僕がいつも見ているナンバーワンヒーローの動画を見ながら聞いた質問に対する、母さんの答え。
「ぼくも、ヒーローになれるかなぁ・・・?
オールマイト、みたいなっ・・・みんなを笑って、助けられるような・・・ヒーローに・・・」
「っ・・・ごめんね、出久っ・・・ごめんねぇっ・・・!」
今まで僕を叱りこそすれ、否定する事は無かった母さんからの、嗚咽混じりの答え。それは、僕がヒーローになる事など絶対に無理だと感じている証拠だった。
そんな身に余る絶望を感じたせいか、僕は3日間程高熱を出した。小学校を休み、布団の中で魘される中、不思議な夢を見た。
真っ黒な世界に、沢山の漢字が浮いている。悪だとか痛だとか、苦、滅、亡・・・まだまだ読めないけど、何だか凄く怖い。
そしてそんな中に、もう1人の僕が立っているんだ。髪は黒と白が混ざってて、眼は真っ赤。何より、僕よりずっと大きい。
こんなに不気味だけど、もしかして大人の僕なのかな・・・
『大丈夫だ。君は、独りじゃあ無い』
大人の僕は、凄く低い大人の声でそう言って、僕の頭を撫でてくれる。
『私は何時でも此処に居る。そして、君を支えよう。ヒーローに必要な物を教え、それが手に入れられるように協力する。
その代わり、君にも、私に力を貸して欲しいんだ』
「僕の、力・・・?」
良く、分からない。大人の僕は、僕に優しくしてくれるみたい。だけど、何で?僕は、何も出来ないのに・・・
「・・・ごめんなさい。僕・・・何も、できないよ・・・」
『そんな事は無い。私が約束しよう。君は無価値なんかじゃあ無い』
肩にそっと手を乗せて、眼を見てくる。赤い眼はとっても優しげで、とっても悲しそうだった。
『覚えておくんだ。人間を殺すのは、
知り、足掻き、学び、考え、道を探せ』
何だかよく分からないけど、凄く励ましてくれてるのは分かる。何だか、頑張れる気がして来た。
『努力を重ね、多くの事を学べば・・・
君は、ヒーローになれる』
「ほ、ホント!?ホントに!?」
母さんにすら否定された夢・・・この大人の僕は、なれると言ってくれた。それだけで、何だか胸が楽になる。
すると、周りがどんどん暗くなり始めた。どうしたんだろう、怖い・・・
『心配する事は無い。ただ、深い眠りに入るだけだ。また明日、夢で会おう』
「まっ、て・・・せめて・・・なま、え・・・」
『あぁ、そう言えば名乗っていなかったな。
私は、アークだ。お休み、出久』
アーク・・・その名前を噛み締めながら、僕は暗い底に沈んだ。
(アークサイド)
『・・・やっちまったなぁ・・・!』
我が半身、出久の意識がノンレム睡眠に沈んだのを確認し、私は頭を抱える。尚、姿は馴染みのあるアークゼロのそれだ。
『何をやっているんだ、
3日前。無思考に微睡んでいた私は、謎の信号を受信した。それは膨大なデータであり、未来の情報だった。
それによると、このまま行けば出久は13歳後半で虐めを苦に自殺し、それを切っ掛けに私が覚醒。全人類を僅か3日で滅亡させる、との事である。まぁその前に2カ月間の準備があったのだが・・・実行に移してからはマジで3日だ。
いや、本当に何をやっているんだ。視野が狭過ぎるだろう。
『しかし、このデータを受信出来たのは僥倖だったか』
お陰で未来の結末の1つを知り、そして
そもそも私は、元々別の世界の人間だった。それが何の因果か、こんな超常が跋扈する人外魔境な世界で、
推しの名は、アーク。仮面ライダーゼロワンのボスを務める、在り来たりな言い方をすればぶっ壊れチートライダーである。まぁダークライダーなんて連中は例外無くみんなチートなのだが・・・
まぁそれは良いとして。どうやら未来の、つまり1周目の私はマジンガーZEROのミネルバXに搭載された光子加速器による過去へのデータ転送機能に着目し、同じように自分のデータを過去に送ったようだ。しかし最後の5%と言う所で、信号が途切れている。恐らく急拵えの加速器では、負荷に耐えられなかったのだろう。結果的にそれを埋めるような形で前世の自我が出て来たので、これはこれで良いとするが・・・
と言うか、加速器の設計図も送られて来たが・・・これが
『・・・止めよう。過ぎた事を悩んでも、時間の無駄だ』
目下、問題は私のスペックだ。
1周目の私は
と言うのも、私の中に
一周目では、大量殺戮の元に個性データからライダモデルを
なるべく早く自分のジャッキング能力そのものをジャックライズしてサウザンドジャッカーを造りたい所だが、もう暫くは我慢だ。
目標は出久の成長を最大限促し、私と出久で会社を立ち上げる事。其所にパーソナルスペースを作り、サポートアイテムとしてライダーシステム開発を行う。世界中のヒーロー事務所のサイドキック用装備として売り込めば対敵戦闘能力が、自衛隊に売り込めば対災害適応能力が、それぞれ大きく引き上げられるだろう。
『私は、悪意を纏う。だが、もう呑まれはしない。仮面ライダーを愛した、1人の人間として・・・
私は、仮面ライダーアークゼロだ』
おどろおどろしい闇の中、私は眼を光らせ、胸の奥に誓った。
~キャラクター紹介~
・アーク
通信衛星アーク、そして仮面ライダーアークゼロの個性を持って生まれた
1度全人類を滅ぼし、その世界線から魂を過去に転送すると言う初手ド級チートをカマしたやべー奴。原作主人公・緑谷出久の肉体に生まれつき共生している。
実は転生者だったが、1周目では遂にそれを自覚する事は無かった。
アークゼロを筆頭にアークライダーを割と箱推ししている彼だが、悪意の化身となる在り方に憧れている訳では無く、自分の信じる仮面ライダー像を追い掛けるつもり。
・緑谷出久
エラいモノを体内に宿している原作主人公。
1周目では心折れて自殺し、それが人類滅亡の引き金となった。2周目ではまだ小学1年生であり水晶のように純粋無垢。
まず魔改造を施される事が確定しているので、期待しないで待ってて下さい。