(出久サイド)
「しまったなぁ・・・」
『遅かったようだ』
控え室で飛び起き、大急ぎで観客席へと戻る。次の競技、騎馬戦は始まる寸前。流石にメンテとチューニングをするには時間が足りなかったか・・・
「お帰り、緑谷先生」
「唯今です、八木さん・・・ハァ」
「あー、何と言うか・・・お疲れ」
「ホントお疲れですよ主任のお陰で・・・」
堪えきれず呪詛が溢れる。何であんなにヘンな所にだけ思い切りが良いのやら・・・
しかもこの件で、皮肉にも会社の株は爆上がりしている。もう頭を抱えるしか無い。
「と、取り敢えず、渡我少女の方でも見て気を紛らわせるのはどうかな?」
「名案ですね・・・っと」
スタジアムを見ると、ひーちゃんはすぐに見付かった。常闇君センター、左翼麗日さん、右翼他クラス女子の騎馬に、仮面ライダー迅が乗っている。アーク因子の識別信号も出てるし、間違い無い。
『おやおや?よーぅやく戻って来たねぇ社長!アンタの為に頑張った被身子ちゃんに申し訳立つかい?』
「元はと言えば寝込んだのはアンタのせいでしょうが」
『そうだっけねぇ?別に良いじゃん!じゃあ、騎手の諸君?地べたに落っこちたらその時点で敗北って事、忘れないようにね!じゃあ、頑張ってネ~!』
主任の声と共に、開戦の機笛が鳴る。すると、殆どの騎馬が一斉にひーちゃんの騎馬に殺到し始めた。
「狙うは!」「当然!」
「「「「勝利の鍵ッ!」」」」
「何て?」
『あ、社長は聴いてなかったよネ?障害物競走の1位通過者は、ポイント鉢巻きが特別仕様になるんだよ。割り振られるのは、ポイントじゃなくて
「ガオガイガーじゃないですか!?今時通じる人居ませんよ!?」
ヤバい。リペアを済ませた筈の胃粘膜がまた痛みを訴えて来た。アイツは一体何なんだ・・・
「ほいっ!ほいっ!当たりませんよ!」
僕がグロッキーになっている一方、ひーちゃんは軽やかな体捌きで襲撃者の手を躱し続ける。何か細工がありそうだ。
しかし・・・迅が鉢巻きしてると、何か妙に似合う気がするな・・・何でだろ・・・
「勝ち巻き寄越せやコラァ!!」
「来ましたねファッキンボンバー!じゃあBで!」
爆豪が爆裂加速で単身突っ込もうとする。対して、ひーちゃんの組は何とそれぞれ散開。迅はスクランブラーを開き、爆豪を迎撃する。
『オイオイオイ!?これ騎馬戦って言って良いのか!?アウトじゃね!?』
『イヤイヤ、失格条件は騎手の
「容赦無いね、渡我少女」
「まぁ、そういうもんです。にしても、成る程。それで迅か。
確かに、迅ならばマッハ2以上のホーミングマイクロミサイルに追い掛けられでもしない限り、まずこの空中戦で撃墜される事は無いでしょうからね」
「戦闘機かな?」
「最大速度では負けますが、瞬発力と小回りなら圧勝出来ると答えておきます」
「ひえっ・・・」
顔を引き攣らせる八木さんを余所に、爆豪VS迅の空中戦は決着した。
蹴り落とされた爆豪は騎馬の瀬呂君が飛ばしたテープで回収され、迅もチームを呼び戻し着騎する。
「にしても、騎馬戦だと被身子さんの独壇場ですね」
「まぁ、失格になりようが無いからねぇ」
こう言った点でも、プログライズキーシステムは優秀と言えるだろう。
「おわっ!?」「脚が!」「渾沌に沈むか・・・!」
「おぉっと、足元を泥濘ませる個性ですか。だったら、お茶子ちゃん!」
「おっけー!」
ひーちゃんの合図で、麗日さんが右翼の女子に手を触れる。
そして常闇君の黒影がひーちゃんの腰に、左右2人は脚にしがみついた。
スクランブラーを展開して、ひーちゃんは力強く飛び立つ。泥濘となった地面も、空に浮かぶモノまでは捕らえられない。
しかし、それならば手が届く者が狙うだけである。
「撃ち落とせ醤油顔!」「ハイハイ瀬呂ね!」
「塩崎!頼んだ!」「承知しました!」
瀬呂君が再びテープを飛ばし、B組の塩崎さんが茨の髪を延ばして絡め捕らんとする。
しかし、それに捕まる迅では無い。
「ちょっと待ってて下さいね!
ハッ!ほっ!そぉれっ!」
空中に仲間を取り残し、殺到する捕縛攻撃をスクランブラーから放つ羽根手裏剣で悉く斬り裂き迎撃した。
「下ろしますよ!」
「りょーかい!解除!」
「うぉわっと!?」
騎馬組を地面に降ろして、麗日さんが個性を解除。すると、迅の高度が不自然に落ちた。勿論すぐに持ち直したようだが、騎馬の上には戻らず、会場の上空を旋回し始める。
今の挙動、麗日さんの個性の解除・・・
「成る程、そう言う事か。道理で」
「む、何か分かったのかい?」
「えぇ、ちょっと気になってた事がありまして、それに合点が行きました。
仮面ライダー迅の体重について」
「ほう?」
興味深そうに肩眉を跳ね上げる八木さんに、解説を繋ぐ。
「そもそも、仮面ライダー迅のスーツの全重量は約30kgです。更に、被身子さんはトレーニングを行っている上に肉付きも良好な部類。合計すれば、80台後半、と言った所でしょう。
それを細身の男子と女子2人、合計3人で持ち上げていれば、まず確実にスタミナが切れます。故に、被身子さんは変身前の自分を無重力化して貰っていたのでしょう。その上で変身すれば、支えるのはスーツの重量分だけで済む訳です」
「成る程。でも、それなら変身した後に丸ごと無重力化した方が良いんじゃ無いかな?」
「いえ、無重力も意外と楽じゃないんですよ。重力が無ければ慣性減衰が起こらないので、運動中の方向転換の度に質量全て引っ張り戻すエネルギーが必要になります。
何より、迅の設計は重力圏内での運用を前提として想定していますからね。搭載されている推進機関は、前進用と細かな姿勢制御用のみなんです。
無重力状態では、ちょっとした重心移動が永久的な無限運動に繋がってしまう。それを常時打ち消しながら動きたいようにだけ動くには、多方面への莫大なエネルギー放出が必要なんです。迅にはそれは出来ません。
従って、重力の影響は受けるが軽量化はされている、と言うのが、彼女が見出した最適解と言う訳です。天晴れですね」
「これだけの情報量をあの1挙動視ただけで解析出来る君も君だけどね」
「ククククッ、褒め言葉として受け取っておきましょう」
顔を引き攣らせる八木さんを余所に、僕はスタジアムへと向き直った。
さてさて、此処からどうなるやら・・・
(NOサイド)
『さぁて、競技時間が5分を切ったけど・・・渡我ちゃ~ん?流石にダレて来たよ~』
「成る程。皆さん、どうします?」
飛んでくる遠距離攻撃を斬り落としながら、迅がチームに問う。
「気に食わないです!もっと私のドッ可愛い発明品を見せ付けないと!」
「まぁ、このまま出来レースするって言うのも違うかな!」
「常在戦場、望むところ!」
「了解!では攻勢に転じます!」
騎馬にドッキングした迅は、レーダーで向かってくる攻撃を識別する。そして加速した思考能力で状況把握を2秒で済ませ、行動パターンを司令塔としての振る舞いに切り換えた。
「常闇君!飛んでくるモギモギをガード!」
「黒影!」「アイヨォ!」
「お茶子ちゃんは全体を軽量化!明ちゃんは合図待ち!」
「了解!」「分かりました!」
黒影の腕が鞭のようにしなり、障子の背中から飛ばされた峰田のモギモギを迎撃する。脅威的な粘着力で腕にへばり付いたそれも、黒影が実体化を解除すれば容易く外れた。
そして麗日は、迅以外の2人と自分を無重力状態にする。
「くたばれやクソが!」
そこに爆豪騎馬が強襲。左手を筒状に丸め、右手の爆破を一極集中させて噴射した。
「徹甲弾ォ!」
─BGYAAN!!─
「ヒャウンッ!?」「ごあっ!?」
襲い来る爆炎に黒影が怯み、迅に直撃。後ろに大きく押し倒す。
「獲ったッ!」
「ねェですよッ!」
再び飛び掛かってくる爆豪だったが、迅は敢えて腕の反動も使って後転し、再びスクランブラーを展開。宙返りでサマーソルトキックを繰り出した。
「うおっ!?」「惜しい!」
迅の爪先は爆豪の額を掠め、揚力を得て再浮上。
「ほっ!」「ぶえっ!?」
後宙で体勢を立て直そうとする爆豪の顔面に、足裏を思い切り叩き付けた。
鼻血を噴き出しながら騎馬に回収される爆豪。鼻を押さえて眼を見開き、屈辱にギリギリと歯軋りする。
─バキバキッ─
「なっ!」「うわっ!?」「あららっ!」
次の瞬間、地面を舐めるように氷が覆った。言うまでも無く、轟騎馬の攻撃だ。
「さぁて、手加減無しで行っちゃうぜェ!放電全開!130万ボルトォ!」
轟騎馬にいた上鳴が、気合いと共に大放電を散蒔く。仲間は八百万が創った絶縁シートを被っており、その表面を滑るように電撃が散る。
「何のこれしき!」
迅は瞬時にフェザーダストを射出。放った刃を避雷針にして、電流を周囲に逸らす。
「あばばばば!?」「しびびびび!?」「ぐおあっ!?」「ぐえあっ!?」
─BbbbbOM!!─
そして、その先には爆豪騎馬。全員が漏れなく感電し、爆豪のニトロに誘爆した。
「頼むぞ轟君!トルクオーバーッ!レシプロ・バーストォ!」
轟騎馬のセンター、飯田が叫び、脹ら脛のマフラーからプラズマを噴き出す。暴力的なまでの推進力を以て騎馬を牽引し、渡我騎馬へと斬り込んだ。
「ブースト!」
「はいはい!」
迅のスクランブラーと共に、発目と麗日の装備するホバーブーツが起動。全体の無重力化に加えて充分な揚力を得た事で、騎馬全体が上空へと飛翔する。
「行ける!ダークシャドウ君!アンカー!」
「アイヨォ!」
更にスクランブラーで姿勢を整え、ダークシャドウの両手を地面に突き立てさせる事でワイヤースウィングバイの要領で軌道を変更。騎馬の脚を下に向けるようスラスターを調節し、轟騎馬の真後ろに着地して見せた。
『しゅーりょー!時間切れ!ギャハハハハ!』
主任のアナウンスと共に、第2競技が終了する。
結果、必勝の鉢巻きを死守した渡我騎馬が、当然のように1位となった。
2位は爆豪騎馬、3位は轟騎馬、4位は心繰騎馬である。
迅は変身解除して地面に降り立ち、出久の方を振り向いて大きく手を振った。今度は、出久もしっかりとそれに手を振り返す。
頂点は渡我である。依然変わらず。
───
──
─
「いやぁ、流石はひーちゃん。容赦無かったねぇ」
「エヘヘ、鳥は堅実です!」
競技後。廊下で渡我を褒め、頭を撫でる出久。渡我は嬉しそうに眼を瞑り、出久に抱き着いている。
「おーい、ズィーク~!」
「ちょっ、待って下さいよ姐さ~ん!」
「おやっ」
そんな出久に、声を上げて手を振り駆け寄る女性がいた。
彼女はウェーブ掛かった赤っぽい茶髪をサイドで結んでおり、黒いゴシックドレスの上から赤いレディースジャケットを羽織っている。色白な顔はするりと細く、吊り眉と大きめな赤銅色の瞳と合わさって、活発なお嬢様と言う印象を与える。
そして、そんな彼女の後に着いてくるのは、茶髪に眼鏡の青年。垢抜けない雰囲気であり、未だ少年らしさが残っているような印象だ。
「ロザリィ姐さん!久し振りですねぇ」
「ちょっとちょっと、他人行儀じゃないのズィークったら。アンタとアタシの仲でしょ?いつもの口調で良いわよ」
「そう?じゃ、遠慮無く」
「あの、社長?この人達は?」
ゴシック衣装の女性、ロザリィに言われ、口調を崩す出久。そんな2人を、渡我は不思議そうに見詰めた。
「あぁ、紹介してなかったね、ごめんごめん。
彼女はロザリィ。僕の最初の協力者であり、ZAIAの創設メンバーだよ」
「宜しくネ♪」
「え、スゴい」
出久に紹介され、パチッとウィンクするロザリィ。それに合わせて、サイドテールがフワリと揺れる。
「所で、其方の彼は?」
「あぁ、コイツはアタシの・・・昔馴染みの息子よ。ほらRD、自己紹介ぐらいしな?」
「は、はい!俺、レイ・ドミナートって言います!仲間内では、RDって呼ばれてるッス!」
「コイツ、ヘリ操縦出来るからさ。結構便利使いしてるのよ。今回だって、Iアイランドからの送迎やってくれたし」
「全くぅ、一々呼び付けられる俺の身にもなって下さいよ姐さぁん・・・」
ションボリとするRD。どうやら、完全に尻に敷かれる子分と言った立ち位置にいるらしい。
「別にいーでしょ?特別手当出るんだし。アンタが操縦すれば、海賊なんかとも無縁だしね」
「ん?と言うと、察知系の個性ですか?」
「あ、いや、それは、えーと・・・」
「それがそうじゃ無いっぽいのよね。コイツ危険に対しては何故だか凄く勘が良くて、海賊とかならず者が張ってる場所を巧い事避けて飛べるのよ。で、何とズィークと同じ無個性なのよね!」
「え、そうなんすか!?」
ロザリィの繋ぎに、意外そうに眼を見開くRD。それに対して、出久は興味深げに顎に手を当てる。
「成る程。それは素晴らしい特技ですね。もしかしたら、今のこれが天職なのかも・・・ん、あぁ、そうですよ。私も無個性です。ロザリィ姐さんと組んで無かったら、今の地位は無かったでしょうね」
「それは・・・スゴいっすね」
「その代わり、月に2回はドクターストップ掛かって医務室でお昼寝する羽目になってたけどね。RD、呉々もコイツは目標にしちゃダメよ?」
「こりゃ手厳しい」
小さく笑って肩を竦める出久に、ロザリィが「笑いごっちゃないの」とチョップを入れた。実際、自他共に笑い事である筈が無いのだが・・・
「にしても、最近あんまり連絡寄越さなかったじゃない?お姉さん、結構寂しかったんだぞ~?」
「いやはやごめんね、会社経営と雄英教師の二足の草鞋で流石に・・・むぇ、グリグリやめてぇ・・・」
「・・・むぅ~」
ニヤニヤと意地悪く笑いながら、出久の頬を指でグリグリと押し込むロザリィ。その遣り取りにむくれた渡我は、出久の右腕に抱き着いた。
「あらっ・・・ははぁ~ん?成る程、ズィークも隅に置けないわねぇ。ま、この可愛いガールフレンドに免じて許してあげるわ。
ごめんね、お嬢さん。確か、トガヒミコちゃんだったわね。さっきの活躍見てたわよ?凄いじゃない」
「それはどうもです・・・さっきから気になってましたけど、そのズィークって渾名、何なんですか?」
「あぁ、これ?最初に会った頃は、まだイズクって発音しにくくてね。それでこっち風の発音でズィークって呼んでたのよ」
「4年前からだよね」
「ビックリしたわよ?11歳で資本家の交流会に来てプレゼンするなんて、少なくとも私は聞いたこと無かったし」
「前代未聞過ぎて、ロザリィ姐さん以外は皆見世物としてしか見てくれなかったけどね。唯一の出資者がロザリィ姐さんだった」
「だって、負けそうな方に賭けた方がリターン大きいでしょ?何より可愛い男の子だったし。だから、お姉さんちょ~っとお小遣いあげたくなっちゃったのよ」
「この話でいつも言うけど、僕がダークホースでホントに良かったねロザリィ姐さん。ギャンブルで大負けする思考パターンだよそれ」
「大丈夫よ。ZAIAは今かなりの勝ち馬だし?流石にワザワザ負け馬に乗り換えたりはしないわ。此処ほどお給料良いとこも、そうそう無いだろうしね♪」
「流石の守銭奴根性だよ、ロザリィ姐さん」
相変わらずの具合であるロザリィに苦笑いしつつ、ポンポンと渡我の頭を撫でる。若干嫉妬が抜けきらないのか、渡我はそんな出久の腕に再びくっ付いて頬を膨らませた。
「・・・姐さん。もう行きましょう。早く買いに行かないと、オベントー無くなりますよ」
「あら、危ない危ない。じゃ、そう言う事でもう行くわ。トガちゃんには期待してるわよ~?頑張ってね♪
ズィークは、この子の為にも無理しない事!分かった?」
「分かったよ、ロザリィ姐さん」
「宜しい!じゃあまたね!」
「ちょっ、待って下さいよー!
全くもう年甲斐も無くお転婆なんだから・・・あちょっ、いって!?ちょ、ゴメンってば姐さん!もぉ~叩かないで下さいよぉ!」
「ア、ハハハ・・・相っ変わらず台風みたいな人だなロザリィ姐さん・・・にしても、ロザリィ姐さんにそれ言うのは蛮勇だよRD・・・ハァ」
会った時と同じく手を振って走り去るロザリィ。着いて行ったRDの遠離る悲鳴を聞きながら、出久は乾いた笑いと共に小さく溜息を吐いた。
「・・・」
「・・・ゴメンね、ひーちゃん。しっかり明言して置くけど、男女の仲として好きなのはひーちゃんだけだから、ね」
変わらずふて腐れたように眼を逸らしている渡我。その眼には嫉妬は勿論、強い不安が滲んでいた。それを見逃す程、出久は鈍くは無い。
「・・・行動で、示してよ」
「・・・フフッ」
上目がちに睨む渡我の顎を掬い、出久は囀るように微笑む。そして彼女の唇に、静かに自分のそれを重ねた。
「・・・ゴメンね、今は此処までしか出来ない」
10秒程のキスの後、出久は申し訳なさげにそう言った。渡我の眼からは、既に嫉妬は拭われている。
「・・・ううん。こっちこそ、ごめんなさい。渡我は、悪い子です」
「それで良い。僕の前では飾らないで、隠さないで・・・悪い子で良いんだ」
頬を撫でて額を会わせ、弱々しい渡我を励ます。渡我の口元には薄らと笑みが戻り、出久の手に愛おしそうに頬擦りした。
「元気出た?」
「うん!この後も、頑張れるよ!」
「よし、その意気だ!」
グッと拳を握って見せる渡我。持ち直した彼女の力強い笑顔は、出久の表情にも移っていた。
───
──
─
「何なんだ、アイツ・・・」
ガコンと排出されたジュースを自販機から取り出しながら、RDは呟く。脳裏に浮かぶのは、先程会った出久の姿。
しかし、彼の本能は叫ぶように訴えていた。目の前の存在の危険性を、恐怖と言う感情で。
それも、そんじょそこらの敵や海賊等とは比べ物にならない程の恐怖だ。幸いにも、彼の素の挙動がオドオドとしていた事もあり、露呈はしなかったようだが。
「姐さん・・・何なんですか、ミドリヤ・イズクって・・・」
「チクショウめ!」「クソ野郎が!」
某国某所。非合法な民間軍事会社の兵士達3人が、口汚く叫ぶ。しかしその声は震えており、どうやら恐怖に負けないよう必死に自分を鼓舞しているようだ。
─BanG!!─
「ガッ!?」
銃声と共に1人の男の喉が撃ち抜かれ、血を噴き出して倒れた。
「嘘だろ!?オリバーがやられた!」
そして、闇の向こうから硬いモノを投げ棄てた音が響き、白い三日月のように剥き出された歯が浮かぶ。
「このクソ野郎が!」「死ね!消えろ!くたばれ!」
襲撃者は、たった1人。すぐ傍に、すぐそこに居る。
ありったけの罵声と共に、ありったけの弾丸を散蒔く。しかし、マズルフラッシュに照らされて、長い黒髪をたなびかせ、三日月の主はその弾丸を容易く掻い潜る。
無秩序に撃ち出された弾の群れの、しかしその一切が当たらない。まるで弾の方が、標的を避けているかのように。
─SlasH!─
そして振るわれた黑鉄色のナイフによって、1人の首が斬り裂かれる。噴水のように血が撒き散らされ、傾いた頭に引かれてドサリと倒れた。
「ヒィィィィ!?」
床に黒く満ちる血潮はまた、この上無き恐怖の呼び水となる。
たった1人残された錯乱状態の兵士が引き金を引くが・・・哀しいかな、弾丸は撃ち尽くされてしまった。スライドストップが掛かり、排莢口は開きっぱなし。
しかし、パニックに陥り理解も出来ない兵士は、必死に落ちる事も無いハンマーの感触を求めて、応えの無い空虚な引き金を引き続ける。
「w,お前は誰だ!?お前は何なんだ!?」
「誰・・・何・・・その答えは・・・」
ヌルリと闇から溶け出した腕が、兵士の小銃を鷲掴む。恐怖に強張った身体ではその膂力を受け流せず、兵士は尻餅を着かされた。
奪った銃を投げ棄てて、再び狂暴な三日月を剥き出す襲撃者。目元を隠すアイギアを外せば、血よりも鮮やかな紅い瞳が獲物を射貫く。
「私は恐怖・・・闘争であり・・・恐怖の果てに辿り着く貴様等の行動を私は知りたい。
そしてそれを私が殺す。私は死神だから」
「Y,You aer crazy・・・!」
「それの何が悪い?
ンッフッフッフッフッフッフッフッフッ・・・」
狂気そのものを織り込んだような笑い声をあげて、死神は最後の獲物に大鎌を振るった。
───
──
─
『どうだい?少しは、愉しめたかな?』
「まさか。どいつもこいつも、落第点ギリギリだ」
死神が制圧した駐屯地に、1機のヘリが着陸する。そのヘリからの問い掛けに、死神は不満げに鼻を鳴らした。
その姿は、基地堕としを完遂したにしては異常な程に軽装。拳銃も無く、黒迷彩のコンバットシャツの上にはボディアーマーすら着けていない。武具と言えるモノは、黒いアイギアと腹に差したバヨネットナイフのみ。そんな装備で駐屯地に潜入するなど、本来なら自殺行為に等しい行動だ。
しかし、現実として彼はそれを成し遂げた。それは彼の異次元的な、
『まぁ、暇潰しにはなっただろう?』
「あぁ、手持ち無沙汰に虫を踏み潰すのは、まぁ空虚な暇潰しにはなった」
心底退屈そうな顔で、死神は吐き捨てるように答えた。彼にとってこの程度の殲滅は、道端の虫を踏み潰す程度の感覚なのだ。
『だけど、次のミッションは愉しめると思うよ?何せ、天下のオールマイトが来るからね』
「・・・ほう?」
死神の眼の色がギラリと変わる。口角が再び鋭く釣り上がり、熱い吐息が溢れた。
「素晴らしい。奴は現時点で、最も
『Iアイランドだ。何でも、僕と似たような事をしようとしてるヤツが居るらしくてね。丁度良いから、乗っかってやるつもりさ』
「それは楽しみだな・・・ンッフッフッフッフッフッフッフッフ・・・」
肩を震わせてクツクツと笑う死神。そしてヘリに乗り込んで座席に腰を下ろし、脚を組んで左肩のワッペンを撫でる。
描かれていたのは、剣を握った黒い鷹獅子。その下には掠れ文字のフォントで[R.I.P.00]と刻印されていた。
その文字が意味する所は、Rest In Peaceだろうか。だとすれば、彼の本性とは、似ても似つかぬ言葉だろう。
to be continued・・・
~キャラクター紹介~
・緑谷出久
割と振り回されっぱなしな1000%社長。
最初の仲間であるロザリィと久し振りに再会し、中々に話が弾んだ。結果、渡我に結構睨まれる事になった。
ロザリィは数少ない素の自分を出す相手で、昔から世話になっている事もあり、気の置けない仲になっている。
・アーク
一言しか台詞が無かった一般転生悪意。
尚、RDが異常な程にビビっている事には既に気付いている。
・渡我被身子
完全勝利した吸血系ヒロイン。
騎馬戦では飛行能力があれば割かし無双が可能なので、容赦無く迅で参戦。見事にトップランクを守り優勝。
頑張ったご褒美として出久に褒めて貰っていたが、そこにロザリィが割り込んだ事で滅茶苦茶嫉妬した。
しかし、単純な嫉妬だけと言う訳でも無いようで・・・
・爆豪勝己
意外な成長を見せたファッキンボンバー。
必殺技徹甲弾を先取りしたが、迅を倒すには至らず。当然滅茶苦茶荒れている。
・ロザリィ
【挿絵表示】
お転婆守銭奴お姉さん。ACVで主人公達の味方のミグラントとして登場。
今作ではZAIAの創立メンバーであり、出久との付き合いが一番長い。
黒いゴシックドレスに赤いレディースジャケットを羽織ったコーディネートで、赤っぽい茶髪をサイドテールにしている。
グイグイと引っ張る典型的な姐御肌であり、当初は莫大なポケットマネーでZAIAの財政を支えていた。
出久をズィークの愛称で呼び、彼が素の口調で話す数少ない人間の1人である。
・RD
【挿絵表示】
オドオド弱気弟系子分。ACVでロザリィの子分として登場。
本名はレイ・ドミナート。
今時珍しい無個性だが、それを補って余りある第六感、危機察知能力を持ち、ヘリコプターの操縦技術と共にロザリィに買われている。
出久の仲に潜む
・???(死神)
中々に良い声をした気違い浪兵。
何の前触れも無くフラリと現れては、ナイフ1本でゲリラ基地や傭兵団体を単身壊滅させる化物。
西洋風の顔立ちに長い黒髪、紅い瞳が特徴。180cm代の高身長であり、引き締まった身体をしている。
黒迷彩のコンバットシャツの左肩には白いワッペンが縫い付けてあり、その柄は剣を握った黒いグリフォンである。
オールマイトに対して何らかの《可能性》を見出しているらしい。