マリス・フライングバットレス   作:エターナルドーパント

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目覚めるヒトミ

(渡我サイド)

 

「ふぅ・・・」

出久くんの血液錠剤を噛み砕き、心を落ち着ける。

次の対戦相手は、轟くん。炎熱と氷結の2属性を操る、厄介なハイブリッド型。でも、炎の能力は使いたがらない。その理由は、さっき聞いた。

(毒親、何所にでも居るモノですねぇ)

父親エンデヴァーから訓練を強要され、兄弟からは隔離。家庭内暴力に心を病んだ母親から熱湯を掛けられ、その母は精神病院に入院。成る程、嫌いにもなる訳ですね。

「・・・どうすれば、本気を引き出せるか・・・」

口に出して呟いてみたものの、私に取れる手段は1つだけ。でもそれは、私としてはとても嫌ぁな事で・・・

「・・・腹を括りましょう。全ては出久くんの為・・・」

それに、これは相手の本気を引き出して、私をアピールする為。出久くんなら、許してくれる筈。

 

(本当にそう?)

 

「っ・・・うるさい。大丈夫ったら大丈夫」

頭に響く懐疑的な不安を踏み付けて、血液錠剤をもう一粒噛み砕く。そうして幾らか頭を切り換えて、控え室のドアノブに手を掛けた。

 

───

──

 

『さぁさ皆様お待ちかね!注目選手の入場だ!北方!Cool&Heatの双熱極!氷炎の修羅!轟焦凍ォ!

続いて南方ゥ!一途な献身、健気な社員!輝く笑顔で魅せるSHINE!ZAIAの広告塔アイドル!渡我被身子ォ!』

 

主任さんのアナウンスと共にステージに上がり、私はフォースライザーを取り出す。一方轟くんは、こっちは一切眼中に無い様子。視線の先に居るのは、やはりと言うべきか、件の彼の父親、エンデヴァーだった。

【FORCE!RISER!】

そんな態度が、無性に気に入らない。私が眼の前にいるのに、そんなの気にしないとばかりの様相。

【JUMP!】【FORCE RIZE!】

あぁ、気に入らない。

「変身」

【ライジングホッパー!】【BREAK!DOWN!】

苛立つ顔をマスクで隠し、001に変身する。全身に密着した装甲から熱気が吹き出し、出力の安定が完了した。

絶対に、負けはしない。

 

『Ready?Fight!』

 

(NOサイド)

 

「フッ!」

先手を仕掛けたのは、やはり轟。右腕を振り抜き、地を這う冷気で氷山を作り上げる。

【Progrisekey confirmed. Ready to utilize.】

【TIGER's Ability!】

「でやぁッ!!」

【FLAMEING!ATTACHE!】

対する001は、左手に呼び出したアタッシュハルバードにフレイミングタイガーを装填。そのまま変形させず、地面に叩き付ける。赤く圧縮された熱が氷壁とぶつかり、水蒸気爆発と共に凄まじい蒸気が発生。それが再度急冷される事でダイヤモンドダストとなり、周囲を乱反射で真っ白く染め上げた。

「クソッ」

 

『おや、ホワイトアウトしてしまいましたか』

『後先考えず氷ブッパすれば、マァそりゃそうなるよネ。それが通じる下っ端相手ならまだ良いだろうけどサ』

 

「なぁ俺サラッとディスられた?」

「辛辣だなぁ主任」

主任の容赦無い言い様に、若干凹む瀬呂。その肩をポンポンと叩きながら、上鳴は口元を引き攣らせた。

「クッ・・・何所から来る・・・」

【CHARGE RIZE!FULL CHARGE!】

【ライジング!ディストピア!

「ッ!そこか!」

真っ白な靄の奥から飛び出してくる影に向かって、轟は再び冷気を放つ。確かにその凍結攻撃は獲物を捕らえた。

「なッ、さっきの武器!?」

しかし、氷の中に閉じ込めたモノは目当ての001では無く、先程使用していたアタッシュハルバードだ。刃のブロックが反転しており、伸ばせば変形完了の状態である。

「ハァッ!」【カバン!ストライク!】

一方001は、囮に喰らい付いた氷山にチャージ済みのアタッシュパイラーを叩き付ける。極太の連装杭が爆速で射突し、桁違いの衝撃によって氷は易々と粉砕。細かい氷片の群れに襲われ、轟は思わず顔を庇った。

「今!」【HALBERD RIZE!】

隙を見出した001は、アタッシュパイラーを躊躇無く破棄パージ。右手ロンダートで氷塊の中からアタッシュハルバードを掴み取り、体軸を捻る事で遠心力を付けて変形させる。そして、アックスエッジでは無くポール部分で狙いを付け、轟の右肩に振り落とした。

 

─ベキッ─

 

「ぐあァ!?」

轟の鎖骨から鈍い音が響き、身体は刃先の重量に押し倒される。そして肉厚の刃はステージのコンクリートに喰い込み、ホチキスの針のように縫い止める。

「ぎっ!?く、クソッ・・・」

右手でハルバードを外そうとするが、途端に鎖骨に走る激痛。上がらない右手に代わって左手でポール部分を掴んだ。

それこそが、001の狙いだ。

 

─バキンッ ガブッ─

 

「うがぁぁ!?」

001のマスクの口元がクラッシャー状に開き、口腔が露出。その持ち前の牙で、左腕に噛み付いた。

 

『おぉっと001!ここでまさかの噛み付きバイティング!何の狙いだァ~?』

 

「このッ、放せッ!」

001の脇腹に、轟の膝蹴りが入る。衝撃吸収性に富んだアンダースーツによってダメージは無いが、001は即座に飛び退いた。

「んぎッ・・・だァ!」

左手でハルバードを押し上げ、脱出する轟。荒い息で肩を押さえながら、尚も襲い来る激痛に顔を顰める。

「貴方は、何になりたいんですか?」

「何?」

短く問う001。そしてフォースライザーからホッパーキーを抜き取り、変身を解除した。

「何のつもりだ」

「こっちのセリフですよ、それは」

煮え滾るような怒りの眼を向ける轟を、渡我は対称的に冷め切った眼で見返した。

「私が戦う相手は、本気の貴方じゃないと意味が無いんです。半分だけの力で勝つなんて、そんな寝惚けた事を抜かされては不愉快極まります」

「さっき言ったろ・・・俺は、炎熱ひだりは絶対に使わねぇ。アイツを否定する為に「それ無意味ですよ」・・・何だと?」

怒気が殺気に転じ、右半身から冷気となって漏れ出す。足元に霜が降り、彼自身の吐息までもが白く凍て付いた。

「個性ゲノム、解析完了。見せた方が早いですね」

言うや否や、渡我は体内のアークの因子を活性化。掌からモデリングビームを照射し、何かを作り出す。そして、それを勢い良く地面に叩き付けた。

 

─バシュオッ─

 

「ぐっ!?」

瞬間、真っ白な煙が周囲に噴き出す。轟は口と鼻を塞ぎ、飛び退いて煙から逃げる。

 

『アレ、何だと思う?キャロりん』

「恐らく、一般的なスモークグレネード。所謂煙玉です。スキャンした所、致命的な毒性物質は検出されませんでした。どうぞご安心を」

 

「今更ッ!目眩ましかッ!」

踏み締めた右脚から冷波を放ち、氷山を嗾ける轟。しかしその冷気は、真正面からぶつかった()()()に食い止められた。

「なッ!?」

「冷静にならないと、勝てる戦いにも勝てなくなりますよ」

瞬時に昇華した水分が煙の粒子に吸着し、地上の雲が立ち篭める。その中から、渡我は・・・()()()()()()()()は、脚を踏み出した。

「何で・・・俺に!?」

その姿は、()()()そのもの。紅白の髪も、オッドアイも、左の眼元の火傷跡も、全く同じくそのままの姿。

そして唯一の違いとして、左腕から炎を発生させていた。

「私の個性、《変身》・・・血を飲んだ相手に、一定時間変身出来る。そして個性も、この通り」

パンパンと手を叩き合わせ、右手の冷気で左腕を冷却してみせる渡我。額にはじっとりと汗が滲んでおり、急激な加熱による負荷が見て取れる。

「・・・挑発のつもりか」

「いいえ?ただ、今の私を見て欲しいだけです。

さて、ここで質問です。今の私は誰ですか?」

「あ?」

両手を広げ、首を傾げてみせる渡我。自分の見た目でそんな仕草をされるのが気に食わないのか、轟は更に顔を顰めた。

「訳分かんねぇ」

「・・・ん~、では、分かり易く言ってあげましょうか」

 

─ゴウ─

 

渡我は左腕を振るい、火炎を放つ。轟は再び右脚を踏み締め、噴き出した冷気で浮き上がらせた炎の下を潜り抜けるように回避した。

「私は、()()()ですか?」

「そんな訳あるか」

奥歯をギリリと噛み締め、焼け付くような眼で渡我を射貫く轟。しかし、そんな殺気も何のその。正解、よく出来ましたとばかりにニッコリと微笑んでみせる。

「姿や個性がコピー出来ようが、お前は俺じゃねぇ。俺は他の誰でもねぇ、俺だけだ」

「その通り!じゃあ、貴方が炎を使うのも問題ありませんよね?」

「あ?」

「だって、貴方の炎だって貴方だけの個性でしょう?エンデヴァーとか、関係あります?」

「ッ!・・・それでも、俺は・・・」

若干俯き、眼を泳がせる轟。凝り固まった意識というモノは、そう簡単に改革出来るモノでは無い。

「・・・ハァ~・・・あーもうっ!ウジウジウジウジ女々しいですね!そんなしょうもない事で悩むぐらいなら、ヒーロー志望なんて辞めちゃって下さい!」

「ッ!イヤだ!」

「だったら腹の1つでも括ったらどうですか?でないと呆気なく死にますよ?そう言えば、USJでもそうだったんでしたっけ?」

「ッ!テメェ・・・!!」

怒りのボルテージが更に跳ね上がり、遂に一線を越えた。冷気と共に、今まで抑え込んで来た高熱までもが噴き出す。

アークゼロに煽り倒された事が、未だに腹の底に残っているのだ。

「漸く本気出すつもりになりました?」

「あぁ、そうだな。クソ、最悪の気分だ・・・手加減は、期待すんじゃねぇぞ・・・!」

「そう来なくっちゃ!じゃあ、こっちもお披露目と行きましょう!」

渡我の両眼が再び光り、モデリングビームが掌から迸る。そして新たなキーを作り上げ、それを勢い良く掴み取った。

 

SHININGシャイニング JUMPジャンプ!】

 

それは、構築データ自体は完成していた最新型。シャイニングホッパープログライズキー。ライジングホッパーの正統強化型だが、現状では装着者の肉体への最適化が行われていない。出力だけが跳ね上がった、ピーキー過ぎるキーだ。

しかし渡我は、そんな不確定要素の塊を躊躇無くフォースライザーに叩き込む。

気持ちを抉ってまで本気を出させた相手に対する、せめてもの礼儀として、自身もリスクを取ったのだ。

 

「変身ッ!」

【FORCE RIZE!】

 

ベルトのキーが強制的に展開され、ライダモデルが飛び出す。

それは、黄金に輝く2匹のバッタ。小振りなライジングホッパーと、それをオンブバッタのように背負った一回り大きいシャイニングホッパー。

2体は頭を振り上げて咆哮し、跳躍と共に分離した。

 

【シャイニングホッパー!!】

 

従来と同じく、まずライジングホッパーが小さなバッタの群れに分解。渡我の全身に群がり、黒と黄が寄せ木細工のように組み合わさった新たなアンダースーツを形成する。

次いでシャイニングホッパーも全身が分割。各対応部位の追加装甲へと再構築される。それを漆黒の拘束帯が捕捉し、スーツに引き寄せ圧着した。

 

コメカミから斜め後ろに伸びた、バッタの後脚をモチーフとした排熱ダクト。

両腕、両脚に追加された、こちらもバッタの後脚を機械化したような複雑な銀色の撥条機構。

胸部装甲のあるべき場所に付いた、剥き出しの冷却機構ラジエータ

両肩、脇腹に増設された、エネルギー噴射式の加速用スラスター。

背中から伸びる、回路模様にも似た直線的な黒い翅脈の走った緑のバッタの翅。

 

我こそ闇を退ける光When I shine,darkness fades.

【BREAK!DOWN!】

 

「仮面ライダー、001・・・シャイニングホッパー!」

 

─ボシュゥゥゥゥッ!─

【挿絵表示】

 

マスクのダクトや背部スラスター、翅の縁から蒸気や赤黒い粒子、黄金色のエネルギーを吹き出して、変身シークエンスが完了。

 

『おぉっと!ここでまさかの強化フォームのお披露目だァ!ニクいね001!』

『見せて頂きましょう。その新たな姿の性能とやらを』

 

ドクンドクンと脈動するように、赤黒い波紋が翅脈を伝う。腰を落として左手を前に構えると、真っ赤な複眼が怪しく輝いた。

「ハァッ!」

轟が左腕を振るい、炎の津波を叩き付ける。001は右脚を振り上げてムーンサルトを繰り出し、翅とスラスターから噴き出すエネルギーでバックブースト。更にプラズマを押し退ける事で回避した。

 

─ヴオンッ─

 

手を突いて着地した001の全身が、淡く金色に輝く。その光を彗星の尾のように引きながら、眼にも留まらぬ速さで突貫した。

「ちぃっ!」

 

─バキャッ─

 

直前の姿勢から当たりを付け、眼前に氷壁を配置する轟。その氷を迂回して、右側に001が迫る。轟は使い慣れた右の氷結で、咄嗟に迎撃しようとした。

しかし、氷に呑まれる寸前、001の姿が掻き消えてしまう。

「なっ!?そっちか!」

視界の端に金の残光を捉え、振り向き様に炎を放つ。だが、その炎波に呑み込まれた影も忽然と姿を消した。

「ま、幻か!?」

「違います!」

「うおっ!?」

背後に現れた001が、ショルダータックルで轟を叩き倒す。何とかバランスを崩さず振り向いた轟の眼に、信じ難い光景が飛び込んだ。

全く同じ姿の001が、同時に3体存在している。それぞれが横一直線に並び、やはり淡い光を纏っていた。

そして左右の個体が真ん中の個体に吸い寄せられるように近付き、統合されるように1つになる。

「ラーニング完了。では、本気でやりましょう」

ライザーのレバーを押し込み、必殺技の待機状態にする001。そのまま背中の翅を広げ、赤黒い発光粒子を噴射して浮上。両肩両脇のスラスターにエネルギーを圧縮チャージしながら、無数の予測演算を一瞬で算出。その中から最適解を確定させる。

 

【シャイニング!ディストピア!】

 

001がレバーに手を掛け、キーを展開。スラスターからプラズマ化した発光粒子が間欠泉の如く噴き出し、爆発的な加速を生んだ。

「ハッ!」

轟は右脚を踏み締め、炎の熱で戻ったコンディションをフルに発揮。一瞬で山の如き大氷壁を作り出そうとする。

その氷塊に、001が両腕で機関銃の如きパンチを繰り出した。

 

─ガキョンッ バキンッ─

 

インパクトの瞬間。グローブから発光粒子を噴射して拳を加速させ、更に肘に伸びていた撥条機構、シャインストライクジャッキが稼働。打撃面にぶつけられた衝撃を、更に上から叩き付けるように絶大なエネルギーで押し込んだのだ。

氷は単純な硬度はあれども、衝撃を受け流す粘性・弾性は極めて乏しい。絶え間なく連続する暴風雨の如き001のラッシュに、4秒と保たずひび割れ、崩壊する。

 

──シャイニング!ディストピア!──

 

「くっ、ダァッ!」

 

但し、轟にとって氷塊の突破は想定内。砕け散る直前にバックステップで距離を取り、地面に左手を叩き付けた。そして、一切の加減無しに炎を放出する。

その瞬間、冷却された空気が膨張すると同時に、氷が全て乾燥しきった大気に取り込まれて昇華。膨張率が更に跳ね上がり、大爆発を起こした。

「ぐはっ!」「がぁっ!?」

 

『わぁっと大噴火ァ!』

『水蒸気爆発です。成る程、新しい技のヒントになりそうですね』

 

それぞれ大きく吹き飛ばされるが、地に足を着けて踏ん張りが効いた事でギリギリラインアウトを免れた轟に対し、空中にいた001は衝撃を諸に受け、観客席上空まで吹き飛ばされる。

「んぎぃ、負けないッ!」

墜落の寸前。姿勢制御演算とスラスターへの再供給が完了し、001は再び飛翔。5m程高度を稼ぎ、再びライザーを操作した。

 

【シャイニング!ユートピア!】

 

レバーを2回引き、キー端子を展開。翅と胴体のスラスターを前回に噴かし、エネルギーを圧縮した両脚を突き出す。

 

──シャイニング!ユートピア!──

 

「ぅぐあッ!?」

叩き付けたのは、スタジアムの地面。圧縮エネルギーの開放に依って発生した衝撃波は、轟の身体を容易く場外へと弾き飛ばした。

 

『決着ゥ~!勝者、新フォームをブチ込んでくれた001!』

『驚異的なスピードに、更には飛行能力。後日、改めて検証が必要ですね。ともあれ、貴女の勝利です。お疲れ様でした』

 

キャロルの勝利宣言を噛み締め、001はヘルメットを展開。深く息を吐き、髪を掻き上げる。

「クソ・・・勝てねぇのかよ、結局・・・」

「・・・」

ぐったりと場外で倒れ伏す轟に、渡我は歩み寄る。そして手を差し出して、にっぱりと笑った。

「でも、勝てたじゃないですか、自分には」

「え?」

「意地を張りたがってた自分に勝って、命も残った。また強くなる可能性も開いた。ならこれは、ただの負けじゃ無くて、次への足がかりじゃないですか?」

「・・・」

「ちょっとは、曇りが取れましたかね。その少し冷静になった状態で、自分が何になりたかったのかを思い出すと良いですよ」

「・・・礼は言わねぇ」

「おや、自分が歪んでると理解出来たなら良かったです。鎖骨、リカバリーガールに診て貰って下さいね。では」

パージしたアタッシュウェポンを拡張領域に回収し、渡我はステージを下りて行った。

「母さん・・・」

救護ロボの担架に乗せられ、轟は空を見上げる。つかえの取れたような胸から息を吐き出し、右鎖骨の鋭い痛みと、そして左半身に宿る熱を感じた。

 

(出久サイド)

 

「勝ちましたね、我が社のエースが」

「ッ・・・!」

鉄でも握らせればそのまま鋳融かしそうな形相のエンデヴァーに、口元を扇子で隠して話し掛ける。これでもかと唇を噛み締め、釣り上がった眉をそのままに窓際から一歩後退した。

「・・・まぁ良い。結果はどうであれ、アイツの下らん反抗期にも終わりが見えて来た。これでアイツも、漸く次のステージに上がれる。その点は収穫だ」

「随分とポジティブ思考ですね。まぁ、私としても生徒の成長に繋がるであろう変化は喜ばしいモノです」

「貴様と同意見と言うのは気に喰わんがな・・・」

「まぁ貴方に気に入られたい訳でもありませんので」

「フン、減らず口は一丁前か。人を誑かす女を女狐と言うが、男にも注意は必要だな」

「おや、恐れ入ります。では、私はこれで。呉々も、家族は大切に」

パチンと扇子を閉じ、踵を返して歩き出す。そしてザイアスペックを起動し、()()()()()()()を確認した。

『よく言う。滅多に母親に顔を見せない親不孝者は誰だったか』

「仕方無いでしょ。母さんは過保護なんだ。頻繁に会ってたら、身が持たないんじゃない?」

『お前はまだ自分が未成年だと言う事を思い出すべきだな』

「ハイハイ、まぁ体育祭が片付いたら、久々に会いに行くかね。それはそれとして・・・使えるかな()()

『悪くは無い。だがこの出力には、既存のドライバーのジェネレータでは不足だ。コア・ドライビアを搭載し、併用する必要があるだろう』

「ヒュッ、流石は最強クラスの炎熱系。そんじょそこらのとはひと味もふた味も違う」

まぁ良い。あのお堅いガードをすり抜けてデータを獲られたんだ。充分過ぎる程の収穫だな。

「さて・・・問題はひーちゃんだ」

意識を切り換えて、ひーちゃんの反応の元へと急ぐ。今、彼女には僕が必要だ。

 

(NOサイド)

 

「くっ・・・ぐぅっ・・・」

人気の無い廊下に、噛み潰したような呻き声が小さく響く。001のスーツを纏ったまま、メットオフ状態の渡我がベンチに座り込んでいる。

「くぅ~・・・痛い・・・」

涙目になりながら項垂れ、辛そうに呟く渡我。

彼女が使ったシャイニングホッパー。スペックは高いが、その性能の本質は緻密に予測された高次元の機動力。それを引き出す為のアシスト機能が過剰に作用し、逆に装着者に膨大な負荷を強いるフォームなのだ。如何に強化人間となった渡我であろうと、簡単には使い熟せない。

「やっぱり、そうなるよね」

「い、出久くん・・・!」

曲がり角の奥、階段の方から現れた出久が渡我に声を掛け、隣に座る。顔を覗き込もうとする出久に対し、渡我は気拙そうに眼を逸らした。

「その、えっと・・・」

「・・・どうしたの?」

「・・・ごめんなさい」

「それは・・・何に対して?」

出久は渡我の心中を察して、敢えて掘り下げるように聴く。渡我もそれを理解して、腹を括って口を開いた。

「轟くんの!血を・・・チウチウ、して、しまって・・・彼の本気を引き出すには、私、これしか思い付かなくて・・・ごめんなさい」

「・・・うん、そうだと思ったよ。分かってる」

渡我の頭を撫でて、優しく抱き寄せる。慈しみに満ちた声は、渡我の緊張を僅かに解した。

「全然、気にしてないよ───なんて、格好良く言えたら良かったんだけどね」

「!」

「正直言うとね。ひーちゃんが轟君の血を吸った時、僕は凄くモヤッとしちゃったんだ」

「っ~!」

「でもね、ひーちゃん。それは、君が自分の役目を全うする為に、やむを得ずやった事だって、僕はしっかり分かってる。それに教師としても、轟君の成長に繋がるかも知れない、意識改革の手掛かりだ。個人的にも、教師としても、今回のひーちゃんの行動は褒めこそすれ、貶したり失望したりする理由にはなり得ないよ。

だから、ありがとう、ひーちゃん。ああまでして、勝ってくれて」

「・・・ずるいです・・・っ」

熱く朱の差した顔を隠すように出久の胸元に埋め、渡我は絞り出すように零した。

「何で社長は、出久くんは、そんなに・・・欲しい言葉ばっかり、くれるんですか。そんな事言われたら・・・益々、好きになっちゃうじゃないですかっ・・・!」

顔を上げ、熱く潤んだ瞳を、出久のそれと交える。そして混ざり合う吐息と共に、出久の熱を求めて顔を近付けた。

「フフ。残念、それは後で、ね?」

「んむぅ~・・・」

そんな彼女の唇に人差し指を当て、出久は意地悪く笑う。お預けを喰らった渡我は、むくれて抗議の眼を向けた。

「ごめんごめん。でも、その代わり・・・」

「ん・・・あれ、痛くない?」

出久の左眼が赤黒く輝き、渡我の体内のアークの因子に干渉する。すると、渡我の全身に走っていた痛みが和らいだ。

「体内で鎮痛用と組織修復用のナノマシンを作って、血中に放出させた。今のひーちゃんの身体、どう見てもシミュレーション通りボロボロだし。でも、だからって棄権なんてしたくないでしょ?だからこれは、最低限のサポート。

言っておくけど、それは治ったわけじゃ無い。壊れた組織を、ニカワでくっつけて寄せ木細工みたいに形を整えてるだけだ。無茶をすれば、すぐにまた故障する・・・」

「わぁ・・・!ありがとう、出久くん!」

「・・・」

「・・・どうかしまし、わぷっ!?」

渡我からの感謝に、出久は複雑な表情をして視線を逸らした。そして、渡我を引き寄せ、抱き締める。

「・・・分かってる。分かってるんだ。君は、僕の役に立つ事で、自らの心の平静を保つ事が出来る。

本来なら、僕は教師として、君は棄権すべきだと言わなければならない状態なのに・・・それは君に、凄まじい精神的負担を背負わせると分かっているから、それを強いる事が出来ない。教師失格な、甘過ぎる我が儘だ」

「・・・出久くんこそ、そんなに気に病まないで下さい。これも、渡我が好きでやる事ですから」

「それも分かってる!・・・そう言ってくれる事も、予測済みだよ。でも・・・その好意に甘えてしまう自分が、不甲斐なくてさ・・・」

「相変わらず、背負い込み屋さんですね。私達、やっぱり似たもの同士です」

「・・・そうだね。ホント、その通り」

「だから、出久くんは私が優勝した時の、目一杯のご褒美を準備しておいて下さい。それで良いんですから」

「ハハハ・・・分かった。頑張って、ひーちゃん」

「勿論です!」

出久の胸にネコのように額を擦り付けてから、渡我は席を立った。彼女の眼には、憂いも不安も無い。完全なコンディションだ。少なくとも、精神面に於いては。

そんな彼女を見送って、出久は冷徹に思考を巡らす。そして、1つの結論に辿り着いた。

「最悪の場合を想定して・・・彼女が、へし折れないようにしないとね」

『了解した。しかし、何とも難儀な共依存だな』

「耳が痛いよ。さて、頼んだよ、アーク」

「任せろ」

こうして、2人の密約は交わされた。誰の耳にも入る事無く、電灯の切れた仄暗さの中で。

 


 

「ヤオモモちゃ~ん、ジャージ一式作って貰えませんか~?実はさっき脱いだのが燃えちゃって、このライダースーツの下すっぽんぽんなんですよ~」

「まぁ大変!すぐに創りますわ!」

「エッッッッッ!!?な、なぁなぁ、ちょっとだけ、ちょっとだけ見せてくれよ。先っぽだけ・・・」

「頭蓋砕きますよ?」

「ヒンッ」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・渡我被身子
めちゃくちゃ頑張った吸血系ヒロイン。
轟の制約を詭弁と力技で突破させ、自身も新形態へと変身した。
本人にとって吸血とは、絆の証であり愛情表現の1つ。なので本来なら出久以外の血は余り飲みたくないのだが、今回は仕方無い。
え?個性把握テストで血を寄越せって愚痴ってただろって?あれは個性を発揮すると言う前提に必要だから愚痴ってたからであってウンヌンカンヌン。
育った環境のせいかかなりのメンヘラ気質であり、出久に対して凄まじい依存が見られる。尤も、本人自身それを自覚しており、ある程度は感情をコントロール出来るようだが。
因みに轟の血で変身する際に、煙玉の煙幕の中で1度全裸になっている。シャイニングホッパーに変身した時点で轟への変身は解除されており、万が一変身解除に追い込まれようものなら全世界に裸を曝してしまう事になっていた。
アークの因子による解析能力で個性の擬似覚醒に至っており、変身対象の個性のコピーが可能。

・轟焦凍
新たな芽が出たエリート君。
原作とは違い、心の鍵を無理矢理こじ開けられた。何気にアークゼロに煽られたのが効いてる。
今回で一応、自分の炎と父親の炎が別物であると言う認識が芽生えた。
右鎖骨骨折。後にリカバリーガールの治療により完治。

・エンデヴァー
イライラしっぱなしな獄炎マン。
轟が負けても、成長出来るなら結果オーライと強がって見せたが、出久の事はいけ好かないと思っている。
知らん間に個性データを抜かれていた。

・緑谷出久
狐系っぽく振る舞ってる1000%社長。
エンデヴァー相手にアークがデータをスキャン出来るだけの時間を稼ぎ、警告を残してその場を去った。
次いで渡我の肉体面の応急処置、精神面のメンテナンスを行い、彼女の心を更に堕とす誑し込みムーヴを見せる。
一方で、彼女に対する保険として、何らかの企みがある模様でもある。

・アーク
最近表の出番が無い一般転生悪意。
今回ちゃっかりとエンデヴァーの個性をコピーしたが、これは足元からナノマシンを伸ばして身体に這わせ、ほんの少しずつ解析するやり方。大体5分ぐらい掛かってしまう。

~用語・アイテム紹介~

・シャイニングホッパープログライズキー
仮面ライダー001の強化フォーム用のプログライズキー。
ライジングホッパーキーの正統強化型であり、高次演算能力による行動予測、更にそれを元にして、変身者の動きを最適な行動に誘導する機能を持つ。
反面、現状この機能が過剰に作用し、変身者の許容範囲を超過した稼動を行ってしまうデメリットが存在し、ただの人間ならば全身各所の捻挫や鞭打ち、最悪骨折してしまいかねない。渡我は強化人間の適応能力と身体能力で何とか喰い付いているが、それでも全身に筋肉痛が発生し、骨に微細な罅が入っている箇所もある。

・仮面ライダー001 シャイニングホッパー
【挿絵表示】

仮面ライダー001の第1強化形態。高次予測と超機動力、更に自身の未来の行動パターンを質量ホログラムとして投射し、敵の撹乱や攻撃に転用する事が出来る。
また、両肩両脇に追加されたスラスター《シャインフォースグラディエーター》から発光粒子を噴射する事でロケット式に加速する事が出来る他、背面の機械翅《シャインフォースタプト》*1の縁も同じくスラスターとして機能する。これによって高速移動中の方向転換を補助しており、同時に上昇した発熱量と釣り合いをとる為の放熱板としても作用する。また、胸部装甲も表面積を増やしたラジエータ構造となっており、表層を熱伝導率の高いアモルファスカーボンでコーティングする事で更に放熱効率を上昇させている。
また最大の特徴として、新規設計された発振装置、シャインストライクジャッキが両手脚に装着されている。平常時はそれぞれ肘側、膝側に伸びており、カッターとして近接格闘にも使用可能。そして必殺技の際にはパーツが伸縮し、シャイニングディストピアならば腕部が、シャイニングユートピアならな脚部が稼動。それぞれライダーキックとライダーパンチの威力を飛躍的に高め、更に衝撃を敵の装甲に押し込む事で徹甲性能を上昇させる事が出来る。
しかし、この跳ね上がった性能に対してリミッター方面の設計が未熟であり、常人では真面に扱いきれない程の高負荷を装着者に強いる。

*1
直翅目の英語、Orthopteraオータプターから

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