「あっちゃー、カラス君負けちゃったか~。強いわねあのボンバーボーイ」
ソフトクリームを食べながら、ロザリィが呟く。準決勝第2回戦、爆豪対常闇の決着は、閃光を発生させられる爆豪の圧勝だった。
「姐さんのその逆張り癖、早いとこ治した方が良いと思うっスよ。前にも言いましたけど」
「別に良いじゃない。
「それはそうっスけど・・・」
「それどういう意味かなロザリィ姐さん?」
「あ、ズィーク」「うげぇっ!?」
「うげぇとは何ですかうげぇとは」
若干眼を据えた出久が、2人の背後からヌッと現れる。
「ったくRD、選りにも選って社長相手に今の態度は無いでしょ」
「あっ、す、すみません・・・」
「それはそうですが、それより聞き捨てならぬ事が聞こえましたよ。
「あら、結構色んなとこでやってるわよ?雄英を基とした、ヒーロー科高校の対戦ダービー」
「学生の勝負に賭けるなよ・・・」
「え?でもズィーク、アンタもIアイランドのテストコロシアムは認めてるじゃん」
「それは競争率を上げて切磋琢磨させる為だし、尚且つそっちは全員自己責任を負える成人済みだろうが!」
「アタシに言われたってどーしよーも無いわよ。これ、私が子供の頃からの伝統だし」
「何つぅ伝統だよ・・・チィ、まさかそんな事が罷り通っているとは・・・」
「まぁでも安心して良いわ。ZAIA社の皆は、自分の得意分野以外なら最低限の良識は持ち合わせてるから。あってバーでタダ酒を取り合う程度よ」
「敗者が勝者に奢るって事?」
「そゆこと。違法賭博に比べれば、可愛いモンじゃない?」
「イヤイヤ、比較対象がおかしいんだよ・・・」
盛大に溜息を吐き、目頭を押さえる出久。尚、かく言う出久自身も大概おかしな比較対象を引っ張り出すので、そこそこブーメラン発言ではある。
「にしても強いわねぇ、ズィークのガールフレンド」
「まぁね。けど、僕がいてあげなくちゃいけない。支え甲斐のある子だよ」
「あら、何か訳ありってヤツ?」
「ま、そんなとこ。だけど・・・そう言う所、姐さんは根掘り葉掘り聞こうとしないタイプだと思ってたんだけどな。
「あぁ~・・・確かに不躾だったわね。ゴメンゴメン」
「気になるなら本人と仲良くなってから、ひーちゃん自身から聞けば良い。僕から言えるのはそれだけだよ。
あと彼女は繊細だから、距離の詰め方には注意」
「ハイハイ、分かったわ。にしても過保護ねぇ」
「姐さんと言う相談役を確立出来ず、つい去年まで抑圧状態で働き詰めだった場合の僕の状態を想像して。それをソックリそのまま彼女に移し替えた時、まだ過保護だと思うなら好きに思えば良いさ」
「ん~と・・・あぁ・・・」
「でしょ?下手すると敵になってたかもだし」
思い切り顔を顰めるロザリィに、肩を竦めてみせる出久。そんな中、RDは深刻そうな顔をして俯いていた。
「ん?どした~RD?」
「いや、その・・・何て言うか・・・似てますよね。社長と、あのトガって子」
若干眼を泳がせながら、何とか絞り出すように言うRD。その仕草は、どう見ても過剰なストレスを抱えたそれだ。
「まぁ、それはそうですね。お互いに抱え込みやすいタチですし・・・にしても、随分と疲れているようだ。私はこの辺で引き上げた方が良いですね」
「えぇ~?まだもうちょい時間あるじゃん」
「彼の様子を見るに、どうやら私の前だと緊張しちゃうみたいだし。やっぱり社長って肩書きは威圧的なのかな」
「案外アンタの腹黒い所を察知してるのかもよ?」
「ハハハ、だったら実に有望だ。じゃあね。そう遠く無い内に、
「そ、楽しみにしてるわ♪じゃあね♪」
「ん、じゃあね」
頷いた出久はピラピラと手を振り、その場を後にした。彼の背中が見えなくなった事を確認し、RDは大きく息を吐き出す。
「・・・大丈夫?」
「な、何とか・・・」
明らかに様子のおかしいRDに、さしものロザリィも心配そうに顔を覗き込んだ。
「逆に、姐さんは何で平気なんスか・・・あの人、マジでヤバいっスよ。恐怖そのものみたいな、ドス黒い感じがするし・・・」
「へぇ・・・驚いた。アンタ其処まで分かるのね。アンタの評価、ちょっと見直すわ」
「分かるって何スか!?教えて下さい、姐さん!」
「ゴメン、それはムリ。我が社のトップシークレットだから」
「そんな・・・」
「ま、裏切りとか考えてない限りは安心して良いわよ。無闇矢鱈と力を振り翳す人じゃ無いし」
「・・・裏切ったら、どうなるんスか?」
「ん~、そうね・・・」
少しだけ眼を閉じ、何事かを考えるロザリィ。間も無く結論を纏め、口を開いた。
「社外秘情報をライバル企業に売ろうとしたヤツが居たんだけどね?」
「はい・・・」
「不正の証拠を全部公開して、更にそれをネットに放出。その上で裁判を起こして、ソイツの全財産の大体10倍ぐらい毟り取ったわね。そして勿論解雇。何をしたのかが知れ渡っちゃってるから、ソイツは何所に行っても後ろ指指されてるそうよ。
あ、そうそう。確か不倫の証拠も掴んで、相手のお嫁さんに離婚裁判を起こすように仕向けたりもしてたっけ。縁を切らせる事で、そのお嫁さんを周囲からの誹謗中傷から守る為の措置だったんだろうけど・・・」
「え、えげつないっスね・・・」
「そうね。だからアイツ、と言うかウチの会社は結構怨み買ってたりするのよ、色んな所から」
「えっ・・・それ、大丈夫なんスか?」
「まぁ、日本以外だとヤバいかもね。だから、アタシは基本Iアイランドから出ないのよ。彼処は基本安全だしね。
アンタも精々・・・いや、寧ろアンタは心配無用か。そのヘンな勘みたいなのがあるし」
「投げやりにしないで下さいよ~」
───
──
─
『さぁさ皆さんお待ちかねェ!遂に最後の決勝戦!
北方!無慈悲な暴力!不可避の誘爆!勝利に喰い付くベルセルク!バーサクボンバー、爆豪勝己ィ!
続いて南方!無双の戦勝!魅せるは飛翔!喰らって見せろ森羅万象!ローカストガール、渡我被身子ォ!』
【FORCE!RISER!】
「漸くだ。漸くテメェをぶっ殺せる」
「安っぽい殺意ですねぇ。貴方、ホントに人を殺したいと思ったことあります?」
「当たりめェだ。俺に並び立つヤツなんざ居ちゃいけねぇ。何が何でも、俺がトップになるんだよ」
「・・・もう良いです。会話を成せない事は証明出来ました」
【JUMP!】
「あ?」
「変身」【FORCE RIZE!】
【ライジングホッパー!】【BREAK!DOWN!】
001へと変身を済ませ、自然体の素立ちを取る渡我。それに対して、爆豪は血管が破裂せんばかりの憤怒に染まる。
「テメェ、さっきの新しいヤツはどうした・・・本気のテメェを真っ向から叩き潰さねぇと、意味がねぇんだよ!」
「さっきのは、心情を踏み荒らした事への最低限の礼儀です。そうポンポンと切るモノは、切り札とは言わないんですよ」
「上等だ。だったら引きずり出し殺したるわ」
バチバチと掌を爆ぜさせ、口角を吊り上げる爆豪。対する001は左手を前に出して腰を落とし、その構えの中で奥歯をカチリと噛み合わせる。それをスイッチとして、秘かに修復ナノマシンの生成量を増幅させた。
『じゃあ行こうか決勝戦!Ready!Fight!』
主任の合図と同時に、爆豪が爆裂射出で突貫。001はアップデートされた予測演算ソフトによって、爆豪の次を読む。
「死ねェ!」
(右の大振りは目眩まし、爆炎に隠して左の後ろ回し蹴りが来る)
フェイントに掛かった振りをして、バックステップで爆炎から距離を取る001。そこに爆豪が流れるように後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
─ガキィッ─
その蹴りに左肘を打ち合わせ、001はノーダメージでガード。爆豪は更に右脚で跳び上がり、爆破で勢いを乗せた延髄斬りを蹴り込もうとする。
しかし、その蹴り脚も右手でキャッチされ叩き落とされた。しゃがみ込むように着地した爆豪は、間髪入れずつんのめるように突進。倒れ込む前提の前傾姿勢から左前腕を地面に着け、変則的なセパタクローキックに繫げる。
この一撃も、001なら回避可能。しかし、敢えて胸部装甲で受け止める。
「チッ、クソが。揺れすらしやがらねぇ」
「まぁ、トン単位のパワーでステゴロする前提の装備ですからね」
「ハッ、だったら10トンでも100トンでもくれてやらァ」
「へぇ、ま、挑戦するだけタダですしね」
飄々と言ってみせる001だが、マスクの下では苦虫を噛み締めたような顔をしていた。フォースライザーシステムは、装甲を分割し致命的部位を重点的に守る事で、総合的な生存率を引き上げる設計思想。則ち、装甲で容易く受け止めきれる、若しくは回避出来る物理的衝撃への耐性をメインとして構築されているのだ。その為、広範囲に叩き付けられる爆圧等には比較的大きなダメージを喰らってしまう。その点で、爆豪は相性の悪い属性と言えた。
「くたばれェ!」
─BbbbOM!─
「チッ、やりづらい」
振り抜き、薙ぎ払い、踏み込み掌底。様々なやり方で爆破を叩き込もうとする爆豪と、その悉くを去なし、躱し、見切って潰す001。しかし舌打ちと共に出た愚痴の示す通り、ダメージは無くとも決定打も無いのだ。
「テメェ、さっきから何で防いでばっかいやがる。何で反撃して来ねぇ」
「うるっさいですねぇ」
決定打が無いとは、攻撃出来ないと言う意味では無い。致命傷を喰らわせる事無く、ダメージを与えるのが難しいのだ。
(ったく、加減した攻撃は全部見切ってくるし、でもスピード乗せると殺しかねないし・・・面倒臭いったらありゃしません)
そう。001を始め、ZAIAのパワードスーツはパンチ力、キック力はトン単位が基本。自動車に跳ね飛ばされるのと変わらない威力が軽く発生する。当然、真面に当ててしまえば良くて複雑骨折、悪ければ着撃点の肉が破裂してしまう。
普段からライダーシステム同士で訓練をしているせいで感覚が麻痺していた渡我は、生身の人間にライダーシステムを使う事が、ムカデを殺す為にビームサーベルを振り下ろすのと大して変わらない事を改めて理解した。
「ハッ、温まって来やがったぜ!」
「くっ、此処から加速しますか」
対して、ヒートアップにより更に苛烈になる爆豪の攻撃。その上アーマーの薄い脇腹を狙ったり、爆破も手を窄めるように丸めて放射爆裂から一極集中に切り換えたりと、明らかにダメージ効率を引き上げ始めている。001のヘルメット内インターフェースの装甲数値モニタが、残りAP80%を切った警告を表示した。
「こンの───ガッ!?」
叩き付ける爆裂掌を捌こうとして、突然の激痛に硬直する001。全身隈無く罅が入るような痛みが襲い、骨を、筋肉を、神経を蝕む。増加するダメージと運動量に、ナノマシンによる修復と鎮痛が追い着かなくなったのだ。
「でりゃァ!!」
「うげあっ!?」
硬直した001の身体を、爆豪は容赦無く爆破で追撃。受け身も取れず吹き飛ぶ001の脳内チップは、許容数値を遥かに超える痛覚信号にアラートを発する。戦闘続行は不可能と判断したフォースライザーは、装甲を砕けるように随時消滅させる事で衝撃とダメージを吸収し、変身状態を解除した。
『ストップ!そこまでだ。勝者は爆豪!』
「あ゙・・・?巫山戯んなよ、オイ。何だよそりゃァ・・・認めねェ、認めねェぞこんな決着ァ!」
「ちょっ、爆豪君!」
激昂し、倒れ伏し呻く渡我に掴み掛かろうとする爆豪。しかしミッドナイトの制止よりも早く、爆豪の脚を踏み留まらせるモノがあった。
【JACKING BREAK!】
音速を突破する速度で射出されたサウザンドジャッカーが、爆豪の前方に突き刺さったのだ。
「ハッ!」
そして、観客席の階段から助走を付けて飛び降りた男。言わずもがな、緑谷出久である。
出久は渡我の元に駆け寄り、躊躇う事無く跪いた。
「しゃ、ちょ・・・ご、め・・・な・・・さ・・・」
「良いんです、被身子さん。そんな状態で、良く戦ってくれました。今は休みなさい」
渡我の眼を真っ直ぐ見詰め、出久はアークに指示を出す。出久の左眼が一瞬だけ赤黒く輝き、渡我の脳とアークの因子をハッキング。内側から意識を強制的に落として痛覚を遮断し、更にナノマシンの生成を最優先とする命令を書き込む。
「メディック、搬送なさい」
『ハイヨー』『急患ダ急患ダー』
ロボの担架に乗せられて搬送されて行く渡我を見送って、ステージに突き立っていたジャッカーを引き抜いた。
「さて、これにて決着。優勝は爆豪勝己君。優勝者に盛大な拍手を────なんて、誰も納得なんてしませんよね」
ザイアスペックでネットに投下され続けるコメントに眼を通しながら、若干の溜息交じりに出久が言った。
肩透かしだ、つまらない、真面目にやれ、何をやっているんだ、白ける、等々・・・事情も知らないその他大勢が書き込む心無いコメント。そのまま放置など、出来る訳も無い。
「不調の001に勝った所で、貴方も不完全燃焼でしょう。そこでどうです?優勝者、爆豪勝己君と、この私、仮面ライダーサウザー・・・決勝戦の更に先、エクストラステージにて、真の最終戦とすると言うのは」
腕を大袈裟に広げ、提案の形をしているだけの宣言を行う出久。ネット民は期待に溢れ、爆豪も凶悪に口角を吊り上げる。
『あらら、良いのかな~社長?そんな露骨な身内贔屓しちゃって』
「当然です。私は社長、最優先は自社の利益!身内を贔屓せず何が社長か!」
ガツンとジャッカーの穂先を叩き付け、高らかに叫ぶ。その眼には一点の曇りも無く、自信に満ちて輝いていた。
『成る程ねェ~。まッ、どーせならそうしようかァ!?その方が楽しいだろ!ギャハハハハハ!』
『爆豪選手、異議はありますか?貴方には拒否権がありますが・・・』
「・・・ハッ、嘗めんじゃねェぞ!テメェをぶっ潰して、完膚無き1位をもぎ取ってやる!御託は要らねぇ!今すぐやンぞァ!!」
「そうだと思いましたよ」【THOUSAN DRIVER!】
待っていましたとばかりに、出久はバサリと上着を脱ぎ捨ててドライバーを装着。2つのキーを取り出し、アルシノキーを左スロットに装填する。
【ゼツメツ!EVOLUTION!】
【BREAK HORN!】
「変身!」
【PERFECT RIZE!】
駆け回るアルシノロストモデルと、上空を旋回するコーカサスライダモデル。黄金のエネルギー波動を放ち、周囲に威光を知らしめる。
【When the five horns cross!The golden soldier THOUSER is born!!】
組み交わされる5本の角。一体となった2つのモデルは出久を前後に挟み込み、次いで爆発するように分解。アンダースーツを体表に形成し、細分化されたパーツが全身各所に装着。銀色に輝く強固なプロテクターとなった。
最後に、5本の角が頭部に接続。パープルのセンサーグラスが展開し、変身シークエンスが完了した。
【Presented by ZAIA】
出力を司るフュージョンリアクタが最高出力で起動し、過剰供給された余剰エネルギーの一部が背中の排熱機構から放出される。メインシステムが戦闘モードで起動し、センサーグラスがギラリと輝いた。
『では、社長、爆豪選手、活躍を期待します』
『じゃあ行こうかァ!ギャハハハハハ!』
「死ねェ!!」
下から胴体をアッパーのように打ち上げる爆破を、サウザーはただ直立して受ける。更新された装甲構造はダメージを吸収、受け流し、内部への伝播を防いでいた。
「嘗めてンじゃねェぞァ!」
左右交互の凄まじい連撃。それすらも重心と姿勢を瞬時に解析する事で、最小限のダメージに留まるよう受け流す。
「AP減少8%。ラーニング完了」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる!とっととくたばれァ!」
サウザーのマスクを掴み、爆破。頭部に0距離からサウザーはしかし、大して堪えた様子も無くその手を逆に掴み返す。
「なっ!?」
「ご協力感謝します、爆豪君。ここまで一方的に攻撃に当たる事など、そうそうありませんからね。装甲性能の良いデータが収集出来ました」
「クソッタレが!放しやがれッ!徹甲弾ォ!」
爆豪は拘束された右の掌に、筒状に丸め窄めた左手をくっつける。そして局所的にニトロを着火し、新たに習得した必殺技、徹甲弾を撃ち込んだ。
「っ・・・ほう、形成炸薬弾にも似たモンロー爆裂。何だかんだ言って、君も私から吸収出来る物を吸収してくれているんですねェ。教師として嬉しいですよ」
「ほざけ!元々テメェが俺の個性パクった技だろうが!」
「あぁ、済みませんね?オリジナルより使い熟しちゃって」【JACKING BREAK!】
「100ぺん殺す!」
流れるような煽りに更にボルテージが上がり、ますます白熱する爆豪の連撃。サウザーはホーシュークラブのジャッキングブレイクにより金色のバリアを発生させたジャッカーで防ぎながら、トントンとバックステップで距離を取る。
「閃光手榴弾ォ!」
左手から閃光を炸裂させ、同時に爆裂噴射で前進する爆豪。そして更にサウザーの顔面に威力を絞った爆破を浴びせ、慣性のベクトルを変換して頭上を飛び越えた。更に、背後から高威力の爆破を間髪入れず浴びせる。
「ぬぅ・・・やはり天才型、何でも咄嗟に出来てしまいますね」
「ハッ、他がトロいだけだ」
「いけませんねぇ。その思考、実にいけません。自分の尺度だけで他人を見れば、共闘や作戦行動に致命的なガタが来ますよ」
「こんな時すら説教くせェなァ!」
「素行に問題があるんですよ!貴方は!昔から!」
【JACKING BREAK!】
ジャッカーから凄まじい冷気が放たれ、周囲を瞬く間にホワイトアウトさせた。
「ぐおっ!?冷てッ!」
【JACKING BREAK!】
「ぐあッ!?」
「ジャッカー・ドルカシスクラッチ・・・隙あり、ですよ」
煙幕を斬り裂いて、一対の黄金の牙が出現。爆豪の胴体を捉え、喰らい付く。
そしてジャッカーの尻を蹴り付け、場外へと押し飛ばした。
『決着ゥゥゥゥ!勝者は仮面ライダーサウザー!まぁこんなモンかな。爆豪も、ガキンチョにしては良くやったよ』
「勝負あり、私の勝ちですね」
「クソッ!テメェ、嘗めた事しやがってェ!」
「仕方無いでしょう?殴ったら肉が破裂するんです。時速100kmオーバーの大型トラックに轢き飛ばされるような衝撃を、拳一点で喰らいたかったんですか?」
「んぎぎィ・・・!」
「まぁ、これで私の実力は分かって貰えましたかね。無礼極まりない態度の事はもうこの際諦めますから、取り敢えず真面目に話を聞いて下さいね」
「ガルルルルルル・・・」
「いや犬か貴様は・・・」
歯を剥き出して威嚇する爆豪に呆れかえりながら、サウザーは変身解除してジャッカーを振るいホルスターに収納する。
「テメェ!次はゼッテェにぶっ潰してやらァ!首洗って待っとけよコラァ!」
「生憎と、君には私の首の値段は払えませんよ」
ぴらぴらと手を振って、出久はステージを下りた。そして脱ぎ捨てた上着拾い上げてをはたき、袖を通して下衿を整える。
「さて、問題は・・・」
『急いだ方が良いだろう』
「誰よりも分かってるともさ、アーク」
目元を深刻げに尖らせ、出久は脚を早める。アークの言う通り、余り時間が無いからだ。
(渡我サイド)
「・・・ん」
沈んでいた意識が、ボンヤリと浮かび上がって来る。眼を開けると・・・見覚えの無い、天井・・・
視界の端は、白いカーテンで区切られている。此処は、病院・・・?
「私、は・・・あ」
意識が、一気に覚醒した。同時に、最後の記憶が蘇る。
「おや、気が付いたかい?」
「あっ・・・あぁっ・・・ぅあぁッ!?」
そうだ。私、爆豪に負けたんだ。
負けた
「ぐっ!?」
役に立てなかった
「あがぁっ!?」
「どうしたんだい!?ちょっと、気をしっかりもちな!」
分裂した不安と言う意識が、私を攻撃する。五臓を殴り付けるように。六腑を踏み躙るように。
価値を証明出来ない
「ハッ、カハッ・・・ハッ、だい、じょ、ぶ・・・だい、じょうぶ・・・」
「過呼吸起こしてるヤツが大丈夫なもんかい!」
がっかりだよ、ひーちゃん。いや、渡我被身子。
「あぐぅ!?」
拙い。いちばんダメなヤツが来た。私の最大の拠り所を破壊する、私の最大の絶望。
息が詰まる。内臓が焦げる。脳髄が劈かれる。
まさかあの程度にも勝てないなんて。そんな役立たずは、私の会社にはいりません。
「・・・ぁれ」
「渡我!?大丈夫かい!?渡我!?」
所詮は、人のなり損ないでしたか。
「ぁまれ・・・!」
利用価値の無くなったモノは、不利益を被る前に・・・
「だまれ・・・ッ!」
「黙れッ!黙れ黙れ黙れッ!黙れェ!言わない!そんなこと、出久くんはいわない!いうわけないっ!すてるわけないんだぁ!」
「渡我!落ち着きな!渡我!アンタの敵は、ここにはいないんだ!」
結局、相手の慈悲に縋るだけ。自分じゃ何も出来ない。その癖、お前は欲しがるのを止めない。浅ましい。図々しい。厚かましい。
「ひぐっ・・・ぅあぁ・・・ッぐ・・・ぅわぁぁぁ・・・」
痛い。止まらない。止ま痛いらない。眼痛いが熱い、痛い。胸が潰痛いれて、痛い息が吸えない。痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。
暗い。狭い。怖い。恐い。
泣いたら誰かが助けてくれると思ってるの?本当にみっともない。甘ったれ過ぎでしょ。
お前は生きてるだけで、他人に迷惑を掛けるんだよ。申し訳無いと思わないのか?お前を生んだせいで、お前の親も恐かっただろうなぁ?
「ぁす・・・け・・・」
求めるな。縋るな。お前にそんな資格なんてある訳が無い。
「たす・・・ぇて・・・」
強請るな。足搔くな。お前は、生きていちゃいけないんだ。
「たす・・・けてぇ・・・」
お前は
「たすけて・・・いずくくん・・・!」
生まれて来るべきでは──────
「ひーちゃん!」
───
──
─
「あ・・・」
暖かい・・・痛くない・・・苦しく、ない・・・
「ひーちゃん」
「あ・・・あぁ・・・っ」
やっぱり、そうだ。彼が・・・出久くんが、来てくれた。
私を抱き締めに、来てくれた。
生まれた意味を、与えてくれた。
「いずく、くん・・・いずくくんっ!」
「・・・頑張ったね。辛かったね・・・大丈夫。今、此処に、僕が居る」
ああ、暖かい。私のヒーロー。私のお日様。
「いずくくん・・・わたしの・・・とがのこと、すきですか?」
「勿論。大好きだよ。ほら」
「・・・すてたり、しないでね・・・?」
「捨てられないよ。僕はもう、ひーちゃん無しにはマトモに生きられない。それは、ひーちゃんも知ってるでしょ?」
「・・・あは、そうですね。出久くんは、頑張り屋さんで、溜め込み屋さんで・・・私が、いないと・・・」
「うん。だから、今は眠って。僕の為に。僕の役に、立ってくれる為に・・・お休み、ひーちゃん」
唇に触れる、柔らかい熱。流れ込んでくる、甘い熱。
あぁ、私は・・・生きてて・・・良いん、だ・・・
(出久サイド)
「・・・フゥ・・・」
溜息を吐き、冷や汗を拭う。何とか発作が治まって、安らかに寝息を発てるひーちゃんの口元に着いた血を拭い、次いで自分の唇も同じく血を拭き取った。
「済みません、リカバリーガール。お騒がせしました」
鉄の味のする唾を飲んで、この医務室の主、リカバリーガールに向き直り頭を下げる。彼女の顔は極めて険しく、杖を握る手と、口元が震えていた。
「この子は、何なんだい・・・今の取り乱し方・・・と言うより、アレはもはや錯乱、いや発狂と言う方が正確なレベルじゃあないか」
「複雑な事情があるんです。この子は・・・一度、凄まじいまでの傷を負っている。自分の全てを、引き裂かれるような・・・」
「それを知って・・・こうなる可能性まで知っていて、アンタはこの子を戦わせたのかい!?」
「・・・」
「答えるんだ、緑谷出久!」
煮え滾る熔岩のような憤怒を宿した眼が、僕を鋭く射貫く。そして、彼女の言う通りでもあった。
「本来なら、精神病院に罹るべき状態である事は分かっている筈だ。それを何故・・・」
「・・・仕方無いんですよ」
こんな事を言うのは、心苦しい。アークが何とか肉体を平常に保ってくれているが、それが無ければ泣き崩れてしまいそうだ。
「彼女は、私に承認され、褒められる事でしか、自分を肯定出来なくなっているんです。精神の平静を保つ為には、彼女自身に《緑谷出久の為に働き、貢献している》と認識させる他無い。交友関係の構築によって改善する事を目指すリハビリとして通学しながら、近くで私が支える・・・これが、現状なんです」
「アンタ・・・」
「・・・失礼します。彼女の事は、任せて下さい」
ひーちゃんを横抱きに抱えて、リカバリーガールの横を通り過ぎる。当のひーちゃんは、安らかに寝息を発てたままだ。
「待ちな!」
呼び止める鋭い声に、脚を止めた。
「その子が特別なのは、致し方無い。けどね、呉々も、今のその子に手を出すんじゃ無いよ。安易に肉体関係を結べば、確実に依存症になる!日常生活が送れなくなる程にね・・・」
「・・・重々承知しています。私は、この子には手を出さない。いつか・・・損得を抜きに、この子が愛を受け入れられるようになるまで、絶対に」
強く答えて、医務室を後にする。
本当は分かっている。専門機関に任せる事が、ベストになり得る可能性が高い事を。
ひーちゃんを抱えたまま、僕は唇を噛んだ。
僕は、尤もらしい大義名分未満の屁理屈を並べてまで、それを拒んだ。自分の心の鍵を、手放したくないから。
愛している筈の、愛して当然のこの子を、何所までも利己的に、冷酷に利用し続ける。そんな自分自身を嫌悪しながら、彼女を抱えて歩き続けた。
to be continued・・・
~キャラクター紹介~
・緑谷出久
ドス黒ヤンデレメンヘラ社長。
爆豪との因縁は一応決着したが、それを超えるドロドロ粘度の闇が溢れ出した。
精神がすり切れており、渡我を介してしか根本的に安心する事が出来ないと言う中々にヤバい状態。そしてそれを自覚し、身勝手なエゴで渡我を縛っている自分に嫌悪感を抱いている。渡我の状態を無意識に隠れ蓑にしようとしているが、それすらも自覚して自責する。
彼女への愛にこのような不純物が混ざる事に、怒りと罪悪感が生まれている。
キスの直前、扇子に仕込んでいた護身用ナイフで口の中を切り、血を口移しする事で鎮静させた。
爆豪に投げ付けたのは、ラッシングチーターのジャッキングブレイク。音速を超える加速をジャッカーに付与しての投槍、ジャッカー・ソニックケラノウス。
・渡我被身子
ドス黒メンヘラヤンデレヒロイン。
決勝戦で苦戦した結果、運動によるダメージ蓄積のせいでナノマシンの痛覚中和をオーバーした事で戦闘不能に。結局攻撃らしい攻撃が一切出来ず、捌いているだけで終わってしまった。
過去、人生の大半を親にすら否定され続けて生きてきたせいで、自分を肯定出来る確固たる材料が無ければ強烈な自己否定観念に襲われてしまう状態。普段は出久に貢献していると言う自負で精神を安定させているが、それが揺らぐとバランスが一気に崩壊する。それでも尚その自滅衝動に呑まれず抗えるのは、出久との繋がりを無意識に感じているから。
逆に言うと、出久ぐらいしか生き続ける理由が無い。非常に危うい綱渡り状態である。
・ロザリィ
強か守銭奴お姉さん。
雄英高校のトーナメントでバトルギャンブル気分を味わうという中々のグレーな遊びをしていた。相手は居なかったので賭けは成立していなかったが、本拠地のIアイランドでは罷り通っている模様。
ZAIA社に喧嘩を売った裏切り者の末路を見て来たので、目先の利益だけを見て裏切る事は無い。
・RD
ビビリ舎弟。
出久を裏切った恩知らずの末路を聞いて青ざめた。
一応、現在は庇護下であると理解したので少しだけ恐怖が落ち着いた。
・爆豪勝己
初めて明確に敗北を喫した爆裂才能マン。
ライダーシステム相手にそこそこのダメージを与えると言う、文字通り超人的な大立ち回りを行った。しかもそれを2連戦すると言うのも、そもそも驚異的なスタミナが無ければ成立しない戦果である。
出久相手にやった飛び掛かりからの目眩まし兼方向転換の爆破、更に背後から追撃と言うコンボは、原作の戦闘訓練で出久に喰らわせたもの。
・リカバリーガール
雄英高校保健室のドクター。
渡我の発狂を見咎め、出久に釘を刺した。こんな生き方しか出来ない2人に対して、内臓を握られるような複雑な心情を抱いている。
~用語紹介~
・装甲数値/AP
装甲の損耗率を可視化した数値。大まかに物理エネルギー/KE防御、化学エネルギー/CE防御、熱変動エネルギー/TE防御の3項目を基本としており、サウザーはそれぞれの装甲を高バランスで配合したハイブリッド装甲である。
これはサウザー以外のライダーやレイダー、及びAC毎に得意・不得意な防御属性があり、001やダウンギャンブル機等はKE防御特化。バトルレイダーやデリンジャー機等はCE防御に秀でており、ウルフレイダーやハングドマンはTE防御に重きを置いている。
それぞれ、特化している以外の攻撃に対しては比較的打たれ弱いが、逆に耐性のある攻撃に対してはサウザーよりも打たれ強い。