「だはぁッ!ハァ、ハァ・・・」
夕暮れ時のグラウンド。膝に手を付き、滝のように流れる汗をボタボタと土に落とす、G13爆豪。息も絶え絶えで膝も笑っているが、プライドだけで倒れ込まずに堪えている。
「フム、やはり聞いていた通り、其処らの役立たずとは比べ物にならんスタミナだな」
そんな爆豪を観察し、顎に手を当てて呟くミシガン。ギラリと輝く眼光の奥には、複数の理論や仮説が平行して展開されている。
「やるじゃねぇか。あんだけ走らされてまだ立ってるたぁな。ほらよ新入り」
「ケッ、クソが・・・」
ヴォルタが差し出したスポーツドリンクを毟り取り、ガボガボと飲み下す爆豪。先程まで荒々しかった呼吸も、既に大分落ち着いて来ていた。
「ぶはぁ!クソが、着いて早々に新人いびりか」
「何を勘違いしているG13!この延々マラソンは入隊者全員が行う、謂わば登竜門だ!現状の正確なデータ無くして、適切な指導など出来る筈も無いだろう!」
「ケッ、どうとでも言えるわ」
苛立たしげに両手を爆破しながらぼやく爆豪。しかし背筋はしゃんと延びており、若干ぎこちないながらも歩行には大きな支障は無い。
「G13。お前のその規格外のスタミナ、大元にあるのはなんだと思う」
「あ?知るかそんなもん。其処らのモブ共がへばりやすいだけだろ」
「G13、何時誰が他人の話をしろと言った!」
「あでっ!?」
「自他を正しく認識出来ない奴は、役立たず以下の後退野郎だ。分かったら人の事を真っ直ぐに見ろ」
チョップで打たれた脳天を擦る爆豪に、静かに指摘するミシガン。己を知り敵を知れば、百戦危うからず。しかしどちらか片方でも怠れば、そこが致命的な失敗に繋がる弱点となるからだ。
「俺の見立てでは、G13。貴様は他人よりも、血液によるガス交換効率が高い筈だ。貴様の個性、書類を読んだ限り、本質は《汗腺の変質》だろう。特殊な臓器なども無い事から、貴様は汗腺で直接爆発性の体液を生成している事になる。
ニトロとは、簡単に言えば炭素と窒素と酸素の化合物だ。その原料を賄えるのは、血中の有機物とガスのみ。つまり貴様程の爆発力を支える為、心肺機能とガス交換効率は常人の10倍以上はあると言う事だ」
「成る程、道理でバテねぇ訳だ」
「ソイツを伸ばすとなりゃあ、俺らの所は持って来いだな」
納得し頷くイグアスと、ニヤリと笑うヴォルタ。どうにも深い理解が追い付かない様子の爆豪に、ミシガンが続ける。
「G13!貴様には、高標高での低酸素訓練を施す!間違ってもくたばるなよ?」
「なっ!?いきなりかよ!準備もクソも・・・」
「お前の荷物と、追加の防寒着等は既にレッドが揃えてある!目標は隣の山頂のコテージ!さぁ行くぞ!愉快な遠足の始まりだ!続けェG13!」
「おいまた走んのかよ!」
「出来んとは言わせんぞ?さぁ、熱い風呂と美味い飯、柔らかい寝床が欲しければ足を動かせ!着き次第今日の訓練は終了だ!」
「クソが!」
夕日を背に、ミシガンと爆豪の地獄の山地ランニングが始まる。自衛隊の山地機動訓練にも使われるそのルートは、一般人ではまず通過出来そうに無い地獄のような道のりだ。この日、爆豪は出久を腸が沸騰する程に恨んだ。
(出久サイド)
「うん、じゃあね。また明日」
ひーちゃんの通信を切り、ベッドに座る。
「それにしても・・・このタイミングで此処か。全く、厄介なもんだよ、古狸ってヤツは」
『超常黎明期からの老舗を護る手腕だ。厄介であって当然だな』
僕のボヤきに、アークが答える。
現在地、東京都保須市のビジネスホテル。2日後に同盟企業の責任者達との会食の予定が入っている。しかし現在、この街には井戸端を賑わす凶悪犯罪者、ヒーロー殺しステインが潜伏している可能性が非常に高い。他企業のメンバーは問題無いが、僕の場合は面倒だ。アークが集めてくれた情報に依れば、ヤツの行動理念は『利己的なヒーローもどきの粛清』。どうやら時代錯誤のヒーロー像に取り憑かれているらしい。
ステインの言うヒーローもどき、『贋物』とは、救命や戦闘が真心からの
そして最大の問題は、ヤツの思想に対して僕と言う存在、立場が真っ向から対立するものである事。僕の活動理念は会社の発展、それと同列に人命救助だ。メディアに広告塔として露出し、会社の収益に繋げる僕の行動は、ヤツの神経を金切りヤスリのように逆撫でるだろう。
『そして、飯田天哉が無謀な行動に走る確率も・・・』
「そうなんだよなぁ。寧ろそっちの方が大問題か」
僕がステインに襲われるのは、まぁ良い。技術も種も割れている敵如きに下される程、サウザーは甘くない。だが、万が一飯田君に後遺症が残ったり、死亡したりしたら・・・重大な責任問題になりかねない。
「全く、面倒な事になった」
『私も面倒は嫌いだ。取り敢えず、市街全域の監視カメラに侵入しておく』
「そっちは任せるよ、アーク」
ボフッとベッドに倒れ混む。悪くない感触だが、ウチの寝室には負けるな。
「・・・仕方無い。ちょっとばっかし手間を掛けるか」
連絡先を開き、目的の番号を見付ける。重く溜め息を吐きながら、その連絡先を呼び出した。
━プルルルルッ ピッ━
『此方は~、第13課、ハングドマンですぅ~。お掛けになった電話番号は、現在~、どっか行っちゃっておりますぅ~』
「蹴るぞ貴様」
ワンコールで出てノータイムでボケて来やがった。勘弁してくれよ本当に。
『イヤイヤ~、そんな怒る事無いじゃない?ちょっと巫山戯ただけでしょ~?』
「単刀直入に言います。明後日14時までに、AC第1分隊と
『えぇ?こんな急に要求してくるの珍しいネ。何かあった?』
「ファーロンの古狸が指定した会食の現場、ヒーロー殺しの出現する確率が87%の場所なんですよ」
『ははぁん成る程、社長や俺らの対応力を見たいって訳だ』
「恐らくそう言う事です。では、お願いしますね」
『ハイハーイ。じゃあギャンブルとスカイが空いてるから、そいつら向かわせるネ』
「頼みましたよ。それでは」
通信を切り、枕に顔を埋めてまた溜め息を吐く。全く、大変過ぎる・・・
「・・・ひーちゃんとの通話、この後にした方が良かったかもな。いやでもなぁ・・・この時間だしなぁ・・・」
『出久。時間を理由に通話を躊躇しているが、お前も渡我と同い年だぞ』
「そうだったねぇ・・・寝よう」
時刻は11時半。こんなしんどい日には、泥のように眠るに限る。
(NOサイド)
「皆様、今回も有意義な会談でした。今後とも、宜しくお願いします」
時は過ぎ去り、4社会食の後。高級料亭の門を潜り、出久は小さく頭を下げる。
「こちらこそネ、ミドリヤ社長。大豊はこれからも、ZAIAと仲良くするヨ。その方がお得ネ♪」
「そう言っていただければ幸いです。」
パチリとウィンクして見せる、赤いチャイナドレスの美女。
「むぅ~、やっぱりミドリヤ社長、全然ドキドキしない、つまらないネ~。アタシ、魅力無いかなナ?」
「いえいえ。とても魅力的ですよ。ただ、私にはもう相手がいるので。私に手を出そうとすると、場合によっては蹴飛ばされて星になりますよ」
「あー!体育祭のあの子ネ!それは怖い、止めとくヨ。あ、でも良いとこまで行ったヤオヨロズって子、とっても
「あぁ・・・」
娘娘コンテスト。大豊が定期的に開催するイベントであり、同社のマスコット、
「では、取り次ぐだけ取り次いでおきましょう」
「アラ~、ミドリヤ社長優しーネ!じゃあ招待状送るカラ、渡しといて欲しいヨ♪」
「承知しました。ではそのように」
ぴらぴらと手を振って、明麟は自分の社用車であるゴツいジープに乗り込んだ。中々の轟音を響かせて走り去るそれを見送り、出久は残るツートップに向き直る。
「いやはや、遂に宇宙か。年甲斐も無く、胸が踊るわい」
楽しげに喋る隻眼の好好爺。彼はファーロン・ダイナミクス17代社長、心壱・ラクンフォレスト。彼の率いるファーロン社は、ZAIAの立ち上げたプロジェクト・アークの最大の共同企業である。
「私も、正に夢のようです。御社のロケット技術、そしてミサイル。今後とも頼りにさせて頂きますよ」
「カカカッ、孫が増えたような心地じゃのう!」
(どの口が言いやがる・・・)
溌剌とした笑いをあげる心壱に、内心で毒づく出久。まともな神経をしていれば、連続殺人鬼の出没する場所で会食などしないだろう。黒い腹の底が見え透いた笑いに、親愛など湧く筈も無いのだ。
「Mr.緑谷。我々に重要な役割を多く回して頂ける事、感謝する」
最後の1人、口髭を蓄えサングラスを掛けたダンディなマッチョマンが、軽く頭を下げた。
メリニットの代表、エグゾーシム・パクテル。徹底的に爆破に拘る花火師集団を従える頭領であり、世界各国へのコネクションにより、自社の尖った性質を活かし支えている。
「Mr.エグゾーシム。日本には、餅は餅屋という諺があります。難しい仕事は、専門家に頼れと言う意味。貴殿方メリニット社は、爆薬を扱わせれば右に出るものはいない。まだ界隈では、貴殿方を爆発に脳を焼かれた異常者集団と謗る声も大きい。ですが、貴殿方には我が社との共同とはいえ、バトルライフルで発射可能で安定性にも優れた
「そう言って頂けるなら幸いだ。うちの技師達も、やる気を出すだろう。では、また。次はエキスポで会おう」
「えぇ、お達者で」
出久に背を見送られ、パクテルは地下鉄へと姿を消した。
出久にとっては、メリニットは比較的扱いやすい取引先だ。野心が無く、得意分野の追究のみを見据えた企業は今日日珍しい。そうした芽は得てして枯れやすいが、出久は彼らが何時しか大輪の花を咲かせると見た。故に、彼の企業を重用するのだ。それはそれとして、彼らの熱意の暴走に頭を抱える事は多いが。
『出久』
「分かってる」
脳内で語りかけるアークに、出久は小さく、冷たく返す。周囲の人混みに紛れて、自身に向けられる敵意。その方向に、出久は然り気無く隙を見せた。
「っ!」
瞬間、出久に向かって1人の少年が突貫。手に持ったカッターナイフを、出久の腹目掛けて突き出す。
「フンッ!」
しかし、この程度を相手に出久は遅れを取らない。瞬時に腰を切り、腹を捻る事でナイフを左脇下にすり抜けさせる。そして左腕で相手の両肘を抱え込んで拘束し、右の拳でコメカミを打ち据えた。
「あがっ!?ごはっ!?」
怯んだ敵の手から凶器を握り取り、爪先を水月に叩き込んで蹴り飛ばす。ザワザワと騒ぎ出す周囲に見せ付けるように、奪ったカッターナイフを投げ捨てた。
「うぐ・・・おえぇ・・・」
「全く、何処の誰だか知らないが・・・子供を唆してまで私を殺そうとするとは。全く、馬鹿らしい」
えずく少年の腕を捻り上げ、懐から取り出したスレッドバインダーの蜘蛛糸で拘束する。身なりを見る限り、良くない家庭環境だった訳では無さそうだ。
「言いなさい。誰に泡銭で雇われた?お前の飼い主は誰だ?」
「くっ・・・この、クソ野郎!」
「回答以外の発言は許していない。弁えろ犯罪者」
『出久、検索完了だ』
「・・・あぁ」
言葉の応酬を拒否した少年に苛立つ出久。そんな中、アークが襲撃者の身元を洗い出し、その結果を報告する。並べられたデータを見て、呆れと共に嘲笑を吐き出した。
「先月首を切った毒島狡成の息子か。全く、親が親なら子も子だな」
「っ!」
その名前は、直近でZAIAが解雇した男のもの。襲撃者の少年は、その子供だった。
「お前が!お前が父さんをクビにしたせいで、俺達はドブみたいな立場に落とされた!お前のせいだ!お前のせいで!」
「何を言い出すかと思えば。貴様の父親は周囲から成果を搾取し、人員を使い潰して上に登った外道だ。私の会社には、そんな有害なゴミは必要無い。
そもそも、貴様が惜しいのは生活では無く、企業重役の息子と言う立場だろう。周りを見下す、絵に描いたようなイジメっ子だったらしいじゃないか。お前は自分の権力が揺らぎ崩れた責任を、私に転嫁したいだけだろう?
ふざけるな。貴様はそんな下らない事の為に、私を、ZAIAの社長を亡き者にしようとした。我が社は、貴様の家族を訴える。おめでとう、これで貴様は借金まみれの最底辺だ」
出久が蔑みと嘲りを乗せた罵倒を腹一杯喰わせた所で、パトカーのサイレンが近付いて来る。襲撃者は悔しさからか咽び泣いているが、出久にとっては下らない児戯に過ぎなかった。
「流石じゃのう、緑谷よ」
ニヤニヤと笑いながら、心壱が語り掛ける。出久は犯人が逃げないよう膝裏を踏み付けながら、大きく溜め息を吐いた。
「取り込む企業からは、膿を抜かねばならない。その過程で、身勝手な恨みを買うのはよくある事です。下らない襲撃程度は迎撃出来ねば、外を歩けやしませんよ」
到着した警官に、襲撃者を引き渡す。出久はこれから事情聴取で時間を取られる事を確信しており、3徹したかのような無気力な顔になっていた。
「すみませんが、お見送りは出来なさそうです。帰路にはお気を付け下さい」
「おう!お前さんも達者でな」
見送る筈のゲストに逆に見送られ、出久はパトカーに乗り込む。何度目かの深い溜め息に、一緒に乗る警官は同情を露にした。
━━━
━━
━
「あ~らら」
新幹線の中。渡我はザイアスペックのチャットアプリを開き、それを見て苦笑する。
「ん、どうした小娘」
「出久くんが子供にナイフで襲撃されたんですって。事情聴取に時間が掛かるってうんざりしてます」
「そいつぁ災難だな、あの小僧」
「よくある事らしいです・・・っ!」
苦笑いを潜め、窓の外に視線を向ける。その瞬間、新幹線の扉を叩き壊して何かが飛び込んで来た。
「あれは!」【FORCE!RISER!】
白い肌に異様に長く延びた手足を持つ、脳髄剥き出しの怪人・・・改人脳無。渡我は反射的にフォースライザーを装着し、シートベルトを外した。
「小娘、救命!」
「後で合流します!」
「くたばんなよ!」
短いやり取りの直後、グラントリノはロケットのように発進。脳無を捕まえ、車外に叩き出した。
一方渡我は、床に押し付けられていたヒーローの容態を診る。
「軽度の骨折と裂傷、問題は出血ですね」
ポケットからメディカルウェブスプレーを取り出し、傷口を蜘蛛糸で覆う事で応急処置。周囲を見渡して、他の怪我人が居ない事を確認する。
『渡我さん、聞こえるか』
そんなタイミングで、ザイアスペックに入電。聞き覚えのある声に、渡我はすぐさま応答した。
「はい、聞こえてます!えーっとこの声は主任さんの所の・・・」
『スカイハイだ。ギャンブルと一緒に派遣されていた。こっちは街のあちこちが生物兵器だらけだ。近くに居た社長も、現在出撃している。其方の状況は?』
「新幹線に敵が突っ込んで、車両大破。恐らく走行不能です。敵は私を預かってくれているヒーローが対処してます。別のヒーローが1人負傷、手足に軽度の骨折と裂傷、応急手当は済んでます」
『上出来だ。そこの避難誘導は俺が受け持つ。渡我さんは変身して、グライダーで市街地に降りてくれ。今は戦力が必要だ』
「分かりました、お願いします!」
言い終わる頃、新幹線の外にグライダーが到着。機体下部に繋留していたスカイハイのACをパージし、その側に本体も着地する。
「タッチだ、渡我さん」
「お任せします!」【JUMP!】
【FORCE RIZE!】
【ライジングホッパー!】【BLAKE!DOWN!】
001に変身し、グライダー上部のフットコネクターに足を固定。直ぐ様浮上し、市街地を見下ろした。
「ひどい・・・」
周囲一帯で暴れ回る、大量の脳無。そこかしこで火災が発生し、民衆はパニックを起こしている。
「でりゃあッ!」
踞る女性に襲いかかろうとした個体を、グライダーから飛び降りて蹴り飛ばす001。グライダーは進路上にいた別の脳無を撥ね飛ばし、自動操縦で上昇、滞空待機モードに以降した。
「チッ、数が多過ぎる!」
【SHOTGUN RISE!】
両手にアタッシュショットガンを握り、脳無に撃ち込む001。関節を破壊し無力化を狙うが、中には再生持ちだったのか損傷関係無しに襲い掛かってくる個体もいる。
「しまっ━━━」
「001!」【JACKING BLAKE!】
足首を捕まれ、背後から殴り付けられる寸前。頭上から緑、金、紫の三色が混ざった三日月型の回転する斬撃波が襲来し、脳無の手足を斬り刻む。
「社長!」
「無事みたいだね、良かった」
上空から落下して来たサウザーは、難無く着地し周囲の脳無を薙ぎ払った。
「全く、あの古狸の狙い通りか!」
「イライラしてますねっ、大丈夫です?」
「後で甘えさせて下さい。流石にしんどい」
「了解しました!」
背中合わせのダブルライダー。2人は軽口を叩きあいながら、抜群のコンビネーションで周囲の雑兵を蹂躙する。しかし、そこに脳無とは別種の増援が現れた。
【ゼツメライズ!】
【NEOHI!】【EKAL!】【VICARYA!】
上空に開かれた、黒霧のワープゲートから投下される20体弱の
「マギア!?このタイミングでか!」
白いイカに似たネオヒマギア。下顎から一対の鋭い牙を生やしたネズミのようなエカルマギア。そして両腕と頭に貝殻を模したドリルを持つビカリアマギア。
出久は悪態を吐きながらも、取り出したキーを起動しジャッカーに装填する。
【HARD!】【Progrisekey confirmed. Ready to break.】
【THOUSAND RIZE!THOUSAND BREAK!】
「
召喚された盾を高速で射出し、トリロバイトを7割程粉砕する。しかし、ビカリアマギアが両腕のドリルで上手く防御し、ゼツメライザー持ちはダメージが無い。
「全く、面倒な!」
2人でトリロバイトを蹴り飛ばし、それぞれの武器でマギアに襲撃を掛ける。001に触手を差し向けてくるネオヒマギアだが、001はその悉くを躱し、切り捨て、逆に距離を一気に詰めた。
001がネオヒに一撃を入れると同時。サウザーはエカルマギアの鋭利な牙を伸ばす刺突攻撃をジャッカーで弾き、飛び掛かって来たビカリアマギアと鍔競り合う。そして再度伸びて来る牙を、往なしたビカリアのドリルに衝突させて姿勢を崩した。
【JACKRIZE!】
「ビカリアのデータ、頂きましょう」
【JACKING BLAKE!】
サウザーはビカリアをジャックライズして蹴飛ばし、エカルマギアの左右の牙の間にジャッカーを差し込む。そしてトリガーを引き、抽出したデータを具現化させた。
ジャッカーを中心に発生する、螺旋型のドリルを象ったエネルギー。その高速回転は牙を螺旋のブレードに噛み込ませ、一気に左右に開き折った。
「ジャッカー!スパイラルクラック!」
エカルマギアは自慢の牙をへし折られ、仰け反り倒れ込む。その腹へドリルを突き立てようとするサウザーだったが、寸前で標的を変更。ジャッカーを振るって、ドリルを弾丸のように撃ち飛ばす。標的は、他のヒーローの背中を狙っていたトリロバイトだ。
そのタイミングで、サウザーのザイアスペックに入電。目当ての標的を発見したと言うヘルカイトからの報告だ。
「ちっ、折角見付けたと言うのに!」
「社長」「助太刀するぞァ!」
サウザーがマスクの下で歯を噛み締めた直後、上空から2つの声。グライダーから飛び降りたのは、避難誘導に当たっていたスカイハイとダウンギャンブルだ。
「丁度良い!お2人にここは任せます!私は急用が入りました!」
「任せて下さい!」
「行くぞぉぉァァ!」
アタッシュカリバーを両手に突撃するダウンギャンブルを他所に、サウザーはグライダーに飛び乗った。
━━━
━━
━
「うっ・・・ぐはッ・・・」
「ハァ・・・弱い」
表通りの喧騒から、少し離れた路地裏。地に伏す飯田と、それを踏み付ける、血のような赤いマフラーと全身に携帯した刃物が特徴的な男。ヒーロー殺し、ステイン。
重々しい溜息と共に、落胆と侮蔑を吐き出すステイン。この男にとって、飯田は只の有象無象に過ぎなかった。
「贋物だから、弱い。私情の為に力を振るわず、己を顧みず他を救う・・・それがヒーローだ」
そう言って、ステインは手に握った刃こぼれだらけの刀で、路地の奥に倒れているヒーローを示す。
「だが・・・ハァ・・・貴様は、どうだ?復讐に呑まれ、視野を狭め、仲間を見殺しにしている。ハァ・・・見苦しい」
「ぐっ・・・」
兄の仇の口から出た、しかし反論の余地の無い正論。それを、身動ぎ1つも侭ならぬ状態で聴かされる。
飯田は己の腸の底から、悍ましくも形容し難い苦痛が這い上るのを感じた。
「ハァ・・・貴様ら贋物は、死ね。正しき社会の、その礎に・・・」
「くっ、クッソォォォォォッ!!!」
身体の自由を奪われ、生殺与奪をも憎き仇敵に握られた飯田の慟哭。それを冷めた眼で見下ろしながら、ステインは獲物の背を貫かんと刀を振り上げた。
「やらせはしない!」【JACKING BLAKE!】
其処に横から飛来する、黄金の狼のアギト。それを察知したステインは、刀の技量でそれを受け流す。
「こ、この技・・・まさか!」
「全く・・・心配した通りですか、飯田君」
其処に立つのは、黄金の戦士サウザー。紫の複眼を鋭く輝かせて、堂々と得物を構えている。
「貴様・・・貴様は・・・!」
「探しましたよ、ステイン。いや・・・害獣」
刹那の踏み込み。剣戟により火花が散る。鋼の悲鳴が幾重にも響き、ボロボロの刀が更に毀れる。
息も吐かせぬ怒涛の連撃。しかしそれを、黄金の穂先は容易く受け流し、鎧が止める。
「貴様は、貴様だけは赦す訳には行かない!ハァ・・・拝金主義者の贋物、その最たる者である貴様だけはッ!」
「笑止千万。貴様が私を裁く権利人だと?甚だ馬鹿馬鹿しい。私はヒーローであると同時に社長だ。利益を出さぬ社長には、1%の価値も無い」
冷静と言うよりも冷徹に、ただただ無感情に残撃の嵐を受け止め続けるサウザー。そのスペックに掛かれば、人間の限界を越えられない程度の斬撃は、子供のチャンバラ遊びと大差は無い。
「ヒーロー殺しステイン。本名、赤黒血染。
時代錯誤な原理主義に夢を見るのは良いでしょう。思想、言論、表現は個人の権利です。其処に口は出しません。自分の貴重な時間を浪費し、埃まみれの看板を掲げて訴えるのも、まぁ良いでしょう。
だが貴様は我々の、企業の協力者に重症を負わせた!どれだけの損害が出たと思っているッ!この害獣がッ!駆除以外の選択肢など無いッ!」
憤怒のボルテージが跳ね上がり、一転攻勢。初撃で刀をへし折り、怒涛の連打でボディアーマーを砕いて行く。
「ぐあっ!?ごはぁ!?」
「あぁ、だが丁度良い。貴様はそこそこに名が売れた敵だ。それを駆除すれば、それなりの宣伝効果も期待出来るだろうなァ!貴様から受けた損害、そのリカバリーの肥やしになれ!」
「ぐぅっ・・・どこまでも、営利しか見えぬ拝金主義者めッ!ハァ・・・!貴様のような者が、ヒーローであるものかッ!」
「貴様の思慮足らぬ浅はかな感情で私を、企業を測るなッ!私は戦うしか能の無い脳筋とも、安寧のぬるま湯から文句を飛ばすだけの部外者とも違うッ!前線で戦い、人命を救助し、不正を見抜いて首を切り、ZAIAエンタープライズを傘下企業諸とも発展させているのだッ!社員の生活を!命を預かり背負っているのだ!時間と言う人生を買っているのだッ!受け取る金銭は、それらの行動で果たした責任の具現ッ!責任から逃げた貴様のような軟弱者とは、立つステージが違うのだァ!弁えろ!このッ!ドブネズミがッ!」
それは企業戦士の全身全霊、魂からの叫びだった。怒りのボルテージは更に膨れ上がり、連撃から繋いだ足技でステインを表通りへと蹴り飛ばす。
「そんなものか、害獣が。所詮貴様は、下らん癇癪を起こした只の子供でしか無い!」【JACKRISE!】
「地を舐めて蹲えッ!私こそがZAIAだッ!!!!」【JACKING BLAKE!】
ステインの腹部に撃ち込まれる、剛拳の弾丸。容赦なく叩き込まれた衝撃は、その内臓を発狂に至らしめた。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
『落ち着いたか、出久』
「スゥウ~・・・ハァア~・・・よし、何とか頭が冷えた」
【JACKING BLAKE!】
アークの呼び掛けに深呼吸を挟んで答え、サウザーはジャッカーを振るう。選択したアビリティは以前排除対象から収集した磁界操作。金属への磁性干渉でナイフ等を全て没収しつつ、スレッドバインダーで手足を拘束した
「ぐぅぅ・・・」
「あれを喰らって意識があるとは、無駄に頑丈・・・いや、信念とやらか?まぁそれも無駄に終わるが・・・」
足元で呻くステインを鼻で嗤い、出久は周囲を見渡す。脳無は既に鎮圧され、救助活動も上々。マギアも周辺には来ていない。
「さて、皆様いかがでしたでしょう。巷を賑わすヒーロー殺しも、一方的に殲滅可能、これがZAIAクオリティ」
「なっ、貴様・・・ッ!」
「では、宣伝LIVEはここまで。私は被害者の手当てに向かいます。では」
上空から降りて来たヘルカイトのカメラに目線を送りつつ、サウザーの歩みは再び路地裏へと向かう。メディカルウェブスプレーを取り出しながら、小さく溜め息を吐いた。
「み、緑谷先生・・・俺は・・・!」
「身の程知らずは口を慎みなさい」
「ッ!」
冷や水の如き言葉で切り返しながら、飯田に止血を施すサウザー。傷の確認と処置を手早く済ませ、もう1人の被害者にも同様の処置を行う。
「飯田君。貴方、目先の復讐に囚われましたね?」
「っ・・・はい・・・」
「その結果が、この様ですか?」
「くっ・・・は、はい・・・」
「君はもう少し思慮深いと思ったのですが、意外と直情型ですね。そのお陰で迷惑を被るのは、貴方を管理する責任を負っているヒーローだと、冷静ならば思い至る筈ですが」
「何の、申し開きも・・・」
淡々としたサウザーの叱責に、息を詰まらせる飯田。本来の人格においては規律を重んじ、責任感の強い彼故に、自身のやった事が如何に無責任であるかが理解出来るのだ。
「・・・私は教師であると同時に、社長です。私には利益を得る権利と、その為に尽くしてくれた人員をケアする義務がある。貴方のお兄さん、インゲニウムは、事務所ぐるみで良く働いてくれた。それを放置する程、私は愚かでは無い」
「え・・・」
「彼は現在、我がZAIA資本系列の病院で、私の身体で実証済みの強化手術を受ける準備を進めています。成功すれば、リハビリを経て戦線復帰が可能です」
「それは、つまり・・・」
「貴方が復讐に囚われる意味はありません。貴方は冷静に、正規の手続きを経て、真っ当なヒーローとして活躍出来ると、私は見込んでいる。これは投資です。きっちりと罰則を受け、落とし前を着けた後で、必ず成りなさい。立派なヒーローに」
「ぐっ・・・くぅっ・・・」
溢れる涙に歯を食い縛り、嗚咽を漏らす飯田。彼に背を向け、怪我人を抱えたサウザーは表通りへと歩き出した。
「がハァ・・・ハァ・・・贋、物ォ・・・正さな、ければ・・・誰かが、血に、染まらねば・・・!」
━ごきんっ━
血反吐を吐きながら、無理矢理立ち上がるステイン。そして左腕の関節を外し、無理矢理拘束を振り解いた。足元に転がっていたガラス片を握り、ボタボタと血を溢しながらサウザーに詰め寄る。
「来い、来てみろ、贋物ッ!俺を殺して良いのは、オールマイトだけだッ!」
「犯罪者が死に場所を選べると思うな痴れ者が」
「ごはァ!?」
サウザーはガラス片を叩き落とし、パワーアシストを完全に切ってボディブローを叩き込む。度重なる内臓からの激痛は、遂にステインを気絶に追い込んだ。
然れど、その両膝は突かれる事は無く。原理主義に狂った殺人者は、立ち枯れる古木のように意識を手放した。
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・緑谷出久
ストレス値1000%社長。
ファーロンの古狸からの要望でステインの潜伏する危険地帯で会食し、何とか交流を済ませて店を出れば逆恨みによる襲撃。それを撃退して事情聴取に向かう途中で大規模な敵襲に遇う踏んだり蹴ったり具合。
キャパシティを遥かに越えるストレスに、遂にキチゲ解放。丁度損害を被った事もあり、ステインにバチボコに八つ当たりした。
因みにステイン戦は宣伝としてヘルカイトから中継されており、企業戦士の魂の叫びとして話題になった。
・
大豊核心工業集団の社長。
美しい銀髪ロングにダイナマイトボディを誇る絶世の美女であり、チャイナドレスを着こなす。元ネタは言わずもがな大豊娘娘。因みに年に数度、大豊娘娘限定ミスコンを開催しており、上位3位以内を死守する強者でもある。
・心壱・ラクンフォレスト
ファーロン・ダイナミクス17代社長。いけ好かないイケ爺。
キャラクターとしてはSEKIROの葦名一心をモチーフにしている。常に相手を値踏みし、堅実に立ち回る腹黒古狸。
・エグゾーシム・パクテル
炸薬専門企業メリニットの代表。物静かなダンディマッチョ。
爆裂に取り憑かれた面妖な変態技術者を束ねる男。本人は寡黙で、比較的理性的である。キャラメージは、風都探偵の二階堂守(=初代リアクタードーパント)。
・ステイン
ヒーロー殺し
時代錯誤な原理主義に脳を焼かれた男。
基本的に作者はこの男の思考回路と対極の精神構造なので、大抵は理論武装で完全否定する。やってる事は自分の気に食わない人間に拳を振り下ろす子供の癇癪でしか無いので擁護のしようが無い。
ZAIAのスポンサーを襲った事で出久の怒りを買い、ものの見事にZAIAの宣材として使い潰された。しかし弁慶の如き不動の失神は、見た者に絶大なインパクトを与えてしまった。
~用語紹介~
・ブルータイプヘルカイト
ZAIAが所有する無人ドローンの一種。
複数のモデルが存在する中でも、ブルータイプは完全な非武装仕様。カメラとマイクを搭載し、映像の中継を行うモデルである。
~アイテム・装備紹介~
◯ジャッカー・スパイラルクラック
ビカリアゼツメライズキーのジャッキングブレイク。ジャッカーに巨大なスパイラルドリル状のエネルギーを纏わせ、高速回転させる事で対象を粉砕する。螺旋構造は対象物に潜り込む性質を持ち、円錐形のドリル本体を捻り込む事で広範囲を連鎖的に粉砕する。