マリス・フライングバットレス   作:エターナルドーパント

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作業を止めるな、アイツを止めろ

(出久サイド)

 

【INJECT RIZE】

FIRE(ファイヤー)!】

「よし、出来た」

サウザンドジャッカーから、アビリティを焼き付けたキーを引き抜く。これで2本目だ。

1本は、アビリティ:ブリザードのフリージングベアー。もう1本は、アビリティ:ファイヤーのフレイミングタイガー。

昨日の戦闘で交代したアークが、轟君の個性をジャックしたらしい。

「どっちも使い勝手の良さそうなアビリティだね・・・って、イッタタタ・・・」

いつもの癖でキーを天井に透かすように眺めようとして、二の腕に激痛が走る。

ナノマシンで修復中ではあるものの、ぶっちゃけ今の僕の右腕は寄せ木細工のようなモノなのだ。ズタズタになった組織をナノマシンで接着しているだけ。普通に使う上で壊れはしないものの、残っているダメージが痛みになってそのまま伝わって来る。

『何をやっているんだお前は』

「ご、ごめん・・・」

呆れたアークが、脊髄で痛覚をカットしてくれた。お陰で首から下は痛み止め要らずなので、とても助かっている。

「取り敢えず、今日は臨時休校で教員は午後に緊急会議・・・それに参加するとして、午前中はどうしようか」

『一応、新入社員の適性検査が終わっている。()1()3()()への適性ありが5人。この人員の顔見せに着いて行くのはどうだ?』

「休めって言わないの珍しいね」

『ただ単に言っても聴かないから諦めただけだが?』

「うっ・・・ごめん・・・」

『お前も大概ワーカーホリックだな』

まぁ、一応自覚はしてる。学生時代から今まで、兎に角出来る事を詰め込むばかりだったからなぁ。殆どの作業で1回はドクターストップが掛かった。

より深くなるアークの呆れにタジタジになりつつ、ザイアスペックで13課適性のある新人のリストを視る。

「・・・へぇ、彼が」

羅列された5つの名前。その1つには、巳穂錬(みほね)硬太(こうた)・・・あの夜、公園で出会った青年の名前があった。

 

───

──

 

「今回貴方達が適性ありと判断された部署は、かなり変わり者が多い部署でしてね。私としても・・・ふぅ。入るには少し覚悟が必要なのですが」

新人達を引き連れて、ザイア本社のラボラトリー区画の前に立った。

「「「「「は、はい・・・」」」」」

「まぁ、そんなに硬くならず。ようこそ、()()()()()1()3()()へ」

ライズフォンをスキャナーに翳して認証し、ロックを解除。壁に付いたボタンを押して、自動ドアを開くと・・・

 

「ウ~ィィィィィィィィwwwアハッアハハハハッwwwホッホッホッウィィィィィ~www」

 

スケボーの上に腹這いになって、甲高い奇声を上げながらペンギンのそり移動(トボガン)のように床を滑走する白衣を着た技術者の姿があった。

「・・・」

「「「「「・・・」」」」」

「・・・ちょっと待ってて下さい」

ズキズキと痛み始める頭に思わず掌を叩き付けながら、辛うじてその言葉を絞り出す。そして現在進行形で行方不明の正気に捜索届を提出せねばならないキチガイに近寄り、その背中をスケボーごと踏み付けた。

「グェッ!?あっ、社長!」

「貴方今度は何徹したんですか」

「えーっと、6徹から数えてないですね!」

「とっとと寝ろこの馬鹿タレが!」

スケボーの下に脚を差し込んで、掬い上げるように蹴り飛ばす。この人達はこれぐらいしないと聞かないのだ。

「あーもう・・・其処の貴方。ちょっと()()仮眠室に運びなさい」

「ワカリマシター(^q^)」

「命令を訂正します。貴方も寝てきなさい」

「ハイッ(^q^)」

「全く、これだから開発馬鹿の変態共は・・・」

正直初手でもうお腹一杯だ。だが、紹介をほっぽり出す訳にも行かない。現状、人材は幾らあっても良いぐらいなのだから。

「えっと、俺達って此処に配属されるんですか?」

「その予定です。主にこのアホ共のストッパーだとか、此処と合併している戦闘職種の職員として。

ったく、無闇矢鱈と労働環境を快適化しまくるべきじゃ無かったな。アイツら半ば趣味感覚で仕事してるから快適であればある程に三大欲求軽く蹴っ飛ばしてまでラボに篭もって研究しやがる・・・ホワイト企業化にまさかこんな特異点があるとは・・・」

「えっと、大変ですね・・・」

巳穂錬君が少し気遣ってくれる。まぁ、此処だけ見ればとんでもない苦労の塊にしか見えないだろう。

「まぁ、確かに此処は来るだけで胃もたれしそうになります。でも、それは飽くまで仕事で来た時です。仕事云々関係無く来てみれば愉快で結構笑えますし、ちょっとした遊園地みたいなモノですよ。

何より、これだけキチガイの巣窟ならば、多少羽目を外して馬鹿になっても何1つ恥ずかしく無いと言うメリットもありますからね」

「な、成る程・・・じゃあ今は?」

「サラダ油を1リットル一気飲みした気分ですが?」

「アッハイ」

おっといけない、多分目が死んでるな。

「よし!では切り換えていきましょう!楽しいテーマパークみたいなモノだと思って見学して─────」

 

─BGOOOOM!!─

「もいっちょやっちゃって下さい主任!」

『ギャハハハ!良いじゃんコレ!じゃ、ちょっとだけ本気で、行っちゃうよォアハハハハッ!!』

 

「・・・」【THOUSAN DRIVER!】

奥の実験室から聞こえて来た爆音とトラブルメーカーの声に、僕はもはや何を言う事も無くドライバーを着ける。ちょっと此処らでストレスを発散しときましょうか。

「あーあ、主任またやらかしたのか」

「あ、ギムレット。お疲れ様です」

と、そんな時に話し掛けて来たのはスカーフェイスのタフガイ。コードネームは(ギムレット)であり、拳から錐のような刺突針を出す個性がある。

彼は主任が率いる我が社の傘下の傭兵の1人であり、傷のせいで強面だがかなりフランクな人物だ。

「おう社長。見ねぇ顔連れてっけど、其奴ら新人(ルーキー)かい?」

「えぇ。ちょっと彼らを頼んでも良いですか?私はあの主任(アホ)にお灸を据えてくるので」

「おー、行ってらっさい」

【ゼツメツ!EVOLUTION!】【BREAK HORN!】

ギムレットに新人達を預け、心置き無くアウェイキングアルシノを装填。アメイジングコーカサスを展開し、ザイアスペックの遠隔操作で実験室のキーロックを解除する。そして扉の緊急用開閉取っ手に手を掛け、全力を以て叩き開けた。

 

「テメェら何してんだコラァ!!」

 

「「あ、社長」」

そこにいたのは、煤けた白衣の研究者1名(例に漏れず隈が酷い)と、ウィンチェスター式グレネードランチャーを右手に構えた主任(ハングドマン)。彼らの前には縦横1mの正方形の金属板があり、真っ黒な煤が付いている事からグレランをぶっ放したのであろう事が見て取れる。

まぁ、新素材の剛性テストとしては間違ってはいない。問題は此処が屋内であり、尚且つ銃器や爆発物を扱う為の専用のグラウンドが他にあると言う事だ。

「何度も言っている通り、此処は銃火器厳禁なんですよ!と言うか貴方掌握者でしょうが!それが率先して馬鹿やって如何するんですかァ!」

『イヤイヤ、ちょっとお手伝いをネ?にしても社長、怪我してた割には元気じゃん!』

「まぁ貴方のお陰で心拍100倍胃痛も100倍、怒りのメーター1000%ですねぇ!お陰で腕の痛みなんざ気にならねぇんだよ!」

『あ、そうなんだ。気に入って貰えたみたいで何よりだねぇ!』

「んな訳あるか!怒りのメーター1000%ッつったろうが!」

「それより社長、見て下さい!遂に新素材の開発に成功しました!」

『そうそう、面白いのが出来たからさ!ちょっと見てみて欲しいんだよ!そんなにカッカしてないでさ♪』

「・・・変身」【PERFECT RIZE!】

【The golden soldier THOUSER is born!】

もう何も言うまい。何一つ言わすまい。いい加減にキレた。

アイドリング状態にしておいたコーカサスをドライバーに装填し、サウザーに変身する。そしてライダーの脚力で一気に加速して跳躍。揃えた両脚を度し難い主任(アホ)の顔面に叩き込む。

取り敢えず・・・!

「まずグラウンドでやれや貴様らッ!」

『ギャハハハ!機体がダメージを受けてマ~ス!』

サウザーのドロップキックで実験室の壁にめり込んでも尚、ゲラゲラと馬鹿笑いする主任。レイダーの耐久力が加算されているとは言え、本人の性格よりも馬鹿げた耐久力である。

「フーっ!フーっ!フーっ・・・ハァ・・・胃が取れそう」

(胃粘膜を保護するナノマシンを作ろう)

(有難う)

肩で息をする出久は、アークからの申し出に頷いた。数多の苦労に、既に胃がキリキリと悲鳴を上げている。

「で、貴方は何作ったんですか?」

「あ、はい!」

変身を解除しながら、研究員の方に眼を向ける。恐らく睨め付けるような眼付きになっているだろうに、この男はケロリと答えた。心臓に毛でも生えているのか、単純に判断力がバグっているのか・・・後者だろうな。

「今回作ったのは、展性、可塑性、硬度、流動性、総てが自由自在な新合金です!」

「・・・ほう?」

中々に興味深い。それが本当なら、新素材として革命的な性能だ。少し頭が冷えて来た。

「ではでは、いざご照覧あれ!」

研究員がザイアスペックを装着し、意識を集中する。すると煤けていた装甲板は液体のように波打ち、流動的に変形。見る見る内に、実寸大の半分程の銀色のサウザーを形作った。

「おぉ、これは・・・」

しかし、その感動も束の間。銀のサウザーはグニャリと形を歪め、1秒で愉快な現代アート染みた蠢くオブジェに早変わりする。

「おぉう・・・」

「どうです!素晴らしいでしょう!?ヒャハッ!ヒャハハハアハハ!」

「素晴らしい性能ですね。其処はその通り。ですがそれはそれとしてとっとと寝なさい。さっきからサウザーが形を崩して名状しがたいナニカになっていますよ。と言うか貴方も何徹したんですか?」

「えーと・・・あ!4日経ってる!」

「寝なさい。起きたら始末書を書くように」

もう無理矢理にでも仮眠室に放り込むロボットアームでも増設しようかと本気で悩み始めた今日この頃。

だがそれは別として、この金属は素晴らしい。まぁ確実にアークが何か干渉したんだろうが・・・

『その通りだ。まさかここまで早く飛電メタルを開発するとは・・・』

(飛電メタルねぇ・・・)

『ギャハハハハ!ね?良いモノだったでしょ?』

「その壊れた壁の弁償費は貴方の給与から天引きするので覚悟しておきなさい主任」

『ギャハハハ!手厳しいねぇ!』

「全く、懲りませんね主任」

と、そんな僕らの言い合いにもう1人が参戦する。

ロングの金髪に、眼鏡越しの緑の瞳。カッチリとしたビジネススーツを着込んだ、如何にもキャリアウーマンと言った風貌の女性。

その整った顔や美しい髪も勿論眼を引くが、それ以上に目立つのが、機械式義足に換装された両脚。そして、背中から伸びる4本の合金製フレキシブルアームだろう。

『やぁキャロりん!早速で悪いけど、社長の一撃で見事に壁に嵌まり込んじゃってさぁ!その()、ちょっと貸して!』

「・・・主任。その機体のダメージレベルでは、雑に引き抜くのは危険かと」

主任の遠慮の欠片も無いいけしゃあしゃあとした頼みに、静かに指摘する女性。彼女こそが主任のパートナー、キャロル・ドーリーである。

『あ、そうなんだ。で、それが何か問題?』

「承知しました。お聞きの通りです。少々離れていて下さい、社長」

「分かりました」

「ほっ・・・ふんっ」

 

─ガキョッ─

 

キャロルさんは、彼女専用に取り付けられた天井の手摺りを上2本のアームで掴み、残り2本で主任を一気に壁から引っこ抜いた。

その際、ハングドマンの装甲やパーツが幾らか剥がれ、電気系統も破損したのかショートしたように火花が散る。幸い、今回はウェポンハンガーは装着していなかったらしい。もし着けていれば、確実に修復不能なレベルまで拉げていた事だろう。

「ご苦労様です、キャロルさん」

「お互いに、ですね。取り敢えず、このアホは私が回収して行きます」

レイドライザーからハングドマンのスカウティングパンダをアームで器用に引き抜き、主任の変身を解除させるキャロルさん。そしてそのまま主任を掴み、義足では無くアームで天井や壁の手摺りを伝って出口へと向かう。

「お、終わったかキャロルの嬢ちゃん」

「ギムレット伍長。お疲れ様です」

「おう。嬢ちゃんも主任のお守り、ご苦労さん。で、主任はどうすんの?」

「取り敢えず冷水室にぶち込んで来ます」

軽い世間話のように、主任の扱いを話し合う2人。そんなギムレットの後ろから、新人達がひょっこりと顔を出した。

「あ、新人の皆さんですか。態々こんな所までご足労頂き有難う御座います。私はキャロル・ドーリー。この部署のオペレーターを受け持っています。

奇人と変態と機械しか無い所ですが、ご自由に見学なさって下さい。ただ、呉々も機材類には一切の接触を行わない事。モノによっては指が無くなりますので。では」

手早く一方通行な挨拶と忠告を済ませて、キャロルさんは天井の手摺り伝いに主任を引き摺って行く。そのフレキシブルアームを見て、新人達は一様に眼を円くした。

『あ、ちょっと待ってキャロりん。あーっあーっ、新顔の人~?聞こえてるカナ~?』

「・・・え、あ、はい」

『聞こえてるなら良い。時間無いから要件だけね。俺がこの部署、日陰者の第13課を仕切ってるシュニン・ハングマンだ!宜しくネ!』

「主任、皆さんの脳をパンクさせるおつもりですか?黙っていて下さい」

 

─カァンッ─

 

『ア゚ッ!?』

合金製のマニピュレータが、主任の頭を打ち据える。小気味良い音を起てた頭をグラグラと揺らす主任を、確りと掴み直して再び引き摺るキャロルさん。そして今度こそ、通路の曲がり角に消えて行った。

「・・・聞き間違いですかね?あの人が、此処の責任者って言ってた気が・・・」

「それで合ってますよ。残念ながら。しかも問題行動は起こす癖して優秀なとこは優秀なんですよ」

「タチ悪いじゃ無いですか」

「えぇ全く」

まぁ、現実逃避もしたくなるだろう。こんな所に配属されるなんざ、最初は悪夢かと思う筈だ。実際は悪夢なんかじゃあ無い。何故なら悪夢は醒めるモノだからだ。果てしないモノを悪夢とは言わないだろう。

「取り敢えず、開発部でも見て回りましょうか。愉快ですよ」

「嫌な予感がするのは俺だけじゃ無いよな?」

「私もする」「僕も」「俺もだ」

「勘が宜しいようで」

さぁて、今回はどんなトンチキ騒ぎが起こるやら。

 


 

「ご覧下さい社長!虹色に輝く(ゲーミング)サウザンドジャッカーです!」

「成る程面白いですね。偶には気分転換でガワをコレに交換する訳ねェだろうが寝ろ」

 

「社長どうですかコレ!ピンキーサウザー!」

「ほう、ショッキングピンクのサウザーですか。新鮮で良いですねってなる訳あるかアホ!貴重な建造資材をこんな事に使ってないで寝なさいよいい加減に!」

 

「見て下さい社長!高機動ホバーグライダーです!レイダーの体重も問題無く浮上出来て、時速80キロで飛行可能です!」

「素晴らしいですね。コレがあれば機動性が格段に上昇する。しっかり寝てからテストしなさい」

「ちょっとレイドライザー借りて行きますね!」

「寝ろッつってんだろうが!聞こえてねぇとは言わせねぇぞコラ!せっかくの試作品無駄にぶっ壊してぇのかアンポンタンが!」

 

「社長コレどうですか!?レイダーの実装にスパロボ風エフェクト付けてみました!オンオフ切り換え可能で、ホントにエフェクトだけです!」

「ヒロイックで良いですね。様式美は人を人たらしめる。所でその脚は?」

「最初パーツを合体シークエンスみたいに装着しようとして失敗した時の打撲です!これのせいで止む無く路線変更しました!」

「はよ医務室行け!」

 


 

「フハァー・・・何か、どっと疲れました」

「まぁ、所々有用な装備もありますしね。こう言うのがあるから、この課を解散しないんですよ」

「確かに、結構格好いいのもあったっすね」

一頻り紹介が終わって、ラボラトリー区画外の自販機で思い思いの飲み物を買い、胃に流し込む。

最近この自販機の新商品リクエストに、何故かカフェイン剤が大量に来ている。尤も、全て切り落として却下しているが。あのアホ共に欲しがるまま覚醒成分なんざ与えれば、2日も待たずにオーバードーズで死屍累々の地獄が出来上がるのは分かり切っているからだ。

そんなもん使うぐらいなら素直に寝ろっての・・・

「さて、そろそろ時間だ。配属が腹の底から嫌ならば断ると言う選択肢もあります。確りご検討をお願いしますね」

「やっぱ社長って忙しいんすか?」

「まぁ、自分で言うのもなんですが大企業の社長と、雄英教師の二足の草鞋ですからね。では、今日はこれで」

飲み終わったコーラ缶をゴミ箱に放り込み、新人達の見送りを背に駐車場へと向かう。

さて、お次は雄英の会議だ。

 

(NOサイド)

 

「さて、今回の問題だが・・・」

雄英の薄暗い会議室。プロジェクターの光りが白く照り返す中で、雄英高校の校長、根津は声を上げる。

「まず、雄英のカリキュラムの流出だね」

『コレに関しては、例のマスコミ騒動の時にドサクサに紛れて盗られた、って所でしょう。情け無い話ですが』

根津が上げた議題に、モニターに映された包帯で簀巻き状態の相澤が答えた。絶対安静中の彼だが、情報はすぐに共有すべきと言って医務室のベッドからリモート出席しているのである。

尚、そんな相澤を見た出久は(僕もリモート出席にすれば良かったかも)等と思っていたりする。

「うむ。やはり皆、今まで無かった事に油断があった訳だね。僕としても、こうなる可能性を見越して時間割などを組み直したりすれば良かったと思うのさ」

「過ぎた事はどうしようもありません。何より、どっかのミスター自己犠牲が活動時間を擂り潰すまで()()()いなければ、ここまで酷くはならなかったと思いますし・・・ね?」

「ウグッ」

出久からの冷たい視線が刺さり、骸骨染みたガリガリのオールマイトが肩を跳ねさせる。

今回の件で、オールマイトは伸びかけていた活動限界まで活動してしまい、治療用ナノマシンを血と共に大量に吐き出してしまったのだ。治療は半分程無駄になり、またやり直しである。視線も凍ると言うモノだ。

「次の問題として、敵の改造人間兵士だね」

「奴等は脳無と呼んでいました。データを出します」

出久の操作で、スクリーンに脳無の分析データが載せられた。

何とアークゼロの必殺技でサッカーボールの如く蹴り飛ばされても尚生命活動を継続しており、それが幸いして生け捕りに成功したのだ。

「全身が徹底的に弄くり回されており、素のパワーがオールマイト並。消化管等も完全に摘出されています。DNA鑑定では、過去に警察のお世話となったチンピラのそれが一致しました。しかし、其処に更に別人の個性因子が組み込まれています」

「悪趣味な事する奴もいたものねぇ・・・」

つらつらと読み上げられたデータに、18禁ヒーローであるミッドナイトが顔を顰める。それはこの会議の出席者の総意であり、表情は全員似たり寄ったりなものだ。

しかし、出久の視点は少し違った。

「個性の移植・・・肉体的な拒絶反応も見られませんし、有効利用すれば実に有益な技術となりそうなのに・・・まぁ、技術を善用するより悪用する方が簡単で、何より金になるから仕方無い部分もありますが。残念です」

社長と言う資本主義の代名詞とも言える肩書きを持つ彼は、この技術にすら有益なビジネス材料としての可能性を見出している。その上で、これを行使するのが敵側の技術者である事を嘆いていた。

そんな出久に、若干数名が白い目を向ける。しかし、それも仕方無いかと割り切り、4秒後にはスクリーンへと向き直った。

「そして、最も大きな問題が・・・コイツさ」

根津がキーボードを操作し、次のスライドを展開する。

巨大な左眼、アシンメトリーなアンテナ、ひび割れたようなクラッシャー・・・何所からどう見ても凶悪な面構えの、精巧な似顔絵が映し出された。言わずもがな、仮面ライダーアークゼロである。

(・・・は!?)

それに対して、狼狽えるのは勿論出久。

何故最大の問題とされるのか、何故此処まで空気が張り詰めるのか、何故オールマイトが歯を噛み締めるのか・・・現場を知っていれば単純明快なその答えを、しかし哀れな出久は持ち合わせていなかった。

(ちょ、どういう事なのアーク!?)

『後でな』

「この正体不明の敵は、緑谷君のサウザーがダウンした直後に出現。大容量のショック吸収の個性とオールマイト並のパワーを併せ持つ脳無を、一方的に捻じ伏せて見せた」

『確か、あの脳無の腕を握り潰してましたね。信じたくは無いですが・・・』

(まぁ、それは当然だよね)

サウザーでは対処しきれない敵を排除する為に、アークと交代した。故に、此処は出久としても非常に分かり易い。

「そして次に、仮面ライダー001に変身していた渡我被身子君を50m蹴り飛ばした」

「何だって?」

此処からが分からない。渡我はアークが味方であると知っており、フォースライザーの通信機能で会話も可能だ。その上で蹴り飛ばす意味が理解出来なかった。

(どういう事だよアーク!?)

『落ち着け。すぐに合点もいくだろう』

『幸い、渡我には傷も無く無事でしたが・・・俺の個性で視ても、あの鎧のようなものは解除されなかった。異形型の個性なのか、はたまた別のパターンか・・・』

(あ、無傷ならひーちゃんと口裏合わせてすっ飛ばしただけか)

『そう言う事だ』

アークのスペックで蹴り飛ばされて無傷なら、それぐらいしか無いだろうと納得する。しかしそれはそれとして、自分に報告が無かった事に関してはそれなりの怒りがあった。

「更に爆豪君と切島君を投げ飛ばし、轟君には何らかの精神的攻撃をしていたようだね」

「えぇ。轟少年を落ち着かせるのには、少し時間が掛かりました」

(何やってんのアーク!?)

『少し遊ぶついでに、轟の個性をジャックしただけだ』

(相手の精神に影響を及ぼすような遊びはしちゃダメだって!)

「何より気に掛かるのは・・・私の攻撃を真正面から受け止めて見せた際に放った、あの言葉です」

「・・・そ、其奴は、何と?」

「『貴様と戦った処で、何の旨味も無い。何より、目標は果たした』・・・と」

(クソ意味深じゃん何言ってるのさ!?)

溜息を吐いて天井を仰ぎたくなるのをどうにか抑え込みながら、出久は顔にてのひらを押し当てた。もう、何と言って良いのかすら分からないようだ。

そんな出久の心象はつゆ知らず、オールマイトは言葉を続ける。

()()()()()()()、旨味が無い・・・裏を返せば、他の交戦には旨味があったと言う事!

直前に接触したのは爆豪少年、切島少年、そして轟少年の3人!必然的にこの中の誰か、もしくは全員を何らかの目的としていた・・・一体、何を企んでいるんだッ!」

(ごめんなさい、単純に良いデータが取れて満足しただけです・・・)

再び強烈な罪悪感が出久の精神を削岩機のように削る。此処に他人の眼が無ければ、今すぐその場に蹲ってのたうち回りかねない勢いだ。そんな衝動を抑えてポーカーフェイスを貫く自分を褒める事で、現実逃避をして何とか理性を保つ。

「USJ内のオフライン回戦で独立させたブラックボックスにも、監視カメラのデータは残っていなかった。恐らく、カメラそのものを強力にジャミングしていたんだろうね」

「へぇ、だから似顔絵なのか・・・」

「他にも、オールマイトの拳を真正面から受け止めるバリアに、切島君のパンチや轟君の氷結攻撃を歯牙にも掛けない防御力。何より、ドス黒い泥のようなエネルギーの放出と操作・・・同様の目撃証言は幾つもあるけど、正直どんな個性なのか見当も付かないね。

だけど・・・緑谷君。この敵は、君のサウザーと()()()()()()()()()()を着けていたと言う証言もある。何か、心当たりは無いかな?」

「『いえ、ありませんね・・・と言うか、そんな情報もあったのですか。ふむ・・・我が社の企業イメージを損ないかねない、重大な情報ですね」』

根津の質問に瞬時にアークが出久の運動神経系をジャックし、嘘を吐いた時に出る僅かな仕草を抑止する。出久は口だけを動かして、心当たりは無いと証言した。

商談等の際によく使う、2人の連携プレイだ。

「うん、そうか。では、取り合えず今後の対応について考えていこう」

「校長、此処は私から提案が」

「何だい?緑谷君」

根津が上げた新しい議題に、いの一番にと出久が手を上げた。

「この学校に我が社のザイアスペック、及びレイドライザーを配備して頂きたいのです」

『こんな時まで商魂逞しいな』

「こんな時だからですよ、相澤先生。

我が社のザイアスペックとレイドライザーには、団体戦闘をサポートする機構が多数備えられています。更に身体の動きそのものを矯正しアシストする事で、素人でも軍人並みの行動が可能。また戦闘終了の際には、過剰な興奮状態を沈静化する機能も登載しパニックを抑制出来ます。

普通科生徒等の戦闘に秀でない個性を持つ人でも、並のヒーローと同等の戦力になる。もしもの際には、それがそのまま自衛戦力に繋がります。

何より、私は社長。社長とは、常に会社の利益を追求し続けねばならない存在です。利益を上げない社長には、1%の価値もありません。

その点、雄英で配備したとあらば、其方は純粋な戦力増強、此方は売り上げの追加に加え、雄英のネームバリューからコマーシャル効果も絶大でしょう。まさに相利共生(WIN-WIN)な関係と言う事です。何なら、特別に設定価格の半額で卸させて頂きますよ?」

「ヘイヘイ、随分と太っ腹じゃねぇか緑谷センセ」

「何、先行投資と言う奴ですよ。代わりに、皆さんの個性データを頂きたいのですが・・・」

「成る程、そう言う事なら協力しようかな。データは見させて貰ったけど、君の所のレイドライザーにはまだまだ大きな伸び代がある。多様な個性、状況に対応出来るシステムは、僕としても魅力的なのさ」

「お褒め頂き、感謝の極み。では、具体的な商談は後と致しまして・・・他には、ライダーシステムの視覚センサーにも利用している広角視認複眼型光学探知機(コンパウンドアイ・センサー)を利用した監視カメラもあります。其方を配備する事も────」

 


 

「あー、ドッと疲れたぁ~」

夜。出久は社長用社宅のベッドに飛び込み、枕に顔を埋めた。

会議を終わらせた後、雄英相手に色々と契約を持ち掛け、無事殆どを取り付ける事が出来た。社長自らが現場にも赴いて契約すると言うのも、イメージアップに繋がるだろう。

「・・・胃が痛い」

それはそれとして、出久の胃は昼間よりも激しく負担を訴えていた。このままではストライキを起こして胃粘膜の一部が失踪(胃潰瘍化)するのでは無いのかと思うレベルである。

修復ナノマシン(胃薬)出しておくか?』

「マッチポンプなんだよなぁ・・・」

アークからの申し出に、消え入りそうなか細い声で呟く出久。胃痛の主な原因であるアークが、胃粘膜を修復するナノマシンを出す。まさにマッチポンプである。

「・・・今日は出前でも取ろう。胃に優しいサッパリしたヤツ」

『うどんにするか?』

「うん、良いねうどん。そうしよう」

そんな言葉を交わす2人を置いて、夜は更けて行く。暗く、暗く、尚暗く・・・

 


 

「クソ・・・クソッ・・・あの真っ黒野郎・・・」

ベッドに寝かされ、左腕にギプスを嵌めた死柄木。譫言のように、自分の腕を粉砕させたアークゼロへの怨嗟を垂れ流す。そんな彼のギプスを氷で冷やす、ロングヘアーの少女がいた。

「あれが、世界を滅ぼす存在ですか。確かに、オールマイトと同等か、それ以上の脅威を感じましたね」

「もう、あんなのと()()()()を一緒にしないでよ」

ベッド近くで呟いたバーテン服姿の黒霧に、ムスッと頬を膨らませて抗議する少女。彼女にとっては、アークゼロ・・・否、アークはオールマイトよりも遥かに崇高な存在であるらしい。

「アーク様はね、1度()()()()()()()()()()の。そして神様になって、この世界に舞い降りて来たんだよ?」

彼女の口から語られたのは、この世界では極一部の人間しか知りようの無い事。アークの覚醒により、全人類、全世界が滅亡した世界線。それを彼女は、ハッキリと口にした。その口調はまるで、子供に聖書や昔話の教訓を語って聴かせる母のようなそれである。

「ふむ・・・その話の内容は兎も角、世界を滅亡させたと言うのもバカに出来なくなりましたね」

「あー!また信じてない~!ホントだって言ってるのに~!」

尤も、それは文字通り別世界の話。この世界の人間の理解など、得られる筈も無い。

『いや、興味深いよ』

「先生!」

否、明確に興味を示す者はいた。殺風景な部屋の隅にポツンと置かれた、時代遅れのブラウン管テレビ。其処に砂嵐が映り、ザリザリとノイズの混じった声が響いた。

『この世には、未来予知なんて能力もあるぐらいだからね。君の個性にそのような側面がある事を否定する事は出来ない。

何より、そんな存在がいるとしたら・・・面白いじゃあ無いか、ロマンがあって』

「さっすが先生、分かってるぅ♪」

理解者を得られたのがお気に召したのか、少女は髪を揺らしてころころと笑った。その際に、黒髪に混じった赤のメッシュがチラリと覗く。

「あぁ、早く私を迎えに来て。この醜い世界を滅ぼして・・・

 

アーク様♥」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
サウザンド社長主人公。今回の被害者。
開発部のアホ共に1人でツッコミを熟しつつ、有用な試作品を吟味してサルベージし、尚且つ徹夜しまくっているバカを寝かし付けると言う超圧縮労働。胃が潰れそう。
其処から更に、雄英の特別会議にてアークの仕出かした厄介事の嵐にミキサーされた。胃が取れそう。
そんな状況でも目敏くビジネスチャンスを掴み、各種機材や商品の契約を大量に取り付けた辺りが流石は敏腕社長と言える所。
「温かいうどんは染みるなぁ・・・」

・アーク
好き勝手やり過ぎた一般転生2周目悪意。
ヒーロー視点から見ると、
①味方ヒーローがダウンした直後に突如出現
②最も期待の厚い特記戦力を1発で吹っ飛ばす
③他の実力者達もまるで歯牙に掛けず遇う
④何か闇がありそうな子に精神攻撃を仕掛ける
⑤トップヒーローの一撃すら余裕で受け止める
⑥意味深な事を言って即座に行方を眩ます
等と、やった事が全てRPG序盤でチラ見せしてくる敵幹部orラスボスの挙動そのものであり、べらぼうに警戒されている。

・主任
お巫山戯大好き、トラブルメーカー主任。
今回は屋内でグレポンをぶっ放した。その結果社長直々に折檻(ライダーキック)を頂く事となるも一切答えた様子無く火花を散らしながらゲラゲラ笑って見せた。
因みに、幾らやらかし常習犯の主任でも流石に壁に埋められるのはそう高頻度なイベントでは無い。月に2回あるぐらいである。

・キャロル・ドーリー
【挿絵表示】

表情希薄ドックオック系美人オペレーターキャロりん。
両脚を失っており、それを補うように義足と4本の合金製作業用アームを使っている。アームはまんまスパイダーマン2のDr.オクトパスのそれ。
若干にロングスリーパーであり、9時間寝ないとパフォーマンスが落ちるとは彼女の言葉。

・ギムレット伍長
主任の部下の傭兵。
強面だが気さくで、コミュニケーションに積極的。
元は主任の経営する民間軍事会社の社員だったが、今は主任がその会社ごとザイアに抱き込まれている為、実質出久の部下でもある。
主任が巫山戯倒すのはもはや慣れっこであり、最近は仲間内で吹っ飛ばされる時間帯と方角を当てる賭けをしている。因みに負けたら1食奢り。

・巳穂錬硬太
運動神経良さそうな社畜上がり青年。
戦闘員への適性があり、13課に見学に行かされた。
苦労は多そうだが、何だかんだ前の職場とは大違いな楽しそうな場所だと思っている。

・長髪の少女
言わずもがな彼女。公開出来る情報は極めて少ない。
敵連合の基地におり、()()から興味を持たれている。1周目アークの凄惨な所業を知っていたり、それでも尚アークを崇拝に近いレベルで敬愛したりと、狂気的な面が目立つ。

~アイテム・用語紹介~

・フリージングベアープログライズキー
アークが轟から抽出したデータで作ったプログライズキー。
強烈な吹雪に加えて、氷塊や氷柱を生成する事によって物理攻撃も可能なアビリティである。

・フレイミングタイガープログライズキー
アークが轟から抽出したデータで作ったプログライズキー。
炎を吹き付ける火炎放射や、純粋な高熱による溶断、トラップのような遠隔での火炎噴出等が出来る使い勝手の良いアビリティである。
主のシティウォーズの主戦力。

・ZAIAエンタープライズ第13課
変態とキチガイが寄せ集められた部署。通称《日陰者の第13課》。
主任をトップとし、その直接の部下の傭兵80名、及び実験開発ジャンキーの研究員・技術者を寄せ集めて出来たカオスな部署である。
尤も、この編成には《実戦経験豊富な兵士から要望を取り入れて新装備を開発する》と言う狙いがあり、事実、レイドライザーの味方の位置の視認機能や、戦闘終了時の沈静化機能はリクエストを汲み取った機能だ。
各々優秀だが、人選が人選なのでトラブルが絶えない。特に製作陣は仕事と娯楽の感覚が完全に融合しており、仕事が苦にならないせいでホワイトな労働環境で逆に研究にのめり込み過ぎる、と言う出久の盲点を突いた恐ろしい特異点を発生させている。
曰く、「だって家より此処の方が設備も整ってるし居心地良いんだもん」との事。因みに全員が異口同音である。

・飛電メタル
13課の開発者が新たに開発した特殊合金。
可塑性、硬度、密度、形状等を自在に操作する事が可能な新素材であり、その性質上最強の矛と最強の盾の両方に成り得る革命的な金属。
因みにアークが然り気無く開発者のPCにデータを紛れ込ませて発破を掛けてたりする。
現状、意識を集中していなければ特定の形を保てないと言う弱点がある。

・ホバーグライダー
13課の発明品。
超小型の新型発動機と高性能圧電素子により、レイダーを乗せたままで時速80キロで飛行可能。単体ならば290キロにも達する。更に静音性にも秀でており、恐ろしく静かに高速飛行が可能。
イメージはスパイダーマン3のニューゴブリンが使ったグライダー。これから色々と武装する。

・レイドライザー(エフェクト+)
レイドライザーの実装時に、ヒロイックな光学エフェクトが展開されるバージョンアップパッチ。
因みに当初はアイアンマンMark45のように飛び交うパーツが身体にぶつかるように装着する仕様にする予定だったが、開発者がそのパーツに脚を強打して断念。保冷剤を巻き付けて作業し、何とかこの仕様で完成させた。
尚、脚の骨には罅が入っていた模様。コレだから変態は。
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