貰った特典、死亡フラグ   作:一方逃避

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12話:平穏は波乱の幕開け

 ダレンは何も考えることが出来なかった。なぜマリがここにいるのか、なぜ隣で寝ているのかさえ。何も考えることができないまま、その瞳はただマリを見つめていた。

 

「…………少女誘拐?」

 

 ポツリと、誰かが言った。

 

「はっ……違う! そんなことしてない!」

 

 その言葉にわれにかえったダレンは必死の否定をした。彼は罪状にそんなものを加えたくないのである。

 

「なんだ、お前ら。騒がしいが、何かあった…………少女誘拐か?」

 

「ちっがーーーうっ! 来て早々、変なことを言うな、サイファー」

 

「何々、どうしたの?」

 

 ダレンの叫び声で、カレン、ヴェイロンなど全員が集まってしまった。部屋に入るなり、状況を見て固まってしまう。

 

「ん? 待て、この娘は……」

 

「そうだよ……マリに見えるよ。ったく、何がどうなってんだよ!」

 

「落ち着いてください、ダレン。僕たちが部屋に入ったときは既に彼女はいました。何か心当たりはありませんか?」

 

「そんなのはねぇよ、フォル。でも……何かあった気がするかも……」

 

 思い出せそうで、思い出せない。頭のもやもやは、全く晴れなかった。

 

「まー、とにかく、私たちは仕事があるわけで? このことについてはそれが終わってから考えましょう……ダレンの少女誘拐については」

 

「まさかの確定っ!?」

 

 この状況をうまくまとめたかに見えたカレンだったが、それは冗談も含まれていた。彼女はこの状況を楽しんでいた。

 

「ステラ、ダレンと一緒にお留守番お願いね~」

 

「わかった、お姉ちゃん」

 

「それじゃあ、よろしく」

 

 最後にウィンクを残して、カレンは部屋から出ていった。ステラとダレンを除いた他の者たちも後についていく。

 

「ふざけやがって、あの女……」

 

「ダレンお兄ちゃん、ちょっとかわいい」

 

「はぁ?」

 

「あんなに慌ててるの、初めて見たから」

 

「しゃべれるようになったと思ったら、生意気言いやがって」

 

「えへへ」

 

 一見、和やかに見える会話のなかでも、ダレンの心は穏やかではなかった。ダレンの想像をはるかに越えることが起こった。今までこの世界では、ダレンがあらかじめ知識として知っていることが起きていた。それ故に、知らないことが起きると、対処ができない。知識というものは、恐ろしい。

 

「しかし、起きないな」

 

「えっと、マリさんって、もしかしてお兄ちゃんが前に言ってた女の人?」

 

「そうだよ、わけがわからないよ」

 

「まだ、起きないね」

 

 そう言ってステラがマリに触れようとした時、マリがピクリと動いた。まるで、なにかに反応するように。

 

「う……ん、あれ、今何時だっけ……」

 

 マリが起きた。ダレンは動けずにいた。何を言えばいいのか、何をすればいいのか。頭の中がグチャグチャで思考がまとまらない、身体が動かせない。ステラが何か言っているが、それさえも聞こえず、反応できない。

 

「ここは………………あ、ダレン?」

 

「あ、あ、うえ」

 

「ダレン……だよね?」

 

「あ、うん。久しぶり。元気にしてた?」

 

 我ながら、馬鹿なことを言った、そう思うことさえできなかった。彼の今の頭では、これが精一杯だった。

 

「あれ……生き……てる……? わたし、生きてる!!」

 

 瞬間、マリがダレンに抱き、そして泣いた。まるで、あの日から今までの泣けなかった分を消費するように。

 

「よかった、本当によかった。ダレン……心配した……」

 

 そこで、やっと本来の頭の回転を取り戻したダレンはやはり、おかしなこのを言ってしまう。

 

「えと、おはよう?」

 

「おはようじゃ……ないよ……」

 

「確かに、朝じゃないよね」

 

「ステラ、意味が違う」

 

「う……ぐすっ……ひく」

 

(どーしたもんかなぁ……)

 

 マリが泣き終わるまでに、十五分はかかった。その時間はダレンにとっては永遠のように長く、しかし一瞬の出来事にも思えた。

 

「落ち着いたか? マリ」

 

「うん、なんとか」

 

「うわ、肩のところ濡れてぐちゃちゃだ……」

 

「すんっ……ごめんね」

 

 一時の落ち着き、だがダレンには確認しなければならないことがあった。彼の罪に関することを。

 

「本当にマリなんだよな」

 

「うん、わたしだよ」

 

「でもあのとき俺はっ……」

 

 ダレンのこの世界での最初の罪。忘れることのできない忌むべき記憶。いや、ダレンは自分で忘れない。忘れることをよしとしない。そのことは、何をしていてもダレンの後ろに付いてまわる。

 

「大丈夫だよ、ダレン」

 

 マリは優しくダレンの両手を包み込んだ。

 

「確かにあの時は痛かったし、苦しかったし、悲しかった」

 

 でもね、と一呼吸。

 

「うまくは言えないけど、ダレンだって、痛かったし、苦しかったし、悲しかったはずたよね。おあいこだよ。だから、気にする必要なんてない。それに、今こうしていられるのことがわたしは嬉しい。お母さんとお父さんを殺した人は許せないけど、でもダレンまでいなくなるともっと悲しいよ」

 

 そして、きゅっとマリはダレンを抱き締めた。

 

「あの、すごい言いにくいんだけどさ」

 

 見ている光景に耐えられなかったのか、今まで完全に蚊帳の外となっていたステラがおずおずと切り出した。

 

「マリ……お姉ちゃん、だっけ。その……服着ないの?」

 

「「……あ」」

 

「二人とも忘れてたんだ」

 

 そもそもマリは自分が服を着ていないことすら気がついていなかった。ダレンは頭が混乱しているうちに忘れてしまっていた。そして、導き出される答えはただ一つ。

 

「や、や、や」

 

「ちょっ、マリ落ち着け!」

 

「ダレンのヘンタイッ!!!!」

 

 ダレンは体が一瞬にして宙に浮くのを感じた。そして、思いきりベッドに叩きつけられていた。

 

「ダレンのエッチ、スケベ、何でこんな時にっ!?」

 

「いや、わかりません」

 

 何か着るものはないかと探したマリだが、そんなものは無かったので、ベッドのシーツで妥協した。それを体に巻いたマリは、顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

「…………でも、こんなこと前にもあったよね」

 

「あー、うん。あの時も背負い投げされたっけ」

 

「ところで……その女の子は誰?」

 

 マリが指差すのはダレンの隣にいるステラ。

 

「あぁ、ステラって言ってフッケ……」

 

 この時、ダレンはまた思考が停止してしまった。まず、自分が犯罪者集団にいることを、今まで自分の行ってきた数々の殺戮をどう説明すればいいのか。

 

 そして、マリにとっての敵であるサイファーとの関係を。

 

 平穏とは所詮一時であり、すぐに波乱へと誘われる。




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