魔法少年は青空に焦がれる。   作:korotuki

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 主人公はイリヤ達と同じ小学五年生です。


第0話 プロローグ

「グッ……!」

「もう諦めたらどうだ?」

 

 草木すら眠る深夜の丑三つ時。電気が消えて久しい住宅街に二人の男が立つ――いや、()()()()()という方が正しいか。

 一方は衣服に乱れこそあるものの余裕すらあるような振る舞いで立っており、もう一方は正に満身創痍。体を直立させる力もないのか地面に平伏していた。

 

「バカな…時計塔に所属すらしてない極東の魔術使い如きに!!」

「酷いなぁ。これでもこの土地任されてる由緒正しき一族(セカンドオーナー)の一人なのに」

「黙れッ――空に囚われ、魔術の研鑽を忘れがフッ!?」

 

 言葉(捨て台詞とも言う)を紡ぎ切る前に雑に頭蹴り飛ばされ意識を手放した男――態々国外から来た外様の魔術師に。男は呆れたように言い放つ。

 

「人様の魔術礼装借りパクしようとしといて何言ってんのやら。自分のこと棚に上げすぎだわ神棚かよ」

 

 ハイハイ帰った帰ったと近くに停めてあったバンに男を押し込み、馴染みの運転手が深く被った帽子を更に押し込み発進したのを見送り、男は大きく伸びをする。

 すると、遥か遠く……彼が敬愛する“空”に。一気の飛行機が飛ぶのが見えた。

 

「クラスカード・カレイドステッキ・鏡面界ねぇ」

 

 これから起きる一時の大騒動。

 

 その青年は、主要人物でこそないが支援役(バックアップ)として一部を伝え聞いていた。

 

「何があるかは知らんけど。精々こっちに迷惑かかんないように祈るか…にしてもアイツは大丈夫かねぇ?」

 

 彼はそう独り言を呟くと、背を翻し帰路へと帰っていった。

 

 ここは冬木市の隣市“夏川市”。冬木ほどではないが平均少し上の龍脈と、冬木以上に商業や観光で発展した地方都市。その管理者(セカンドオーナー)である【青空翔】を筆頭とした青空家は、今日(こんにち)毎夜隣市に襲撃をかけようとする魔術師/魔術使いの対処に追われていた。

 

 


 

 

 ――ただ、その瞬間を待ち続ける。

 

 目はただ愚直に道の先を捉えつつ、しかし耳はしっかり開始の合図を拾うために感覚を広げないといけない。

 今か、今かと浮き足立つ体と足を必死に止める。ズル(フライング)はいけないしとても恥ずかしい。

 

 ジリ、と地面を踏み締める。まえにテレビでみたクラウチングスタートいうとても早い走り方を見たが、兄さん曰く「アレは足の接着面を平行にして、その推進力を限りなく横にするから速いんだ」と言っていたので、結局いつものフォームで走ることにする。

 

 隣のライバルも出発の合図を今か今かと待ち構えているようで、時折重心を前に傾けたと思ったら「傾け過ぎだ」と戻し。「いやでももうちょっと…」という動作を繰り返していた。

 

 …気持ちはわからんでもないけど。

 

 そうこうして気を紛らわせていると、ふと僕らの斜め前にいた先生がスターターピストルの引き金に当てた指に力を込めるのを目撃した。

 

(そろそろか――)

「…負けないよっ!」

「!」

 

 至近距離からかけられた声の方向を振り抜くと、そこに居たのは雪のような少女だった。まだ子どもだから上手い表現は出来ないけど、白い髪と赤い瞳は精巧な西洋人形のように整っている。

 しかし、“人形のようだ”と表現したその赤い瞳には…「絶対に勝つ」という剥き出しの闘争心。何よりも強い人としての心意気を感じ取ることができる。だからこそ、僕はそれに同じ人間として応えた。

 

「僕こそっ!!」

「よーい…ドンッ!」パァン!

「「ッッッ!!」」

 

 これまで焦らされた体と意識を一気に前のめりに、当然倒れそうになるがその前に足を出し地面を踏み締め。再び地面を蹴る。

 

 走る作業はとても簡単だ。体を前に倒し足と腕を前後に左右させただ地面を蹴る。

 

 簡単で単調な作業だ。少なくとも算数の問題を解く方がずっと難しいし、ゲーム機で世界を救う方がずっと複雑で達成感があるハズだ。

 

(それなのに…それなのになんで――!)

 

 今まで感じてきた加速感が無くなったのに気付いた。自分はいま最大速度(トップスピード)の中にいることを知覚する。横にいる少女もコース外で応援するクラスメートも……今だけは恋してやまない“空”も見えない。

 見えるものはゴールだけ。それに合わせて地面を蹴る。腕を振るって顔を前に出す!

 

(なんでこんなに楽しいんだろう!)

 

 そして今、僕はゴールテープを――

 

 

 

 

「次は勝つ!!!」

「うんっ!じゃあ私はお兄ちゃんと一緒に帰るからー、また明日ー!」

「また明日ッ」

 

 まぁまんまと負けたわけですが。

 

 赤銅色の髪のお兄さんと一緒に走り去っていった(尚兄は自転車)少女…“イリヤスフィール・フォン・アインツベルン”。愛称イリヤを見送った僕も一人歩いていく。

 

 地元の学校が謎の集団体調不良になってからはや三日…こうして隣町の“穂群原学園”の小等部に通っていた。

 

(それにしても、他の子は近くの学校に一時編入って扱いだったのになんで僕だけ態々冬木市に……)

 

 母様…は家のことに殆ど関与しないから仕方ないけど、当主である父様も「早めに熟すことになった責務だと思って」と言って詳しいことは何も教えてくれなかったし…まぁ衣食住自体は不足していないから、問題はないけどさ。

 

 それでもさぁ…

 

「さすがに、小学生にホテル暮らしをさせるのはどうかとおもうなぁ…」

 

 入り口で止まった僕を出迎えたのは家の玄関口ではなく自動ドア。白を基調に金や銀の装飾が施された静謐なロビーで僕はため息を吐く。冬木を代表する高級ホテル“冬木ハイアット・ホテル”程ではないが、少なくとも一人で。それも観光ではなく普段使いするにはあまりにも余分なホテルだ。

 

 受付の人に挨拶を交わし暫く歩き部屋に入る。鍵は普通の鍵ではなくしっかりとカードキー…それもこれ一つでホテル内の施設や買い物に利用できる便利な物で――やっぱり過分だ……

 

「明日の支度明日の支度…」

 

 まだ六時にもなっていないが、それでも早めに準備することにこしたことはない。制服のアイロンがけと教科書の準備に宿題に。小学生は意外と多忙なのだ。途中携帯から来た友達のメールに返信しながらも作業を進める。

 元々マルチタスクは得意な方だし、あまり苦に思わず終わらせることが出来た。

 

「ん〜ッ……終わった〜!」

 

 達成感と共に背伸びをする。…流石に父様や兄さん達みたいに骨は鳴らない。これが若さである…フッ。

 世の中の背伸びで骨が鳴る人間にマウントを取ったところで時計を見る。午後七時半…ちょっと暇になっちゃったな……

 

 そうしてボケーっとしていると、懐の携帯電話がプルプルと鳴り響く。

 

「…?誰からだろ…はいもしもし」

『やぁ。元気かい?』

「父様?」

 

 携帯を取り出した僕はそれを耳に当て呼び掛けると、携帯からは威厳…には満ちてなくむしろ軽薄な雰囲気すら感じる。だが間違いなく敬愛する父様の声が聞こえてきた。

 

『失礼なこと思ってないかい三男よ』

「いやぁそんなわけは…で何のようです」

『親が子の心配しちゃ悪いかい?まぁ一つ伝言がね』

「伝言?…言霊で操って気づいた時には僕の手は緋色に…!」

『しないよ!?ゴホン……今日は早めに寝ること、いいね?』

「え?いやでもまだご飯も済ませて――」ピンポーン

『ルームサービスです。お食事をお持ちしました』

「あっはい。ありがとうございます」

 

 急に来たルームサービスのお姉さんからカレーライスを受け取り、再び携帯を手に取る。

 というかタイミングからして……

 

「びっくりしたんだけど」

『ここ数日構えないからこのぐらいはね?』

「…とにかく、いただきます」

『召し上がれ』

 

 多分今頃母様曰く「耳を捻って引っ張りたくなるニヤけ顔」をしているのだろうなと思いながらもカレーを食べ勧めた

 

(少年黙食中…)

 

「ごちそうさまでした」

『うんうん。お粗末様でした』

「ひとまず言われた通りにします。今日はさっさと風呂に入って寝ます」

『そうしてくれると助かるよ』

 

 紙製の容器を捨てて、従ってばかりじゃ自主性がちょっとなと思い。理由を聞いてみることにした

 

「一応理由を聞いても?」

『あー、うん。…お前を送り出す時に、ボクがなんていったか覚えてるかい?』

「確か、「早い責務」と」

『そうだね…その“先駆け”が、今日私が早く寝ろと言った理由だよ』

「! 明日、何か起きるってこと?」

『そうかもしれないね。だから早く寝なさい』 

 

 普段よりも真面目な父様の声を聞き、僕は自分の中でスイッチが切り替わるのを感じた。

 小学五年生の僕ではない。――魔術師としての僕が出て来る。

 

「分かったよ父様。おやすみなさい」

『おやすみ、良い夢を』

 

 シャワーを浴び布団に潜り込む。宿泊初日は

枕とマットレスが違いすぎて寝れなかったが、今ではそこそこ慣れたもんだ。

 そんなに時間も経たずに俺は寝ようと――

 

「流れ星…?」

 

 ふと視線の先に光の尾を引きながら夜空を走る流れ星を見つけるが、数回チカチカっと瞬いたと思ったら消えてしまった。燃え尽きたのだろうか?

 

「まぁいいや。寝よ」




 次回は夢の中での説明会となります
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