魔法少年は青空に焦がれる。   作:korotuki

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あんまり動きがなくてすまない…


第2話 訳知り顔ってちょっとイラつくよね

PiPiPiPiPiPI……

 

「………おはよう」

 

 アラームを止め、布団から芋虫のように這い出た彼は。言う相手もいない部屋の中で呟いた。それはきっと一種の郷愁であり、その声は壁へ吸い込まれ――

 

《おはようございます。マスター》

「……夢だけど、夢じゃなかった」

 

 が、勇飛の声に返答した声があった。水晶のように透き通る声の持ち主を見た勇飛は。某有名アニメーション映画の言葉を引用してため息をついた。

 

《現在時刻AM06:34、理想的な起床時間と言えるでしょう。流石はマスターです》

「そりゃありがとう。ところで君は?」

《はいマスター、私の名前はカレイドクォーツ。マスターのクラスカード回収の任を助けるため、創造主から派遣された魔術礼装です。エヘン》

「これは丁寧に、僕は青空勇飛。これからよろしく」

 

 思っていた数倍丁寧な自己紹介に返礼を返しながら勇飛は顔を洗い制服に着替える。その際もクォーツはふよふよと彼の周囲を飛び回っており、勇飛はそれを時折目で追いながらも支度を始めた。

 

「ふーん。じゃあクォーツの内部には、クラスカードが入ってるんだ?」

《いえマスター。正確には私の創造主が製造した擬似的なクラスカードです》

「なんでそんなのを?紛らわしいし、第二のクラスカードとかになったら危なくないか?」

《そうならないように一部制限をかけさせてもらっています》

「制限?」

 

 Yシャツに袖を通しボタンを閉める。情報収集と支度を同時平行しているが、その動作に一切の澱みはない。

 

《普段は私の中に収納し、必要に応じて排出。マスターに貸与し。不必要になればまた収納します。私の中にいる限りは、ただの魔力の糸クズの塊にしか過ぎませんので》

「とにかく、防犯意識バッチリってことか。頼もしい」

 

 最後に勇飛は自分の首元にネクタイピン…に偽装した彼特有の魔術礼装を付け、準備完了と相なった。

 

《それは…》

「あぁこれ?これは僕の魔術礼装【蝋性の小翼】まぁちょっとした飛行魔術の補助ぐらいにしか使えないけど」

《いえ、立派な礼装だと思います。見映え・実用性・引用性の全てを兼ね揃えているかと》

「そっか、ありがと」

 

 勇飛の首元にある礼装は、彼の象徴でもある。彼はそんな一見すると何の変哲もないネクタイピンを撫でると、玄関へと向かっていった。

 

《登校時間には早いのでは?》

「朝ごはんをラウンジに食べに行くだけ。また戻ってくるさ」

《なるほど》

 

 勇飛は靴を履き、カードカーを持ったことを確認。姿見の前で自身の姿に違和感はないかを指差し確認で確かめ。いざ外に出ようとして…ふとクォーツに視線を寄越した。

 

《どうしましたか、マスター》

「いや…君まさかそのまま来る気?」

《あっ、申し訳ありません。隠蔽のことをすっかり失念してしまい…》

「いや、まぁ互いに初日だからね?」

 

 これまで儀礼ぶった口調だったステッキが初めて見せた意思を持つ人間らしい反応に、思わず勇飛は笑ってしまった。そして改めてドアノブに手をかけ、かれは今度こそ朝食を食べに行った。

 

「ところで実際どうやって隠れるんだ?」

《たった今「どんな相手の死角にも!ステルス迷彩モード」を開発したのでそれを使います》

「後者はともかく前者いる?」

《恐れながら、お約束という意味で必要かと》

「そ、そうなんだ」

 

 作り手に似て高次的な理由で反論してきたクォーツの言葉に、なぜか歯向かってはいけないという思考になった勇飛は。ただ無難な返答を返すのみとなってしまった。

 

 

 

 

「おはよー!」

「おはよう!」「昨日は惜しかったなー!」「元気だねー」「おっ、おひゃようございます!」「勝負しろ勝負!!」

「僕イズノット聖徳太子!!」

 

 教室に入って挨拶をするなり帰ってきた三者三様の声にそう投げやりに答えた勇飛は、自分の椅子に向かう。

 

 彼は転校生という立場上教室のかなり後ろの方に席配置がされており、自席に行くまで教室をがっつり横断する形となり。その間にもドンドン声をかけられる。

 内容として多いのはやはり昨日のイリヤとの50m走について。

 

 それまでクラス内で最速の名をほしいままにしていた絶対の女王イリヤに猛追し、幾許かの勝ち星も挙げている彼はそれだけで注目の的だった。男女問わず激励をもらい、彼はそれに適度に返事を返しながら漸く自分の席に座った。

 

《人気者なんですね》

「単に転校生が物珍しいだけさ。週が開ければすぐに鎮火するよ」

「よー勇飛!」

「おはよー鳥山!」

「昨日凄かったよな!運動会の最後のデットヒート見てる気分だった!!」

「だけど僕は所詮敗残兵…石を投げられても、耐えるしか…!」

「勇飛…!」

 

ヒシッ!と謎に熱烈なハグを交わし帰っていく男子生徒を見送る勇飛。

 

《……。》

「とまぁ、会話を続ける自信もないから。あぁやってふざけて誤魔化してるだけ。週跨げば落ち着くよ」

《そうでしょうか》

「そうだよ?」

「ちょ、ちょっとー?」

 

 ふと勇飛が声をかけられた方法を振り向くと、そこには昨日勇飛が惜しくも敗北した快速少女。イリヤがそこにいた

 

「おやイリヤ()()()()()

「イリヤスフィール!そんな何か盗んでそうな名前じゃないよ!?」

 

 アハハハと笑う勇飛にジト目でみるイリヤだが、次の瞬間思い出したように目をかっ開きビシッと指を向けた。

 

「う、嘘だ!拷問する気だろ!!」

「しないよっ!?」

「そんなこと言ったって僕は知ってるんだぞ…っ!」

 

 勇飛の「道化式会話遅延術」の術中にイリヤが完全にハマっていると、ふと教室のドアが開き。担任であるタイガが今日も●●歳になっても尚有り余る元気と共に教室へ突入してくる。

 

「いよォッしお前ら出席取るぞー!着席しろ着席!!」

「はい時間切れ、という訳でで話は休み時間にね?」

「…む〜!」

「むくれないむくれない。大福かな?」

「……」

「え、無視?ねぇ無視なの?」

 

 勇飛の言葉にプイッと顔を背けると、そのままスタタターと自分の席に戻っていった。

 

《マスター、あの方は……》

「ん、クラスメイトのイリヤスフィールさん。ドイツと日本のハーフの人なんだってさ」

《なるほど》

「気になるのか?」

《少々。ですが違和感程度のものです》

 

 少年義務教育中…

 

『妹の気配?』

《イエスマスター。個体名:イリヤスフォール・フォン・アインツベルンの周辺から、同型機…妹機の魔力反応を検知しました》

『ふぅん。話では弟子候補は高校生ぐらいって聞いたけど…』

 

 午後の授業中、勇飛はパスを繋いだクォーツとの念話に勤しんでいた。

 目の前ではタイガがは理科について教えている。頑張っている彼女に悪気を感じながらも、勇飛はクォーツの言った言葉の意味を考えていた。

 

『イリヤが奪った…とは考えられないな』

(そんなことする子じゃないのは短い付き合いでも分かるし、そもそも相手は時計塔の主席。一小学生に下手コクわけない)

 

 黙りこくっていたクォーツは、恐れ恐れと表現するのがしっくりくるような声音で口(?)を開いた。

 

《…考えられるのは、妹機による自発的なマスター変更かと》

「はぁ?」

「おや?どうした勇飛このグレートパーフェクトビーティフルティーチャータイガの授業に不明点でもあるのか!」

「っと、ないです先生。つまり虫眼鏡で太陽光を集める実験は人体や他の生命体にむかってやってはいけないってことですね」

「そのとーり!さぁさぁ次は――」

 

 自身から視線を外したタイガに安堵のため息をつき、それから再び思考の海へと潜った。

 

『自発的…もしかして、ステッキの中の精霊が勝手にマスターを登録・解除したってことか?』

《可能性はあるかと》

『だとしたら完全な災難だな…』

 

 これから人智を超えた戦いに巻き込まれる少女を思い憂いている…その視線の先の本人が物憂げな表情でもしていれば絵になったかもしれないが、生憎本人は彼のそんな気遣いにはに気づくことなく机に突っ伏しているが。

 

「授業中居眠りしないように!」

「たたかれた…」

『…まっあのフラットな様子なら大丈夫じゃないか?』

《どの道彼女がマスターだとしても私にはそれを解除する術を持ちません》

『そうなのか』

 

 ちょっと人目を引く見た目で、足が速くコミュニケーション能力に長けた少女。

 それが勇飛が降したイリヤへの評価だが、そんな彼女がクラスカード回収という特大の厄ネタに巻き込まれている。

 その事実に勇飛は心を痛めるが、それはそうと「気にしていてもしょうがない」という思考へと切り替えた。

 

《お役に立てず、申し訳ありません。クォーツはダメなステッキです》

『いやいや、今回のはしょうがないだろ?そもそも僕のトラブルじゃないし』

 

 ふと隣の席の友人と話すイリヤの方に目を向けると、勇飛と目が合いその大きな赤い瞳をパチクリと瞬かせた。

 勇飛は軽く笑うとジェスチャーで「黒板見とけネボスケ」と伝える。

 

『……まぁなんとかするさ。そーゆうのを解決するためにクオを貸してもらったんだし』

《はい。マスター……それで、クオとは私の名前ですか?》

『クォーツって戦闘中に言ってたら噛みそうだろ?』

《成程。戦闘中・及び急を要する事態に限り、私が反応する言葉に「クオ」を追加します》

『律儀だなぁ』

 

 とその時、授業という牢獄からの解放を意味するチャイムが鳴り響く。

 勇飛が把握する限りではこの授業がこの日最後のため、このチャイムは勉強嫌いの生徒からすれば福音に近いものなのだろう。

 

 現にタイガも「むっ!今日はここまで!」と言って教材を片付け始めた。

 

『仮にも教師が終業を喜ぶのはどうなんだ…?』

《理想像としては兎も角、子どもからすればウケがいいのでは》

『あぁなーる…』

 

 ホームルームを手早く終わらせたタイガがそそくさと教室を出て行ったのを尻目に教室が騒めき出し、程なく一気に騒がしくなる。

 

 遊ぶ約束を取り付ける人、宿題に対し愚痴を吐く人、気になるあの子に話しかけるもガッツリスルーされ崩れ落ちる人。その中でも少数派の「ちゃっちゃと家に帰る人」である勇飛と…普段は複数人の友人と共に帰るが、珍しく一人ランドセルを背負うイリヤは、教室の入り口でばったりと出くわした。 

 

「あ、勇飛くん!また明日!」

「うん。また明日――――あぁそうだ、イリヤスフィール」

「ん?なになに、どうしたの?」

 

 数歩進み、イリヤスフィールと背中合わせになった勇飛は一瞬立ち止まる。

 

「がんばってね」

「へぇ!?」

 

 イリヤが振り返り言葉の真意を問おうとするが、そのときには既に彼は下階層への階段を下り始めていた。

 

《イリヤさん。今の方は?》

「わっ、ルビー!?」

 

 イリヤの学生鞄から飛び出した、クォーツと似た。しかしクォーツとは違いピンクが基調とされた姉妹機「カレイドルビー」は、今なお勇飛が歩いた方向を見ていたイリヤに問いかけた。

 

「ええっとね…あの子は青空勇飛くん。ちょっと前に転校してきたんだー。たまに意地悪だったりするけど、大人びてて。優しい人だよ!」

《ほー。士郎さんとどっちが好きですかー》

「ほえっ!?そ、それはそのぉ……」

《特にあの小翼型のネクタイピン!素敵ですねぇ~!》

「そうだよね!この前どこにあったのか聞いてみたんだけど「思い出の品だから覚えてない」って言われちゃったんだ~」

《そうなんですね~。ではでは、早速家に帰って。魔法少女としての修行をしましょー!》

「おー!!!」

 

 

 

 

「今の見たか?」

《見ました》

「パッと見はお前の同型に見えたが…」

《はい。アレは間違いなく私の姉妹機、カレイドルビーに間違いありません……やはり、勝手にマスター登録を変更をしたのでしょう》

「あちゃあ…」

 

 即席の使い魔である燕を逃すと、勇飛は額に手をあて予測が確定情報となった事実を処理した。

 今頃下駄箱に向かっているであろうイリヤを余所に、勇飛は一足速く帰路に……つくことなく、身体強化の魔術を用い学校の校舎をよじ登り屋上へと降り立つ。因みにクォーツの力で上ることもできたが、本人は「修行の一環」としてこれを断った。

 

「とりあえず、今日はここで回収作業が始まるまで待機だな」

《簡易的ですが人払いの結界を降ろしました。余程強い目的意識をもたない限り人は来ません》

「なら良し。……とりあえず、やってみるか」

 

 ステッキから伸びてきた柄を握り、しっかりと保持。そして空気を吸い込み…覚悟を決めるように息を細く吐く。

 

《マスター?私を使っての転身の実践は初めてですが、安全性は保障されています》

「い、いや。どちらかというと心の準備」

 

 実は勇飛、クォーツと魔力パスを繋ぐ直前。彼はホテルのフロントにあるデスクトップPCを起動し、密かに検索ページに「魔法少女」「魔法少年」といったワードを打ち込み検索にかけていた。その結果……なんともまぁ、様々なデザインや多様性()に富んだ「魔法戦士」のデザインをその目にブルーライトを浴びつつも閲覧した。

 結果は…彼の現在の死地に赴く戦士のような表情からうかがい知れると思う。

 

「よし!やるぞ!」

《…?はい、多元転身(プリズムトランス)開始。コンパクトフルオープン。境界回廊最大展開》

 

 覚悟を決めた勇飛が叫ぶと同時に、クォーツからの淡々とした声音の転身シークエンスが開始する。一瞬で服がクォーツの中に格納され、次にそれに続くように彼を着飾る魔法少年としての衣装が展開される。

 

 クォーツから放たれた光が幾多にも枝分かれし、それはふたご座流星群のような幾千万の流れ星になり。勇飛の体へと殺到する。

 流れ星一つ一つが彼の服の糸になるように彼の体を奔り覆う。いつしか大量の流れ星でしかなかった光たちは光を発する衣類となり、その輝きは消失。その後には転身が完了した勇飛の姿が残った。

 

 彼の予想では下手すればハイレグだがロリータだがゴシックだかフリルになることも覚悟していたが、そんな彼の危惧とは裏腹に勇飛が纏っていた衣装は黒を基調とした、白のラインが入った丈が長めのブレザーに藍色のスラックス。ブレザーの下は純白の白と淡い青のストライプ模様のシャツにくすんだ色のオレンジのネクタイという、機能性も確保された実用的なものだった。

 

 それを目にした勇飛は深く、それはもう深く安堵のため息をつき、先端から刃を突き出し。槍のような長柄になったクォーツに話しかける。

 

「予想よりも万倍マシだ…!」

《マスターの性別も考慮してデザインしました。お気に召したでしょうか?》

「勿論!ありがとうクォーツ!!」

《どういたしまして》

 

 勇飛は礼を言うと、ふと槍のような形となったクォーツを両手で握り一通り動作を試す。

 

「おおっ。僕の強化魔術より倍率高いな。今のうちに慣れとこうか」

《同意します》

 

 そうしえ勇飛とクォーツは、夜になるまで武器を振るい微調整を続けていった。




ジーク×クリいいよね…すまないさんの無自覚褒め殺しに悶えながら苦し紛れに罵倒するクリームヒルトいい……
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