魔法少年は青空に焦がれる。   作:korotuki

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 主人公は魔術師としては良識がありますし、管理者の一族として一般人は保護すべきだと考えています。


第3話 傍観者の心主役知らず。

 穂村原学園小等部の屋上。

 

 そこでは転身状態の勇飛か槍へと変形したクォーツを振るっていた。強化の振れ幅に驚いた姿も今はなく、手にした槍を自在に振るう。

 

「フゥ――ッ!」

 

 クォーツが出した無数の的を遠心力に任せた薙ぎ払いで切り裂き、勢いそのままに飛び上がって一回転し、空中から落下する勢いを利用して横向きの一閃を放つ。

 

「ハッ!!」

 

 残心を解き再び飛び上がり、クォーツを地面に振り下ろして地面に叩きつけ、その反動で起き上がると今度は斜め上から斬り上げる。攻撃の反動を回転でやり過ごし、最後の一際大きな的の正中に突き出し粉々に砕いた。

 

「うし、まぁこんなもんか」

《見事な演武でした。これなら実践も期待できますね》

「ならいいんだけどな…演習と実践は違うだろ?」

《サポートは全力でさせていただきます。それにしても手慣れていますね、何か武術を?》

 

 柄を短くし通常のステッキ形態となったクォーツを持ち、勇飛は軽く首を縦に振り首肯する。

 

「兄さまがやってた古武術を少しね…まぁ武器術はちょっとしかないから体捌きぐらいだけど……にしても凄いな。反動も疲労感もない」

《当然です。無尽蔵の魔力補給、それがカレイドステッキ共通の機能ですから》

 

 ほえー、と感心するようにようにクォーツを見る勇飛はステッキから視線を外し空を見上げた。

 慣らし運転を始めた際は日を傾きも浅い空模様だったが、勇飛が先ほどの演武を終わらせた今となっては日は茜色に染まるどころか既に完全に沈んでしまっていた。

 

「綺麗な夜空だな…ウチ(夏山市)は結構な地方都市だし、冬木も新都側は明るくてこうは見えない」

《…マスター、魔力反応及び、カレイドステッキの信号を感知》

「了解。まぁあくまで助太刀だから最初は観察だな」

 

 視線を凝らすと、学校の運動場に二人の少女が入ってくるのを視認することができた。

 

「やっぱりイリヤスフィールか…んでアッチ、は……セ、管理者(セカンドオーナー)!?」

 

 予想外の人物の登場に思わず大声を出した彼は、まさか今ので気づかれるのではないかと思わず口を抑えた。

 

《ご安心を、反応を検知した瞬間から認識阻害の簡易結界を展開しています》

「あっ、あぁ…ありがとうクォーツ」

《お知り合いですか?》

「直接話したことはあんまり…遠坂家は確かに青空家と同じ土地の管理者だけど、あんまり積極的な交流はしてなかったから」

《なるほど…境面界への移動を開始するようです。取り残されないよう我々も準備を》

「分かった――って言っても殆どクォーツ任せの全自動(フルオート)だけどさ」

《半径60㎝にて反射路を形成。境界回廊一部反転を開始」

 

 全てが裏返るような感覚を一瞬覚え、勇飛は鏡合わせの世界へと突入する。

 

「…(きったな)い空だな」

 

 毒々しいともケミカルとも言い換えられる禍々しい空への嫌悪。それが勇飛が発した鏡面界への最初の感想だった。

 

「広がる縦横の線も。まるで「区切られてる」ようで気に入らない」

《…マスター、怒っているのですか》

「青空家だぞ?僕らは文字通り青空について思うためみたいな一族だ」

 

 しかしそれ以上は自分が住んでるわけでもない異界に苛立つだけ無駄かと割り切り…しかし空を見ないようにイリヤたちへと視線を焦点(フォーカス)した。

 すると彼女達の前の空間に、一つの黒い点が生まれた。

 その点は水の中に一滴垂らしたインクのように空間を侵食し、やがて点はシミへ。そして人間一人分ぐらいの面積はありそうな空間へと変化する。

 

 その黒い空間の奥から、長身の女性が出てきた。

 紫の長髪を結ぶこともせず乱雑に暴れさせ。四肢や身体の一部は侵食されたように黒ずみ、更に目にはバイザーのようなものがかけられていた。それもアイマスクのような耳にかけるタイプではなく、まるで拘束具のような目から後頭部を覆うタイプである。

 

 黒い女性はイリヤと遠坂を視認する――――

 

「わわっ!?」

 

 ――と、すぐさまに飛び掛かり。回避行動をとった二人が先程までいた地面を強く叩いた。

 

 大の大人が全力で蹴っても精々数センチ程度しか割れない運動場の地面に拳大の大きな穴が開く

 

Anfang(セット)――爆炎弾三連!」

 

 攻撃の隙を狙った遠坂が、自慢の宝石達を用いた宝石魔術で爆炎を引き起こし迎撃するが、土煙を切り裂き現れたその姿には一切の損傷はなかった。

 

「アレが英霊…いや、カードの影響で変容した【黒化英霊】か」

《イエス。特にあの英霊は魔術に対する概念的な守護を持っているらしく、先遣隊も歯が立ちませんでした》

「あー英雄譚の英雄にありがちな「並みの攻撃じゃ歯が立たない鋼の肉体」ってやつ……」

 

 一連の光景を見た勇飛がそう呟く中、遠坂は自分の攻撃が通じないことをわかるや否や逃亡…もとい戦闘域外からの指示出し役へと役割変更した。

 二人から一人へ。よって自動的に黒化英霊のヘイトが向けられたイリヤに、どこからか現れた先端に短剣を括り付けた鉄鎖がイリヤへと肉薄。たまらず彼女は逃走の一手を選択し脱兎のように距離を取り始める。

 

「……………」

《いつでもいけます》

「いや、まだいい。せめて反撃を見――」

 

 言葉とは裏腹にステッキを強く握る勇飛。しかしそんな彼の視界に映ったものを見て、思わず息を飲んだ。

 

「あーもー…もうどーにでも、なれー!!」

カッ!!!

 

 そこには運動場の端から端まで広がる大斬撃の魔力弾を放ったイリヤの勇姿が!

 

「――え…いや、えぇ…?」

《凄まじい魔力弾ですね。妹機(カレイドルビー)の性能もあるのでしょうが、それよりもマスターの許容量や想像力の影響でしょう》

『――――■■■!?』

 

 魔術での攻撃は無効化できても、魔力自体の無効化はできない。そんな事実を表すように黒化英霊の腕には大きな切り傷が刻み付けられていた。

 

 これまで傷らしい傷を負わなかった敵の姿に、現場指揮官TO-SAKAから追撃の命が出され現場のイリヤもそれに従い特大の魔力弾を次々と放つ。

 

 しかし黒化し変容したと言っても百戦錬磨の英霊。一般人なら目で捉えられるかどうかの地を這うような俊敏な動作で魔力弾を次々と回避する。

 

「さて、あのままじゃ千日手だが……」

 

「うぇーしばしっこい!?」

《砲撃タイプじゃダメダメですねー、散弾タイプに切り替えましょう!レッツイメージ!!》

「分かったっ!特大のぉ――散弾(ショット)!!」

 

 イリヤの持つステッキ、カレイドルビーの先端が桃色の閃光が奔ったかと思えば。それはグランド一帯を埋め尽くすような物量の弾丸へと変化し絨毯爆撃のよう黒化英霊の体を飲み込んだ。

 

「…イメージだけで出来るのも困り物だな。散乱し過ぎだ」

《はい、必然的に一撃の威力は弱くなっているかと

 

 勇飛とクォーツと同じ内容を、校舎を壁にしアドバイスを送っていた遠坂も口にし警戒するように呼び掛ける。

 と同時に、土煙の奥から黒化英霊の姿が現れた。

 

「―――ッ」

《マスター、それ以上は認識阻害の範囲外です》

「言ってる場合か?最悪見られても構わない」

 

 いつでも横やりを入れられるように身構える勇飛を余所に、状況は刻一刻と動いていく。

 

 宝具の発動を察したルビーと遠坂に警告されるが気が動転して動けないイリヤ

 逃げられないイリヤを守ろうと自己判断で物理保護を全開にし防御を固めるルビー

 焼け石に水でもかけないよりかはマシだとダメ元で防壁を張ろうとイリヤに駆け寄る遠坂

 目の前の紋章らしきものから切り札足る何かしらを取り出し宝具を今にも放とうとする黒化英霊

 そして――――

 

「クラスカード『ランサー』、限定展開(インクルード)

 

 そんな黒化英霊の背後からカードを介し呼び出した朱色の長槍を構え突貫する一人の少女とステッキ。

 

刺し穿つ――死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!!」

 

 少女の放つ槍は黒化英霊の胸部の中心を的確に穿ち、それが決定打となったのかゆっくりと崩れ落ち光へと還る。

 その場に残ったのはわずかな魔力の残滓と、丁度少女が穿った位置と同じ場所から排出された一枚のカードだけだった。

 

「アレは…カレイドステッキのもう一振りか」

 

 勇飛がそう呟くと同時に朱色の槍を接続解除(アイインクルード)しカードとステッキに別れさせた少女は、そのカード――騎兵(ライダー)のクラスカードをその手に収めた。

 

「え…だ、だれ……?」

「オーーッホッホッホ!!」

「わっ!ないなに!?」

 

 突然聞こえてきた高笑いに驚くイリヤ。しかし、声の主はそれに答えることなく。さらに大きく高笑いを始めた。

 

「この馬鹿みたいな笑い声…やっぱりアンタね」

《相変わらず肺活量やばい人ですねぇ》

「り、凛さんの知り合い?」

「あー…知り合いというか同業者というか……」

「無様ですわねぇ遠・坂・凛!」

 

 校舎の裏、奇しくもイリヤ達が鏡面界から来たのと同じ方向から人影が現れた。

 

 琥珀色の瞳に今どき珍しい金髪ドリルヘアー、青のドレスを見に纏った如何にも「海外のお嬢様」を体現したかのような存在の彼女は。直後並みの男を容易く超える声量で笑い始める。

 

「まずは一枚、カードはいただきましたわ!」

 

 

 

 

「チィ!!」

 

 パァン!と何かが破裂したかのような音と共に二人は飛び退く。

 

 ルヴィア――先程まで高笑いをしていた女性――は組み付きからの投げを主体としたプロレス、一方の遠坂は打撃を主とした八極拳モドキ。

 格闘技同士の相性もあるが、それ以上に互いのレベルが極めて近いが故に生じる拮抗は戦力差がない故に泥沼の体裁を呈していた。

 イリヤは何とか仲裁しようとするが今まで映像越しですら見たことがないほどの残虐キャットファイトに目を回し、ルビーはやんややんやと話しかける。新たな魔法少女も状況を静観するばかりであり、このままでは二人がスタミナ切れするまで続くことが容易に想像できた。

 

『チョイチョイ。仮にも協会からのエージェントが内輪揉めしてていいのか?』

「「ッ!?」」

 

 故に、その要因は外から齎された。

 

『取り合えず初戦突破おめでとう。それがクラスカードってやつか?夢で見た通りなんだな』

「だ、誰よっ!」

「姿を現しなさい!!」

「あわわわわ…これってひょっとして第二のライバル登場シーン!?」

《だとしたら展開が性急過ぎやしませんかねー》

 

 拡声の魔術を使っているのか高い声音ではないのにも関わらず良く通る声に、魔術師がどのような人間であるか知る凛とルヴィアは声の主が隠れていると仮定し、己も声を張り上げ呼び掛ける。

 

『あっはは、姿は隠してないさ。アンタ等がこっちに気づいてないだけだよ…空でも見れば分かるんじゃないか?』

 

 声に従うように空を見上げる四人…そして見上げた空。その端の校舎の屋上にその人物は立っていた。

 

 その人物は、まだ年若い少年だった。遠坂やルヴィアどころか、イリヤや謎の少女と近い歳だと分かる。纏う衣服はしかし彼女らが着るファンタジックなものと違って、色合いこそ派手なものの幾分か現実的な恰好をしていた。

 

「あれは……まさか、小学生?」

「なんでこんな所に……」

『ご心配どーも。でも、俺はこれ預かってるからさ』

 

 そう言い彼は塀により死角となっていた手を露わにする。

 

「んんん!?アレステッキ!??」

「なんですって!?」

「ステッキは二本で一対の魔術礼装、もう一振りなんて…!」

《あらあら…》

 

 手にあったのはイリヤや少女が持つカレイドステッキと瓜二つの透明感のあるステッキ。少年はステッキをトワリングバトンのように華麗に振るう少年は絵になるが、それ以上に持っている得物が問題過ぎるため。あまりその行為自体はあまり注目されなかった。

 

『因みに喧嘩も議論もいいけど、そろそろ崩壊するから帰る準備しろよ?』

 

「~ッ、時間をかけすぎたわね」

「確かに崩壊が始まっていますわね…」

「ル、ルビー!脱出ってどうやるの!?」

「…サファイア」

《はいマスター。半径4メートルで反射路形成―――》

 

 少女の命を受けたステッキが自分一人ではなく周りの人間丸ごと還るための魔法陣を形成し今まさに接界(ジャンプ)しようとした時に、イリヤは少年のほうへ声をかける。

 

「ねぇ!君は大丈夫なの!?」

『優しいね。でも僕もステッキ持ちだよ』

 

 少年がそう呟いた瞬間少年は彼女達よりも一足早く現実世界へと帰っていった。

 

《通常界へ戻ります》

 

 そしてイリヤ達も、ルビーに比べてると幾らかクールな印象を受ける声のステッキの案内で現実世界へと帰還した。

 

 破壊の痕跡が綺麗さっぱり消え、空の景色も正常となり。「帰ってきたんだ」と胸を撫で下ろす。

 

「あんのガキどこに行きやがったー!」

「クッ!確かに試合には勝ったはずなのに、なんか勝負(インパクト)で負けた気がしますわ!」

《別に登場時期は被ってないので大丈夫じゃないですかねー?》

《収集がつかなくなってきましたね》

「あわわわわわ」

「………………」

 

 いつのまにか居なくなった少年の所在について再び騒がしくなり、今日の夜はこうして過ぎていった………

 

 

 

 

「ひょっとして宝石おじさんって俺が手助けすることお弟子さんに伝えてないの?」

《伝えておりませんね》




 特に報告する義務も負っていないので別にイリヤのことを報告する気はないそうです。
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