約束だ、姿が見えなくても君達を見守っている。 作:クソザコぎつね
「おはようございます」
今日も同級生と挨拶を交わしながら、一人席に荷物を置く。彼女の名は鷲尾須美。しっかりとした性格の持ち主であり、日本を愛してやまない。そんな彼女は現在小学6年生。まだ未来に希望を持つ、普通の子供だった。
「ふわぁ〜⁉︎お母さんごめんなさい!……あれ?家じゃない」
鷲尾の隣の席から、寝ぼけた声が聞こえる。彼女は乃木園子。おっとりした性格でありながらも何処か鋭い。また、この国でもかなりの名家の生まれである。
「乃木さん?ここは教室で、朝の学活前よ」
「えへへ〜。鷲尾さんおはよー♪」
「おはようございます」
少し冷たく聞こえるかもしれないが、乃木は鷲尾の事をよく知っていた。鷲尾が席に座ると、タイミングよく先生が入ってくる。
「皆さん、おはようございます」
「はざ〜ッす!ハァ、ハァ…間に合った……」
先生の後から、息を切らして一人の少女がドタバタと入ってきた。
「痛ッ⁉︎」
「三ノ輪銀さん。間に合っていません、席につきなさい」
先生に出席簿で頭を叩かれたこの少女の名は三ノ輪銀。二人の弟を持つ、熱血爆弾娘。毎日が大変な為、今日は席についてから教科書を忘れた事に気づくほどだった。
「それじゃ、今日日直の人」
「はい。起立、礼」
日直である鷲尾が声を掛け、生徒は先生へ礼をする。ここまでは知っているだろうが、この世界ではこの後に別の方にも礼をする。
生徒全員が後ろを向き、備え付けられた神棚に合掌をした。
「神樹様のお陰で、今日の私達があります」
生徒全員が口を合わせ、唱えた。
神樹と呼ばれる本物の神が顕現しているこの世界では、これは普通の行為なのだ。
「神棚に礼、着席」
全員が礼を終え、席につこうとするものの、一部以外は席に座ろうともしない。いや、座れないと言った方が正しいだろうか。
なんせ、時が止まっているんだから。
この中で動けるのは三人のみ、それが先述した者達だ。彼らはある役目があった。勇者という役目が。
「これって……」
三ノ輪が口をこぼすと、たちまち外から鈴の音が聞こえて来る。外にある大橋に備え付けられた大量の鈴は、敵の侵入を知らせる合図であった。
「来たんだ、私達がお役目を果たす時が」
二度瞬きした後、覚悟を決めた様に三人とも頷く。
外にある大橋の空はガラスの様に割れ、ピキピキと音を立てて崩れ落ちてゆく。その先には異次元空間であろう場所が広がっており、得体の知れない存在をその身に感じることが出来る。
その異次元空間から霧の様なものが流れ出し、遂には学校も包み込む。それは光であり、虚空。
思わず三人とも眩しさに目を瞑り、体が引っ張られる感覚に身を任せた。
別の世界ではこの現象は二つ同時には起きない。
片方は異次元人の侵略によるもの。
片方はメタフィールドと呼ばれる、光の巨人の技だ。
だがこの宇宙では二つが同時に起こった、それが何を表しているのだろうか?
ようやく目を開けると、そこには極彩色に塗られた木の根が一面を覆うばかりであり、彼女らは一際高い根の上に立っていた。ここが神樹がバーテックスと戦うべく生み出した結界、その名も樹海である。
「おぉ〜」
「初めて見た〜!」
「これが神樹様の、結界。教わった通りだわ」
「凄いね、全部木だね」
乃木はワクワクしていた。思わず声も弾む。そして少し遠くに大きな建造物を見つけた。
「おおっ!あれが大橋かな⁉︎」
「うん!多分あれだね」
樹海の中では大橋は見た目も変わっていた。橋というにはあまりにも刺々しく、針山の様だった。
「こちらと壁の外をつなぐ橋。あそこから敵が渡って来るのね」
「くぅ〜ッ!私達が勇者だなんて興奮する!」
「三ノ輪さん、遊びじゃないのよ?」
「分かってるって!」
「あ、あそこ見て!」
乃木が指差した先を見ると、橋の下に一つ大きな影が見えた。ここからでは遠くて分からないが、バーテックスなのは間違いない。
「来たわ…」
「あれが敵か♪」
思わずスマホで写真を撮る三ノ輪。樹海では写真や映像機器も使える様にはなっているのだ。
「あれが橋を渡り、神樹様にたどり着いた時。世界が終わる」
「ああ、分かってる」
「私達で止めないとだね」
「お役目を、果たしましょう」
「「うん」」
三人共、頷く。
三人共スマホのアプリを開き、認証用の文言を唱え始める。これは神樹の力を呼ぶ為であり、この工程を経る事で勇者への変身が可能となる。
それぞれが文言を唱え終わると、スマホの画面が変化した。そこをタップしてみれば、三人は勇者へと変身した。
勇者には別々の武器が付与されている。鷲尾は弓、三ノ輪は双斧、乃木は槍である。
「おお〜ッ!初めての実戦!」
「合同訓練はまだだけど……」
「敵が、早く出現してしまったから」
彼ら勇者を管理する組織、大赦は先日の報告で気になる事を言ってきた。何でも結界に一時的に穴が空いてしまったらしいのだ。それは10秒ほどで閉じたが、バタフライ効果によるものだろうか。予想より一週間早く来てしまったのだ。
「大丈夫だよね!」
「慎重に対処しましょう」
「それじゃ、お先に!」
そういうと三ノ輪はあっという間にジャンプし、バーテックスの方へと向かっていった。
「あ、ミノさん待って!」
乃木もその背中を追う。
「二人とも待ちなさい!」
チームワークはバラバラ、鷲尾はリーダーになろうとするも、これでは先が思いやられそうだなと、二人を追いながら考えた。
かつて西暦の時代にも勇者はいた。だが彼女らは敗北し、ある儀式によって天の神からの赦しを得た。
乃木は、その勇者の子孫である。