試合始まって5分。
現在ボールは自チームDFの1人が保持している。ディフェンスラインまで相手チームに攻め込まられたが、味方が奪い返した状況。
味方は相手チームのプレスをあっさりと交わし、氷織へとパスを繋いだ。
うめぇ。とプレーに感激したかの様に口から溢れる。流石、全員FWのチーム。足元があると感じつつ、俺は前方へとランを始めた。氷織とのタスク。それは氷織が少し降りてパスをはたく。そして隙を見て俺へのロングフィード。ボールは現在、氷織の脚。行けると確信した俺はランから全力で前に飛び出した。
一瞬、氷織と目があった気がした。
けれどパスは来ず1回目の抜け出しは失敗に終わった。パスカットに成功した選手が前線にフィードを送る。
それを
ゴール。
それは最も簡単に試合に出場してツータッチ目で烏は決めた。
スコアボードにでかでかと記録が載る。
「お、あれ入るんかぁ。キーパーもDFもザルやなぁ。その辺はお互い様か」
と烏旅人はゴールが入って当然かの如く言う。続々と彼に寄って行くチームメイト。ハイタッチをし嬉嬉した相手チーム達の表情を見てこう思った。ゴールはこうも簡単に入るのだと。
2回目の抜け出しはゴール前に飛び込むスピードを変えてみた。徐々にスピードアップではなく最初からの全力疾走。氷織にパスを要求した。しかしそのパスはカットされた。俺はまた後退し抜け出しの機会を狙う。ただそれだけ。ゴール前に居たら誰かがパスを出してくれる。そう考えていた。
得点の合図がした。得点者、【烏旅人】。
その記録だけがこの試合の全てだった。スコアは2-0。
相手のゴールでは悔しさや不快感、自分の無力さをこの時覚えた。
烏はスリートップのCFとして輝いている。心の中で何かが崩れ落ちて行く。違う。この試合、点を決めるのはこのチームの俺だ。
【ゴールを決めたい】それだけ為に俺は個々に立っている。
【点を取る】烏旅人にはボールが集まる。ただゴールを決めるだけなのに俺はそれが出来ない。この試合に置いて俺と烏旅人とは対照的だった。
経過時間40分。45分の前半が終わる。このまま終わってしまうのか?
瞬間、ボールセンターサークル付近で飛んだ。俺はそのボールに無我夢中で奪いに行った。
「おー、怖。初心者て力の入れ方分からんくて対応に困るわ。でも初心者おるからこのチーム弱くて助かるわ」
「ボールを寄越せ」
「取ってみろ。素人」
【烏旅人VS日一京】
烏旅人と距離数十センチ。これならドリブルと言う間合いも掴めない筈だ。やっとボールに触れる。その一心で俺は
「あかんで。ボールだけ見たら。頭上げてピッチ全体を見な」
「黙れぇぇ!」
足を伸ばすあと数センチでボールが脚に届く。
「!?」
「ほら相手の身体も見な」
烏は俺に
完全なるキーププレイ。俺はその大きな背と手を身体全体で押す。それでもびくともしない。体幹が強いのか。いや、俺の力不足も要因の一つだろう。この状況を振り返る。ボールだけ見、安い挑発に乗った俺の落ち度だ。何としてもボールを奪わなければ。
「お前らのチームの弱点は
烏は片手で俺をブロックしながらボールを少しずつ横へ前へと動かして行く。
ファールにならない手の動かし方をコイツは熟知している。
嫉妬、憎らしさを他所に俺は素直に思ってしまった。コイツは上手いと。
「ほら顔上げてみ。お前の非力さに痺れを切らして、お仲間がカバーに来てくれたで」
そう言われて顔を上げてしまった。情けないが俺は1人では烏旅人に敵わない。でもサッカーはチームスポーツ。1人じゃ無理なら2人で! 俺はこっちに駆け寄ってくる氷織に期待を寄せていた。
「ま、流石に2人はキツいわ。と、なるとこっちに寄って来る相手選手1人。
「な!?」
そう言って烏は氷織がマークを開けた相手選手1人にパスを送る。そのパスは軽くて力が抜けたコンパクトな振りだった。
─────けれどそれが時にゴールに直結するキラーパスになる。
「ちゅーす。アシストあざーす」
そう言って烏旅人のアシストは成立した。パスに抜け出した相手選手1人。スルーパス一1本で成立する2人のホットライン。烏旅人がボールをキープしパスを出す。
「ゴ〜ル。ま、3点目だからテンション上がらんけど。ナイスアシ。サンキュー」
「お前、良い抜け出ししとるわ。日一京。こうゆうのがオフザボールて言うや」
【3-0】
スコア無常にも動く。こんな奴らから4点取らないと勝てない? そんなの無理だ。疲労と精神的支柱が無くなり膝から崩れ落ちる。その時前半終了を告げる音が響いた。
─────────────────────────────────
『どうすんだ氷織羊! ハーフで4点も取れる訳無いだろ!』
『そうだ! 最初から俺がFWに居れば良かったんだ!』
『……俺、脱落すんのか】
前半終わりハーフタイム。ロッカールームに帰還した俺達の雰囲気は最悪だった。
そんな中で俺は前半の醜態を思い出し唖然としていた。無意味な抜け出し、3点目に繋がるミス。このスコアになったのも俺のせいだ。自分の不甲斐なさ、無力さ無知さ知り俺は下だけを見ていた。俺が今まで点を取れていたのは練習だから。氷織、含めチームのパスが良かったからなのか。俺はそこに期待していた。
──────俺は他とは違う。点を取る事に才能がある。今日も俺の得点で勝てる。
そんな楽観的で甘い理想を抱き、赴いた現実。俺は断言出来た。【このチームの弱点は俺だ】
そんな事を気付いた所でもう遅い。俺の小さな自尊心は崩れ掛けていた。
「……後半は皆んなのポジションを変える。ツートップは変えん。ほんで僕はトップを譲らへん。……けど右に行く。左は左利きの君に任せたで」
「あぁ」
俺はそれをベンチに座り無心で聞いていた。事実上の戦力外通告。俺はツートップから外れ右サイドハーフに移動。もう誰も俺から得点が生まれる事がないと宣言されている気分だった。
このまま終わるのか? 何も出来ないまま? チームの足を引っ張って? そんなの嫌だ。────嫌だ嫌だ。嫌だ。
「下見てたら涙が溢れんで。泣く程悔しかったら結果だし。君にはその才能がある」
涙で滲んだ視界に映る、床からの一足のシューズ。氷織だ。彼の言う通りだ。サッカーは90分。前半で終わりじゃない。それなのに諦めてどうする。サッカーに置いて短時間で飛躍出来る能力なんて少ない。なら、俺は今の実力で勝負するしかない。顔を上げろと自分を奮い立たせる。俺にしか出来ない事がある筈だ。
「……悪い。氷織。他の皆んなも。けど後半からは気持ちを入れ替える。俺にしか出来ない事があると思うから」
「お、言うなぁ日一君。泣きべそかいてたのに。けどその気持ちや。試合で負けてる時に気持ちでも負けてたらどうすうねん。後半、点取りに行くで」
「分かった。他の皆んなにも言っとく。後半も俺は走るのを辞めない。そこにパスが来なくとも俺は走り続ける。それが今の俺に出来る事だと思うから」
「そうや。君のフリーランは少なからず効いてる。相手も急増のDFで君へのマークは基本、烏が着いとる。それだけ君が怖いって事や」
「なる程。なら尚更走るわ。初心者の武器見せたる」
【後半開始まで間も無くです。各自フィールドに戻って下さい】
アナウンスと共に俺達は歩いて行く。
ゴールは遠い。それでも俺は進みたい。ゴールへと。
後半で辿り着ける境地はと俺は走り込む。
────────────────────────────────
後半開始の火蓋が開かれた。
キックオフを行うのは烏旅人が率いるチーム。CFの烏旅人は横パス。それと共に前線へと駆け上がった。そのファーストアタックに烏旅人率いるチームが続く。ウィングの乙夜影汰や錚々たるメンバー。
氷織羊が率いるチームは3-0で現状負けている。それを知っているから皆、全力で戻り全力で守備をする。後半とはまるで雰囲気が違った。いぜん、優勢なのは烏旅人チームなのだが氷織羊のチームががむしゃらにそれに喰らいついて行く。
──────シュートをされたら複数人でコースを切り、時には身体をぶつけに行く。
──────
前半が終わり後半。彼らに特別な力が宿った訳じゃない。ただチームの気持ちはただ一つ【負けたくない】。此処に居る者全てサッカーに焦がれている。このブルーロックで負ける即ち
「なんやお前ら。ボールに集まりおって。なんか団子サッカーやなぁ」
「お、何だ? 焦ってんのか? 前半よりシュートも減ったしアンタもロストする様になったな」
「はっ、負け犬遠吠えか? 負けてたら何も言い訳もつかんで。
「失う事ももうあんまないんだわ。負け犬の遠吠えさせろ。ほら遠吠えで仲間が寄って来たで」
「ちっ」
烏旅人とのマッチアップ。当然、今の俺が彼からボールが奪える訳がなく、キープされてパスを出された。ただそれはバックパス。確実に相手も前半より上手く行かない事に焦ってる。
俺はヘルプに来てくれたチームメイトに礼を言いつつ、スコアを考える。3-0。サッカーをしていて
【後半30分】
計75分の走力でピッチに立つプレイヤー達に疲れが見えてきた。荒い呼吸、膝に手をつく者。────それでも俺はプレーを辞めない。疲れ? 初心者? ミス? もうこの時、こんな考えはなかった。
【点を取る】ただその一心で疲れる守備もし、得点の為にボールを繋ぐ。
「パックパスで良い! 取り敢えず繋いで行こう!」
チームメイトの鼓舞で自分を奮い立たせる。現在ボールはチーム保持。後半もあと少しで終わる。
「インナーラップ!? サイド奴、気を付けろ! 凄い勢いだぞ!」
──────ならその壁の外側へ
「な!? 何やってる! 何で
──────見えた。【ゴールへの道標】
元は
「ほんま君は良い
──────あぁ。キックが上手い奴がシュートが下手な訳無い。俺は氷織羊の脚に【ゴール】を託す。
「
そのシュートは弧を描くようなカーブでもなく、ストレートで伸び上がるボールだった。チームの状況と氷織羊と言うサッカー選手の魂の入ったような軌道。
ゴールまでの距離20メートル。
────────────────────────────────────────
【試合終了 最終スコア3-1】
結果から見ると俺達は負けた。チームでも俺個人としても今日の試合は完敗だったと思う。試合終了の笛を聴いたチームメイトの反応は人それぞれだった。ピッチに崩れ落ちる者。それぞれの功労を讃える者。
唖然とし何も考えられなくなる者。
俺は負けた。悔しい。何も出来なかった。涙と共に沸々とした思いが込み上げてくる。上手くなりたい。上手くなりたい。上手くなりたい。もう誰にも負けたくない。
「ナイス、
そう言って
「泣いてんのか? これやから初心者は。これから
「うっさいわボケェ。粘着マーク野郎」
俺がそう言うと、烏旅人は軽い笑みを浮かべて去って行った。残り物に嫌味と勝者の余裕を見せて。
【日一京。初戦敗退】
彼の日本一へのストライカーの道はまだまだ続く。彼自身もようやくスタートラインに立っただろう。
【ブルーロック】
それは頂点を目指すストライカー達の監獄。日一京のサッカー人生は始まった。
──────【点を取るFWに俺はなる】
敗北を知った日、日一京は高らかに夢を叫んだ。
これにて完結!(終わるとは言ってない)
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朝、見てニヤケが止まりませんでした。上記の事をした人は知らない人間がお風呂で雄叫び上げていると想像しておいて下さい。
奪敵決戦チーム
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二子、氷織
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士道、糸師凛
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時光、蟻生、
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剣城、我牙丸
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烏、乙也