ゴシゴシと歯ブラシをスライドさせて行く。
口の横は歯磨き粉の泡でサンドされていた。鏡には自分の顔が照らされている。
時刻は早朝。
「そんな磨いたら血出んで」
右方から声一つ。その人物は、俺と仲良く2人並んで朝支度している氷織羊と言う人物だった。
「うっせー。念入りに磨いてんだよ」
「の割に動きもトロくなってるよ。日一君」
瞬きすると眼から溢れる涙。脳が覚醒しないのか。俺はまだ寝不足による弊害を受けていた。あー眠。
「眼閉じてんで。せっかくの朝練も出来んくなんで。ほな僕はお先に」
そう言って氷織は、綺麗な顔をタオルで拭き
俺は急足で顔を濯ぎ、足早に氷織羊の背中を追い越す。
「はい! 俺の方が早い! 氷織、消灯は頼んだ!」
「ちょ! はぁ!? 明らかに僕の方が早かったやろ! パス練付き合わへんで。
「お前ぇ……。俺のポジショニングを利用しやがって」
「ふ、朝支度もサッカーもまだまだやなぁ日一君は。口に泡付いてんで」
俺は歯磨きでもコイツに負けるのか。と節々思い、血が出るくらいまでは口元をゆすいだ。
結局、消灯は俺がやった。解せぬ。
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ブルーロック練習場。
此処には最新のトレーニングマシーンやサッカー用具、サッカーコートまでもが揃っている。この環境設備に俺は今更ながら感服する。
マシーンやコートを好きな時間に使えてそこで各々が自由な練習に励む。少し前まで俺では当然、享受出来ない環境。
【ただのサッカー部員】だった俺が今は未来を目指し
5対5のチームメイトで行う
ペナルティエリア前。側面から来たボールに俺は飛び込んだ。
「はぁー、疲れた」
「お疲れ」
練習での試合を何セットかし、現在は休憩時間。
チームメイト達や俺は各々と時間を潰している。俺は給水の為、ピッチから出て脇で尻餅を付いていた。タオルで滴る汗を拭く。側にはチームメイト数名と氷織が居り、労いの言葉は氷織からだった。
場の静まり。沈黙時は皆、自由に過ごしていた。俺はボトルに注がれた水を飲んでいた。あー沁みる。喉の渇きと体力を回復しつつ、俺は周囲を観察する。ピッチには足早に練習する者。近くには俺と同じで休憩中の奴。俺の目線の対面がピッチに写るチームメイトだから無意識に彼を見ていた。
「彼、上手いよね。テクニックは僕らの中で1番ちゃうかな」
「静のテクニシャンが何言ってんだ。……氷織でも人を上手いって思うんだなぁ」
俺がそう言うと、氷織は水を一口飲みこう答えた。
「まぁサッカー歴は長いで僕。自分に無いもんは知り尽くしてる。上手い人にそう思うんやったらそれが気持ちや」
氷織は何ら恥じらいも嫉妬妬みも無くチームメイトを称えた。
俺は氷織羊と言うサッカー選手を少しは知っている。普段の生活習慣、練習への姿勢。サッカーに対するストイックさ。今日の朝練も誰よりも早く来ていた。朝の支度さえなけれゃ俺が1番だったのにと2番目の俺は氷織に少し対抗心を燃やす。
「氷織が思うに彼の強みは?」
氷織は顎に手を上げ少し考えてから話し始めた。
「まず彼の強みはドリブル。全身の脱力は勿論、足首の柔らかさは彼の強みやなぁ。急な方向転換やターンにも秀でている。あとは純粋に足の速さやなぁ」
「そうだよなぁ」
俺は氷織に賛同しつつ、氷織の観察力に感心した。氷織は上手いと思うプレーを事細かく分析し何がその人物の強みなのか、言語化出来るほど氷織は彼を
「氷織は凄いな。一瞬でプレイヤーの武器を見出す。何か秘訣とかあるのか?」
「取り敢えずその選手のプレーを見ることやな。ボールのない時の動き、体形、試合中、声出してるとかは見てすぐ分かる。日一君の良い所は分からん事をすぐ聞く事や」
「何だよ。急に褒めるやんけ。そうだな。俺から見れば皆んな上手いから。自分の頭や技術で考えるより上手い氷織やチームメイトに聞くのが早い」
「事実を言っただけやで。そうやって素直に
氷織はそう言って顔をしかめる。
まぁ、氷織の言う通りなんだろう。自信と言う物を得るには、そこで生まれた
俺はピッチにいる彼のプレー脳裏に焼き付けていた。
「日一君は彼の強みは何やと思う? 次の試合の為の意見が欲しい」
俺は口に出さそうか迷ったが、彼に感じたプレーを素直に口に出した。
「殆ど氷織と同意見。……ただ彼にはまだ
「パスを出すのがワンテンポ遅いやろ? 僕も日一君と同意見やわ。彼にはドリブルて言う武器がある。けどそれに頼り切りで一人よがりのプレーが多い。1枚は確実に剥がせる技術があるのに」
「そうだな。俺は完全な【受け手】タイプだから分かった気がする。彼の1番手はドリブルで2、3人に囲まれたら2番手のパスを選択する」
「いくらドリブル技術があるからって2、3人はきつい。攻めも守りも必死や」
俺と氷織が各々感じた事を言う。俺が思うに【氷織羊】と言う選手は完全なる【出し手タイプ】。抜け出し、ペナルティエリアでの密集地帯でのポジションニングをしている俺は2人のバス技術に一幕置いていた。
感じた事を述べただけなので、氷織みたいに上手く言語化出来ていないかも知れないが俺は絞り出せる範囲で発言した。
氷織はタオルで汗を拭出していた。そしてボトル起き、氷織は立ち上がった。
「この事は僕が彼に伝えとくわ。次の試合に勝つ為やし。けど驚いたわぁ。日一君が彼のプレーの武器、反対に弱みを知ってるなんて」
「生憎と初心者だから目が肥えてんだよ。俺の目には全員が上手いと思うから感じる事が多い。パスが上手けりゃそこに出す。ドリブルが上手いならこう動くとか。……気持ち悪いけど俺のプレーのイメージはお前らだ」
「……なるほど。君のポジニングの良さが分かった気がするわ。日一君は【共感覚】がある。聞きたいやけど君はフリーの状況を作る為に始めに何をする?」
「出し手……。パスやドリブルのアクションを起こす奴を見て、そいつらのプレーを想像して動く。俺が氷織なら此処にパスを出すとか考えて」
俺等2人はもう立ち上がっていた。休憩時間も過ぎて行き、乾いた汗が冷たくなってきた。俺は足元のボールを転がしながら答える。氷織に伝えた様に俺の理想のプレーはこのブルーロック全選手なのだ。俺には氷織の様な圧倒的なキック技術がない。だからだ。俺が上手ければ、────そこに出す。氷織なら完璧なパスを出せると信じて走り出す。だがこの問題は
「……自己能力が低いから成せる
「それは自分でも思ってる。用は俺1人で通用しない事、もう1人のアクション待ちの選手に成り下がってるって事だろ?」
氷織は静かに頷く。何か彼の考えがあるのだろう。こうゆう面を見ると俺はやはり試合中、アドリブで動く【直感的プレイヤー】。氷織の様な選手は【思考型プレイヤー】だと感じる。
ともあれ俺の課題は山盛りだ。1人でどうする事も出来ない選手では
「日一君の点を取れる理由が分かって来たで。【共感覚による選手のプレーの予測】【日一君自身の技術力のなさから来る予測不可能なプレー】ゴール前に飛び込む気迫」
「……2つ目は貶してる? あー、でもさっきのゴールも前だけ見てた気がする」
「え、嘘? ボール保持者見ずに
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時刻は午後。
俺達は今日、一次選考最終試合を終えた。【結果は2-1】の勝利。
この塔での生き残りを賭けた運命戦の結果はグループ2位と言う結果で俺達のチームが勝ち上がった。最初の鳥野郎率いるチームへの敗退やドローでの試合はあった。しかし
もう後戻り出来ない所まで来たのだと実感する。……脱落した者の心境は俺には分からない。悔しいだとか、悲しいだとか。安直な考えしか浮かばず、俺はその事考えるのを放棄した。けれど俺の中で何かが変わったのは確実だろう。【上手くなりたい。負けたくない。点を取りたい】こんな想いが出るのは俺が【サッカーが好きだから】。サッカーの出会いで俺の人生は変わった。───そんなもん最初から分からなかった。でも今は感情の赴くままサッカーを愛し、この【ブルーロック】で勝ち続けよう。でも勝つ為には課題が山積みなのは明白だった。
「なにしけてんだよ!」
「そうだ! そうだ! お前も食べろ食べろ!」
俺が珍しくノスタルチックに感傷に浸かっているとチームメイト共が肩に腕を回して来た。……2人も来るな痛い。
「自分のペースで食べるんだよ。あ、シューマイ貰い」
「てめー!? それは最後のシューマイだったろ! 俺のおかず返せ!」
「誰の提案で各自のおかずを共有しようて言ったんですかねぇ。あー、久しぶりの肉うめぇ」
「あ、察するわ。……お前チーム内最下位だもんなぁ。俺の肉まんあげる」
「何で中華縛りやねん。てかおかずが肉まんて。……お前も苦労してたんだなぁ」
「食べ物の恨みは何たらやなぁ。僕のお味噌汁も皆んな食べてええよ」
「氷織まじ? 白米におかず、汁物まで。俺、今度から食堂で恵んでもらおう」
場所はチーム共有の相部屋。
俺達は一次選考の祝杯会もと言い、打ち上げならぬパーティーなる物を開催していた。食事も持ち込みんでのどんちゃん騒ぎ。この部屋のムードは勝利一色だ。皆のテンションもハイになっている。その中には俺もいる。一言で言えば今の状況が楽しかった。俺達は生き残ったんだ。
「僕、おかわりとか貰ってくるよ」
「俺も付き添うわ」
まったくコイツは私生活でもアシスト役なのか。と思える程の気の利いた動き。後でこのドンチャ騒ぎにコイツも入れよう。仲間間で生まれるウザさ楽しみを分けてやる。
俺はそう思い氷織と共に食堂へ向かった。
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「氷織は楽しめてんのか? 今も気を使いやがって」
俺達はトレーに乗った皿やゴミなどを捨てていく。2人で並んでする作業にしては単調で簡単だったかもしれない。けど行きがあれば帰りもある。どうせチームメイト分のおかわりや飲料水を持って行くだろう氷織は。
「楽しめてるよ。僕こう言うの新鮮やねん。皆んなでご飯食べて皆んなで騒ぐ。関西のユース居た時はライバルも多かったし家でゲームしてたからなぁ」
紙屑をゴミ箱に流し込みながら氷織は答える。
「あーじゃあ此処でも似た様な感覚とかあるのか? けど此処はサッカー命掛かってるもんな」
「そうやなぁ。ユース自体もポジション争いやきつい練習もあったけど此処は特別や。チームメイトとは運命共同体。サッカー命預けてる仲や」
「何だよ。変な情でも湧いたか? ……今日のアシストサンキュ」
俺はそう言って氷織に拳を差し出す。所謂グータッチてやつだ。宙に浮く拳。数秒沈黙が流れて気恥ずかしくなって来た。
「はは。あれは日一君のゴールや。……そうやなぁ。命預けた仲間に情が沸かんほど僕は冷徹人間ちゃうで」
氷織は俺の拳を握った。くそコイツこれじゃ握手じゃないか。
「氷織。今のうちに余裕こいてろ。こっからが俺のスタートだ。今はお前に使われる選手だけど、お前にパスを出させてやる。俺は使われる選手じゃない。────俺がお前を使う選手になってやる」
「はは。うん。ならそうなってもらおか。僕のプレーに考えに技術に身体能力。全てを僕の期待に応えてみてや。────僕に合わせられる選手になってや」
「俺に合わせろ」
「いや僕」
「……俺」
「……僕」
両者譲れないプライド。あ、こいつ握手の力強めやがった。俺は氷織の手を握り返して答える。認めたくないが現状、俺は使われる選手だ。
「痛えわ! ハゲ!」
「君も意地固やなぁ。ファーストタッチも下手くそやのに」
「うっせー。点決めれたら良いんだよ」
「まぁ結論それやなぁ。現に日一君は
「痛いとこを突いてくる。じゃあ今から練習付き合え」
「ええで。僕、合わせてあげんのは得意やねん」
コイツ。俺に当たりきつい気がする。まぁサッカー漬けの1日の居残り練習に付き合う辺り氷織も俺も。
──────サッカーが好きなのだろう。
「氷織、俺は日本人で1番点を取るFWになる。今日の中で1番印象を残すFWだ」
握手を解き、俺達はサッカーに明け暮れる。ゴールはまだ見えない。
ここまで読了ありがとうございます。
更新が遅くなって申し訳ないです。一次選考が終わり、この先の二次選考なども考えておりますが主人公の能力……。更新してたら温かい目で見てもらったら幸いです。
閲覧、お気に入り、ご評価、栞等なども本当にありがとうございます。
奪敵決戦チーム
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二子、氷織
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士道、糸師凛
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時光、蟻生、
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剣城、我牙丸
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烏、乙也