前作の短編「あぁ、あそこの鎮守府ね…」の続きになります。
その日は特別朝礼だとかで雷同提督によって艦娘達は朝イチにトラックに集合させられた。
先日、提督の愛し子勇ちゃん(9歳)が艦娘達にあれやこれやされる内容の薄い本の存在がバレたばかりのことだ。
一応の許しは出たが、もしや提督の心変わりが起きて、やはりダメだと禁止令が出たり没収されたりするのではないか?
艦娘達は緊張で眠気も吹き飛び、固唾を呑んで提督の登場を待っていた。
やがて提督は現れた。
やや足取りが軽く、見る者が見れば上機嫌な様子が分かる様だった。
「諸君、おはよう!」
『お、おはようございます!!』
提督の話は挨拶から始まった。
「朝早くに集まってもらい感謝する。今日は別に誰かの吊し上げとかいう話をするわけではない」
提督の出だしの言葉を聞いて、何かやらかしているのか、雪風、大井、瑞鶴は安堵した様子だった。
提督は話を続ける。
「この度、私のマイホームを泊地内に購入した」
和やかに話す提督に皆緊張が解けてきていた。
皆が拍手する中、隼鷹が、よっ、マイホーム!!などと囃し立てている。
「ひいては泊地内に我が子である勇がやって来ることになる。
勇と会ったことのある者もいるだろうが、そうでない者も良ければ歓迎し仲良くしてほしい」
そう提督が言うと、トラック内が大いに沸いた。
「このストレスフルなクソみたいな職場に私の天使が降臨するんだ。もうなにもこわくない!」
提督がしみじみと零す。
黒潮が、司令はんそれフラグやで〜。と微笑みながら呟いた。
「最後にひとつ言っておくことがある」
提督が話の締めに入るようだ。
「秋雲ぉ!!…勇は女の子だ!!生やすなっ!!」
艦娘達に衝撃走る。
さっきまでの和やかな空気が一変して辺りは一気に静まり返る。
捗るだのなんだの言っていた秋雲が呆然としへたり込んだ。
いや、秋雲だけではない。
長門、金剛、ビスマルク、鳳翔、天龍、六駆などは特に気にしている様子は無かったが、他の皆はびっくりしているようだった。
駆逐艦島風も驚きを通り越しただただ放心していた。
その後島風はその日の任務を放心したままいつにまにかやり終え、執務室で提督に有給休暇の申請をしていた。
その日数、7日ほど。
意外にも申請はするりと通った。
自室に戻った島風は即座に鍵をかけ。自身のお宝の詰まったチェストを開けた。
そこに入っていたのは秋雲先生による勇本の数々。
島風が今まで集めたお宝本たち。
絢爛たる、堂々たる光景だった。
島風は一冊を取り出す。
『ビビって声もでね~か、オラオラ♡』
表紙を虚ろな目で見つめる島風。
彼女はそれを強く握りしめた。
「嘘だったんだ!!アレもコレもッ!!裏切ったんだ!!私を裏切ったんだっ!!」
目尻から熱いモノが流れ落ちる。
「……勇ちゃんには一本角なんて…無かったんだ……!!」
頬を伝う雫は拭っても拭っても途切れることを知らない。
公式との解釈違いがこんなにも辛いものだと知らなかった。誰か助けて欲しい。
それから小一時間ほど島風は泣いた。
勇ちゃんの一本角でビンタされた時、何故か生えていた自分の一本角で勇ちゃんを押し倒した時。
島風の中で勇ちゃんとの思い出(薄い本の中での)が走馬灯のようによぎる。
次第に身体が疼くが考えてしまう。
これは虚像だと。有りもしない現実だと。
ーーーーーーそれでもーーーーーー
島風がどう足掻こうと勇ちゃんには生えていない
ーーーーーーそれでも!ーーーーーー
ウオォォォオオオオオ!!!
ーーーーーーそれでも!!ーーーーーー
ーーーーーーそれでも!!!ーーーーーー
ーーーーーーユニ●ーン!!!!ーーーーーー
キュイーンデュクデュクデュクデュク!!!!
テーテーテーテーテテテーテーテー……
キュキュキュキュイーンキュイーンキュイーン……
やがて葛藤を乗り越えた島風は、生えてようが生えてまいがカンケーねー!!勇本は神!!
と結論付けてしこたま抜くことにした。