転生ヒスイ人のガラル紀行 作:はっぱ
俺はガラル地方の平和な空気に慣れすぎたのだろう。
なんせヒスイの地はガラルほど穏やかではない。特にオヤブン個体が居るか居ないのかは重要だ。ダイマックスすることについてはまあ、警戒は必要だと思うけれど、あの極太のエネルギーが放つ場所へ行かなきゃいいだけ。最悪、必要なら行くけれど今は別に避けても構わないと思っている。
つまり逃げていたのだ。
ガラルのワイルドエリアでものんびり寝てられるぐらいには穏やかな場所に。その空気に。
だって普通はヒスイのようなギンガ団の陣地が作られ、昼夜問わず警備してくれる人がいて初めて寝られるような場所だぞ。小さいポケモンすら脅威に感じる世界だ。ガラル地方ほどポケモンが人に慣れてないせいだと思うけど。
相棒がまだミジュマルだった頃。旅をし始めてすぐ挫折するきっかけとなったコリンクで何度気絶したか分からないぐらいにはたくさんの修羅場を潜り抜けた。
わざわざそんなきっつい場所に好んで戻りたいとか思わない。
俺だってここが未来じゃなかったら永住してたわ。
でも何故か嫌な予感がするから戻るための方法を探しているだけ。その時間がいつまで続くのか分からないけれど、ここにいる間はバカンスのように楽しみたいと思っただけだ。
忘れていたのだ。俺は。
ここはワイルドエリア。様々なトレーナーが事故死したことのあるらしい、ある意味簡易版ヒスイ地方のようなもの。
そこがヒスイよりきつくなくても、警戒はしなくてはならなかったのだ。
油断は禁物。例えどんな場所でも、ポケモンというのは脅威なのだから。
「クソッ」
いわゆる大量発生のような状況か。
両手を上げているポケモンに油断はしない。その仕草は愛嬌ではない。威嚇だと知っているから。
周囲を取り囲んできたキテルグマを威嚇するのは、二番目に仲間になってくれたレントラー。
何をされても怒らず間違いがあれば諭そうとする程度には賢く優しい彼女が激昂し雷を周囲に発生させている姿はとても恐ろしい。敵だったら逃げていただろう。
頭から血が流れたので袖口で拭きながら周りを警戒する。
ボールを手に、キテルグマが来たらすぐ捕まえて、それでダメならねばりだまを投げる猶予をつかむため。
クソッ、頭に怪我を負ったのが間違いだった。
普通にポケモンを捕まえていたら後ろから襲いかかってきたキテルグマの一匹に気づくのが遅れたせいで避けるのが間に合わず、アームハンマーにも似た攻撃が頭を掠り怪我を負っただけ。
見た目は派手にやられたようになっているが、視界はふらつかないし気分も悪くないから脳までやられたわけじゃないので大丈夫だろう。
ボールから出てきて真っ先に俺の状態に気づいたレントラーがキレたのは想定外だが。
「ガァルルルル」
「落ち着けレントラー。冷静に状況を見ないと足元をすくわれるぞ」
こちらをチラリと視線を向けたレントラー。周囲は『でんじは』を使った時のように俺達の周りを雷で覆う。だからキテルグマが襲いかかってきたらすぐ分かるし、俺も彼女が守ろうとしてくれるおかげで落ち着くことが出来た。
レントラーは心配そうな顔で俺を見ている。その視線は『本当に大丈夫なのね?』というような、怪我を心配するもの。
「見た目ほど酷くない。大丈夫だ。それより……」
「グゥルル」
「ああ。奴らに俺たちを襲ったことを後悔させてやろう。そんで捕まえるぞ! キテルグマパーティー作ってヒスイに戻って、ウォロに見せつけてやるんだ!!」
「……ルゥ」
呆れた顔で『ご主人ったらまたウォロに喧嘩でも売るつもりなのかしらね』と笑う。
先ほどまではきつかった。でも今は違う。レントラーのおかげだ。余裕は出来た。
俺たちの様子が一変したことに気づいたのだろう。キテルグマ集団がこちらに向かって一歩前へ踏み出し、じっと見つめてきた。
「ありがとう。お前達のおかげで初心に戻ることが出来た」
もう俺はヒスイと同じように警戒を怠ることはない。このガラル地方でも油断はしないと決めたのだから。
・・・
「キテルグマと戦うチャンピオンが目撃されたと出ているが……お前これ……」
「確実に俺ではないな! それとレントラーも仲間に加えてはいないぞ!」
「だと思ったぜ……」
キバナが不可解な顔をして報告書を睨み付ける。記載されたものにはチャンピオンがワイルドエリアに住んでいるのかと思えるほど常時滞在しているような様子が見られたこと。近づこうとしたらすぐ離れてしまうこと。彼の傍に別の地方のポケモンが出てくること。
────見たことのないポケモンが彼の傍にいること。
「ダンデじゃねえならそっくりさんの可能性もあるが……」
「ワイルドエリアで生活する俺のそっくりさんか! さぞかし強いんだろうな。是非とも戦ってみたい!」
「そもそもそいつ人間か? 報告書によるとそいつ、えんまくやネバネバした何かを放ったんだろ?」
「ああ。道具を使っているように見えたが、この時代そんな古典的なことをするぐらいならもっと使える方法はある。それをしないでわざわざやるということは────」
「そいつがその方法しか知らないから……ってことはやっぱダンデの姿を借りたポケモンか?」
「可能性はあるな!」
彼らの脳裏に浮かぶのはあの特徴的な身体をした紫色の生き物たるメタモンである。それかゾロアやゾロアークといったポケモンだろうか。
「ワイルドエリアを大捜索でもしてみるか?」
「いや、空から軽くだけどフライゴンに探して貰ってるんだ。状況によっては捜索するぐらいでいい。カブさんにも手伝ってもらうから」
「ああ。なら俺も────」
「お前は迷子になるから駄目だ」