現代転生勇者さんは、彼と今世こそ青春学園ラブコメしたい姫様に詰められている。 作:山かけうどん
いきなり来歴の話をするのも品が無いが、つらつらと考えるに、ここから始めるのが一番良さそうだ。冗談のような話だが、冗談ではないので真面目に聞いて欲しい。
なんとも信じがたいことだが、俺は死後、異世界に転生した。
地球という惑星の、六つある大陸のうちの一つ、ユーラシア大陸に位置する日本という国の、ごく普通の男に生まれ変わったのだ。
最初は驚いた、なんと、この世界には俺の前世の世界、サイドラと違い、魔力がないし魔物もいない、当然魔王も聖剣もない。
なんと平和な世界なのだろう、俺は最初そう思った。だが、現実はそううまくは行かないらしい、この世界では、魔法が存在しない分、科学という物が発達している。
科学は兵器に利用され、兵器は人間同士の争いに利用される。どこの世界でも、人間の本質は変わらないのだろう。争い、憎み合い、奪い合う。
俺は考えた、何故この世界に生まれ変わったのか、と。
勇者としての働きを期待して誰かが召喚したのだろうか。だが生憎、俺にはもう聖剣がない。人間離れした身体能力も魔力も俺の中に存在はするものの、前世と比べれば微々たるものだ、世界を変えるほどのものか、と問われれば、答えは否。
俺は今まで女神の道具だった。道具は誰かに使われるためにある。俺は生きるために、道具としての理由を求めた。
『どうやって生きればいいか? それは貴方が決めていくのよ、燐』
この世界で俺を産んだ母は、答えてはくれなかった。
なるほど、自由というものは案外厄介なものだ。何かをしようにも、俺は何をしたらいいかを知らない。とりあえず、今世でも人を助けよう。目の前に困っている人がいたら、手を伸ばしてみよう。
これは自分で決めたことではなく、勇者という生物がそう作られた故、生まれた本能のようなものだが、他に何かあるわけでも無いので、それに従うことにした。
月日は流れ、この世界で生き始め十五年が過ぎた。
幼稚園、小学校、中学校と、とんとん拍子に歳を重ね、受験も見事サクラサクとあいなった俺は、数日前に県内でもそこそこの偏差値を誇る、市霞高等学校へと入学した。
予想通り、一週間目で所謂「問題児」のレッテルを貼られてしまったのだが。
「おい、聞いているのか!!」
職員室に怒号が響いた。自律神経の乱れ、心拍数、血圧の上昇。目の前にいる人間の状況を推察するに、どうやら彼は「怒り」という感情を感じているらしい、早く鎮静化しなければ、相手にとっても自分にとっても良く無いだろう。
俺は先程から呪文の如く繰り返している謝罪文を口にした。
「はい、中村数学教諭、授業中の居眠りについては弁解の余地はありません、申し訳ありませんでした」
「ああ、それについての謝罪はもういい……もういいが、今指摘しているのはそこでは無い、お前の問題行動についてだ」
なんだか論点がすり替えられてしまったような気がするが、それも仕方ないと割り切ることにしよう。
「……入学式から続く遅刻のことでしょうか? それについては説明しましたが……」
「信じられるわけないだろう、迷子の捜索、老人の介抱、痴漢魔の捕縛、何かと理由をつけているが、いくらなんでも毎日はおかしい、本当は寝坊でもしているんだろう?
噂によれば、中学校の頃も同様の理由で遅刻を繰り返していたそうじゃないか、これもいい機会だ、本当のことを話しなさい」
……嘘じゃ無いかと詰め寄られても、どれも本当のことだ。
それに彼は俺の担任では無いので、日頃の生活態度については管轄外のはずだ。しかも、数分の居眠りをしたという罪に比べれば、些か過剰に怒鳴り立てている気はする。
俺を教育し、真っ当な道に戻してやろう、という感情で怒っているにしては不自然な様子を察するに、彼はおそらくストレスをぶつける相手が欲しかったというのが正直なところだろう。
ストレスの原因はわからないが、人類の守護者としては、彼の怒りの吐口となりそれを解消させてやるのもやぶさかではない。
だが、俺は嘘をついてまでその役目を担う気はなかった。
故に、真実を告げた。
「いえ、すべて事実です」
俺はその後、何度も問い詰められたが、自分の主張を曲げる事は無かった。
「全く……機械でも相手してるみたいだったよ、まるで手応えの無い」
ドアを閉めた後、そんな話し声が聞こえたが、あまり気には留めなかった、昔からよくあることだ。
中村教諭から解放され、職員室を後にした時にはすでに10分の休息時間のうち、8分21秒が経っていた。教室に戻るには、推測するに1分12秒程度掛かるだろう、成る程、俺の休憩時間は空に消えたわけだ。
このことを怒りも悲しみもしないが、せめて十全な準備をするくらいは余裕を持たせて欲しかったというのが正直なところである。俺は少し早足で教室に向かった。
教室のある廊下にさしかかり、歩く。向かい側からこちらをじっと見つめている視線があった。親しいわけではないが、彼女の名前は知っていた。
トレードマークたる輝く笑顔さえ未だ見た事はないが、それでも同一人物ではないかと疑うに足る容姿である。さらに容姿だけではない、才智溢れる優等生という評判、そして誰にでも分け隔てなく接する人懐っこい性格でありながら、凛としていて、どこか自分たちとは隔絶した地位にいるであろう気品を漂わせるその雰囲気まで一致しているとは、さすがの俺も目を疑った。
そんな彼女の顔には冷たい影がさしており、悲しみとも怒りとも取れるような表情をしているようである。別人だとは分かっているが、彼女にそのような表情をされると、何か胸の奥が締め付けられた。
「俺に、何か」
少し距離を空けて立ち止まり、彼女にそう尋ねる。じっとこちらを見ている相手を無視すると言うのは、何か不自然な感じがしたからだ、前の世界の主君に彼女が似ているのなら、尚更。
「いえ……何も」
俯き返答する彼女。沈黙が降りた。その間も、もじもじとするだけの姫川。
申し訳ないが特にいうことが何もないようなので、お暇することにした。時間も差し迫っていたので、これ以上、何か発言するのを待つ余裕はなかった。
「そうですか……分かりました
それでは、急いでいますので」
そう言って、教室のドアを開き、中に入った。
……何か、彼女を放置して自分だけそそくさと教室に入るのも気が引けたので、一言だけかけておく。
「……姫川さんも、早く教室に入った方がいい、次の授業が始まりますよ」
どうしてだろうか。彼女と話すたび、何か俺の心臓の近くがドキリ、と跳ねる音がする。
今かけた言葉だって、効率的にはなんの意味もないもの。これは、俗にいう、気遣いというやつなのだろうか。ならば、俺は彼女に対して気遣いをしたということになる。彼女という、赤の他人に向かって。
何故だろうか、疑問には思うが、今は急いでいるし些細なことなので、目を背けておこうと思った。
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