現代転生勇者さんは、彼と今世こそ青春学園ラブコメしたい姫様に詰められている。   作:山かけうどん

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3話

 授業が終わり、昼休みになると、生徒たちは昼食をとりはじめる。

 

 授業の緊張や集中後の疲れから、その反動でどっと騒がしくなる教室の片隅、ゼリータイプの栄養食を片手にランチタイムと洒落込んでいる俺に、数少ない友人である男、盾石 士郎(たていし しろう)はその大きな体躯には似合わない小声で、俺へと話しかけてきた。

 

「おい燐、さっき話してただろ、姫川さんと」

「ああ」

「なあ、やっぱ彼女は本当に、姫様なんじゃねぇのか、別人だとしても、何もかも似すぎてるぜ」

 

 俺と士郎は、入学式で式辞をする姫川を一目見た時から、彼女に疑惑の目を向けていた、転生した姫なのではないか、と。前例があったので、自然な思考の運びだった。

 

「だが、本人なら、真っ先に俺たちに接触してくるだろ」

「まあでも、接触をしようという姿勢はそこはかとなく感じるだろ、現に今日も、お前、ずっと見られていたじゃないか」

 

 さっきの廊下での出来事、さらに、授業中のことを思い出す。ああ、確かに、士郎のいう事は正しい。だが。

 

「それでは何故、正体をすぐに明かしてこないんだ?」

「はあ……なかなか言い出せないものだぞ、前世のことなんて」

 

 士郎は廊下の外で、どの学年かも、どこのクラスかもわからない男から告白を受ける姫川を眺め、まるで実体験したかのようにしみじみとそう呟いた。はて、記憶では、俺と士郎は割とすんなり前世のことについて打ち明け合い、友人関係になった気がするが。

 

 ……士郎は俺と同じく、前世の記憶を持っている人間だ。そして前世の彼は俺と同様、剣と魔法の世界であるサイドラ出身だった。

 

 彼の正体は、俺のよく知る人物だった。

 

 オーガの戦士、ガレス。俺と姫様が魔王討伐の為、多種族同盟を結成させる旅の途中、出会い、仲間になった男である。

 

 そして今世、その筋肉は前世と同じく鍛え抜かれており、体格も大柄で、その顔立ちも瓜二つ。男らしく、彫りの深いタイプの美形である。だが頭にツノは生えていないし、肌色も赤くない。そして俺と違い、魔力や身体能力に前世からの影響はなく、至って普通の人間である。

 

 俺は彼と小学生の時に出会い、それ以来こうして前世と同様に話す仲になった。だが、そんな中、俺は疑問に思った事があった。……俺に何故勇者の力が一部引き継がれ、士郎には前世の特徴が引き継がれなかったのか、だ。俺なりに考えたが、答えは一つだった。

 

 聖剣を握ったからである。聖剣を握れば最後、魂は女神の干渉によって作り変えられ、通常の輪廻の流れから外れることになるのだ。故に、俺の肉体には前世の影響が色濃く出てしまっているのだと考える。

 

 閑話休題。

 

「まあ、彼女が姫様かどうかなんて、俺にはわかない、本人に確かめるくらいしか、方法はないだろうな」

 

 俺は士郎の呟きに反応した。

 前世ならば俺の目で魔力の流れを追い、その特徴などから正体を看破するということもできたが、この世界には魔力がそもそもないので無理である。

 会話の流れを途切れさせぬまま、士郎は続けた。

 

「聞いてみればいいじゃないか、直接

 お前も気になるんだろう?」

 

「いや、それは……」

 

 言い淀む俺を見て、士郎は何か、からかうような笑顔になった。

 

「お前、もう数日経つのにずっとそれじゃねえか、俺も気になるし、やっぱり代わりに聞いて来てやろうか?」

「いや、それには及ばない、彼女のことに関しては、俺が確かめると言ったはずだ……して、その笑みはなんだ?」

「気にするな、些細なことさ、感情を持たないはず勇者様が、特定の人間との接触を不自然にためらうなんて、おかしいな、と思っただけだ」

 

 何か少し心の奥がザワついたので、俺は抗弁した。

 

「敵対感情を持つ相手に対しては、円滑に生物活動を続けるため、接触を避ける場合が存在する。現に彼女は、たまに俺を見る視線に、怒りの感情が視える時がある」

 

 ほう、なるほど理屈は通っている、と、納得した顔の士郎だが、新たな疑問が浮上した為質問は続いた。

 

「お前、姫川さんに何か怒らせるようなことしたのか?」

「いや、姫川という人物に対して、怒らせるような事をした心当たりはない」

「そうか、なら姫様には?」

「心当たりがないわけではない」

「だろうな」

 

 眉間にしわを寄せ、目を瞑り腕を組む士郎。

 俺の言う心当たり、とは、もちろん彼女を置いて、魔王に挑み、死んだ事である。

 

「初対面の人物から心当たりがないのに、怒りの感情を向けられている、さらにその相手が、前世で怒らせた心当たりのある人物に容姿だけでなく性格まで瓜二つとくれば……こりゃ、本当に本人だろ」

「……可能性は高い、というだけだ、初対面で敵意を向けられているというのも、ない話ではない」

 

 例えば、初対面の相手に敵意を向けられるケースとして、知らず知らずのうちに、その人から何かを奪っていたり、その人に近しい人に、危害を加えてしまっていたりすることがある。現に前世で俺は名も知らない多数の魔族からの憎しみを一身に受けていたし、同じ人間からも、嫉妬や逆恨みといった感情を絶え間なく浴びせられて来た。

 

 きっと、俺にもし感情があれば、壊れてしまい機能不全に陥っていたのだろう、そういう意味では、女神の加護にも感謝できる部分はあった。

 

「それに、仮に姫川の正体が本当に俺の知る姫様だったとしても、俺は関わるべきではない気がしている」

「なんでだよ?」

「……彼女が本当に姫様なら、俺に対して失望しているだろうからだ」

 

 彼女に、魔王を倒し平和を取り戻した後、世界中を共に見て回ると約束した。

 それなのに、俺は己の力不足故、魔王と相打ちするのが精一杯で死に、生還できなかった。

 俺は責務を果たせなかったのだ。

 役目を果たせない道具など、存在価値はない、それは姫様も怒りに狂っただろう。

 

「今更、俺のような無能で使えない道具が彼女の前に出て行っても、不快な思いをさせるだけだ、ましてや……」

 

 俺はもう勇者ではないのだから、姫のそばにいる理由などない、と言いかけたところで、士郎が口を挟んだ。

 

「おい、お前、それ本気で言ってんのか」

 

 ぞわり、と、士郎の感情に、かつてない怒りが宿るのを感じた。

 とはいえ、俺に恐怖などはないので、無表情で言葉を返す。

 

「別に、客観的な事実を言ったまでだ」

「……話にならねぇな」

 

 底冷えするような冷たい声。

 この世界ではおよそ、感じる事はないだろうと思っていた感情をぶつけられ、俺は驚く。

 そこには紛れもない、歴戦のオーガが放つ「殺気」があった。

 俺の胸ぐらを掴み、士郎は言った。

 

「お前、それ以上自分を卑下するような言葉を口に出してみろ、あの人に変わって、俺の拳が飛ぶぞ」

 

 俺はすぐに黙った。士郎は、やると言ったらやる男だ。自ら暴力を受けにいくほど、俺は愚かではない。

 

 解放された俺が周囲を見回せば、教室の隅といえど、数名の生徒は俺と士郎に異変があったことに気がついている様子だった。全員が、喧嘩が起こる寸前、というふうに捉えていたようで、その顔には、緊張感が未だに残っていた。……誰も止めに入ってこなかったのは、多分士郎の殺気のせいだ。

 

 流れる沈黙。俺は険悪なムードの中、ゼリーのパックの飲み口を、がり、と噛んだ。

 

 そんな時だった。

 

 ───ガララ、と扉を開く音が聞こえた。

 

 教室へ入ってくる影、その正体は、先程まで俺たちが話題にしていた、件の人物、姫川 真尋だった。その表情は暗く、彼女は俯きながら自分の席につく。

 

 ……なんだか、嫌に胸の奥がざわついた。何か彼女にあったのだろうか。

 

 あったとしても、俺には関係ないことのはずなのに、俺はついそんな事を思考してしまったのだった。

 




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