現代転生勇者さんは、彼と今世こそ青春学園ラブコメしたい姫様に詰められている。   作:山かけうどん

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4話

 交わらないと思っていた運命、それは自然な流れで、しかし唐突に破られることとなった。

 

 それは盾石と険悪になってしまった日の放課後のことだった、普段なら終礼の終わりと同時にこちらへ話しかけてくる彼はおらず、仕方がないので一人で帰ろうとしていると、一度も話したことのないクラスメイトが俺に話しかけて来た。何の要件か問えば、どうも、困っていることがあると言う。

 

「なあ、勇水、どうしても人数が足りなくてさ、お前にしか頼めないんだよ」

 

 彼の困っている事とは、「知り合いの誘いで近くの学校と合コンをすることになったが、誰も参加してくれない」という事だった。

 まとまった人数を集めるように言われたらしいが、未だに枠が埋まっていないらしい。

 

 俺は彼の頼み事について考えた。合コン……噂には聞いた事がある。何でも、出会いを目的に男女が集まって行う飲み会とのことらしい……が、その全容を俺は知らない。

 

 飲み会と言うのだから酒などが振舞われるのだろうかと考えもしたが、まだ俺たちは未成年なので、そのような事はない可能性が高いだろう。この国の法律では、成人になるまでは酒やタバコをやってはいけないというのが決まっているので、おそらく普通のソフトドリンクを片手に、カラオケボックスなどで談笑する程度の、大人に憧れ少し背伸びをした学生らしいものだと予想する。

 

 いい機会だ、俺は参加することにした。この世界の文化に触れるのも、今後の生活に役立つかもしれない。それに、困っている人間を、放ってはおけないというのもあるしな。

 

「……ああ、わかった、それなら、俺が助けになろう」

 

 俺は信念に基づき、頼みを二つ返事で引き受けた。

 

「それで、その合コンとやらは、いつ行われるんだ?」

「ああ、明日の放課後だ、それじゃ、よろしくな」

 

 手を振り、軽妙な様子で離れていくクラスメイト。そして時間は進み、次の日の放課後、連れてこられたカラオケボックスで、俺は目を疑った。

 

「姫川さんも歌ってよ〜!」

「いえ、私は謹んで遠慮しておきます」

「ねえ、この後俺とどっかいかね?」

「あはは、それは無理ですね」

 

 目の前には、多くの男子に言い寄られる、姫川 真尋がいた。彼女は先ほどから一ミリも変わらない貼り付けたようなその笑みを、周囲に振りまいていたのだった。

 

⭐︎⭐︎

 

 姫川 真尋には、前世の記憶があった。魔法が存在する世界の記憶だ。世界の名を、サイドラと言った。

 

 サイドラには、魔王フィニーツィオという、数百年に一度、女神への怨念により復活し、世の平和を脅かす存在がいた。そして、その魔王を倒す為に、女神によって人間へと贈られた抑止力である聖剣・ヴァンクリアがあった。

 

 聖剣の力は強大であり、一度触れればあら不思議、魔王を打ち倒す存在である、勇者へと触れた者を早変わりさせる能力を秘めていた。ただ、勇者になるには条件があり、神に最も近いとされる純粋人類の、それも、とりわけ強靭な力を持つ者でないと資格はなかった。

 

 故に、聖剣は純粋人類の王国が、代々管理していた。そして姫川 真尋は、そんな純粋人類の王国の姫であり、セリアという名前で呼ばれていた……と、これ以上は長くなるので、単刀直入に、彼女の人生に起きた三つの不幸にまつわる事を話そう。

 

 まず一つ目、魔王による奇襲で王国が滅ぼされ、王族は自分を除いて全員帰らぬ人となった事。さらに二つ目、騎士の家系に生まれ、最年少で姫の傍付きとなった天才であり、身分の違いはあれど微かに思いを寄せていた相手、リィンが自分を守るために聖剣に触れ勇者と化し、人間としての人生を喪失してしまった事。そして最後は、世界を巡る旅の果てで最後の戦いに参加させてもらえず、勇者である彼が魔王と相討ちし、死んでしまった事だ。

 

 ……勇者が犠牲になり平和の戻った世界で、セリアは思った。もう、死んでしまいたいと。リィンのいない世界で、生きていく理由などないと。どんな時でも笑顔を崩さなかったセリアは、世界が平和になった時、絶望し、虚無に堕ちた。しかし、周りの人間は、立ち直る暇など与えてはくれなかった。仕事は、とにかく山積みだった。結果、セリアは残りの人生を純粋人類の復興に捧げ、天寿を全うした。

 

 人のために尽力し、それが最終的に形となったのはいい事だと思うけど、すべて自分が望んだ事かと言われれば、違うとはっきり言えた。それでも、最後には大勢の人に惜しまれながら看取られ穏やかな最後だった、なので、これはこれで良かったのだろう、思い残す事は何もなかったと彼女は自分を納得させていた。死後の世界で、リィンと再開する事を夢想することもあったのだが、彼は勇者となり、人の理からは外れているので、会えない事は分かっていた、それはもう、半ば受け入れていた。

 

 ……なんともまあ、忘れたい前世である。

 

 そんな記憶が今世までついてきている事を、何かの罰ゲームかと、姫川は思っていた。この世界で生まれて十五年の時が過ぎ、高校に入学するまでは。

 

『俺に、何か』

 

 勇者である彼と、性格も容姿も瓜二つの人物が目の前に現れるなんて、最初は現実を疑った。

 ……彼に接触しようとした。けれども、なかなか、最後に一歩踏み出す勇気がでなかった。というのも、長年溜め込んでいたいろいろな感情の整理が追いつかなかったのである。

 

 そんなこんなで数日が経ち、姫川は現在、猛烈に焦っていた。

 

「なあ、勇水、どうしても人数が足りなくてさ、お前にしか頼めないんだよ」

「……ああ、わかった、それなら、俺が助けになろう、して、その合コンとやらはいつ行われるんだ?」

 

(……合コン!? リィンが……じゃなくて、燐くん……はまだ気が早いし……勇水くんが!?)

 

 合コン。それが男女の出会いの場と言うのは、この世界で住んでいれば自然にわかる事だ。実際、姫川もその容姿から、幾度となく誘われた経験があるが、あまりそういう相手を考える気持ちにならなかったので全て断っていた。

 

 聞き耳を立てるのは悪いと思いつつも、否が応でも反応してしまう、なんせ、こちとら何十年もずっと思い続けていた相手かもしれない人物の色恋に関係してくる話なのだ。

 

(……とても、不安です)

 

 勇水の方に視線を向け、手を胸に置く姫川。何しろ、勇水は姫川の贔屓目なしに客観的に見て、美しい容姿をしているのだ、その亜麻色の短髪は変に飾らずとも端麗な日本人離れした顔つきに映えるし、高校一年生にしては高身長だし、おまけに細身な体にしてはしっかりと筋肉がついており、その肉体には無駄がない。事実、元の世界でも、彼はいろいろな女性からアプローチを受けていたのだ、合コンなどに参加すれば、生きて帰れる保証がない。

 頭を悩ませる姫川、そんな時、自分と同じく勇水を心配する気配を感じ、そちらを向いた。

 姫川の視線の先には大柄の男……盾石がいた。

 盾石は眉間にシワを寄せ、勇水を合コンへと誘っている男を睨み付けていた。

 

(くそ……あいつ、昼に俺と勇水がトラブったのを見てた奴じゃねえか、俺が不在の時を狙ってくるとは……)

(この人は、確かいつも勇水君のそばにいる、盾石 士郎さん……どことなくガレスさんに似ている気がします)

 

 姫川は前世の仲間のことを思い出す、ガレスは仲間の中でも一歩引いて物事を見ていて、パーティの兄貴分ともいえる存在であった。などと考えていると、盾石は誰かに見られていることに気がつき、そちらを向く。二人の視線がふいにぶつかった。流れる沈黙。やがてその気まずさに痺れを切らした盾石は、姫川に話しかけた。

 

「……えっと、どうも?」

 

 姫川も無視はまずいと、盾石の問いかけに答えた

 

「……ええと、どうも?」

 

 ───刹那、姫川は思った、そういえば、これはチャンスだ、と。勇水の人となりについて、何か聞くことができるかもしれない、と。盾石が彼に近しい人だという事は前々から知っていたが話す機会がなかなかなかった。何せこの数日の間、見かけた時は勇水と常にセットで歩いていたのだ。

 

 意を決して、姫川は盾石に尋ねた。

 

「えっと……盾石 士郎さんですよね」

「あ、えっと、そうですけど」

「勇水くんと、仲良いんですか?」

「ああ、ええ!まあ……」

「えっと、その、彼について、聞きたいことがあるんですが」

 

(おいおい、マジかよ)

 

 盾石は焦っていた、なぜなら勇水から、姫川と接触することを禁じられていたからだ……だが、しかし。

 

(いや、いい機会だ、もうこの際、姫川さんには真実を聞いてしまおう、あんな腰の抜けた野郎の判断を待ってたら、手遅れになるかもしれん)

 

 盾石は勇水との口論を経て、彼の主張を腹に据えかねていたので、その箝口令に叛逆することを決めた。そうと決まればまずは勇水にバレないよう、合コン男と話しているうちに場所を変えなければならない。

 

「……ええ、わかりました……色々とお答えしますよ、俺も逆に聞きたいことがあるので……それよりも先に、ここだと話しづらいので、場所を変えましょうか」

「そうなのですか? 私は構いませんが……って、ええ!?」

 

 姫川が言葉を言い終わる前に、盾石は一刻も早く教室から逃れるよう、突然の全力ダッシュを決め込んだ。姫川は突然のことに動揺しながらも、彼の後に必死で食らいついた。

 

(ま……待ってください!)

 

 ……息を切らしながら走る姫川は、盾石に話しかけたことを、少し後悔していたのだった。

 




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