臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「はああああ!!」
「シッ!」
「うがっ!?」
ド素人丸出しの剣技で、師匠であるリューさんに斬りかかるがひらりと躱され、隙の出来た顎に下から木刀の一撃を入れられ、一回転しながら重力によって地面に叩きつけられる。
通算、何十回かはわからないけど成長しているのだろうか? 【ステイタス】は確かに成長しているが、技術が追い付いていない気がしてならない。ま、対人戦をしているのがリューさんだけなので技術が身に付いている実感がしないのだろう。
「もう終わりにしますか?」
「ぐぅぅ、まだまだ!」
今度は別のキャラクターの技を真似て見る。今の俺が使っている武器は、リューさんとは違って日本刀を模した木刀で鞘も付いている。
口の中に広がる鉄の味と身体に走る痛み、ギチギチと悲鳴を上げる筋肉を我慢しながら立ち上がり、抜刀術の構えを取る。
「抜刀術ですか……」
「フーッ、行きます!」
地面を強く蹴り、リューさんへと迫る。まずは、居合い斬りで一撃繰り出す。当然、Lv.4のリューさんにスローモーションに見えるだろうがこの一撃は囮だ。本命はこの次の鞘からの一撃。
「今日、一番勢いが乗っていましたが即席の剣技では意味がありません」
「本命はこっちじゃない!」
「なに!?」
「うらあああ!!」
居合い斬りを縦にした木刀によって防がれたので、そのまま身体を捻り、勢いを乗せた鞘をリューの脇腹に振り抜く。
鞘の一撃がリューさんの脇腹を捉えたと思った瞬間、気が付いたら仰向けで地面に転がっていた。
「は?」
確かに鞘の一撃がリューさんの脇腹を捉えたはず。なのに、どうして俺は地面に転がっているのだろうか?アニメや漫画のような不思議な感覚に襲われて、何がなんなのか分からないでいると次第に背中に痛みが走る。
どうやら、何かしらの一撃を背中に受けて、ひっくり返って地面に転がったのだろう。ざっくりとしているがそういう風にしか今の俺には分析が出来なかった。
「イシグロさん、今の二段攻撃は良かった。一撃目の攻撃を囮に、鞘での攻撃。確かにこれは初見では有効です。どこでこの技?」
「痛てて、故郷のとある物語の主人公が使ってた抜刀術です。他にもまだ技はありますけど、今の俺では使えないです」
「なるほど。あなたとの鍛練で繰り出される剣技は、たまに驚かされる。未熟でありながら、対人戦での効果は絶大。ランクアップすれば、私でも脅威に感じる可能性を秘めている」
「無い物ねだりですけど、体力次第で他人の技を模倣できるスキルとか欲しいなぁ………」
「そんなレアなスキルが発現してしまったら娯楽を求めている神々に狙われてしまう」
「ですよね…………」
俺が欲しているスキルは、どこぞの金髪モデルのバスケットマンのような才能をそのままスキルに落とし込んだイメージである。これも転生前の紙に書いて置くんだった。
無い物ねだりの愚痴を口にしながら身体から痛いが少し引いたところで、ゆっくりと立ち上がり、再びリューさんと対峙する。俺がこの世界に転生したのは原作開始日のため、冒険者としての経験値はベルよりも劣っている。【ステイタス】は『赤龍帝の籠手』が一部スキルとして反映されているお陰で飛躍的に伸びて、僅差がないが技術などはそうではない。
なので、少しでも多くリューさんから学べるものを学んで置かないといずれやってくるオッタルが連れ出した強化種のミノタウロスと相対した時に勝てなくなってしまう。だから、もっと強くなりたい。
「ところで、イシグロさん。あなたに問いたい」
「何でしょう?」
「あなたの成長は異常だ。【ステイタス】の詮索は御法度だと分かっていますが、スキルか何かですか?」
対峙するや否や、リューさんから思わぬ質問を受けたのでどう返答したものか悩む。普通であれば、正義感の強いリューさんに「御法度ですよね?」と言ってしまえばそれまでだが、一応彼女は俺の師匠に当たる訳だから…………。
色々と頭の中で考えるが前世でも頭が良かった訳でもないので、ここは俺の中の勘に任せることにした。
「ぶっちゃけると、半分はそうです」
「半分?」
「もう半分は…………来い、ブーステッド・ギア」
「ッ───── なにもないところから籠手が!?」
『赤龍帝の籠手』が具現化されたことに未知の現象を目と当たりにしたリューさんは、当然の如く驚き固まる。
「こいつの中には、二天龍と称されるうちの一匹の魂が宿ってます。それがこうして防具や武器などで目覚めると、その宿主は爆発的に身体能力などが成長します」
「まさか、そんな物がこの世に存在するとは………」
「まぁ、それは単なるオマケに過ぎないですけどね」
「それだけの能力がオマケ?」
「実際に感じてみた方が早いかな。俺もこいつを使って、どれだけLv.の差を埋められるのか試してみたかったところだから三十秒ください。そしたら、動きます」
「分かりました」
今回は、リューさん相手に初めて『赤龍帝の籠手』が有で手合いとなる。普段は『赤龍帝の籠手』を使っていないので、今の【ステイタス】でどこまで強化できるのかを把握するためにもいいかもしれない。
『Boost!!』
「籠手が鳴った?! なるほど、それで三十秒という訳ですか」
一回目の倍加だけで、リューさんは『赤龍帝の籠手』の能力を大まかではあるが把握してみせた。流石はLV.4 の冒険者だ。
『Boost!!』
二十秒。
『Boost』
三十秒。
『Explosion!!』
「行きます!」
二の三乗、つまり八倍の強化で今の俺の【ステイタス】はSを軽く越えるEXまで跳ね上がっているはずだ。更に【プロモーション】の魔法で『戦車』に昇格しているのも合わさり、『力』と『耐久』だけな同じLv.1 でも比較にならないくらい強化されている事だろう。
そんな状態でリューさんに木刀で斬りかかる。
「はあああ!!」
「速いッ!? けれど、それはLv.1 にしてはの話です」
「チッ…………あっ!?」
そして、八倍に強化されたといえどLv.1 がLV.4 の差を埋められるのはそんなに容易いことでないようで、簡単に受け止められてしまう。しかし、そこで倍加された【ステイタス】の『力』に堪えきれなくなった俺の木刀が割り箸を折るようにへし折れてしまう。
「あちゃー、倍加に堪えきれなかったか」
「なるほど、その籠手の真価は十秒毎に、宿主の【ステイタス】を強化することにあるようだ」
「流石はリューさん。たった一度の手合いだけで、そこまでバレるとはお見事」
「籠手の能力は分かりましたが、木刀がそれでは鍛錬は続けられませんね」
「俺としては、素手で武器を持った敵と戦うことも想定して、このまま鍛錬を続けたいですけど…………その…………」
一応、アニメの『ダンまち』のエルフには多少なりとも知っているので素手の鍛錬となると躊躇してしまう。
「ああ、そういうことですか。安心してください、初日の鍛錬で気絶させてしまったイシグロさんをベッドに運んだのは、私です。なので、その心配は無用だ」
「えっ? マジですか?」
「マジです」
となるとベルとシル、あともう一人以外でリューさんの肌に触れられたということか? いや、もしかしたら肌ではなく服に触れているので心配の必要ないということなのだろうか? でも、今のリューさんの口振りからするに肌に触れても平気だというニュアンスに聞こえしまうのだが…………。
下手にあれこれ考えるのは止めだ。今は、素手での戦闘に備えた鍛練をするためにも体力を消費する『赤龍帝の籠手』は必要ないので深呼吸して解除する。
「すぅー、はぁー」
「その赤い籠手は使わないのですか?」
「はい。アレだけ破格の能力を何の制約も無しに使える訳ではないので」
「イシグロさんがそう言うのであれば、私からはなにも言うことはありません」
「では、行きます!」
不恰好な構えを取り、地を蹴って、リューさんに殴りかかるが結果は明白。木刀を持っていた時以上にボコボコにされましたとさ、丸。
○●○
「ハッ!」
『クギャッ!?』
今朝方、鍛錬した素手の戦いを身体に馴染ませるために、所々で剣を持っていない左手の拳をゴブリンの顎へとかます。
すると数メートルほど後方へ吹き飛び、二回ほどバウンドする。そこへ間髪に入れずに地を蹴って、ゴブリンの上から剣を躊躇なく突き刺す。それによって、痛みでジタバタと暴れるが剣を横に凪払い、絶命させる。
ここ一週間ほどで、ゴブリンやコボルトなどのモンスターへの恐怖心も少しずつなくなってきているし、殺すことにも躊躇がなくなり始めた。冒険者としては、良い傾向だろう。
「お疲れ様、ケンマ」
「ああ」
倒したモンスターの亡骸から魔石の破片を回収しながら、今日の探索でかなり貯金が貯まってきたのでパーティーメンバーであり、同じ零細ファミリアの団長であるベルに防具を買うこと提案することにした。
「なぁ、ベル」
「なに、ケンマ?」
「俺たち、パーティーを組んでからそれなりに金が貯まっただろう。だからさ、そろそろ防具を買ってもいいんじゃないかと思ってさ」
「防具か………確かに僕たちの防具って言ったら、この胸当てぐらいだもんね」
「お互いに駆け出しで防具の良し悪しなんてわからないからアドバイザーのエイナさんに聞いて見るのはどうだ?」
一番は、俺の師匠でLV.4 の元冒険者であるリューさんやLV.6の元冒険者であるミアさん等と一緒に買いに行くのが良いのだろうが、リューさんは冒険者の要注意人物一覧に登録されてるし、ミアさんは『豊饒の女主人』で忙しいから難しいだろう。
ここはアニメ通り、俺たちの担当アドバイザーであるエイナさんに訪ねるのが一番だろう。
「そうだね。アドバイザーのエイナさんなら駆け出しでも買えそうな防具を売ってるお店も知ってるはすだよね」
「なら決まりだな」
身近な目的が出来たので、その目的を果たすためにも今日のうちに稼げるだけの稼ぎを得るために只管モンスターを倒し続ける。そして、ベルのバックパックが一杯になったところで魔石やドロップアイテムを換金するために地上へと戻ることにした。
○●○
地上に戻ってくるとダンジョンへと繋がる螺旋階段の入り口で、ギルド職員のエイナさんに忙しそうに何やらアレコレと指示を出していた。
そんなエイナさんの姿を見た俺は、とあるイベントを思い出した。
「ああ、そういえば『怪物祭』とかいうお祭りがあるんだったな」
「モンスター、フィリア?」
「俺も詳しい訳じゃないが、なんでも【ガネーシャ・ファミリア】がダンジョンからモンスターを連れてきて、市民の前で調教するお祭りらしい」
「へぇー、そんなのがあるんだ」
「『怪物祭』が近いとなると、エイナさんに防具について訪ねるのはちょっと難しいかも知れないな」
「そうだね。エイナさん、忙しいそうだもん」
担当アドバイザーのエイナさんが『怪物祭』に向けて忙しそうに働いているので、防具について訪ねるのはお祭りが終わってからにすることにして『バベル』のシャワーで汗や埃、モンスターの返り血などを流してから本日集めた魔石やドロップアイテムなどを換金する。
そして、換金した金額は今まで最高金額になったことに俺たちは、歓喜する。
「す、凄い!」
「二人で二六◯◯◯ヴァリス。今までで一番の収入金額だな。七階層まで足を踏み入れた甲斐があったな」
「本当だね。七階層でケンマがキラーアントについて教えてくれなかったら危なかったよ。あれがウォーシャドーに次ぐ『新米殺し』のモンスターなんだね」
「危険を感じると仲間を呼び寄せる厄介なモンスターだ。LV.1 の俺たちは見つけ次第即効で仕留めるか逃げるかの選択肢しか今はない。だが、ギルドから支給されたお粗末な武器じゃ到底勝てないから挑むなよベル」
「わ、分かってるよ」
「なら、いいけど」
既に、今日のダンジョン探索でベルが無謀にもキラーアントに挑もうとしていたのを止めているので、念のためにも釘を刺しておくことにした。《ヘスティア・ナイフ》を持っていない今のベルでは、あの鋼鉄の鎧のような殻を持つキラーアントに傷一つ付けられずに殺されてしまうだろう。
釘を刺してあとは、お互いにやることがないのでギルドで解散することになった。
オリ主たちの新本拠地候補
-
第六区画 『竈火の館』の近く
-
第七区画 元ヘスティア廃教会
-
西地区 豊穣の女主人の近く
-
北地区 適当に