臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百○三話

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

薄暗いダンジョンの中を複数の影が細かい息遣いと共にあちこち疾走する。その正体は初めて『中層』に挑んだ上級冒険者を幾度も屠ってきた初見殺しのモンスターである『ヘルハウンド』である。

 

そのヘルハウンドが総数八体と『中層』に慣れている冒険者でも相手にしたくない数であるが俺たちならば十分に相手通れる数だ。

 

 

「来ますッ!」

 

 

俺たちのパーティーで司令塔の立ち位置にあるリリから注意喚起が飛んで来ると俺たちは、一様に迫りくるヘルハウンドたちの動きを注意深く観察しながら僅かに腰を通して臨戦態勢に入る。

 

そして、八体のヘルハウンドの内の三体がベルに向かって肉薄。それをベルは冷静に見極めながら《ヘスティア・ナイフ》と《牛若丸》ですれ違い様に切り裂いて仕止めていく。

 

三体のヘルハウンドを仕止めたことで僅かに気が緩んだその隙を狙って新たに一匹のヘルハウンドがベルの背後から飛び掛かりながら火炎放射を放とうとする。

 

 

「させるかよ、ヴェルフ!」

 

「任せろ!」

 

 

ヴェルフに短い指示を飛ばしながら俺は太股のホルスターから聖剣ナイフを素早く引き抜き、火炎放射の構えをしている空中のヘルハウンドへと投擲。聖剣ナイフが命中したヘルハウンドは聖なるオーラによって火炎放射を形成する魔力が維持できなくなり、喉元に溜めていた魔力が霧散したことに驚くが、そんな余裕をヴェルフは与えない。

 

火炎放射を放てなくなった唯の犬畜生となり果てたヘルハウンドをヴェルフは正面に位置取るように周り込んでおり、僅かにやらしい笑みを浮かべながら大刀を下段から斜め上へと振り上げた。

 

 

「いらっしゃいッ!うおらぁあッ!!」

 

 

見事な連携の果てにヘルハウンドを仕止めると、司令塔のリリの注意喚起が今度は最近新しく俺たちのパーティーに加わった命へと飛ぶ。

 

 

「命様、後ろです!」

 

 

それを聞いていた命も冷静に迫りくる三体のヘルハウンドたちの動きと気配を見極めながら、牙を剥き出しにして飛び掛かってくるそのタイミングで自慢の愛刀を高速で抜刀、一呼吸の合間にヘルハウンドたちを小間切れにして見せた。

 

あまりの抜刀の速さにまだLV.1 のリリとヴェルフは目を開いて驚きの表現を露わにするが、俺とベルはそれぞれの師匠たちの本気の剣捌きを目の当たりにしたことがあるので命の剣速をはっきりと捉えられていた。

 

それから幾度となくモンスターたちを倒していると運が悪いことに自然発生した『怪物進呈』に鉢合わせてしまった。

 

 

「皆さま、『怪物の宴』です!?」

 

「「ッッ!!」」

 

 

『怪物の宴』の恐ろしさを知っているヴェルフと命の息を飲む僅かな音を耳が捉えるが、何故か俺とベルは普段の戦闘と変わらず冷静だった。

 

 

「やれるか、ベル?」

 

「もちろん!この程度の怪物の宴ならエルソスの遺跡にいたモンスターたちと比べたらまだ余裕があるよ」

 

「確かにアレと比べたら数も強さも段違いだな」

 

 

『エルソスの遺跡』で対峙した『アンタレス』とそのクローンたちの戦闘と比べたら『中層』程度の『怪物の宴』など生温く感じるのは確かな成長だろう。

 

そうして俺たちは過去に受けた激戦の記憶を想い起こしながら二人して横並びに立ち、右手から雷炎を、左手から九つの首を持つ赤い龍の『魔法』を刻々と近付いて来る『怪物の宴』に目掛けて放つ。

 

 

「【ファイアボルト!!】」

 

「九頭龍拳!!」

 

 

二つの魔法が放たれると奇跡や偶然が重なったのか、ベルと俺の魔法が混ざり合って、身体に雷を纏いながら口元から炎を迸らせる九つの赤い龍がモンスターの群れを呑み込み大爆発を引き起こした。

 

互いに【英雄願望】や倍加の力を使っていないのにも関わらず引き出された魔法の威力や魔法同士が融合したことに顔を見合わせてから頬が引き吊る。

 

 

「ねぇ、ケンマ」

 

「なんだ、ベル」

 

「今、僕たちの魔法が混ざり合ってなかった?」

 

「俺もそう見えたから白昼夢ではないと思う。それからとんでもない威力だったな」

 

「うん、滅茶苦茶な威力だった。怪物進呈のモンスターたちが全滅してるくらいだし」

 

「ヤバくね?」

 

「普通にヤバいと思うよ」

 

「ですよねぇ………」

 

 

二人して同じ感想を抱いていると後ろにいるリリ、ヴェルフ、命から困惑の叫びが放たれる。

 

 

「「なんですか、今のぉおおおお!?」」

 

「なんだよ、今のぉおおおお!?」」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

『乾杯!』

 

 

命が俺たちのパーティーに加わってから丁度一週間が経過した日の夕方、遂にヴェルフがLV.2 へと【ランクアップ】を果たしたことでその祝勝会をヴェルフの行きつけで一部の冒険者や鍛冶師たちに人気な『焰蜂亭』と呼ばれる酒場で行っている。

 

なんでも、この酒場の名物である───まるでルビーを煮詰めたように真っ赤な蜂蜜酒の虜になって、連日通うリピーターが多いとのことらしい。

 

 

「【ランクアップ】本当におめでとう、ヴェルフ!」

 

「LV.2 ………【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師となれば、作る防具の価値も跳ね上がりますね」

 

「ということは俺とベルの防具もランクアップできるってことだな」

 

「ありがとうな、ベル、リリスケ。それとケンマ、新しい防具が欲しいなら素材と金はしっかり持ってきやがれ!専属契約サービスで三割くらいまでは安くしてやるよ!」

 

「たった三割かよ………せめて五割くらいはまけてくれよ!」

 

「い・や・だ!お前は色々と鍛冶師泣かせだから三割ぐらいまでが丁度良いんだよ!」

 

「それを言われると何にも言い返せねぇわ………」

 

 

軽口を叩きながらも口元から溢れるようなはにかんだ笑みを浮かべるヴェルフ。その表情は念願の目標の一つが叶ったからの笑みだろう。

 

今月に入って俺たちとパーティーを組んでからヴェルフは怒涛のような冒険をして来た。中層での強行軍から始まり、18階層での激闘、エルソスの遺跡での決戦。その何れもがヴェルフを次のステージへ上げるための『偉業』として認められるには十分な大冒険だった。

 

 

「これでヴェルフは、【ファミリア】のブランド名を自由に扱うことができるの?」

 

「自由に、とはいかない。少なくとも文字列を入れられるのは、ヘファイストス様や幹部連中が認めた武具だけだ。下手な作品を世に出して、あの女神の名を汚せないしな」

 

 

ベルの問いにヴェルフが答えたように、上級鍛冶師の仲間入りを果たしたことで【ファミリア】のブランドである【Ηφαίστου】のロゴが使えるようになる。

 

更にはヴェルフの【ランクアップ】が正式にギルドから公表されれば、間違いなく彼の作品は魔剣とは違った意味で飛ぶように売れるだろう。そうなれば、ヴェルフとパーティーを組むのも難しくなってくる。そのことをリリは気付いているようで、寂しそうであり名残惜しそうにに呟く。

 

 

「ですが………これでこのパーティーもこれで解散ということになりますね」

 

「………!!」

 

「ヴェルフ様がダンジョンに潜っていたのは【ランクアップ】を果たして『鍛冶』のアビリティを得るため………もう、行動を共にする意味は………」

 

 

リリの話を聞いていたベルは寂しさを堪え、リリ自身も困ったように口を噤み、ヴェルフは手で後頭部を掻いており、俺はこの後の展開を知っているため三人とは違って静かに果実ジュースを飲み続ける。

 

 

「フ……そんな捨てられた兎みたいな顔をするな。用が済んだで、じゃあサヨナラ、なんて言わないぞ」

 

「「えっ………」」

 

「心配すんな。これからも一緒だ」

 

 

これからも共にパーティーを組んでくれることを驚くリリとベルに、フォークに刺した燻製ソーセージを噛み千切りながらヴェルフはそう言う。

 

それを聞いた二人は顔を見合わせると寂しさそうな表情から一気に嬉しそうな表情に変化する。それを見たヴェルフは、パーティーメンバーで唯一この場に居ない命の話を始めた。

 

 

「しかし、命も来ればよかったのになぁ。もう知らない仲じゃないんだ」

 

「まぁ、用があるって言ってたからね」

 

「気を使ったんじゃないでしょうか?自分は別の【ファミリア】だからって」

 

「それを言うなら俺たち全員が別の【ファミリア】だろうが」

 

「そう言えばそうだったね」

 

 

ヴェルフのツッコミにベルは懐かしそうに言う。

 

最初は俺とベルの二人だけのパーティーだったが、リリ、ヴェルフ、命と続いてそれなりに賑やかなパーティーになったものだ。

 

 

「ベル様とケンマ様、お二人の【ランクアップ】はまだですか?」

 

「うん。前の冒険者依頼から戻って来てアビリティが大分上がったけどね。ケンマは?」

 

「俺も似たようなもんだな」

 

 

実を言うと本当は今直ぐにでも【ランクアップ】は可能である。前の冒険者依頼でアンタレスからアルテミスを救ったり、アンタレスを単独で討伐したり、次元の狭間を使ってアンタレスが残した『矢』を消滅させたりと『偉業』は成し得ている。更に【ステイタス】も平均評価値がオールSなので基本アビリティの方も問題はない。

 

ただ時期的に速すぎることから【ランクアップ】は先送りしているのだ。ぶっちゃけるとまだベルよりも目立つ訳にはいかない。目立つとしても俺がLV.3 に成ってしばらく経ってからかLV.4 に【ランクアップ】してからが一番好ましい。

 

 

「LV.1 とLV.2では獲得する【経験値】の基準も昇格に必要な総量も違うでしょうが………まぁ、18階層の件はリュー様とケンマ様が、アンタレスの件もケンマ様が総取りでしょうからね」

 

「どっちもケンマは大活躍だったからな」

 

「そうだね」

 

 

18階層での出来事の話になると当然のようにヴェルフがあの時の『黒いゴライアス』に再び疑問を持ち始めた。

 

 

「………結局、何だったんだ、あのゴライアスは?」

 

「異常事態としか言いようがありませんが……間違いなく前代未聞でしょう。安全階層に階層主が産まれ落ちるなんて」

 

「能力も普通の階層主よりも上だったんだろう? 上級冒険者が虫みたいに吹っ飛んでたぞ。あんなことがこれからも続くようなら、命がいくつあっても足りないぞ」

 

「そう、だよね………」

 

「ヘスティア様は何か知っていたようでしたが………」

 

「多分、ああ言う異常事態が起きるからギルドは神々にダンジョンへの進出を禁じているんだろう。そうでなければ、神々がいればダンジョン内でも随時【ステイタス】の更新は可能だからな」

 

 

俺の言葉に三人は少し納得がいったような表情をする。

 

アニメでも『黒いモンスター』については『黒竜』についての話が一部しか出ていない。つまり完全な『未知』だ。けれど、少なくとも共通点は存在する。

 

一つ目は、最低でもLV.5 以上のポテンシャルを必ず持っているということ。これはアニメと劇場版で登場する黒いモンスターがブラック・ゴライアスとアンタレス、それからまだ出会ったことのない『アステリオス』の三体しか俺は知らないからだ。二つ目は、アステリオスを除けば二体とも魔力を消費した自己再生能力があった。

 

俺の推測が正しければ、同じ『黒い』の肉体を持ちながらこの世界のラスボスに位置付けられている『黒竜』も脅威的な自己再生能力を持っていることになる。

 

 

「ま、これ以上は話してもしょうがないか………世間の方はどうなっているんだ?」

 

「ギルドが真っ先に箝口令を敷きましたから、都市や冒険者の間で目立った混乱はないみたいですね。詳細を知っているのは、当事者であるリリたちだけでしょう」

 

「絶対口外するな、って徹底されたし………」

 

「ケンマの言う通りペナルティーも厭わない、って確かに鬼気迫っていたしな、ギルドの連中は」

 

「18階層の『リヴィラの街』は既に機能を取り戻しているそうです。ダンジョンもあれから変わった動きはなく、平常通りだと」

 

「すみません、果実ジュースお代わり!」

 

 

俺も『豊饒の女主人』で働いているリューさんやクロエさんなんかを通じて世間の色々な情報を集めているが、俺たちと出会う前からリリはそういうことをやっていたのか情報には敏感または耳聡いようで現状報告してくれる。

 

 

「そう言えば、ベル様たちは大丈夫なのですか? ギルドに言い掛かりを付けられて、ペナルティーを課せられたと聞きましたが?」

 

「あー、それね………」

 

 

ギルドからのペナルティーの話になると、唐突にベルが通り目をし始めた。

 

 

「罰金の額はおいくらだったんですか?」

 

「18階層でリヴィラの街に行く途中でケンマが言ってた通り、【ファミリア】の資産の半分だったよ」

 

「………キツイな」

 

「この魚料理、美味いな………」

 

 

それからしばらく、酒場の賑やかな笑い声に囲まれながら前世にはなかった異世界の酒場料理を楽しみながら周囲を見渡すと、俺が座っている真後ろでニヤニヤしながら見ている小人族に獣人族が一人、ヒューマンの三人が隣の席にいた。ということはそろそろ、奴らが喧嘩を売ってくる頃合いだということだろう。

 

喧嘩になる前に出来るだけ料理を楽しもうと少しばかり食べる速度を上げると隣で黙り込んだリリをベルは様子が変だと感じたのか、様子を訪ねた。

 

 

「リリ……大丈夫?」

 

「すみません、ぼーっとしてました。ベル様もケンマ様も、18階層での事件で随分株が上がったことだと思います。少なくともあの階層主攻略に参加した冒険者たちには、認めてもらったのではないでしょうか?」

 

「う、うん………」

 

 

リリに聞きたかった内容から反らされたことに気付いたベルは、俺とヴェルフにアイコンタクトと取ってくるので、俺たちは肩を竦めてわからないと返す。

 

すると、それを頃合いと見たのか後ろの席にいた小人族がわざとらしくこんなことを叫び始めた。

 

 

「な~にがLV.3 だよ」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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