臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「な~にがLV.3 だよ」
酒場に広がる賑やかな笑い声に囲まれていると、突然後ろの席にいた小人族があからさまに他の客にも聞こえてる声で叫び始めた。
「世界最速兎だか何だか知らないけど、インチキも程々にしておいた方がいいぜぇ?逃げ足だけは速いウサギが、モンスターから逃げまくってランクアーップ!今度はLV.3 も近いだぁ!? オイラだったら恥ずかしくてホームから出られねーよぉ!」
その一部始終を聞いてあからさまに俺たちへ、というよりも『兎』というキーワードから喧嘩を売っている相手は十中八九ベルだということを理解出来た。
そういえば、この小人族。『戦争遊戯』の後でどうなったのか知らないんだよなぁ、俺。まぁ、このキャラクターはリリによって、裏切りの濡れ衣を着せられる不憫なキャラクターなのでそこまで作者も描いていないのだろう。
「やれやれ……」
「無視してください、ベル様」
「あ…………うん」
「絶対に先に手を出すなよ、ベルにヴェルフ」
ヴェルフとリリは慣れているようで、余裕を持ち合わせながら酒を煽り、リリは狙われているベルに真に受けるなと注意喚起をする。
同じく俺も、この流れをアニメで知っているため、次に起きるであろう乱闘に備えて、血の気の多いベルとヴェルフに警告して置く。すると、なぜ自分までとヴェルフが聞き返して来ようとするがそれを遮るように小人族の芝居めいた叫びは続く。
「おい、ケンマ。なんで、俺まで─────」
「見ろよ!仲間は他派閥の寄せ集めだ!売れないヘボ鍛冶師に、さえない茶髪の奴、それからちっこいガキのサポーター!まぁ、インチキルーキーにはお似合いってところかぁ?」
ベルと組んでいる俺たちパーティーメンバーの話になると小人族の仲間である【アポロン・ファミリア】の連中は、腹を抱えて笑いだした。
「まあそれも仕方ないか。腰抜け『兎』の【ファミリア】は弱小弱小。最下層だ。なぁ~んたって威厳も尊厳も無い、あるのは胸だけの落ちこぼれ女神が率いているんだからなぁ!」
尊敬しているヘスティアを侮辱されて隣に座っているベルが、テーブルを強く叩きながら立ち上がり、小人族に今の発言を取り消すよう言い放つ。
こうなることはアニメで知っていたとはいえ、小心者の俺は思わず身体がビクンッと跳ね上がり、そのまま口を含んでいた果実ジュースを変な所へ飲み込んでしまい思い切り噎せ返ってしまった。
「取り消せ!!」
「ングッ!? ゲホッ!ゴホッ!ベル……お前ッ!ゴホッ、ゲホッ!」
「大丈夫ですか、ケンマ様?」
「おい、大丈夫かよ?」
ベルの所為で噎せ返ってしまった俺をベルとは反対の席に座っているヴェルフと向かい側に座っているリリが、俺の背中を擦りながら心配してくれる。
そんな俺たちを他所に、ヒートアップしているベルと反論に怯えた【アポロン・ファミリア】の小人族の話は続く。
「は……はは、図星だから怒ってるんだろう!? 白状しろよ。本来はあんなチビ女神の眷属なんて、恥ずかしくってしょうがないって!」
流石に堪忍袋の尾が切れたのかベルが小人族を黙らせようと行動するよりも先に、俺の背中を擦っていたヴェルフが咄嗟に俺が飲んでいた果実ジュースの木製ジョッキをノールックで小人族の顔面に投げて、命中させる。
「ブエッ!!」
「手が滑った」
「てめえ!!」
「やりやがったな!!」
仲間の小人族がやられたことでそれを皮切り、一人を除いた他の【アポロン・ファミリア】の連中が立ち上がり乱闘が始まる。
乱闘が始まると狭い酒場ということもあって他の客や冒険者から野次馬のような声援が飛び、他にもグラスや皿、フォークにナイフ、終いには椅子なんかが飛び交う何でもありの乱闘に成り果てていた。
「ああもうっ、これだから冒険者は!」
「あのバカ共が!態々ベルだけに喧嘩を売ってる時点で、罠だとなぜ分からない!」
「ケンマ様、それはどういう───」
リリが俺の放った言葉を聞き返してくるので、返答しようとするがその前にヴェルフの挑発が響く。
「次はどいつだあ!!」
「相手になろう」
ヴェルフの挑発に反応して、他の仲間たちがやられるまでずっと座っていた最後の【アポロン・ファミリア】の団員が椅子から腰を上げた。
俺はその団員をアニメ知識で知っている。【アポロン・ファミリア】の団長にしてLV.3 の第二級冒険者のヒュアキントス・クリオ、二つ名は【太陽の光寵童】。
そして次の瞬間、ヴェルフはあっさりとヒュアキントスによって壁へと投げ飛ばされてしまう。
「うおっ!?」
「ヴェルフ!?」
仲間が敵に壁へと投げ飛ばされてしまったことで視線がそちらへ集中した僅かな隙を狙って、ヒュアキントスはベルの懐へと肉薄。
それから奴によってベルは数回殴られて、鼻血を流す展開を知っている俺は、見す見す親友を殴らせるような薄情者ではないので小声で【プロモーション】の『女王』に昇格、更には【瞬歩】でヒュアキントスに近付いて、拳を受け止める。
「そこまでだ!」
「ッ!!」
名も知れない奴に自慢の拳を受け止められたことにヒュアキントスを含めて、周りの連中は目を見開いて驚きの視線を向ける。
何故、そんな驚くことがある。無名の俺がLV.3 のヒュアキントスの拳を受け止めたことがそんなに信じられないか? まぁ、普通はそうだろうな。だけど、こちとらLV.1 の時から第二級と第一級の師匠たちと散々実戦稽古してたんだ。嘗めるなよ?
「け、ケンマ!?」
「これ以上やるなら、今度は俺が相手をしてやるよ」
戦意を漲らせながら龍のオーラを放ってヒュアキントスを威圧するとその影響で酒場の床や壁の木材に無数の亀裂が走る。
龍のオーラによる威圧をその全身に受けたヒュアキントスは、僅かに恐怖の眼差しが混じった瞳で俺のことを睨み付ける。
「どうする?」
「チッ………興が削がれた。行くぞ」
「それは何よりだ」
相手側が拳から力を抜いたのでこちらも掴んでいる手の力を抜くと、ヒュアキントスは仲間たちに一言かけると団長命令に従って、ベルたちにボコボコにされた団員たちはフラフラと肩を貸し合いながら『焰蜂亭』から出ていく。
その後ろ姿が完全に店から消えるのを見送ってから深呼吸をして放っていた龍のオーラを納める。すると、少し冷静になったベルがヒュアキントスの攻撃から守ってくれたことにお礼を言ってくる。
しかし、それを聞いて俺は─────
「ありがとう、ケンマ。ケンマがあの人の拳を受け止めてくれなかったら今頃、僕の顔は酷いことになってたよ………」
「ベル」
「なに、ケンマ?」
「反省しろ、このバカ」
「えっ………ハキュッ!?」
ベルの額に【魔力操作】で魔力を込めたデコピンを撃ち込んで、ヴェルフのように壁へと吹き飛ばす。まさかの攻撃にベルはそのまま意識を失い、壁を背凭れにしながらガクリッと首が垂れ下がる。
「ちょっ!なぁぁにやってんですかぁぁああああ!?」
「仕返し&お仕置」
ベルを強化型のデコピンで意識を飛ばすと近くにいるリリが叫び出した。まあ、無理もないだろう。ヒュアキントスからベルを守ってくれたと思いきや今度は俺がベルのことをノックダウンしたのだから当たり前といえば当たり前だ。
そんなことよりも先ずは、懐事情のチェクをしなればならない。
「ひい、ふう、みう、よう………足りるかな?」
取り敢えず懐事情の確認を終えた俺は、そのまま『焰蜂亭』の店主がいる所に向かい、財布の中身の半分を差し出す。
「すみません、店長さん。俺の連れがお騒がせしたようで、これで今日のことは勘弁して貰えませんかね?」
「あ、ああ……別に構わないけど……」
「それと、このお金でそちらの方に自慢の蜂蜜酒を大ジョッキでお願いします。ベートさんもお騒がせしてすみませんでした」
店長さんに謝罪しつつ、カウンター席で一人で酒を楽しんでいた【ロキ・ファミリア】のベート・ローガに謝罪と共に蜂蜜酒を奢る。
「雑魚が何ようだ?」
「いえ、ただお騒がせしたことの謝罪とお詫びの一杯ですよ」
「フンッ、調子に乗ってんじゃねぇぞ」
「調子になんて乗りませんし、乗れません。だって俺は、臆病者ですから」
「チッ、そうかよ。話が終わりならさっさと失せろ、酒が不味くなる」
「わかりました。これで失礼します」
その会話を最後に俺たちも『焰蜂亭』から出て、【ヘスティア・ファミリア】のある廃教会へと向かう。
○●○
「ふ~ん、なるほどね、喧嘩かー」
気絶したベルと怪我をしたヴェルフを連れて【ヘスティア・ファミリア】の廃教会へと訪れた俺たちは、ベルの主神であるヘスティアに事の顛末を報告してからヴェルフの手当てをすることにした。
「ベルくんが思ったよりもやんちゃで、ボクは嬉しいような、悲しいような………」
「最近、ベル様の性格が乱暴になっています!きっとヴェルフ様の悪影響です!!」
「言いがかりだろうリリスケ!てか、俺が悪影響ならケンマはどうなんだよ、ケンマは!!」
「おいヴェルフ、動くな。軟膏が塗り難い」
「す、すまん」
ヘスティアは言葉通りに嬉しそうで、それでいて悲しみをぐちゃ混ぜにした表情でベットの上で気絶しているベルの頭を優しく撫で、初めてあった時よりも喧嘩早くなったベルの性格にヴェルフが悪影響を及ぼしたとリリは嘆き、それに対してヴェルフは反論する。
そんな三者三様の反応を聞きながら俺は青アザを作ったヴェルフの腕に、ヘスティアから渡されたミアハ謹製の軟膏を塗っていく。正直、回復魔法で治療してしまえば手っ取り早のだが、アニメ通りとはいえ明らかに罠だと分かる策に嵌まって騒動を引き起こした愚者にわざわざ回復魔法を使うほど俺は優しくない。
要は反省させるためのお仕置である。
「それで? キミたちは何処の誰と喧嘩をしたんだい?」
「【アポロン・ファミリア】です」
「………なんだって!?」
「それからケンマ様が気になることを仰っていました。態々、ベル様だけに喧嘩を売っている時点で、今までのヘスティア様への侮辱はベル様を怒らせる罠だと………」
「どういうことだい、ケンマくん」
「ベルたちとヴェルフの祝勝会をやっていると隣の席で、俺たちのことをニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている奴らが居たんです」
「なるほど、それがアポロンの所の子供たちだった訳か」
「はい。そして、しばらくすると【アポロン・ファミリア】の小人族がベルのレコードホルダーという肩書きをインチキ呼ばわりし始めたんです。最速での【ランクアップ】なら俺もベルに迫る勢いの筈なのに、その小人族は何故かベルだけをインチキ呼ばわりした。そのことから【アポロン・ファミリア】の狙いはベル、ただ一人だということが直ぐにわかりました」
「確かにケンマくんもベルくんに迫る速さで【ランクアップ】を果たしている。ベルくんは約一ヶ月、ケンマくんは約一ヶ月半、二人の差はたった二週間ほどしか変わらない。なのにベルくんだけを狙ったとなれば、ケンマくんの推測も頷ける」
「神ヘスティア、これをベルに」
「ありがとう、ケンマくん」
俺の『嘘』を交えない説明を聞きながらヴェルフに使っていた軟膏を俺から受け取り、それをベルの未だに赤くなっている額に塗る。
「だけどよう、ベルを狙うって言っても痛め付けたりするなら焰蜂亭で───」
「奴らの狙いはそうじゃない。奴ら───【アポロン・ファミリア】の狙いは今回の騒動を理由に【ヘスティア・ファミリア】との『戦争遊戯』だ」
「「「なっ!?」」」
「ちょっと待ってくれ!眷属同士が喧嘩したからといって、いくら何でも『戦争遊戯』はやりすぎなんじゃ…………」
「そうですよ!【ヘスティア・ファミリア】にはベル様だけしか団員はいないのに対して【アポロン・ファミリア】の団員は優に百人を超えているんですよ!?いくらなんでも無茶苦茶です!!」
ヴェルフの問いに【アポロン・ファミリア】の狙いが『戦争遊戯』と答えると、ヘスティアとリリは即座に反応する。
「だからこそベルの前で神ヘスティアを侮辱して、団員たちと喧嘩させて、怪我をさせることで『戦争遊戯』が逃げられないようにしたんだろう」
「おいおい、待てよ!先に手を出したのは俺だぜ? なのに、なんで【ヘスティア・ファミリア】が『戦争遊戯』をしなきゃならねぇんだよ。やるなら俺の【ファミリア】である【ヘファイストス・ファミリア】だろう!?」
「だが、ベルも【アポロン・ファミリア】の連中を殴ってしまっている。これはもう覆せない事実だ」
「ッ!! 俺が……俺が先に手を出したから………クソッ!」
自分が先に手を出したことで、それを皮切りにベルも【アポロン・ファミリア】との乱闘に参加させてしまったことを後悔しているのか、ヴェルフは俯きながら太股の上で握り拳を作る。
「起きてしまった過去は変えられない。神ヘスティア、ベルが目を覚ましたら約一ヶ月の間は身の回りに注意するように言っておいてください」
「分かったよ」
「それでは、俺はこれで」
「なら俺たちも行くか、リリスケ」
「そうですね」
こうして、ベルとヘスティアはアニメ通りに【アポロン・ファミリア】に狙われることになったのであった。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に