臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「はああああ!!」
「ふっ!」
【瞬歩】で勢いを付けて尚且つ【魔力操作】で威力を向上させた右ストレートをルノアさんは、左手の甲で軽く払うようにして俺の拳を弾いて見せる。
その光景に心内で舌打ちしながら今度は右ストレートを打ち込んだ際に踏み切った左足とは逆の右足で地面踏み込み、その勢いを上に向けながら無理矢理に身体を左に捻りつつ下から拳を突き上げるようなアッパーカット、ボクシングでいうところのガゼルパンチを繰り出す。
「それはもう三回は見たよ、ケンマ」
「ッ!!」
無理矢理のガゼルパンチをルノアさんは完全に見切っていたようで余裕ありありといった表情で俺の左拳のアッパーカットを右手で包み込んで、がっしりと掴んでいた。
敵に拳を掴まれ、距離も殆ど開けていない今の状況を危険だと判断して何とか脱け出そうとするもLV. の差があって全く抜け出せない。
「ほい♪」
「うわああっ!?」
何とか抜け出せないかと方法を考えていると左手を掴まれたまま、ボールを投げるようにルノアさんに中庭にある壁に向かって軽く投げられてしまう。
しかし、軽くと言ってもそれは投げるルノアさんからしたらだ。投げられた本人からしたらかなりの力で投げられているので、このまま壁に衝突してしまえば打撲などの軽傷は避けられないだろう。
だけど、俺には怪我しないようにするだけの今の状況を変えれるだけの能力がある。
「身体は剣で出来ている!」
疑似詠唱を唱えながら『聖剣創造』で右手に聖剣を創造、そのまま握った聖剣を地面に突き立てて、投げられた勢いを殺そうと試みるがLV.4 の軽い投げの方が勢いが強いようで、俺が創造した聖剣が刀身半ばから破砕音と共にポッキリと折れる。
一本で駄目なら二本だ!と思い右手の聖剣は上書きで刀身を修復、左手にはヘンテコで歪な形状をしているが広い面積で地面に突き立てられる聖剣を創造して、再度勢いを殺そうと試みる。
そしてその甲斐があって何とか壁に背中が接触する時には、勢いもかなり殺せていて、身体に走る衝撃は自分から壁に凭れかかるくらいにまで殺すことが出来た。
「ぐううううう!!」
「やっぱりケンマならそれくらいは何とかするよね」
「そりゃあ、何十回も投げられてますから………」
ルノアさんと鍛練する際、彼女は俺に目立った怪我をさせないように投げを使うことが多い。それも大体投げる時は、俺の動きを封じてから反撃を防げない状況にしてからやることが多い。
さっきも左手を掴まれていた俺は、右側が完全な隙になってしまっていた。近接戦闘に特化しているルノアさんであれば、それだけで俺を戦闘不能にするのに十分なはずだ。
つまり、格下でなければあの時の隙は間違いなく致命傷になりうる攻撃を貰っていたことを意味する。例え、オーラで攻撃部位を覆ってもルノアさん相手なら骨の二~三本は持っていかれるだろう。そう思うとゾッとしてしまう。
「………そういえば、まだ試してなかったな。ルノアさん、悪いけど新しい『スキル』を試させてもらいます!」
「新しいスキルを試す?」
ルノアさんの問いに答える前に俺は再び疑似詠唱を唱えながら『聖剣創造』で柄尻に特殊機構を加えた白い短刀を二本創造する。
「身体は剣で出来ている」
「二本の白い短剣?」
「血潮は鉄で、心は硝子」
「ッッ………まだ詠唱が続いて?!」
疑似詠唱に続きがあることを知らなかったことにルノアさんが驚くなか、俺は疑似詠唱を続けながら白い聖剣短剣の柄尻を合わせて捻り、カチッという何かが嵌まる音がしたら上下の切っ先から【魔力操作】で生成した魔力糸を張る。
そうすることで、以前残滓のアルテミスに渡した魔剣弓と対になる聖剣版の聖剣弓が完成する。
「剣が弓に変わった!?」
「行きますよ!」
短剣が弓になったことをルノアさんが驚いている間に、俺は某オサレのバトル漫画の滅却師とは少し異なるが【魔力操作】で精神力を消費して矢を形成する。
正直、生まれてこの方前世を含めても一度もちゃんとした弓矢を射ったことがない。そのため、前世のアニメキャラの見よう見真似で聖剣弓に魔力矢を番がえる。
「なにそれ!?」
【魔力操作】で生成した矢を見て、再びルノアさんは驚くがそれを俺はチャンスだと思って魔力矢を放つ。
魔力矢を放つとルノアさんは意識を切り替えたのか、右手を弓引いて魔力矢を殴る。するとどうだろう?ルノアさんが付き出したはずの右拳が魔力矢に大きく弾かれ、あろうことか彼女の身体が右側にノックバックを起こしていた。
「なっ……!?」
「マジか………」
魔力矢に込めた精神力はそこまで多くないはずなのに、LV.4 のルノアさんがノックバックを引き起こした。つまり、これはアルテミスのスキルである【月光の傾慕】が聖剣弓を射撃武器だと認識して、『狙撃者』の発展アビリティが一時的に発現していることを意味していた。
そして、何よりも『狙撃者』の発展アビリティはLV.2とLV. 4の差を覆せる程に強力な発展アビリティだということが分かった。あるいは【勝利の祝福】と【月光の傾慕】の中にある戦意が続く限り発展アビリティの評価が上がるという能力の恩恵により、一時的に発現した『狙撃者』のアビリティ評価がIからGに強化されているからなのかも知れない。
どちらにせ、『狙撃者』という発展アビリティは強力なのが理解できた。しかし、ここで俺はとある過ちを犯していた。その過ちとは──────
「何処のどいつだい!店の壁に穴を空けたバカたれはぁぁあああ!!」
「ひぃぃっ!?」
「い"ぃぃっ!?」
───ルノアさんが弾いた魔力矢が何処に飛んで行ったのかを把握していなかったことだ。その所為で店の中にいるはずのミアさんの怒号が中庭にまで響き渡り、俺たちは反射的に両肩が跳ねる。
ミアさんの怒号を聞いた俺は、このままではヤバいと焦りながら手に持っている聖剣弓を即座に消滅させて証拠を隠蔽する。あとは、このままバレないようにすればいいだけのこと。
そう思っていたんだが、中庭から店へと繋がる裏口の方からズンッ!ズンッ!という効果音がどんどんこちらに近付いてくる。これは比喩的表現ではなくてマジで聞こえてくるのだ。それはまるで星が刻印されている某七つのボールの集めるバトル漫画に出てくるとある悪魔が迫ってくるような絶望感をじわじわ感じてしまう程にだ。
「こ、殺されちゃう……みんな殺されちゃうんだ……」
「る、ルノアさん!?」
怒り狂うミアさんの怒号とどんどん近付いてくる恐怖の足音に、ルノアさんはガクガクと震えながら現実逃避をしていた。
そして───────ガチャリ。
「お前たちだね、店に穴を開けたのは………!」
あっ、これ死んだわ…………。
○●○
「痛ってて………ミアさんガチギレだったな」
「大丈夫か、ケンマ?」
「自業自得だから甘んじてこの痛みを我慢するさ」
早朝特訓で『豊饒の女主人』の壁に穴を空けたあと、憤怒の表情を浮かべたミアさんにルノアさんと共に拳骨を貰い、その痛みに悩まされていると隣を歩いているアルテミスに心配されてしまった。
「それでケンマ、今日は何処に行くのだ?」
「取り敢えず、アルテミスのバイト先を探すために神ヘファイストスを尋ねるためにヴェルフの所に行こうと思う」
「ヘファイストスの?」
「ああ」
アルテミスを『アンタレス』から救い出したのはいいが、今の彼女には眷属がいないため、自分で衣・食・住をまともに満たすことができない。まぁ、住くらいは俺たちのところで何とかなるが衣と食は自分で賄って欲しい。
そのためにヘファイストスの所でバイト先を紹介して貰えないかと尋ねに行くためヴェルフの工房に向かっている最中だ。他にもバイト先には同郷であるヘファイストスにヘスティアもいるので一人寂しくバイトをすることもないだろう。
「今のアルテミスが覚えているかは分からないけど、残滓の方のアルテミスはヴェルフが即席で作った矢を褒めていたからその観察眼を使えば働かせて貰えるんじゃないかと思ったんだ」
「そういえば、そんなこともあったな」
あの旅には色々な未知なる発見があった。森でキャンプを張っていれば野生動物たちがアルテミスに群がり貢ぎ物を差し出したり、ヘスティアの提案で竜たちを使ったレースをやってその際に偶然発見した巨大翼竜のドロップアイテムの骨を見つけたりと今思い出すだけでもあの時のワクワクが戻ってくる。
たった約二週間くらいの旅だったが大切な思い出話をしていると、あっという間にヴェルフの工房へと到着した。
「おーい、ヴェルフ!いるか?」
工房の中から鉄を打つ音が響き渡るなか、扉を壊さないようにしっかりと手加減をしながらもそれなりに強い力で扉を叩き、武具の製錬に集中しているであろうヴェルフに声をかける。すると、さっきまで響いていた鉄を打つ音が止み、工房の中から汗だくで作業姿のヴェルフが出てきた。
「よう、ケンマ。今日はどうしたんだ?態々、アルテミス様まで連れてこんな煤だらけの所に来て」
「ヴェルフにちょっと頼みたいことがあってな」
「俺に頼み事?」
「神ヘファイストスにアルテミス向けのバイトを紹介して欲しくてな。事前に何の話も無く押し掛けるのは不作法だと思って、ヴェルフに神ヘファイストスに話を通してもらいたくて来たんだ」
「なるほどな………」
「悪いけど、頼めるか?」
「ん~、まぁ何とかなるだろう。準備するから先にバベルの中に行っててくれ」
「わかった」
「すまない、ヴェルフ」
「いえ、ヘファイストス様も同郷であるアルテミス様には久しぶりにお会いしただろうし。これくらいは何ともありませんよ」
そう言ってヴェルフは再び工房の中へと戻っていった。大方、今さっき打っていた作品を手早く完成させてからバベルに来るつもりなのだろう。
そんな訳で俺たちは一足先にバベルの真下までやってくると、今までオラリオの外で活動していたアルテミスはあまりのバベルのデカさに圧倒されていた。
「ほう、これがバベルか。実際に真下まで来るとかなり大きいな………」
「アルテミスは、オラリオに来るのは初めてだから仕方ないさ」
「いや、過去に一度来たことがあるぞ」
「え?そうなのか?」
「ああ、確か七年くらい前だったか?あの時のオラリオは今よりもずっと暗くて嫌な空気が充満していたのを今も覚えている」
「七年前……もしかして、それって……」
今から七年前のオラリオというとアニメでも僅かにしか語られていない『暗黒期』と呼ばれる時期の話だろう。そういえば、前世ではリューさんを主人公に【アストレア・ファミリア】のストーリーを描いた『ダンまち』のシリーズが新しく発売されているのを今思い出した。
確か題名は………『アストレア・レコード』だったか?
もう読むことの叶わない『ダンまちシリーズ』の原作たちに想いを馳せながら初めてのオラリオ産の昇降機が動く揺れに驚いてふらつくアルテミスを抱き止めたりして、ちょっとしたアオハルを感じながらも以前リリとベルの三人で訪れた簡易食堂で初夏を迎えようとしている太陽に熱せられた身体を冷やすために飲み物を購入してヴェルフが来るのを待つ。
冷たい飲み物を飲みながらヴェルフを待っていたら、アルテミスから『エルソスの遺跡』で一時的に至ることの出来た新しい赤龍帝の姿について尋ねられる。
「そういえば、ケンマ。エルソスの地下遺跡で真っ赤な鎧が変化したあの姿、あれは一体なんなのだ?」
「あー、そのことかぁ…………ん~、正直俺もまだ完全には把握しきれていないのが現状なんだよなぁ」
今アルテミスに述べた通り、新しい赤龍帝の姿、あれについてはあまりにも情報が少な過ぎる。何となくではあるが、あれは俺が強く望んだ新しい赤龍帝の力ではあるんだがどういった力なのかまでは把握しきれていないのだ。
まぁ、でもイッセーの『赤龍帝の三叉成駒』や【指輪の魔法使い】のようなスタイルチェンジのように用途に応じて形態を変化させて戦うバトルスタイルということが少なからず俺の中ではイメージ付いている。
「あれはケンマのスキルではないのか?」
「ぶっちゃけるとアレはスキルや魔法じゃないんだ。もっと別の力でその力についてはこの世界だと俺かヴィクトリアくらいしか詳しくは知らないだろう」
「まさに、未知の力という訳か………」
「それにあの姿にはまだ自由に成れる訳じゃない。あの時はヴィクトリアの【神血】を飲むという裏技を使って何とか成れたけど、またあの姿になるには俺がもっと強くならない限りは難しいだろうな」
「強くなるとは、LV.3 へ【ランクアップ】するということか?」
「それもあるだろうけど精神面でも強くならないといけないんだ。ま、あの戦いで間違いなくきっかけは得られたから後は地道に鍛えて行くのが一番の近道だろう」
『ハイスクールD×D』の『禍の団』みたく『オーフィスの蛇』というドーピング剤を使って瞬間速攻で強くなるなんて夢物語はこの世界には実在しない。故に、地道にこつこつ丁寧に一つずつ強くなっていく他あるまい。
それからあの姿をずっと『新しい赤龍帝の姿』と呼ぶのは何とかしなくてはならないだろう。あの姿になる時の詠唱文には「希望」というキーワードを使っていたからそれに因んだ名前がいいだろう。
そう一人で納得していると準備を終えたヴェルフが俺たちに見つけにやってきた。
「よう、ここに居たか。悪いな時間を取らせて」
「別にそこまで待ってないぜ、ヴェルフ」
「ケンマの言う通りだ。我々の方こそ、無理を言ってヘファイストスと面会出来るよう話を通してもらう立場なのだからこれくらいでは待ったうちには入らないさ」
「そうですか。では、ヘファイストス様に面会出来るか幹部連中にも掛け合って来ますのでもうしばらくの間、ケンマと待っててください」
「うむ。よろしく頼む」
アルテミスの返事を聞いたヴェルフは、彼女に一礼してから昇降機のある方へと足を向けた。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に