臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

107 / 176








第百◯七話

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

「高校のブレザーと違って、スーツってのはこんなに堅苦しいんだな。日々、汗水垂らしてるサラリーマンに敬意の念が生まれてくる」

 

 

着なれないパーティー用のスーツに身を包みながら、ガタガタと揺れる馬車の中で俺は少しでも首周りを楽にしようと襟首に人差し指と中指を差し込んでサラリーマンがよくやる仕草をする。

 

何故、普段着ないようなスーツに身を包んでいるかと問われると、アニメ通りアポロンが主催する『神の宴』に我が主神であるヴィクトリアもお呼ばれされたからである。

 

因みに同じ女神であるアルテミスも俺たちと同伴している。

 

 

「こうこう?さらりーまん? それは一体なんなのだ、ケンマ?」

 

「あぁ、そうだな………高校はこの世界でいう所の『学区』のような学舎のことを示すんだ。んで、俺の故郷には六歳から十二歳まで通う学舎を小学校あるいは初等部、また十三歳から十五歳まで通う学舎を中学校、中等部というように呼ばれていて、その学舎に十五歳までの子供たちは必ず通うように義務付けられているんだ」

 

「義務だと?そんなことをしたら金銭的に乏しいの家庭や親や身寄りがいない子供はどうする!?」

 

「ん~、俺も詳しくは知らないけど学校は大体国が管理してるし、中学校までは国が義務化してるから国の方から何かしらの支援がされているはずだと思う。んで、俺が通っていた十五歳から十八歳まで通える高校も成績が良い生徒には特待生制度ってので学費が半分以下になるやつがあったしな」

 

「なるほど………確かに国の支援やその制度があれば、身寄りがいない子供や金銭的に厳しい家庭でも子供たちを学舎に通わせてやれるな」

 

 

数ヶ月振りのYシャツと初めて着るスーツに無意識から出てしまった前世の話に反応した水色のドレスに身を包みながら向かいの席に座るアルテミスに、俺が知っている簡単な義務教育と高校にあった特待生制度の話をすると彼女は身寄りのない子供でも努力すれば学舎に通えるのだと納得してくれたようだ。

 

すると、アルテミスの隣で少し薄暗い馬車の中でも街灯に照らされることで美しい黄金の髪を耳の後ろにかけながら、一見黒と見間違えるような深い蒼色のドレスに身を包んだヴィクトリアが唐突に俺へと尋ねてくる。

 

 

「ねぇ、ケンマ。少し聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

 

「ああ、構わないけど」

 

「昼間、ミアのお店で働いていたらお客さまから面白い話を聞いたの」

 

 

そこまでヴィクトリアが述べた途端、俺は嫌な予感を感じた。

 

 

「なんでも昨晩、とある酒場で冒険者同士の喧嘩があったそうなのよ。その冒険者というのが、どういう訳かヘスティアの所の子供とアポロンの所の子供たちみたいなのよね」

 

「へ、へぇ………」

 

「その喧嘩の翌日、アポロン主催の『神の宴』で珍しく『己の眷属を必ず一人は連れてくるように』っていう面白い趣向の宴が開かれることになった。わたし、貴方から酒場で喧嘩になっただなんて聞かされていないのだけれど?」

 

「いや、別に報告する程のことじゃないし。喧嘩してたのは主にベルとヴェルフの二人で、俺は寧ろ止めに入った方だぞ!?」

 

「嘘は言っていないみたいね」

 

「しかし、あの温厚なベルが喧嘩をするだなんて、アポロンの子供たちは一体何をやらかしたのだ?」

 

「そ、それは、えーっと…………」

 

 

ここでバカ正直にアルテミスに【アポロン・ファミリア】の連中がヘスティアのことを罵倒して、それを聞いたベルがキレたなんて言ったら神友であるアルテミスもアポロンとその眷属たちにキレ散らかすに違いない。

 

なので、どう答えたものかアレコレと考えていると『神の宴』の会場まであと少しの所まで来たのか馬車を運転している運転手?騎手?そこら辺は詳しく知らないが運転手の人が会場に到着することを伝えてくれた。

 

目的地に到着して馬車から降りるとまず視界に入るのは、アニメとかでよく出てくる中庭に噴水がある大きな屋敷だった。最初はもしかしたら後に【ヘスティア・ファミリア】のホームとなる【アポロン・ファミリア】のホームかと勘違いしたが入り口が全く異なるので別の物だと直ぐにわかった。

 

 

「【アポロン・ファミリア】はホームとは別にあんな屋敷まで所有してるのか………家賃がいくらなのか考えたくないな」

 

「あれはアポロンの所有している屋敷ではないわよ」

 

「え? じゃあ、あの屋敷は一体…………」

 

「あれはギルドが管理している施設の一つで、お金さえ払えば誰でも使用できるの」

 

「なるほどな………」

 

 

『神の宴』の会場が【アポロン・ファミリア】の所有物でないことをヴィクトリアから教えなれながら俺は自分で家賃を稼ぐようになった影響か、目の前の施設の維持費やら何やらとあれこれお金のかかることを頭の中で考えるが自分のことではないと早々に頭を切り替えることにした。

 

頭を切り替えるとまずはやらなくてはならないことがあるとそちらに集中することした。それはヴィクトリアの眷属として、何より男としてこういう場合は先に馬車から降りて、女性であるヴィクトリアとアルテミスに手を差しのべて馬車から降ろしてやるアニメ等の定番のやり取りだ。

 

 

「まずはヴィクトリアからだ。お手をどうぞ、主神様」

 

「ありがとう、ケンマ」

 

「次にアルテミスだな。お手をどうぞ、女神様」

 

「すまない」

 

 

ヴィクトリア、アルテミスの順で手を差しのべて馬車から降ろすが、ヴィクトリアは普通に主神として眷属にリードされるのが嬉しいのか優しい微笑みを浮かべている。アルテミスの方は、まぁ何とかいうか『スキル』でもそういう風に書いてあったので頬を僅かに赤くしながら滅茶苦茶嬉しそうに微笑んでくれた。

 

二人を馬車から降ろしたあとは、少し不恰好というか前世であれば二股をかけているクソ野郎にしか見えない構図で右腕にヴィクトリアの手を、左腕にアルテミスの手をかけられたのを確認してから二人の歩く速度に合わせながら『神の宴』の会場の中へと入って行く。

 

 

アニメ(■■■)では知ってたけど、実際に見るとこうも見え方が変わる物なんだなぁ!」

 

「ん?ケンマ、今なんて言ったのだ? 最初の言葉が何か変な音で邪魔されて聞き取れなかった。もう一度言ってくれないか」

 

「止めて置きなさい、アルテミス。その変な音で聞き取れなかった言葉は、この世界に存在する神々を含めたあらゆる生物には絶対に聞き取れない物よ」

 

「なに? ヴィクトリア、それはどう意味だ?」

 

「以前、ロキとその子供たちもケンマが放つ言葉の幾つかが変な音に邪魔されて聞き取れなかったのよ。文字も同じように変な物に邪魔されて読めなかったの。だから何度聞き直したり、書き直したりしても無駄なのよ」

 

「そんなことが………!しかし、何故ケンマの言葉と文字だけが…………」

 

「そんなのわたしも知らないわよ。さぁ、ずっと入り口で立っていては変に目立つでけどわ。そうねぇ……ヘスティアたちでも探して合流しましょうか」

 

「ならば仕方ない。ケンマ、頼めるか?」

 

「了解」

 

 

二人をリードしたままヘスティアとベルを探すがパッと見では何処にもいないようだ。もしかしたら、俺たちの方がベルたちよりも先に来てしまったのだろうか。

 

そう思っていると入り口で佇んでいた俺たちを先に見つけたのかヘルメスを筆頭にアスフィさん、タケミカヅチ、命の四人が近付いて来てくれた。

 

 

「やぁやぁ、ヴィクトリアにアルテミス!それにケンマくんも!」

 

「息災でなによりだ、ヴィクトリア、ケンマ。それと天界以来だな、アルテミス」

 

「こんばんは、タケミカヅチ」

 

「どうも、神タケミカヅチ」

 

「久しぶりだな、タケミカヅチ」

 

「あれ?三人ともオレのことは無視かい? まぁいいや。それにしてもヴィクトリアもアルテミスもドレスが良く似合っているじゃないか」

 

「貴様なんぞに褒められても嬉しくはないぞ!褒められるならば………フン!」

 

「ざまあないわね、ヘルメス」

 

 

ボロクソに言われているヘルメスを他所に、俺はアニメ通り黄色のドレスに身を包んだアスフィさんとまるで半袖花魁のような正装をした命に挨拶をすることにした。

 

 

「こんばんは、アスフィさん、命。ドレス姿似合ってますよ」

 

「ありがとうございます、ケンマ」

 

「あ、ありがとうございます、ケンマ殿」

 

 

二人と挨拶をしたら、ベルたちを見ていないかを早速尋ねてみることにした。

 

 

「ところで、ベルと神ヘスティアは何処にいるか知りませんか?」

 

「ベル・クラネルと神ヘスティアでしたらまだ会場には到着していませんよ」

 

「自分もベル殿とヘスティア様は見ていませんね」

 

「そうか………」

 

 

ベルとヘスティアが来てないということはやはりアニメよりも僅かに早く俺たちは会場に到着したということだろう。

 

 

「なぁに、湿気た面してんだよ!ケンマ!」

 

「うおっ! ヴェ、ヴェルフ!?」

 

 

ベルがいない中でアスフィさんと命の二人をチキンハート持ちの陰キャである俺がどうやって相手したものかと悩んでいると、突然背中をそれなりの力で叩きながら聞き覚えのある声で名前を呼ばれたと思ったら、そのまま肩に腕を回された。

 

腕を回してきた輩に当たりを付けながら顔を向けると、そこにはパーティースーツに身を包みながら片手にカクテルグラスを持っている親友のヴェルフが居た。

 

アニメだとヴェルフどころかヘファイストスも出てきていないのに、ヴェルフが居るということは原作だと出てきていたのだろうかと考察が頭の中で宇宙猫のように巡り始める。

 

 

「おい、大丈夫か?なんか、顔が完全に上の空だぞ。『神の宴』に緊張でもしてんのか?」

 

「いや、まぁ、そんな所だ………。それより、何でヴェルフが?こういうのは大体【ファミリア】の団長か副団長が来るもんだろう?まぁ、命は例外として」

 

「ちょっ!何故、自分だけ!?」

 

「いやな、それが椿の野郎はケンマから預かった例の剣(聖剣)たちの研磨に掛かり切りでよう。そのくせ、面倒な『神の宴』に出るよりもこっちの方が自分には性があってるとか抜かしやがって、団長命令で俺がヘファイストス様のお供をすることになったんだよ」

 

「神ヘファイストスのお供をしてるならこんな所に居ていいのか?」

 

「今は問題ない。そっちでアルテミス様たちと談笑なさっているからな」

 

「なるほどね」

 

 

何故、ヴェルフが『神の宴』に参加しているのかを尋ねるとあっさり本人から『神の宴』に参加するまでの経緯を教えてくれたので、内容を聞いて俺は納得してしまった。

 

 

「それにしても………ヴェルフは違和感なくパーティースーツを着るんだな」

 

「すーつ? ああ、燕尾服のことか。まぁ、これでも一応は元貴族の出だからな。そういうケンマこそ、あまり違和感なく着こなせてるじゃねぇか!」

 

「故郷の学舎で似たような物が制服だったからな。それでも新しいYシャツは首回りが硬いから好きじゃないんだよな」

 

「おや?ケンマは学舎に通ってたことがあるのですか?」

 

「六歳から十七歳半ばまでは学舎に通っていました。まぁ、成績は中の下くらいでしたけど…………」

 

 

そういえば、アニメか何処かの情報サイトか何かでアスフィさんは何処かの国のお姫様だったような覚えがある。しかし、あまりにもうろ覚えで自分の中で確信が得られないので言わないのが吉だろう。

 

それからしばらくすると入り口の方にベルとヘスティア、ミアハとナァーザさんの四人が姿を表すと真っ先にヘルメスが反応したのでそれに便乗する形で俺たちもベルの下へと集まる。

 

 

「おお~~!!ヘスティア、ミアハ!ベルくんとナァーザちゃんも!」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。