臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
オッタルによる激励を受けた俺は、未だに冷めぬ昂りをどう抑えた物かと考えながらこの昂りに身を任せて『神の宴』を抜け出してダンジョンでゴライアス辺りでも狩りに行こうかと真面目に悩んでいると、隣にいるベルと少し後ろにいるヴェルフが普通ではない今の俺を見て、心配そうに声をかけてくる。
「お、おい、ケンマ!大丈夫か?!」
「いきなり笑い出して、すごい驚いたよ」
「ああ、心配かけて悪いな。大丈夫だ。だけど、オッタルの所為で闘争心が昂って仕方がない。少し夜風に当たって来る」
「お、おう」
「う、うん」
多分、いや間違いなく今の俺の目は普段では見せないようなギラギラとした目という表現が合っているのだろう。その所為か、ベルとヴェルフも少しばかり引いてしまっていた。
他の神々や冒険者に迷惑をかけない内に、食べようとして中途半端になってしまった料理を食べるためと熱くなった闘争心を冷ますために、アニメでベルがヘルメスと三大クエストの話しをしていた月光が降り注いぐバルコニーに向かう。
バルコニーにある石で出来た長椅子に身体を預けて座り、夜空を見上げながら深く息を吐く。そうすることで、少し熱くなった闘争心が冷めていくのが自分でも分かる。
「フゥーーーー」
「随分と長く息を吐いているな、ケンマ」
「アルテミスか。神ヘスティアたちと一緒に居なくていいのか?」
「別に今生の別れではないしな。私もヘスティアもこのオラリオに居る限りはいつでも会える。これもケンマが私をアンタレスから救ってくれたお陰だ」
「そう言ってもらえるなら、無茶なことをした甲斐があるってもんだ」
月光の下でアルテミスと会話をしていると、会場の方が先ほどとはまた別の意味で騒がしくなり始めた。そちらに視線を向ければ、アニメ通りヘスティアとロキが何やら言い合いをしていた。
それを見たアルテミスは、深い溜め息を吐きながらも懐かしいものを見るような眼差しを凸凹コンビの女神二人に向けていた。
「はぁ、相変わらずヘスティアとロキはよく喧嘩をする物だ」
「止めなくていいのか?」
「いつもの事だから時期に終わるさ」
「ベルも大変だな…………この魚料理うま!」
ヘスティアとロキの恒例凸凹コンビの喧嘩を肴に俺は宴に出されていた魚料理に舌を打ち、皿に載せた料理を食べ終わる頃になると少し落ち込んだ様子のベルがやってきた。
「お疲れ、ベル」
「ヘスティアとロキの所為で苦労しているようだな」
「あははは………二人ともありがとございます。ところで、ケンマの方はもう大丈夫なの?さっきは何かこうギラギラとしてた感じがあったけど」
「ああ。夜風に当たりながら飯を食べたら大分落ち着いた」
「そうなんだ、よかった」
ヘスティアとロキの凸凹コンビの恒例行事で苦労したベルに労いの言葉をかけたあと、しばらく三人でテラスから会場の中を眺めているとバルコニーの後ろにある庭園を見て、声をもらした。
「ん?あれは…………ッ!!」
「どうした、ベル?」
「い、いや、あそこに【アポロン・ファミリア】の……たしかヒュアキントスさんともう一人ヒューマンがいたように見えたから………」
「ヒュアキントス、ね」
ベルの言葉から察するにヒュアキントスと【ソーマ・ファミリア】の糞野郎であるザニスの密会を目撃したのだろう。そう考察していると、会場の中からヘルメスがこちらにやってきた。
このタイミングでヘルメスがやってくるということはアニメ通り、ベルに冒険者になろうとした理由を尋ねる流れになるため、ヘルメスと相性が悪いアルテミスには一度離れてもらうためにヘスティアの下へ行ってもらうことにした。
「アルテミス、悪いがベルの代わりに神ヘスティアの様子を見て来てくれないか? 多分、今の神ヘスティアにベルを向かわせたら焼け石に水だろうからな」
「すみません、アルテミス様。僕からもお願いしてもいいですか?」
「お前たちがそこまで言うのなら、神友としてヘスティアの様子を見てくるとしよう」
ベルの援護もあってアルテミスはヘスティアを探しに会場の中に戻って行くが、その際にすれ違うヘルメスに何か釘を刺すようなことを言ってから人混みの中へと姿を消して行った。
そして、アルテミスと入れ替わる形で苦笑いを浮かべるヘルメスがやってきた。
「やぁ二人とも、こんなところで何をしているんだい?」
「見ての通り、俺はアルテミスと飯を食ってたな」
「僕は少し夜風に当たってました」
「ベルくんはともかく、ケンマくんはアルテミスと逢い引きしていたんじゃないのかい?」
「普通に飯を食ってただけだな」
「二人して色気がないなぁ。オレならアルテミスみたいな美人との逢い引きなら喜んで受けるのになぁ」
「色気がなくて悪かったな!で、態々アルテミスを外してやったのに話はそれだけか?」
残滓だった頃のアルテミスが俺の頬にキスをしたことを知っているヘルメスは、俺とアルテミスとの関係を茶化して来るのをウザく感じたので早々に本題を聞き出すことにした。
「いや、なに。せっかくの機会だから二人と少しゆっくりと話をしたくてね。隣に座ってもいいかい?」
「あ、はい。どうぞ」
ヘルメスの話を聞くために、ベルは俺と座っている三人用の長椅子の端にずれて、俺とベルでヘルメスを挟むように座れるスペースを作った。
「さて、何から話そうか……。そうだな、キミたち二人はどうして冒険者になったのかを聞かせてくれないか?」
「どっちから話す、ベル?」
「ケンマが先でいいよ」
「それじゃあ………なんで冒険者になったのかと聞かれてたら、理由は二つだな。一つは、とある少年の行く末を一人のファンとして近くで見てみたいという理由だな。二つ目は、俺の憧れであるとある男を越えたい、それが俺の冒険者になった理由だ」
「へぇ、二つとも中々に面白いね。特に、ケンマくんの憧れている子供にオレは興味が湧くな。その憧れの男はどんな人物なんだい?」
「あの男を一言で表すなら『性欲の権化』あるいは『おっぱい星人』だな」
「ブフッ!性欲の権化におっぱい星人? なにそれ、面白過ぎ!でも、何でそんな男にケンマくんは憧れたんだい?」
「そいつは確かにおっぱい大好きな性欲の権化だけど、泣いている女の子や仲間、子供が居たらどんなに自分が傷付こうが助けようとする。そんな所に俺は憧れを抱いたんだ」
「なるほど、確かにそんな男なら憧れを懐くのも分かる。しかし、そんなまるで『英雄』みたいな冒険者が居ればオレの耳にも届くはずなんだがなぁ………」
「ヘルメスたちが知らないのも無理もないさ。なんせ、その男はとっくに死んでるんだからな」
俺の憧れた存在が既に死んでいると聞いて、ベルは目を見開いて驚き、ヘルメスは英雄候補に成り得たかもしれない惜しい冒険者が既に死んでいることに残念そうな表情をした。
二人が今抱いている感情は少なからず理解できる。初めてドライグと会話が出来るようになって、俺に宿るブーステッド・ギアの前の所有者がサマエルの毒によってBAD ENDを迎えたイッセーであることが判明して、ブーステッド・ギアの中にもイッセーの残留思念がいないと聞いて、酷く落ち込んだことがある。
なので、二人の感情は少しだけ理解できる。
「俺の方は話したんだから、次はベルの番だな」
「う、うん。僕が冒険者になろうとしたのは祖父が……育ての親が亡くなる前に言ってて……『オラリオにはお金も、可愛い女の子との出会いも埋まってる。手っ取り早く美人の女神様の【ファミリア】に入って、眷属になるのもありだ』……って」
「ははは……!本当かい?それ」
「ふふっ……。何なら『英雄にだってなれる。覚悟があるなら行け』って」
「……ふっ。本当に愉快な人だねぇ…」
「そう、ですね。面白い人でした」
「そうすると、ベルくんはオラリオに来るまでは、ずっと生まれ故郷に?」
「はい。山奥にある田舎で……だから、知らないことが沢山あって」
「所謂、カルチャーショック………価値観の違いとかにやられた訳か」
カルチャーショックに関しては俺も同じだ。現代日本よりも科学力が低下している代わりに魔法や魔力といったファンタジー体系が成り立っているので最初の一ヶ月は滅茶苦茶苦労した。主に食事関係で。
「それじゃあ、ゼウス、という神は知っているかい?」
「ゼウス様………いえ、知りませんね」
「ゼウスといえば、ギリシア神話の最高神にして全智全能の神で、雷霆を司る神だったかな。あとは、ヘラという女神が妻だったはずだ」
前世のアニメやゲームなどでよく登場する神の名前が出てきたので、思わず俺が知っていたゼウスに関する情報を口にするとヘルメスは目を見開いて驚く。
「これは驚いたな………ケンマくんのことを物知りだとは知っていたが、ここまで博識とは、恐れ入ったよ」
「ヘルメス様が驚くってことは、有名なお方なんですか?」
「ああ。神々の降臨からこのオラリオに君臨し続けていた、
「
「い、一番強い【ファミリア】は、【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の筈じゃあ………?」
ベルにとって【ゼウス・ファミリア】の存在は寝耳に水だろう。今まで最強だったと思っていたはずの現二大派閥が過去にはその更に上にも強い【ファミリア】が存在していたということに。
「つい昔までは違ったのさ。今の勢力状況は、十五年前にほぼ出来上がったものさ。ロキとフレイヤ様が台頭するまで、オラリオの頂点にいたのはゼウス、ヘラが統べる二大派閥だった。そして十五年前に形勢が逆転、ロキたちが彼等を倒して都市から追い出したのさ」
「………ゼウス様たちは、【ファミリア】の勢力争いに負けたってことですか?」
「いや、多分それだけじゃない」
「え?それじゃあ、どうして………」
「考えられるのは二つ。一つはゼウスとヘラ、前二大派閥の主戦力が何かしらの理由で壊滅し、そこへロキとフレイヤの現二大派閥と勢力争いが勃発して敗北した。二つ目は、前者と似ているが前二大派閥の主戦力が遠征とかで留守の間に現二大派閥が攻めてたか。流石に後者であれば、主神が生きてさえいれば遠征から戻ってきた主戦力陣に報復を受けて現二大派閥の方が壊滅からの追放されたはずだ」
ゼウスとヘラの前二大派閥がロキとフレイヤの現二大派閥に負けて、オラリオを追放された可能性を出して、答えを知っているヘルメスに「答えは?」と視線で尋ねればニヤリと笑みを浮かべた。
「流石はケンマくん、大当たりだ。答えは前者の何かしらの理由でゼウスとヘラの主戦力が壊滅したのが前二大派閥がオラリオから追放された理由さ」
「その理由って、一体………」
「オラリオには下界全土から求められる『三大冒険者依頼』というものが存在する」
そう言って、ヘルメスは俺たちに三本の指を見せる。
「子供たちがまだ『古代』と呼んでいる時代、ダンジョンから地上に進出した力ある三体のモンスター───その討伐が依頼内容さ」
「え……それって、つまり………」
「そう、まだ生きてるんだ。ダンジョンの大穴を破って現れた、古のモンスターが」
そこまで聞いて俺はとある疑問にぶち当たった。それは、以前俺がヴィクトリアの【神血】を取り込むという裏技で何とか討伐した『アンタレス』の存在だ。
ヘルメスは、『古代』の時代に『陸の王』と『海の覇王』、そして『隻眼の黒竜』の三体がダンジョンから進出したというがアンタレスはどういう経緯で地上に出てきた? 『ダンまち』の世界観でモンスターは基本的にダンジョンで生まれ落ちる、であればアンタレスもそれに沿ってダンジョンで生まれて地上に進出したことになる。
しかし、『三大冒険者依頼』のモンスター以外でアンタレスだけがあんな強力な力を持っていたのだろうか? 無理矢理に共通点を作るのであれば、『三大冒険者依頼』のモンスターたちはそれぞれ地・海・空を統べるボスモンスターとして位置付けられているだろう。
ならば、アンタレスはどんな位置付けになる? 劇場版だからと言われてしまえばそれまでだが、どうにも引っ掛かる。そこで思い出したのが残滓のアルテミスが俺のことを『オリオン』と呼んでいたことだ。そのことから『オリオン』───つまりはオリオン座、アンタレスは蠍型のモンスターから蠍座を思い浮かんだ。
そこからどんどん思考を巡らせていくと、ある可能性に行き着いた。それは蠍座から黄道十二宮から連想される十二星座を象った十二体の漆黒のモンスターたちだ。これが既に誕生しているのかまたはこれから誕生するかによって色々と考える必要がある。
「な、なぁヘルメス」
「なんだい、ケンマくん」
「さっき『三大冒険者依頼』の強力なモンスターはダンジョンから進出したと言っていたが、アンタレスの存在はどうなる? 神をも喰らうとんでもない奴が自然発生したと思うか?」
「いやいや、モンスターは基本的にダンジョンで───」
「そう、普通ならダンジョンで生まれる。更にここからは俺の空想的な話になるが、アンタレス並のモンスターが残り十一体も地上に封印あるいはこれからダンジョンで誕生する可能性があると思ってる」
「なにをバカな!そんなのキミの空想話だろう?」
「だと良いんだけどさ、俺の故郷には星を線で結んでそれに名前を付けた物がある。その中にはオリオン座と蠍座というものがある」
「オリオン座に蠍座………」
「なかでも蠍座はとある十二個の星座で、十二星座と呼ばれる物の一つなんだが。残りは牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座の十一個がある。これをヘルメスはどう思う?」
「…………」
流石のヘルメスもこの話をただの空想話で片付けられないと理解したのか、神々の一人として口元に手を当てて考え始めた。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に