臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「終いにはアキが、ケンマが冒険者依頼に出発する直前に
んー、これは詰んでね?自分でやっておいてなんだが詰んでね?
ロキからアルテミスの冒険者依頼を受けている間に起きたオラリオの事件を聞いて、最早隠し通せる道を完全に潰されてしまったのでどう話したものかと悩んで腕を組ながら頭を捻ってしまっているのが現状だ。
正直、ヴィクトリアを『豊饒の女主人』に置いて来たのは失敗だったのではないだろうか?ヴィクトリアまでも【ロキ・ファミリア】に居候させてしまうと【アポロン・ファミリア】にロキが俺たちを贔屓しているのが露見してしまうと思って、バイト先である『豊饒の女主人』で匿ってもらうことにしたのだがなぁ。
ヴィクトリアと依頼人であるアルテミスがいない中でどこまで話していいのか、と悩んでいると突然『黄昏の館』の外から爆発音が聞こえてきた。
「何やこんな時に!」
「さぁ?でも、花火とかではないと思うよ」
「多分、【アポロン・ファミリア】がベルと神ヘスティアを追いかけ回してるんじゃないですかね?」
「なんやと?」
この時間帯で爆発音といえば、アニメ通りにアポロンがヘスティアに『戦争遊戯』を受けさせるためかまたはベルを捕えて、そのあとにアポロンがヘスティアを送還させて無理矢理にでもベルを自分の眷属にしようと動いているのだろう。
ヒュアキントスがアニメで「後で治すのだから腕の一本や二本……」とか言ってた覚えがあるし、あの場面でナァーザさんが遠距離射撃で援護してなかったら後者の展開になってた可能性もあり得るんだよなぁ。
あ、良いこと思い付いた!
「神ロキ、アルテミスの冒険者依頼で何があったのかを説明する対価として一つお願いしたんですけど」
「内容によるなぁ。取り敢えず、言ってみ?」
「なら端的に、秘密裏にアイズへベルを鍛えるよう頼んで欲しいんですよ。もっと細かく説明すると、多分夕方頃にベルがここにやってくるので、ティオネにベルを追い返す振りをしてもらいつつ、ここの直ぐに横にある脇道でアイズとティオナに合流して鍛練をするように誘導して欲しいんですよね」
「ケンマ、キミはまるでベル・クラネルが【アポロン・ファミリア】に襲われた後、戦争遊戯に勝つために僕たちのホームへやってきて、ティオネに追い返されるが脇道へと誘導されて、アイズとティオナに鍛練を付けてもらうまでの流れを最初から知っているかのように言うね」
アルテミスの冒険者依頼で何があったのかを説明する対価を提示した俺を見ながら、フィンさんは俺の奥底を見破ろうとしているような眼差しでそう言って来る。
今更、ここで否定してもフィンさんは信じないだろう。こうなることは既に『怪物祭』や『ミノタウロス』の時や18階層の時にも想定済みだ。
「否定はしません」
「ほう………」
「でも、見たくないですか?冒険者としての才能がない弱者であるベル・クラネルが強者であるヒュアキントスを喰らう冒険を、ジャイヤント・キリングを」
まるで自分の推しアニメを知らない友人に勧めるような形で俺はフィンさんにそう問いかける。
「ええやろう。その話、ウチが受けたる」
「いいのかい、ロキ?」
「ええ、ええ、その程度だったら問題あらへん。寧ろ、アイズたちに勝手に動かれてアポロンに難癖付けられるよりかはましやろ。ただドチビに手を貸してるみたいで少し気に食わんけどな!ケッ!」
「あははは………」
相変わらず、ロキとヘスティアは仲が悪いな。
「仕方ない、主神であるロキがこう言ってしまったら眷属である僕らが何を言おうが聞かないだろうしね」
「今更だろう」
「さよう」
「はぁ………」
最後にフィンさんは溜め息を吐くとデスクの上にある紫の足付きが付けられた金のベルを持ち、そのまま揺らして、チリーン……チリンチリーンと鳴らす。
フィンさんが態々そんなことをする意図を理解出来ていないリヴェリアさん、ガレスさん、ロキ、俺で代表してロキが尋ねるも直ぐにそのことは返ってきた。
「なぁ、フィン。その鐘は一体なんや─「お呼びですか、団長っっ!?」の………」
「相変わらず早かったね、ティオネ」
「もちろんですっ!団長にお渡しした呼び鈴の音がすれば、例え火の中、水の中!」
「獣人も真っ青な聴覚だね………」
どうやら、フィンさんが鳴らしたベルはティオネを呼び出すための呼び鈴だったようだ。その僅かな鈴の音を何処かで捉えたティオネにも脱帽だし、それを受け取り、普通に使うフィンさんにも何とも言えないような感情を向けてしまう。
「それで、ご用件は?団長がお望みであれば、神々の言う『せくはら』だって全身全霊を持って、承り───」
「んー、そういうのは遠慮しておこうかな。悪いけど、アイズとティオナも呼んできてくれるかな?」
「秒で呼んで来ますっっ!」
まるでバビューンという効果音が似合いそうな勢いで、ティオネは執務室から出ていき、アイズとティオナを呼びに向かった。
そんなフィンさんとティオネの一部始終を見ていた者から代表してロキが呼び出し鈴についてコメントを口にする。
「なんちゅうか………便利やな~、そのハンドベル」
「はは………彼女に半ば無理やり渡された物だけどね」
その一言で改めてティオネのフィンさんへの愛の重さが垣間見える。いや、この場合はアマゾネスの気に入った雄への執着だろうか?
そう思っていると再び執務室の扉が開かれるとそこには、ティオネの左右の腕の中で踠き苦しんでいるアイズとティオナの姿があった。
「だああああ、もう!離してよ、バカティオネ!!」
「苦しい」
「だから団長があんた達を呼んでのよ!さっきと同じことを何度も言わすな、このバカティオナ!!」
「いくらなんでも速すぎやろう!?」
「びょ、秒って………」
ティオネが帰ってくるあまりの速さに俺とロキは驚愕を隠せない。第一級冒険者のLV.6 って何処にいるか分からない相手を見つけて、捕えてくるのも秒で出来てしまうものなのだろうか?それとも、これもフィンさんへの一種の愛が成せる技というやつなのだろうか?
取り敢えず、ティオネに捕縛されている二人を解放してから事情と三人に俺の考えた作戦を説明。最初、解放されたティオナがベルを助けに行くと言い出したが、それは出来ないとフィンさんが団長命令を下し、今度は同じ【ファミリア】ではない俺にベルを助けるように言ってくるが俺もベルと同じように【アポロン・ファミリア】に狙われていて下手に動けないことを説明。
その後、こちらの事情と作戦を説明するとさっきとは打って代わり快く了承してくれた。その代わりに少し遅れてリヴェリアさんが頼んだお茶のセットを持ってきたレフィーヤがベルを手助けすることが気に食わないのか「また、あの兎は………」と溢しながら銀トレイを変形させて、リヴェリアさんに叱られるという一幕があったが作戦は問題なく伝えられたので御の字だろう。
「さて、キミの要望はティオネたちに任せた。今度、僕らの要望の番だよ、ケンマ」
「分かってます。ちゃんと説明しますよ」
アイズたちに作戦を伝えたあと、俺、ロキ、フィンさん、ガレスさん、リヴェリアさんの五人で応対用のテーブルを囲みながらレフィーヤが用意してくれたお茶で喉を潤してから作戦の対価として、『神月祭』でアルテミスから受けた冒険者依頼とその出来事について四人に話すことにした。
「まず先に、ここから語る内容は決して外部に漏らさないでください。この内容を知ってるのはアルテミスの冒険者依頼を受けた俺たちと神ウラノスだけなんで」
「あの隠居爺も絡んどんのかいな………」
「分かった。ここにいる全員が外部に漏らさないと約束しよう」
「ありがとうございます」
事前の注意事項の確認を四人に取れたので本格的に話して行く。
「最初の方のアルテミスとの出会いはレフィーヤたちからの情報と変わらないので省きます。それでヘルメスが手配して神ガネーシャが用意した移動用の翼竜に乗って、俺たちはオラリオから遥か遠くにあるエルソスの遺跡という古い遺跡を目指して、十日も空の旅をしたんです」
「翼竜で十日か……」
「それは壮大な旅だな……」
「陸路なら何十日掛かるかの……」
空を飛んででも十日掛かる旅の目的地にフィンさんは、どのくらい距離なのか計り知れないといった表情でそれぞれの感想を述べる。
「けれど、その道中………確か六日目だったかな。広大な森の上を飛んでいると、突然俺と一緒に翼竜に乗っていたアルテミスから切迫するように下へ降下しろと指示がでました。それに従って森と並ぶように降下すれば、なんと森の中に黒い蠍型のモンスターの大群から逃げる親子を見つけたんです」
「地上のモンスターといえど大群であれば、恩恵を持たない一般人なら一溜りもないな」
「なので、アルテミスは弓で狙撃して親子に襲いかかるモンスターを一匹ずつ倒して行ったんです。けれど、相手はかなりの大群故かアルテミスの攻撃は焼け石に水でした」
「ほう、神アルテミスは弓に秀でているのだな」
「ええ、それはもう木々の隙間を縫うようなとんでもない実力者です」
リヴェリアさんも弓を扱うのか、俺の説明でアルテミスが弓に秀でていることを理解したようだ。
「俺も魔法で何十体かは倒したりはしたんですけど、やっぱり数が多すぎました。続けて、二撃目の魔法を放とうとするも親子とモンスターの距離があまりにも近い所為で追撃を躊躇していると何を思ったのか、アルテミスは突然翼竜から降りてモンスターたちと短刀で戦い始めたんです」
「なっ、恩恵を持たない神がかっ?!」
「アルテミスはうちら神々の中でもバリバリの武闘派の女神やからな」
「そんなアルテミスでも一匹や二匹ならよかったんですけど、多勢に無勢でモンスターたちの尾でアルテミスも吹き飛ばされてしまったので俺の持ち得る手札の中から広範囲殲滅用の手札を切って、その時はなんとか事なきを得ました」
流石に『魔剣創造』のことや《千本桜》のことをバカ正直には言えないので、ここで手札として誤魔化すことにした。
「その後、親子から追われていたモンスターについて話を聞くもこれといった情報はなく。近隣の村も同じ未知のモンスターにやられたと言ってました。他に俺が倒したモンスターの魔石を調べたんですけど、魔石の大きさが中層のモンスターと遜色がないくらいに大きかったの覚えています」
「ちょっと待ってくれ。地上のモンスターの魔石がダンジョンの中層にいるモンスターの魔石と本当に変わらなかったのかい?」
「はい。一応、同じパーティーのベルやリリ、ヴェルフにも確認を取りました」
「地上では未知のモンスターの大群で強さは中層クラス、ダンジョンではモンスターの反乱………あの時は一体何が起こってたんや?」
「その答えはケンマの語る神アルテミスの冒険者依頼の中に入っているはずだ、ロキ。ならば、それをしっかり耳に刻み付けろ。私も念のため、議事録を作って置くとしよう」
「えっ、記録を付けるですか!?」
「ああ。どうにもケンマの話はただ単純に聞いているだけではもったいない気がしてな」
「それは僕も賛成かな。頼むよ、リヴェリア」
「なら、フィンの机を借りるぞ」
「勿論、構わないよ」
俺との会話をなぜか重要視しているのかフィンさんとリヴェリアさんは、俺との会話の記録を残すと言い出したので、それでは今まで以上に迂闊なことを話せなくなってしまうと思い、止めようとするも相手が相手だけにそれが出来ない。
本気で俺との会話を残すつもりなのか、リヴェリアさんはフィンさんの執務用の椅子に座り、机の上でいつでも会話の内容を残せるように紙と羽ペンを用意していた。
「はぁ………分かりました、話を再開します。親子から情報を聞いたあと、アルテミスがちょっとやらかしますがその日の夜、俺たちは焚き火を囲みながら昼間遭遇した未知の黒い蠍型のモンスターについて話し合いました。するとヘルメスからとある情報が開示されました」
「また、ヘルメスかいな………」
「ヘルメス曰く、この発端は異常なモンスターの増殖から始まったみたいで数多くの【ファミリア】が原因を探るために派遣されたみたいですけど、その尽くが消息を絶った。しかし、原因の場所だけは特定出来たみたいなんです」
「それが神アルテミスの冒険者依頼の目的地であるエルソスの遺跡」
「はい。そして、ヘルメスとアルテミスは二人で情報が繋がるように今回の冒険者依頼のターゲットについて話してくれました」
あの日の夜、ヘルメスとアルテミスから聞いた『アンタレス』の情報を一言一句間違えることなくフィンさんたちの前で口にする。
「陸を腐らせ、海を蝕み、森を殺し、あらゆる生命から力を奪う。古代、大精霊たちによって封印されたモンスター、名はアンタレス」
「大精霊たちが封印した古代のモンスター、アンタレスだと!?」
「リヴェリア、知っているのかい?」
「昔、故郷でアンタレスに関する文献を読んだ記憶がある。しかし、よりにもよってあのアンタレスの討伐が神アルテミスの冒険者依頼だったとは………」
ハイエルフであるリヴェリアさんは、偶然にもアンタレスについて少なからず知っているようでアルテミスの冒険者依頼が奴の討伐だと分かると凄く驚いていた。
「それで、そのアンタレスというモンスターはどんな奴なんだい?」
「文献によれば、アンタレスは神ヘルメスが言ったように陸を腐らせ、海を蝕み、森を殺し、あらゆる生命から力を奪う……つまり地脈から力を奪い、自分の物にするという特性を持っている」
「そんな出鱈目な奴が相手ならば、ケンマではなく儂らか【フレイヤ・ファミリア】に依頼するべき冒険者依頼じゃろう?」
「それが出来たならば態々ケンマに依頼なんてしないはずだよ、ガレス。ケンマ、態々神アルテミスがキミにその冒険者依頼を依頼した理由はなんだい?」
大精霊たちが封印するので精一杯だったはずのモンスターをLV.2 に至ってまもない俺に依頼した理由は単純に強さ以外にも何かあるのではないかと推測したフィンさんは、それを俺に問うてくる。
相変わらず、フィンさんの推理力は鋭いね。マジで見た目は子供、頭脳は大人の名探偵みたいだと思わずにはいられなかった。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に