臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百十七話

 

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

 

「すまないね、ケンマ。普段、他派閥の冒険者を寝泊まりさせることなんて皆無だから言い出しておいて、こんな場所に寝泊まりさせるしかなくて………」

 

「いえいえ、雨風凌げて安全な場所で寝泊まりできるだけでも有り難いことですよ!」

 

 

新人でもない、他派閥の冒険者がいる異様な光景に【ロキ・ファミリア】の皆さんの懐疑的な視線を諸に受けながら、フィンさんたちのご厚意で用意してもらった鍛練期間中のみ使用できる俺の寝床部屋に案内された。

 

しかし、部屋の中はずっと使っていなかったのか割かし埃が溜まっていたことにフィンさんは謝罪を述べてくるが、俺としては雨風凌げるだけでも本当に有り難い。

 

 

「しばらくすれば昼時になる。それまでには団員たちに掃除を済ませて置くように伝えて置くから、今度はキミが使う鍛練場に案内しよう」

 

「あ、あの……フィンさん?寝床の用意までしてもらって、その上掃除までさせるなんて凄く申し訳ないんですけど………」

 

「そんな些細なことを気にしなくていいよ。本来ならば、あの部屋の状況を把握した時点で自主的に掃除をするものだからね」

 

 

フィンさんの言葉に期間限定の俺の寝床部屋を掃除している団員たちがバツが悪そうに顔を逸らした。どうやら、本人たちも自覚はあるようだ。

 

その後、フィンさんにこれからしばらく俺が使うであろう鍛練場に案内してもらった。鍛練場の広さは感覚的に『豊饒の女主人』の中庭くらいの大きさだろうか、遠距離魔法の鍛練は想定されていないような作りをしてそうだ。

 

もしも、遠距離魔法を想定した作りならば店の中庭くらいの広さでは距離感的に足らないからだ。というのも『魔法』は使えば使うほどに強くなっていく性質があるのと【ランクアップ】をするだけで威力や射程が飛躍的に向上する。そのため、この鍛練場は近接及び中距離の鍛練場だと思われる。

 

 

「ここが、ケンマがしばらく使う鍛練場だよ」

 

「広さは大体、店の中庭と同じくらいか?」

 

 

ぐるりと鍛練場を見渡してから壁や床を数回ちょっと強めに叩いて強度を確かめる。うん、近接戦闘くらいならば強度は問題ないみたいだ。

 

鍛練場の強度を確認し終えてからフィンさんの下に戻ると、彼は懐から懐中時計を取り出しており時間の確認をしていた。

 

 

「それじゃあ、次は食堂に案内しよう。そこで今いる団員たちにケンマの事情を話して、もしもキミの鍛練に付き合ってもいいと言う者がいれば追加してもいいかな?」

 

「まさか、飯まで提供してくれるとは………」

 

「食費程度では返せない恩がキミにはあるからね、色々と」

 

「あははは………」

 

 

アニメ知識のことを言ってるな?

 

ともあれ、フィンさんのお陰で鍛練中の食住に関しては問題がなくなった。衣は事前に用意してあるので衣食住の全てが問題ない。あるとすれば、風呂だろうな。

 

『ソード・オラトリア』ではロキが女風呂の湯船から出てくるシーンがあったので、湯船があるのは明白。もしも、それを借りれるなら日本人としては肩まで湯船に浸かって疲れを湯に溶かしたい。がしかし、他派閥であり、客人の俺が図々しくそんなことは言えない立場なのでそこは諦めるしかない。

 

そんなことを一人で脳内で考えていると『黄昏の館』の食堂に着いたようで、中は某魔法魔術学校の大広間のような構造をしている。

 

 

「広いなぁ……」

 

「大手の【ファミリア】となれば、団員も優に百人を越えるからね。それからロキの主神として方針で、基本的に朝食は団員全員で摂るようにしてるんだ。だから、それに合わせて食堂も大きくしてるんだ」

 

「百人単位が一同に……まるで学校の給食みたいだな」

 

「学校………ケンマは学校に通っていたのかい?」

 

「オラリオでは珍しいかも知れないですけど、俺の故郷では六歳から十五歳までは国の方針で近くの学校に通うことを義務付けられてるんです」

 

「へぇ、そんな国があるのか………知らなかったな」

 

「そうですよね。こっちだと学校や学舎に通えるのは、基本的に貴族や何かしらの重鎮の関係者くらいだって聞いてます」

 

 

アルテミスに学校のことを話してから少しばかり調べた結果、『ダンまち』の世界には義務教育というもの事態が存在しない。

 

フィンさんに食堂の第一印象を言っていると、フィンさんはそのまま席には着かずに料理を出すカウンターへとそのまま進んで行くので俺も離れないように付いていく。

 

 

「すまない、料理長。少しだけいいかい?」

 

「団長!? は、はい!も、もしかして、今日の昼食の献立に団長が苦手な物とかありました?」

 

「いや、そうじゃないんだ。隣にいる彼を今日からしばらくウチで預かることになってね。だから、急で悪いけど料理を一人分追加してくれると助かる」

 

「【ヴィクトリア・ファミリア】所属の石黒ケンマです。名字が石黒で、名前がケンマです。よろしくお願いします」

 

 

料理長に挨拶をすると、料理長は俺が所属している【ファミリア】の名前を聞いて、俺がベルに続いて一ヶ月半での【ランクアップ】を果たしたイレギュラーな冒険者であることを思い出したようだ。

 

 

「【ヴィクトリア・ファミリア】って言えば……例の【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルと並んで、たった一ヶ月半程度で異例の【ランクアップ】を果たした話題の【ファミリア】じゃないですか!なんで、そこの冒険者がうちに?」

 

「ロキとケンマの主神である神ヴィクトリアとの間に結ばれた交渉内容の一環だよ」

 

「ふーん………非戦闘員の私としては、そういった【ファミリア】同士のやり取りはあまり興味ないですし理解できないんで、団長のご指示通りに一人前の料理の追加はしっかりとご用意させていただきます」

 

「突然で悪いね」

 

「これくらい大丈夫ですよ。冒険者としての才能がなかった私を見捨てずに非戦闘員として【ロキ・ファミリア】に置いてくれている団長には返せない恩がありますから」

 

 

そう言って、料理長は再び仕込みの作業へと戻って行った。

 

二人のやり取りを見ていて、いずれ団員が増えて必然的に団長の立場となる身として、非戦闘員にも非戦闘員なりの役割があるのだと理解出来た。

 

全ての団員が冒険者として戦えるようになるのが理想的だけど、現実はそうではない。リリやまだ出会ったことのない春姫みたくサポーターや特殊戦闘員としての役回りがあるのだから無理に戦闘員として活動させなくてもいいだろう。

 

 

「武だけではなく、文も学べる場所…………今の俺にとってここは最高の学舎だな」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

 

「んー、防具はどうしよう……」

 

 

フィンさんの計らいで昼食をレフィーヤたちと共に食堂で頂いたあと、俺は用意された鍛練場で自分の防具である《竜吉verⅡ》を手にしながら悩む。リューさんたちの早朝鍛練では防具を付けずにやることが殆どで、その甲斐もあって『耐久』の基本アビリティの伸びは『魔力』の次に高い。今回の鍛練でもそういう風に敢えて防具を付けないことで『耐久』の基本アビリティを伸ばす方が良いか大変悩んでいる。

 

また、近いうちに行われる【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』に備えて、防具を傷付けないために鍛練中は身に付けないという方向で鍛練中は防具を付けない選択もある。

 

結果、『耐久』の基本アビリティを伸ばすのと『戦争遊戯』に備えるという二つの理由から鍛練中は防具を付けない方向に舵を切ることにした。

 

 

「おーい、ケンマ~!いるー?」

 

「あれ?ティオナにアイズ?」

 

 

防具を付けるかの有無について悩みが解決すると、鍛練場の入口から自前の得物を持ったティオナとアイズがやってきた。

 

今日の鍛練は、昼食の時に顔合わせを兼ねてラウルさんとアキさん、それからレフィーヤの他に何人か二軍メンバーの人たちが来ることになっているがアイズとティオナが来るなんてことは、フィンさんからは聞かされていないのでちょっと驚いている。

 

 

「どうして、二人が?」

 

「アルゴノゥトくんが来るまで暇だから、それまでケンマの鍛練に付き合おうと思って」

 

「駄目、かな?」

 

「いや、寧ろ有り難い」

 

 

アイズとティオナにはベルのことを頼んでいるので俺の鍛練には参加できないとフィンさんが言っていたので、少しだけでも二人と手合わせ出来るのはとても有り難い経験値だ。

 

まだレフィーヤやアキさん、ラウルさんも来てないけど時間は有限なので、早速鍛練を始めるための前準備をすることにした。

 

 

「少しだけ準備するから待っててくれ」

 

「わかった。でも、準備ってなにするの?」

 

「まぁ、見てれば少しは分かるよ」

 

 

ティオナの問いに、俺はそう答えて【魔力操作】の『スキル』でクレアクレアクレアクレアクレア………馬鹿みたいのゲームに登場するヒーラーの範囲自動回復の『魔法』を行使する。

 

 

「生命の恵みを、ライフ・マテリア!」

 

「なにこれ!?」

 

「魔法陣!?」

 

 

鍛練場の床に描かれた橙色の魔法陣にティオナとアイズは驚く。更にバレないように自動回復魔法を二つほど完全無詠唱で自身に付与しておく。

 

残るは【プロモーション】で早々に『女王』へと昇格してから『魔剣創造』疑似詠唱を唱えながら某死神代行が卍解を習得した時の環境を再現する。

 

 

「───身体は剣で出来ている!」

 

「三つ目」

 

「すごい!ケンマはもう三つも魔法を持ってるんだ!!」

 

「───血潮は鉄で、心は硝子!」

 

「「!?」」

 

 

ルノアさんの時と同様に、アイズたちも俺の疑似詠唱が続いていることに驚愕している。

 

 

「───幾たびの戦場を越えて不敗!」

 

「まだ続いてる!?」

 

「───ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし!」

 

「ねぇ、アイズ。これって、もしかしてリヴェリアと同じ………」

 

「うん、詠唱連結。それも多分、長文詠唱だと思う」

 

「───担い手はここに独り、剣の丘で鉄を鍛つ!」

 

 

アイズたちが『魔剣創造』の疑似詠唱をリヴェリアさんと同じ詠唱連結と誤認してくれた所で一気に力を解放する。すると鍛練場の床や天井、壁から様々な形状をした無数の魔剣たちが生まれる。

 

しかし、生み出した魔剣たちには何の魔法効果も付与していない。何の変哲もない、ただの鉄の剣。けれど、アイズたちからしたら鍛練場一面に剣の群れが発生したことに何度目になるか分からない驚きに表情と心が塗り潰される。

 

 

「準備が出来た。早速始めようか」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideベル〉

 

 

 

 

「ベルくん、キミは出来る限り強くなるんだ。今日、ボクたちを襲ってきた子の誰よりも、何よりも強くなってくれ!キミならできる!!」

 

 

神様はそう言って僕を送り出した。

 

本当は【ソーマ・ファミリア】に捕まったリリを神様とヴェルフと共に助けに行きたい。でも、神様は自分に任せてくれと言った。ならば、眷属として主神のヘスティア様を信じない訳にはいかない。

 

それにヴェルフが言ってた。

 

 

「ケンマはもう戦争遊戯に備えてるぞ。リリスケのことは俺とヘスティア様に任せろ」

 

 

あんなに強かったあの『アンタレス』を一人で倒すようなケンマが備えてるとならば、僕も今まで以上に強くならないといけない。でないと、ケンマとの距離がどんどん離される一方だし、何よりあの人に────憧れであるアイズさんに全く近付けなくなってしまう。

 

置いていかれたくない、離れたくない、並び立ちたい!そんな思いを胸に抱きながら僕は【ロキ・ファミリア】の本拠地である『黄昏の館』の前へとやってきた。

 

 

「止まれ、貴様!」

 

「一体なんの用だ!?」

 

「アイズさんにっ………アイズ・ヴァレンシュタインさんに会わせてください!!」

 

 

本拠地前で警備をしている二人の団員に僕はアイズさんとの面会を頼み込む。けれど、僕たちが【アポロン・ファミリア】と『戦争遊戯』をすることは既に【ロキ・ファミリア】にも情報が回っているようで警備の二人は、決して僕にアイズさんを会わせまいと道を塞ぐ。

 

 

「ふざけるな、貴様!」

 

「もう噂は聞いているぞ!アイズさんに戦争遊戯の助太刀を頼もうだなんて恥ずかしいとは思わないのか!!」

 

「そうじゃないんです!お願いします!!」

 

 

何度も必死にアイズさんと会わせてもらうようにお願いすると、僕たちの騒ぎを聞き付けてとある女性が『黄昏の館』から出てきた。

 

その女性とは、【ロキ・ファミリア】の幹部の一人である【怒蛇】の二つ名を持つティオネ・ヒリュテさんだった。

 

 

「なんの騒ぎ?」

 

「ティオネさん!?」

 

 

ティオネさんが僕たちの前に現れると警備の一人が、彼女に僕が【ロキ・ファミリア】の前にやって来た経緯を勘違いして話すと表情が一変する。

 

すると、ティオネさんは怒りの表情で僕の襟首を締め上げて、軽々と持ち上げる。そして、そのまま彼女から無慈悲に告げられる。

 

 

「ここから消えなさい。そんなふざけた真似、許す訳ないでしょう」

 

「まっ、待ってください、ティオネさん!?お願いします、僕の話をっ……!」

 

 

何とかティオネさんに話を聞いてもらおうと必死に説得するが、圧倒的な力に僕はどんどん門から離されてしまう。

 

そんな時だった。ティオネさんから小さな声ではあるけど、僕だけに伝わるようにあることを聞かせてくれた。

 

 

「───ここから右に行った、二つ先の路地裏に向かいなさい

 

「えっ………うわっ!?」

 

 

急に拘束から解放され、放り投げられて尻餅を着くがそれよりも先にティオネさんの言葉に意識が向いてしまっている。そこでようやく彼女が言っていた意味を理解して、敢えて悪者役を演じながら伝言を伝えてくれたティオネさんに感謝の意味を込めたお辞儀をしてから急いで二つ先の路地裏へと走り出す。

 

二つ先の路地裏へと繋がる角を曲がるとそこには、【アポロン・ファミリア】に勝つために特訓を付けてもらおうとしていたアイズさんとティオネさんの双子の妹であるティオナさんが待っていた。

 

 

「やっほー、アルゴノゥトくん!」

 

「アイズさん、ティオナさん!?」

 

「それにしても凄いね!ケンマの言う通り、夕方の路地裏にアルゴノゥトくんが来た!」

 

「うん。本当、予言者みたい」

 

「えっ、ケンマが?」

 

 

どうやらティオナさんが言うには、僕が【アポロン・ファミリア】に追われている間に、ケンマはこの路地裏に僕が【ロキ・ファミリア】を訪れてアイズさんに特訓を付けてもらうとしているのを先読みしたようでフィンさんを筆頭にティオネさん、ティオナさん、アイズさんに色々と手を回してくれていたようだ。

 

それを聞いた僕は、アイズさんと同じくらい隣に並び立って居たくて、置いて行かれたくないケンマが改めてどれだけ凄いのかを再確認できた。

 

 

「それとケンマからベルに伝言」

 

「ケンマから僕に伝言?」

 

「『俺は先に行く。ついて来れるか?』だって」

 

「ッッ!!」

 

 

アイズさんから伝えられたケンマの伝言を聞いた僕は、胸奥の何かが熱くなるのを感じた。それに伴って、隣に並び立ちたい、置いて行かれたくないという感情が「負けたくない!!」というものに変わった。

 

負けない!絶対にキミを追い越してやるぞ、ケンマ!!

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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