臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百十八話

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

「………」

 

 

勢いを乗せた上段から振り下ろしをラウルさんは手に装備しているラウンドシールドを構えて、僅かに後方へと退く。すると、俺が握っている魔剣がそれに合わせてラウンドシールドの表面を撫でるように床へと振り落ちていく。

 

ならばと思い、俺はそのまま魔剣を床に突き刺す勢いで更に力を込めながら上と跳ぶように蹴る力を高めて、某指輪の魔法使いのようなアクロバットな動きで前宙しながら、そのまま無理矢理に踵落としをラウルさんに放つ。

 

 

「うッらぁあ!!」

 

「本当に無茶苦茶な動きっすね、ケンマくんは!」

 

 

踵落としすらラウンドシールドで受け止めるラウルさんは、呑気そうに言って来るがこれでも俺は奇策で攻めたのに冷静に受け止められていることに心内で舌打ちする。

 

でも、ずっとそのままで居られずにラウルさんがラウンドシールドを斜めに傾けながら、横へ移動することで踵落としの軌道がそのまま下へと向かう。更に重力による自由落下も合わさって今からは軌道を変えることが出来ない。

 

そして完全に隙が出来てしまった俺へ、ラウルさんは傾けていたラウンドシールドでシールドバッシュを繰り出してくる。

 

 

「がッ!?」

 

「大き過ぎる動きは逆に大きな隙にもなるっすよ」

 

 

シールドバッシュで軽く吹き飛ばされた俺は、床を二回ほどバウンドするがリューさんたちとの鍛練で習得した吹き飛ばされた際の勢いを利用して体勢を持ち直す技で、三回目のバウンドが来る前に空中で体勢を持ち直しながら視線はラウルさんから離さないように心掛ける。

 

 

「ペッ!」

 

 

借りている身で悪いけど、今ので口の中が僅かに切れて、鉄の味が口の中に広がったのでアニメみたく血を吐き出す。この動作に何の意味があるのか、あまり理解していないが自分なりには血の味で集中力を落とさないようにしているのではないかと思う。

 

また切れた口の中は【ライフ・マテリア】、【リベホイム】、【リジェネガ】、『超回復』の発展アビリティという四種の自動回復によって早々に治る。お陰で痛みによって集中力が下がることもない。

 

 

「受け身もバッチリっすね」

 

「そりゃあ、週五日で毎朝第二級冒険者以上の実力を持つ師匠たちにボコボコにされてますから」

 

「それはそれは………ケンマくんも苦労してるんっすね」

 

 

ラウルと軽く世間話をしたあと【瞬歩】を使って撹乱しながら攻める。

 

 

「またそれっすか!自分、その攻められ方得意じゃないんっすよね!!」

 

「そう言いながらもしっかり対応してるじゃないですか!?」

 

 

撹乱されながら攻められることをラウルは苦手だと言うが、実際は右手の片手剣と左のラウンドシールドで俺の攻撃を冷静に捌いている。鍛練開始から二日目にして、この対応の速さに冒険者として修羅場や場数の経験が違うのだとありありと理解させられる。

 

 

「通用しないならトライ&エラーしかないよな」

 

 

そう口にしてから戦い方を変えることにした。『アンタレス』の冒険者依頼からずっと戦い方を某指輪の魔法使いよりの戦い方にシフトしていこうと思っていたのだ。なので、『魔剣創造』で握っている魔剣を某指輪の魔法使いが使っている剣へを上書きする。

 

更に全身に【魔力操作】を行使しながら某指輪の魔法使いの動きを強くイメージする。特撮好きな俺ならできると自信を持ちながらイメージが固まったところで軽く魔剣をくるくると振るってみせる。

 

 

「剣が変わったっす!? それも無詠唱!?」

 

「変わったのは剣だけじゃないかもしれませんよ?さあ、ショータイムだ!」

 

 

決め台詞を吐いたあと、再びラウルさんに向かって駆け出して、普通には魔剣を振るわずに身体を大きく使いながら切りかかる。その動きでラウルさんも変わったのは魔剣だけではなく、俺の戦い方が変わったのだと理解したようで気を引き締め直していた。

 

魔剣で斬ると見せ掛けてからの蹴り、蹴りと見せ掛けてからの斬撃、普通ならこんな戦い方をされれば翻弄されてくれるのだがラウルさんもリューさんたちと同じく第二級冒険者。第三級冒険者の俺の動きなんてスローモーションに見えるだろう。

 

でも、諦めない。俺の中であの時に目覚めた『希望の赤龍帝』の戦い方は某指輪の魔法使いをベースにすると決めている。故に今は少しでも身体にその戦い方を覚え込ませ、慣れさせる。

 

 

「そこッ!」

 

「チッ!!」

 

 

まだまだ某指輪の魔法使いの戦い方に身体が慣れていない所為もあって、何度もラウルさんからの鋭い一撃を貰って脇腹や肩、腕、足などに切り傷ができるけど何れも掠り傷程度、上手く手加減がされているのか身体の動きが完全に止まるような深い攻撃は受けてない。

 

けれど、今までに切り傷による痛みに全く慣れと耐性が付いていないこともあって、何度も所々で僅かに身体の動きが鈍くなってしまう。それに鍔迫り合いになるとLV. と『力』の基本アビリティに差があるため、あっという間に押し込まれそうになる。

 

戦い方を変えてからしばらく、何度も頑張ってラウルさんに攻め込んでいるとそれは唐突に訪れた。

 

 

「はああああ!!」

 

「おおおおお!!」

 

「「ッッ!!」」

 

 

俺の魔剣とラウルさんの剣が衝突した瞬間、魔剣の方が半ばからポッキリと折れしまったのだ。それを認識した刹那、即座にその場から後退して新しい魔剣を抜きに行こうとするもラウルさんが逃がしてくれない。

 

 

「逃がさないっすよ!」

 

「くそッ!」

 

 

というのが俺の作戦だ。ラウルさんはそのことを知らずにまんまと嵌まってくれた。それに俺が新しい魔剣を抜きに行こうとしたのを今も妨害している。つまり、ラウルさんは何で俺が折れた魔剣を捨てないのかに疑問を抱いていない。

 

何度か魔剣を抜きに行くのを妨害されてから隙を狙って、ラウルさんに折れた魔剣を振り抜く。それを見て、ラウルさんは困惑気味にこう言ってきた。

 

 

「そんな折れた剣で何が───」

 

「いや、できますよ。既にこの鍛練場は俺の領域ですから!それに良く見ないと怪我しますよッ!!」

 

 

折れていたはずの魔剣がいつの間にか直っていることにラウルさんは困惑の顔色を更に濃くする。その顔を見て、一撃行ける!そう思った矢先だった。

 

 

 

─────人を傷付けるのか?─────

 

 

 

──それ木刀じゃなくて、真剣だろう?──

 

 

 

────人を殺せる、刃物だぞ?────

 

 

 

─────人殺しになるのか?─────

 

 

 

───それは犯罪じゃないのか?───

 

 

 

その言葉たちが頭を占めた。未だに抜け出せない前世からの価値観に囚われて、絶好のチャンスを不意にして、意味もなくラウルさんから慌てて大きく後退する。

 

だけど、それだけでは収まらず手に握っている魔剣が今までにないほどに重く感じられ、カタカタと音を鳴らしながら手を振るわせて、呼吸も過呼吸気味にもなっていた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideレフィーヤ〉

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

「へ?」

 

「ケンマ?」

 

 

団長とリヴェリア様の指示で【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』に備えて、私たち【ロキ・ファミリア】と鍛練をするケンマの手伝いをするよう言われた私は、ラウルさん、アキさん、ティオネさんと共に交代で手伝いをしています。

 

今日の午前はラウルさんと私で見ているのですが、鍛練の最中、ケンマの奇策で折れていたはずの剣がいつの間に修復していて、そのままラウルさんに一撃入るかもと思った矢先、突然ケンマは慌てて大きく後ろへと退きました。

 

その行動に何か意味があるのかと考えていると、ケンマの呼吸や顔色がおかしいことに気付きました。更に何かに怯えているように身体もガタガタと振るわせています。明らかにケンマの様子がおかしい。今のまま鍛練を続けても意味がないと私は勝手ながら判断して、今もケンマの様子に困惑しているラウルさんに声をかけることにしました。

 

 

「ラウルさん、ケンマ!少し休憩にしませんか?」

 

「そ、そうっすね。なんか、ケンマくんの顔色も悪いみたいっすから」

 

 

私の提案にラウルさんが了承してくれたので、干したてフワフワのタオルと冷えた水が入った水筒を持って、二人に渡しに行きます。

 

 

「はい、ラウルさん。タオルとお水です」

 

「ありがとうっす、レフィーヤ」

 

 

ラウルさんから感謝の言葉を受け取ってから次はケンマの分を渡しに行きます。

 

 

「ケンマ、タオルとお水です」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「ケンマ?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「ケンマ!!」

 

「ッッ!れ、レフィー……ヤ?」

 

「はい、コレ!ケンマの分の汗拭きタオルとお水です!」

 

「ああ、ありがとう。ちょっと、待ってな」

 

 

一回目の呼び掛けで反応がなかったケンマは、二回目の呼び掛けでようやく私のことを認識してくれました。その後、タオルと水筒を受け取るために握っていた剣を鞘に収めようとしますが、身体がガタガタと震えている所為か上手く剣が鞘に収まらない。

 

それはまるで、初めて剣を握って鞘に収めようとする素人のような動きです。その動作で間違いなくケンマが不調であることがわかった。

 

 

「あれ?あれ?あれ?」

 

「大丈夫ですか、ケンマ? ラウルさんの言う通り、顔色が悪いですよ?」

 

「いや、大丈夫。うん、大丈夫。心配はいらない。タオルと水、ありがとうなレフィーヤ」

 

「はい」

 

 

タオルとお水を受け取ると、ケンマはそのまま壁際まで移動して背中を壁に預けるとお水を呷るように勢いよく飲んで、その後は軽く汗をタオルで拭くとそのままタオルを首にかけて、俯いてしまう。

 

ケンマと知り合ってからまだ二ヶ月。正直、そこまで関わりが深い訳ではありませんが、今のケンマは今までのケンマとは別人のように弱っているように見えます。

 

 

「大丈夫かな、ケンマ………」

 

「やっぱり、レフィーヤから見てもケンマくんがおかしくなったように見えるっすか?」

 

 

私の呟きを聞いていたのか、ラウルさんもケンマが突然おかしくなったと思っていたようでそう尋ねてくる。

 

 

「はい。ケンマと知り合って、全然長くないですけど今のケンマはまるで別人です。今までのケンマは、自信が全く持てなかった私に発破をかけたり、憎きあのベル・クラネルと一緒に未知のモンスターと対峙した時もあんな風にはなりませんでした」

 

「そうなんっすねぇ。いやー、もしかしたら自分が何かやらかした所為でケンマくんの体調が悪くなったんじゃないかと内心ヒヤヒヤしてたもんで………」

 

 

でも、何が原因でケンマは突然あんなに弱ってしまったんだろう。休憩が終わり、鍛練が再開されるとケンマは持っていた剣を『魔法』で真剣を木刀へと変化させました。さっきまで普通の真剣を使えていたのに突然木刀に変えたことに私もラウルさんもその意図を理解できない。

 

けれど、木刀に変えたことでケンマの顔色は休憩前よりかは改善されているように見受けられました。でも、私の中ではそれも払拭できない何かをケンマは必死に隠そうとしているようにしか見えない。

 

ケンマが弱ってしまった原因についてあれこれ考えてみるも、午前の鍛練が過ぎても昼食の時間が過ぎても答えには行き着かずにリヴェリア様のダンジョン講義の最中もずっとケンマのことを考えていると、流石に目の前のことに集中出来ていないことがバレてしまった。

 

 

「レフィーヤ、何か悩み事か?」

 

「へ?」

 

「講義の最中でありながら明らかに心ここにあらずといった感じだぞ?」

 

「も、申し訳ありません、リヴェリア様!?」

 

「構わん。それで悩み事はなんだ?」

 

「実は………」

 

 

せっかくリヴェリア様が講義の手を止めて、私の悩みことについてお聞きになって下さったので、午前中のケンマのことを打ち明けました。

 

 

「ふむ、もしかしたら何かしらのトラウマを再発させるようなことがあったのだろう?」

 

「トラウマ……ですか?」

 

「ああ。明らかにレフィーヤから聞いたケンマは、いつぞやのアイズのような言動に似ていてる気がしてな」

 

「アイズさんのトラウマ………」

 

 

そういえばアイズさん、メレンのロログ湖で海で一緒に泳ごうと誘った時にロキからリヴェリア様の特訓でカナヅチになったと聞いたことがあるけど詳しいことは知らない。

 

 

「ち、因みにアイズさんに泳ぎを教えるためにどんな特訓をなされたのですか?」

 

「なに、幼い頃のアイズに泳ぎを教えようとしたら頑なに泳ぎたくないと駄々を捏ね、その上私のことを『おばさん』等と罵ったのでな。年上への敬いと無理矢理にでも泳ぎを覚えさせようと両足にアダマンタイトを括り着けて、水の中に放り投げてやったのだ。そうしたら、今も尚アイズはカナヅチのままでな」

 

「………………」

 

 

いやいやいや!流石にそれはアイズさんじゃなくてもトラウマになりますってリヴェリア様!!決して口にはしないけど、心内ではそう叫ばずにはいられなかった。

 

でも、あのケンマにもトラウマがあったなんて。でもでも、何がケンマのトラウマを再発させたんだろう?それが分かれば、私もケンマの役に立てるのに………分からない。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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