臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideヴィクトリア〉
「ヘスティアは何をやっている!?今日も欠席ではあるまいな………!」
怒りを含ませながらそう言うのは、わたしたちに『戦争遊戯』を仕掛けた男神であるアポロンだ。そして、今アポロンが言った通り、『戦争遊戯』の開催が受託されたためルールを決めるべく、こうしてオラリオにいる神々はバベル三十階に設けられた純白の空間で『神会』を開いている。
なのだが、肝心のヘスティアが病欠ということで三日も姿を現していないのだ。ヘスティアと共に『戦争遊戯』を仕掛けられたわたしだって、バイト先の店長であるミアにお願いして『神会』に参加しているというに彼女は何をやっているのかしら?
まぁ、ケンマからこうなるだろうというのは予め聞いていたので、アポロンみたく怒りを表に出すことはないのだけれど。
「病欠だ。仕方なかろう」
「アポロンの眷属たちに追い回された所為で、酷い熱が出たらしい」
「どうせ、仮病やろう。あのドチビ、夜逃げの準備でもしてるんちゃうか?」
「ロキ、あのヘスティアがそんな不誠実なことをするとでも思うのか?本気で思っているなら、今ここでその頭を射貫いてやろうか?」
「ヘスティアが来ないならわたしは帰っていいかしら、アポロン。貴方たち暇な神々と違って、わたしはバイトがあるのだけれど」
上からミアハ、タケミカヅチ、ロキ、アルテミス、わたしの順で言いたいことを言う。すると、アポロンはわたしの発言だけに返答してくる。
「そんなこと許すわけないだろう!ええい、この際だ。ヘスティアの代わりにヴィクトリア、キミが代理でヘスティアの分もひっくるめて、戦争遊戯の内容とルールを決めようじゃないか!」
「それはつまり、ヘスティアに来られると分が悪い。もしくは、これ以上ヘスティアが病欠されると貴方にとって悪い状況になるという解釈でいいのかしら、アポロン?」
「そんな訳ないだろう!?」
「なら、ヘスティアがやってくるのを待つしかないわね。わたしもヘスティアがこれ以上病欠するのは、本当に困るのだけれど」
ケンマが『神の宴』のあった夜に、ミアに『戦争遊戯』に勝利したら『豊饒の女主人』で祝勝会をあげると言っていなければ、後にえらい仕事量を押し付けられそうで怖かったわ。
あの夜のケンマのファインプレーに一人、心内で褒めていると大広間の入り口の扉が開かれる音がして、そちらに視線を向ければ病欠かと思われていたヘスティアの姿があった。
「やぁ、待たせたね」
何を呑気なことを…………なんにせよ、これで『戦争遊戯』の内容とルール決めの役者は揃った訳だ。
そういう訳でわたしとヘスティアは円卓を間に挟んで向かい側に座るアポロンと対面する形で『戦争遊戯』の内容、ルール、報酬について話を詰めていく。
「この戦争遊戯で我々が勝ったらヘスティアからはベル・クラネルを、ヴィクトリアから噂の赤い鎧を身に纏う冒険者をもらう。そこだけは、はっきりとさせておく」
「わたしから一ついいかしら?」
「なんだい、ヴィクトリア?」
「先日、アポロンが開いた『神の宴』の時にも思ったことなのだけれど、あなたの言う『噂の赤い鎧を身に纏う冒険者』とはウチのケンマのことでいいのかしら?」
「ほう。それが噂の冒険者の名前か」
「確かにウチのケンマは赤いライトアーマーを持っているけれど、鎧というよりも軽装の類いじゃないかしら?どう思う、ヘファイストス」
防具関連に関して、というよりもケンマのライトアーマーの製作者の主神であるヘファイストスにライトアーマーは鎧なのか、それとも軽装なのかと訪ねて見る。
「ヴィクトリアの所のケンマといえば、ウチのヴェルフと専属契約をしている子よね。それにライトアーマーとなれば、鎧は鎧でも軽鎧の類いで間違いないわ」
「ありがとう、ヘファイストス。それにしてもおかしいわね、アポロン。あなた、何故ケンマを名前ではなく噂の赤い鎧を纏った冒険者、なんて抽象的な言い方をしたのかしら?もしかして、わたしにケンマ以外に眷属がいるとでも思った?」
「そ、それは………」
「それからケンマの名前は、あの子がLV.2に【ランクアップ】した時にギルドが公表しているのだから知らないはずはないわ。なら、どうしてイシグロ・ケンマの名前を知らなかったのかしら?」
「い、今はそんなことはどうでもいいだろう!それよりも早く戦争遊戯の内容とルールを決めるぞ!!」
色々とつついてやれば分が悪くなったアポロンは、苦しまぎれに話を『戦争遊戯』へとずらそうとする。まぁ、彼もとある男神の策略に乗せられているからこれ以上はつつかないことにしましょう。
そう思いながらケンマから教えてもらった策略の犯人であるヘルメスに向かって、目が笑っていない黒い笑みを向ける。そうすれば、ヘルメスはブルりと身体を震わせたあと、苦笑いをしながら顔を逸らした。
「アポロンが戦争遊戯に勝った時の要求は、ボクのベルくんとヴィクトリアの所のケンマくんで間違いないね?」
「ああ!」
「なら、ボクらが勝った場合は?」
「要求はなんでも呑もう。書記、しっかり書いといてくれよ」
アポロンの指示通り、今回書記係をしている男神が羽付きのペンを走らせる。
「で、勝負の形式はなんにするや?下手打つと盛り上がらんでぇー」
「どうする、ヴィクトリア?」
「あなたに任せるわ、ヘスティア」
ケンマからどう足掻いてもアポロンは、わたしたちに都合が良い勝負形式にはしないだろうと言っていた。だから、ここはヘスティアに任せる。
わたしの意見を聞いたヘスティアは、一度頷いてからアポロンにヘスティアはベルとケンマが一番勝てそうな勝負形式を述べた。
「ボクらはベルくんとケンマくんしかいない。だから、二対二のタッグマッチをケリをつけようじゃないか。闘技場を使って観衆の下、決闘を行うんだ。これが一番盛り上がるだろう?」
「フン!団員が足りないのはキミたちの怠慢だろう。それを理由にされては困るなぁ」
団員の不足、それは確かにわたしたちの怠慢かもしれない。けれど、ヘスティアと違ってわたしの場合は増やしたくても増やせない理由がある。ケンマの【ステイタス】に反映されない三種の『神器』の情報がどこで拡散するか分からないからだ。
故に、ケンマとは団員を増員する場合はしっかりと厳選して、色々と素性の調査を丁寧に念入りに調べてから増員すると決めている。それを打ち明けられない以上は、今のアポロンの発言に反論する手立てがない。
「そうだ!もっと幅広く、みんなの意見を募ろう。提案の中からくじ引きで決めるのはどうだい?」
わたしたちが反論出来ないでいると、準備のいい神がアポロンの提案を聞いて、箱を円卓の上に置いた。全く、何でそんなものを持っているのよ。まぁ、なんにせよ、箱が用意されてしまった以上はこの場にいる神々で一柱一枚の羊皮紙に『戦争遊戯』の勝負形式を記入して、中身が見えないようにして箱の中へと入れていく。
わたしは『勝利を司る女神』として、もちろん完全勝利しか認めないから勿論『全面対決』と記入して、箱の中に入れておいた。
そして残るは神々の中から誰がくじを引くのかが問題となった。それによってヘスティアとアポロンはお互いに手の掛かった者や協力関係にある者は除外することになり、最終的にはヘルメスがくじを引く事となった。
わたし的には、ヘルメスは今回の『戦争遊戯』ではアポロン派な気がしてならないのだけれどこの際、誰が引こうが結果は同じだろうとヘスティア、アポロン、ヘルメスの行く末を見守ることにした。
「………こんな大事なくじ、オレが引くのかい?」
「キミなら中立だ。信頼に足る」
「頼んだぞ、ヘルメス!」
「参ったな………」
意を決したヘルメスは、おもむろにくじが入った箱へと手を入れ、一枚のくじを取り出した。その中身を確認した途端、引いてはいけない物を引いてしまったかのように声を漏らした。
「ゴメン、『攻城戦』だって………」
「はぁああ!?」
数がモノをいう勝負形式に、ヘスティアは思わず拳を円卓に振り下ろしながら絶叫した。
「ははははっ、これはいい!公正な抽選だ。異論は認めないぞ、ヘスティア、ヴィクトリア!」
「くっ!?」
「数ある中からそれを引くとは………」
「よりにもよって、一番人数がモノをいう対戦形式だぞ」
流石のヘルメスもこの対戦形式は誤算だとばかりに顔を引き攣らせている。その表情からヘルメスはただ単にケンマたちへ『神の試練』を与えるのではなく、アポロンを使って何か別のことをやろうとしているように感じた。
ヘルメスの意図を考えていると、アポロンは『攻城戦』と決まってから上機嫌になっているためかこんなことを宣った。
「たった二人で城を防衛するのは無理だろう。攻めはヘスティアたちに譲るとしよう」
「ぐぬぬ……!」
「そう。なら、有り難く攻めの権利を受け取るわ」
アポロンを含めて、この場にいる神々は知らないわよね。わたしのケンマなら攻めだろうが、防衛だろうが間違いなく勝利する。何せ、あの子には滅茶苦茶ずるいけどブーステッド・ギアが使えなくとも『魔剣創造』と『聖剣創造』があるからその気になれば無双出来てしまうのだから。
悔しがっているヘスティアを他所に、一人でケンマたちの勝利を確信していると抽選で『攻城戦』を引いた張本人であるヘルメスがおずおずと挙手をする。
「すまない、ちょっといいかなぁ? くじを引いたから言う訳じゃないんだけと、これはあまりにも差がありすぎる。ヘスティアたち側に、助っ人を認めたらどうだろう?」
ヘルメスがそう提案するが、勝ちを逃したくないアポロンはそれを即座に拒否する。しかし、そこへずっと黙っていたフレイヤがヘルメスの援護をした。
「駄目だ!戦争遊戯は【ファミリア】同士の戦い。助っ人など認めれば、神聖なルールが………」
「怖いの、アポロン?」
「………」
「助っ人くらいで随分自信がなくなるのね。あなたの子供たちへの愛は、その程度なのかしら?」
まさかのフレイヤから鶴の一声で、他の神々も乗ってかかる。
「おー!そうだそうだ!」
「フレイヤ様の言う通り!」
「「「「助っ人!助っ人!助っ人!」」」」
一瞬にして場の空気をフレイヤに持っていかれたアポロンは、渋々ではあるがわたしたちに助っ人を呼ぶ権利を認めた。認めたがアポロンはそれに付け加える形で助っ人の条件を言ってきた。
「わ、分かった。助っ人は認めよう。ただし、人数は一人。そして、オラリオ以外の【ファミリア】に限ること。これでどうだ!」
あまりにもセコい条件に周りの神々からも「セコい……」と口々に言われてしまう。
けれど、わたしはその内容に思わずニヤリと笑みを作ってしまう。なぜなら、アポロンは助っ人に『オラリオ以外の【ファミリア】』と条件を付けたがLV. に関しては全く条件も制限も付けなかった。
それはつまり、あの子を助っ人として誘える事と同義だ。それにあの子も自分の弟子の晴れ舞台を間近で見れるならば、喜んで助っ人として参加してくれるはず。
「選択を誤ったわね、アポロン」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に