臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「シルさん見つからないねぇ、ケンマ」
「そうだな。財布を置いて祭りに行くとかどんだけ楽しみだったんだよ。近頃の小学生でも財布は忘れないぞ」
「しょうがくせい?」
「いや、何でもない」
ミアさんたち『豊饒の女主人』にいる四人の第二級冒険者と一人の第一級冒険者たちを週五日一人ずつ早朝鍛練の相手をさせてもらえる代わりに、毎日【武具破壊】の魔法で野菜の皮剥きをすることで約束してもらったあと、時間通りにベルが『豊饒の女主人』にやってくると、そこでアーニャさんが『怪物祭』を見に行ったが財布を忘れたシルに、財布を渡すように頼まれた。
俺たちは、せっかくなので祭りを見物しながらシルを探すことになったのである。けれど、祭り事で人の波となっとなっているのもあって、思うように動けないでいると誰かベルを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ベルくん!」
「え? 神様!? どうしてここに!?」
「ベルの神様ってことは、【ヘスティア・ファミリ】の主神である神ヘスティアか」
「おや、キミは?」
「初めまして、神ヘスティア。ベルとパーティーを組んでいる【ヴィクトリア・ファミリア】所属の石黒ケンマです。名前がケンマで、名字が石黒です」
「おお!キミがヴィクトリアの子供か、ベルくんからもキミの話を聞いてるよ」
神ヘスティアは、俺がヴィクトリアの眷属であることが分かると分かりやすく笑顔を振り撒く。それから初めて、ここまでのリアルロリ巨乳は見たことがない。一つの動作でたわわな二つのメロンがゆさゆさと揺れ動く。眼福である。
「それでベルくんたちは何をしてるだい?」
「えっと、知り合いの方に忘れ物の財布を届けるようにお使いを頼まれて」
「ベルも俺も『怪物祭』は初めてなので、せっかくなのでお使いをするついで見物していたわけです。お使いが終われば、そのままダンジョンへ行くつもりです」
「なるほど、ならベルくん! デートしようぜ!」
ヘスティアは微笑みながらベルにそう言う。そして、ヘスティアは俺だけに分かるように合図を出していた。その合図の意図に、数々のアニメやゲーム、ラノベを呼んできた俺には容易に理解できた。
「で、デート!?」
「いいんじゃないか、ベル。神ヘスティアとデートしても」
「ケンマまで!?」
「神ヘスティアとデートしながらシルを探す。一石二鳥じゃんか」
「そうだぞ、ベルくん!」
二対一で、なき崩し的にベルはヘスティアとデートをすることを承諾。デートということで、【ヘスティア・ファミリア】の冒険者でもない俺は別行動を取ることにした。
「それじゃあ、ベルは神ヘスティアと。俺は一人でシルを探すからお互い見つけたら円形闘技場で合流しよう。んじゃあ、女神とのデートを楽しめよ色男」
「ちょっ、ケンマァァァ…………!?」
ベルの嘆きが聞こえたが右から左へと流して、人混みに紛れるように二人から離れ、宛もなくブラブラと流れに任せて歩いていると屋台に並んでいる料理は、日本の祭りと何ら変わり映えはしないのだと分かり安心した。
唐揚げ、お好み焼き、焼きそば、イカ飯、クレープと親しみのある料理を見ているとオラリオ名物のジャガ丸くんが目に入り、この世界に転生してから約一週間、オラリオの名物のジャガ丸くんを一度も食べたことがなかったなと衝動的に購入することにした。
しかし、そこで俺は失念していた。ジャガ丸くんといえば、この人という人物を…………。
「あっ、キミはこの間の…………」
「【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン…………それに神ロキ」
「久しぶりやな、少年」
アイズとロキの二人がいうことは、何処かの店でフレイヤと密会した後ということになる。となると近いうちにフレイヤが騒動を起こすのは明白。
「ねぇ、あの子は無事?」
「ああ。今はツインテールのロリ巨乳な主神とデート中だ」
アイズが言っているあの子とは、間違いなくベルのことだ。あの日の夜、俺が止めたからベルの安否が気になったのだろう。
「そう。なら良かった」
「ちょいまち!ツインテールでロリ巨乳の女神やと!? ま、まさか………あのドチビやないやろな?!」
「ドチビ? もしかして、神ヘスティアのことを言ってるのか? 確かに、神ヘスティアは低身長だからチビだな」
「間違いないドチビや!まさか、お前もあのドチビんとこ子か!?」
「違う違う。俺の主神は"勝利を司る"女神ヴィクトリアだ。だから【ヘスティア・ファミリア】ではなく、【ヴィクトリア・ファミリア】だ。まぁ、神ヘスティアの眷属とはパーティーを組んでるけどな」
最初は俺がヘスティアの眷属ではないかと疑い嫌嫌な顔していたロキだが、俺の主神がヴィクトリアで所属している【ファミリア】が【ヴィクトリア・ファミリア】だと分かった途端に表情が一変して柔らかくなった。
「なんや、ヴィクトリアんとこの子かいな。なら、そのうちヴィクトリアん所に謝りに行かなあかんな」
「謝罪するなら『豊饒の女主人』で大いに飲み食いして金を落としてくれ。ヴィクトリアはあそこでバイトしてるから」
「ほ~ん、そんならそうしようか。ところで、少年名前は?」
「自己紹介をしてなかったな。【ヴィクトリア・ファミリア】所属の石黒ケンマだ。ケンマが名前で、名字が石黒」
「ケンマは、名前からするに極東出身か?」
「まぁ、近しい感じかな。四季のある島国だからな」
アニメでも極東とは、四季のある島国とだけしか述べられていないので極東が日本あるいは江戸という正式名称があるか俺は知らない。
自己紹介を終えたところで、ジャガ丸くんの屋台で無難な塩味を購入したあと、アイズとロキの二人とは分かれて、ジャガ丸くんに続いて色々と食べ歩きをしながら久しぶりの祭りを堪能したところで、今祭りの名物である【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者が行うモンスターの調教も一目見ようと円形闘技場にやってきたところで空気が張り積めたような妙な感じに変わったのを肌で感じた。
それを感じた瞬間、変に冷静な状態でこれから何が起こるのか理解できた。
「始まるのか」
そう呟くと二分もしないうちに円形闘技場からモンスターたちが逃げ出してきたようで、民間人の悲鳴が辺りに響き渡る。
『やるのか、相棒』
「ああ、やるぞ」
『いいのか? 娯楽を求めている神々に見つかったら面倒になるんじゃないのか?』
「俺は冒険者だ。それに、要はバレなきゃあ良い」
『なるほど、透明の聖剣か。だが、扱えるのか?』
「さぁな。【プロモーション・クイーン】!!」
フレイヤが魅力した『シルバー・バック』が逃がしたモンスターを全力で討伐するために【プロモーション】で『女王』へも昇格して、『力』、『耐久』、『敏捷』、『器用』、『魔力』の底上げを行った。
続いて、「誰かを救うため」という自分ルールに従って目を瞑り、異空間の穴へ手を入れるイメージしながら《エクス・デュランダル》を引き抜こうとすると空間が歪み、歪んだ空間には穴を生まれて持ち手の部分が出てくるのでしっかりと持ち手を掴み、一気に引き抜く。
そして、《天閃の聖剣》と《透明の聖剣》の能力を引き出そうと試みる。
「天閃の聖剣、透明の聖剣、発動!!」
俺はまだ、ゼノヴィア・クァルタや紫藤イリナ、木場佑斗のように感覚で聖剣の力を引き出せたことがない。けれど、意識して口にしながら聖剣の力を引き出すことは出来るはずだ。
そう思ったら、それに呼応してくれたのか《エクス・デュランダル》から脈動のような感覚を感じると刀身から身体まで透明になって行くのが見て分かった。
『思っていたよりも上手く行ったようだな、相棒』
「ああ。真のエクスカリバーが俺の想いに応えてくれたみたいだ。それじゃあ、行くかドライグ」
『ああ、行こう相棒』
臆病者の俺が今は高揚感に満ちている。正確には、俺の想いに応えるくれた《天閃の聖剣》と《透明の聖剣》に能力を使って無双してみたいからだ。
そして、地を蹴りモンスターを探そうと動き出すと『騎士』に昇格した時よりも遥かに速く動けることに感動しながら疾走する。
「見つけた!」
最初に捉えたのは外見からして『オーク』か『トロール』。その周りには象を模した独特的なお面をした【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者が二人。少なからず所々から血が流れている。
そんな彼らがモンスターの注意を釘付けにしてくれているので、リューさんとの早朝鍛練やダンジョンでもやっているように何かしらの壁を踏み台にして、モンスターの頭上から《エクス・デュランダル》を振り下ろして魔石ごと両断。
「次!」
突然、目の前のモンスターが両断され、両断した主を探すも姿形がないことに困惑気味な【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者たちを他所に、【魔力操作】のスキルで死神を代行する高校生のように魔力を足裏に集めて、それを足場にして空を駆ける。
オークのようなモンスターを倒しあと、続けてコボルトを二匹、角が曲刀みたいに鋭利な鹿、深緑色をした大きなクワガタのようなモンスターを片付けて、屋根の上で一息付く。
「エクス・デュランダルがあれば格上のモンスターも倒せるか………。けれど、それは本来の力じゃないし、剣にふりまわされているのがよく分かる。擬態の聖剣、発動!!」
リューさんの鍛練では、片手剣か刀くらいしか使って来なかった為に《エクス・デュランダル》のような大剣は取り回しが難しい。近いうちに大剣や短剣などの戦い方も模索していく必要があると感じるが今は、得物を取り回しやすくするために《擬態の聖剣》の能力で大剣から刀へと姿形を変化させる。
姿形は見えないがイメージでは、魔力の足場と同様に死神を代行している某高校生が扱う武器の数ある姿の一つに擬態させている。その証拠に、俺の耳にジャラジャラと鎖が揺れる何故か心地の良い音が聞こえる。
「アニメで見たモンスターは大体倒したし他はアイズが倒すだろう。残すは、食人花だな」
食人花には打撃への耐性、魔力に反応するといった特性がある。故に、姿を不可視にする《透明の聖剣》の能力を身体に使う必要はない。というのは建前で、本音は食人花に殺られそうになるレフィーヤを助けて、好感度を上げたいだけです。
そんな訳で、今は食人花を倒すためにブーステッド・ギアを具現化させて倍加を溜めながら食人花が現れるのを待っている。
「来いッ! ブーステッド・ギア!!」
『Boost!!』
◇◆◇
〈sideアイズ〉
おかしい。さっき、円形闘技場の外周部でモンスターの位置を把握したのに明らかに数が少ない。どういうこと?
モンスターの数が減っていることに違和感を感じながらも円形闘技場で把握した場所を移動していると【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者から声がかかる。
「あっ、【剣姫】!」
「ということは、さっきモンスターを倒してくれたのは【剣姫】の新しい魔法か何かか? まぁいや、助かったよ」
「えっと…………どういうこと、ですか?」
見覚えのないことを【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者からお礼を言われて思わず、聞き返してしまった。
「なに言ってんだよ。さっき円形闘技場から逃げたソード・スタッグを倒してくれたじゃないか」
「私………やってない」
「えっ? じゃあ、誰が……?」
「もしかして、【剣姫】と同じ【ロキ・ファミリア】の【凶狼】じゃないのか? 噂では、あの【フレイヤ・ファミリア】の【女神の戦車】に次ぐ足の速さだっていうしさ」
「なるほどな。それかまさかの【女神の戦車】だったりしてな」
【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者たちの口から出た、オラリオ最速の二人の冒険者なら第二級冒険者が目視で捉えることができないくらいの速さでモンスターを倒すことは造作もないだろう。
『黄昏の館』に帰ったらベートさんに聞いてみようと心に決めたら、まだ他のモンスターが残っているはずなので【エアリアル】で滑空しながら移動する。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に