臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百二十話

 

 

 

 

 

 

〈Sideレフィーヤ〉

 

 

 

 

 

ケンマが不調になってから早くも三日が経過した。リヴェリア様のお言葉からケンマが何をトラウマの原因としているのかを解明するために彼の鍛練を観察する日々が続いている。

 

そして、午後の鍛練中にトラウマの原因が何となくだけど分かったような気がした。というよりもケンマが不調になった時から変化している物に気が付いたというべきだろう。

 

 

「くそッ!」

 

「ほらほら、そんな木剣じゃあ普通の真剣に斬られておしまいよ、ケンマ!」

 

「まだまだ!」

 

 

今もアキさんの鍛練でケンマは木剣で鍛練をしています。不調になる前は普通に真剣を使えていたのに、今は木剣を使っている。つまり、ケンマは真剣に何かしらのトラウマを持っている?

 

でも、真剣にトラウマを持っているならアキさんが振るっている真剣に何故怯えていないのか?いや、真剣にトラウマを持っているんじゃない。もっとあの時の光景を思い出して、あの時、あの瞬間、何がケンマにトラウマを再発させたのか、あの鍛練を側で見ていた私なら分かるはず。

 

そう思って必死にあの時の光景を思い出そうとしていると、鍛練場の入り口から『戦争遊戯』の内容を決める『神会』から戻って来たロキがやってきた。

 

 

「おーう、やってるかぁー!」

 

「ロキ?」

 

「ケンマ、ロキが来たから少し休憩にしましょう」

 

「わっ、わかり、ました」

 

 

ロキが現れたことでアキさんも休憩をいれることにしたみいです。

 

 

「早速やけど、戦争遊戯の勝負形式と場所、日取りが決まったで」

 

「で、勝負形式は?」

 

「攻城戦。んで、場所はオラリオから陸路で二日くらい掛かる『古城遺跡』、日取りは今日から六日後や」

 

「となると、ケンマがオラリオに居られるのもあと四日」

 

 

それまでに何とかケンマの不調を戻さないと『戦争遊戯』に負けてしまう。そう思った所で、ロキが『神会』から戻って来たのであれば、ケンマの主神であるヴィクトリア様も戻って来ているのではないかと私は考えた。

 

あの方ならば、私よりもケンマのことを良く知っている。ヴィクトリア様ならケンマの不調の原因に心当たりがきっとあるはずだ。

 

 

「ロキ、ヴィクトリア様は『神会』にお出になられていましたか?」

 

「ああ、出てたで。えらい、アポロンを煽ってたけどな」

 

「なら、ヴィクトリア様の居場所はわかりますか?」

 

「そんならケンマに………『豊饒の女主人』に居るとちゃうか?」

 

 

ロキもケンマが不調であることを一瞥しただけで理解してくれたのか、態々ケンマに聞くようなことはせず、ヴィクトリア様の居場所を教えてくれた。

 

 

「ちょっとケンマのことで気になっていることがあるので、ヴィクトリア様に会ってきます」

 

「そうか。レフィーヤがそうしたいならそうすればええ。ただし、ウチらがケンマに協力してることだけはバレたらアカン。それだけはようきーつけるんやで?」

 

「わかりました」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

 

「いらっしゃませニャ!お一人かニャ?」

 

「はい」

 

「その声、もしかして………」

 

「申し訳ありませんが、他言無用でお願いします」

 

「分かったニャ」

 

 

ロキにヴィクトリア様の居場所を教えてもらった後、私は【アポロン・ファミリア】の冒険者たちにバレないようにいつもの服装とは全く異なる、顔を深々とフード付きのローブで隠して、如何にも風来坊のような格好で『豊饒の女主人』へと訪れた。

 

そして、黒髪の猫人族に案内されて他のお客がいない隅のカウンター席に座って、給仕係をしているヴィクトリア様が近くに来た所を見計らって注文をする。

 

 

「ご注文をどうぞ」

 

「アルヴの清水と野菜スティックの盛り合わせをお願いします。それとケンマのことでお話があります。この後、お時間いただけますか?」

 

「………承りました。少々、お待ちください」

 

 

注文を受けたヴィクトリア様は、私の問いに答えることなく厨房の方へと消えていってしまった。どうして答えてくれないのだろうか?もしかして、見張りが付いている?

 

もしも、そうであれば【アポロン・ファミリア】の監視に私がヴィクトリア様に接触していることがバレてしまった可能性がある。

 

 

「やっちゃった………どうしよう!?」

 

 

自分のしでかした愚行に頭を抱えていると、以前18階層でケンマたちと共に異常発生した『黒いゴライアス』と戦った同胞であるリューさんが野菜スティックを持ってやってきた。

 

 

「どうしたのですか、頭を抱えて」

 

「あっ、リューさん」

 

「神ヴィクトリアから伝言です。紙を見て、だそうです」

 

「紙、ですか?」

 

「はい。それではごゆっくり」

 

 

リューさんからヴィクトリア様の伝言を聞いた私は、伝言の「紙を見て」という内容から野菜スティックの盛り合わせの下に敷かれている紙に目が行き、それを引っ張り出して、何かないかを確認する。

 

すると、中央に多数の小さな穴が空いていることに気付いた。それを見て、もしやという思いから天井の魔石灯に翳せば、小さな穴たちはとある意味を示す文字となっていた。

 

 

「深夜、中庭で待つ」

 

 

間違いなくこれはヴィクトリア様からメッセージだ。

 

私は、そのメッセージを信じて野菜スティックとアルヴの清水を食べ終えたあと一度ホームに戻ることにした。これ以上、長く居ては【ファミリア】に迷惑をかけしまう恐れがある。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

ヴィクトリア様からのメッセージをリューさん経由で受け取り、一度ホームに戻って団長とリヴェリア様に深夜行動の許しをいただいた私は、メッセージ通りに暗い深夜に屋根伝いで『豊饒の女主人』の中庭へと侵入させてもらった。

 

 

「来たわね、レフィーヤ」

 

「はい。夜遅くにお時間をいただいて申し訳ありません」

 

「それでケンマのことで話って何かしら?」

 

「その………ヴィクトリア様はケンマのトラウマについて何かご存知ありませんか?」

 

「ケンマのトラウマ?あの子にトラウマなんて………」

 

「それがですね─────」

 

 

ヴィクトリア様はケンマにトラウマなんてないと仰るけど、私が見ていた状況やリヴェリア様の指摘も踏まえて全てをお伝えする。

 

すると、しばらく考えられたあと何か納得がいったような悲しい表情をされる。

 

 

「なるほどね。やはり、それはトラウマではないわね」

 

「トラウマじゃない?」

 

「ええ。トラウマというよりも固定概念、または強迫観念と言った方が正しいわ。あの子はオラリオに来る前は、比較的平和な国で暮らしていたわ。モンスターもいない、盗賊もいない、例え犯罪があっても警察と呼ばれる【ガネーシャ・ファミリア】みたいな子供たちが鎮圧して、犯罪者を国が裁く。そんな国に暮らしていたの」

 

 

そんな国があるなんて知らなかった。でも、なら何でその国を出て、ケンマはこの迷宮都市で冒険者になろうとしたんだろう?

 

普通の人ならオラリオでも何かしらの夢や野望がなければ冒険者にならない。そんな平和な国なら尚更だ。だからこそ、ケンマがどうして祖国を抜け出して、迷宮都市にやって来たのかが分からない。

 

 

「それにあの子はとても臆病でとても優しい子なの。自分が誰かに傷付けられるのを恐れ、自分が誰かを傷付けるのを恐れる。だから、あの子はそのラウルって子に剣を当てることを恐れた。それが今も尚続いている」

 

 

ヴィクトリア様の言葉を聞いて私はようやくケンマが毎回自分は「臆病者」だと言っていた理由が分かった。他者から傷付けられるのを恐がり、他者を傷付けるのも恐れる。あんなに凄いのに心の中ではずっと怯えているのだ。

 

でも、このままじゃ【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』でまともに戦えない。これが本当に正しいのかは分からないけど、私はケンマに勝って欲しい。

 

その一心で、私はケンマにとって残酷なことをヴィクトリア様に尋ねた。

 

 

「どうしたら、ケンマのその固定概念や強迫観念を壊せますか?どうすれば、ケンマは恐れずに人と戦えますか?」

 

「それはとても難しい問題ね。人によっては快楽のために、人によっては理想のために、人によっては復讐のためにと、人それぞれが自分のためにまたは他者のために人を傷付けて戦う。だから、これが正しい、あれが正しいと一言には決して言えない」

 

「そんな………」

 

「それでも言えることがあるとすれば『背負うこと』かしら?」

 

「背負うこと?」

 

「人を傷付け、殺すことは無意識にしろ、意識的にしろ、自分や誰かの命や想いを背負って剣に乗せて振るう。それがある意味では生きることであり戦うことだから」

 

 

言われてみればそうだ。私は、私たちはダンジョン探索や遠征に行く時は同じ【ファミリア】の仲間たちの命や夢半ばで散っていた仲間の想いを背負って、日々を生きて『未知』を『既知』へと変えて行く。

 

でも、ケンマには同じ【ファミリア】の仲間はいない。居るのはヴィクトリア様のみ。だとすれば、どうやったらケンマに『背負う』ことを伝えれるだろう。

 

 

「ごめんなさいね、レフィーヤ。わたしが伝えられるのはこれくらいしかないわ」

 

「いえ、私が知らないケンマのことを教えていただけて嬉しかったです。あとは自分で考えたり、リヴェリア様たちに相談してみます」

 

「分かったわ。残り数日だけどケンマのことをよろしく頼むわね、レフィーヤ」

 

「はい。お任せください。それでは、失礼します」

 

「ええ」

 

 

それを最後に私は屋根伝いにホームへと戻ることにした。

 

結局、何の解決方法も見つからなかった。それでも、何でケンマがあの時、何かに怯えていたのかは理解できた。

 

翌日、私はロキの意向でケンマを加えた団員全員での朝食を食べたあと、昨晩の深夜行動を団長たちに認めてもらった代わりにヴィクトリア様の会談内容を報告するように求められていた。

 

 

「それで?何か答えは得られたのかな、レフィーヤ」

 

「それが全く……。ケンマが不調になった原因自体は判明したのですが、それを解消する答えが出ていないんです」

 

「取り敢えず、ケンマが不調になった原因とやらを聞かせてくれ、レフィーヤ」

 

「はい」

 

 

私一人では、ケンマの不調を治す術がないので経験と知識が豊富である団長たちに相談することにした。

 

 

「なるほどね。それは難しい問題だね」

 

「ケンマにも以外な弱点があった訳か」

 

「我々エルフもケンマと似たように、認めた者以外との肌の接触を拒むという固定概念がある。それを克服または改善するには容易なことではないだろう」

 

 

ケンマがずっと抱えているものを聞いた団長、ガレスさん、リヴェリア様のお三方でも今回のことは難しい問題だと口にする。

 

 

「まさか、あの言葉は謙遜じゃなかったとはね」

 

「何のことですか、団長?」

 

「いや、ケンマはLV. に見合わないような色々な冒険をしてきたのに、毎回自分のことを『臆病者』と謙遜していることがあったからね。てっきり僕は、照れ隠しか何かだと思っていたけど全く違った。彼は本当に自分自身が臆病者だと理解しての言葉だったみたいだ」

 

「他者から傷付けられることを恐れ、他者を傷付けることを恐れる。その果てが自分を犠牲にした、誰も傷付くことのない方法か……」

 

「だからこそ、奴だったのかも知れんな」

 

 

お三方が言っている意味が私には分からない。

 

ケンマは他者から傷付けられるのを恐れて、他者を傷付けるのも恐れている。その果てが自分を犠牲にした誰も傷付くことのない方法って、それじゃあ言っている事とやっていることが矛盾している。

 

きっと、先日ケンマがお三方とロキで会談した時に何か私の知らないことを話していたのだろう。だから、お三方はこんなにも悲しそうであり納得がいったような表情をしている。

 

 

「ありがとう、レフィーヤ。引き続き、ケンマのサポートに回ってくれ」

 

「分かりました」




 

本小説のタイトル回収ができました!!
 
すごい頑張りました!(・ωく)

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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