臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百二十一話

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

 

「はぁ、なんで態々俺がこんな雑魚の相手をしなきゃならねぇんだよ」

 

「まぁまぁ、ベートさん。一応、団長からの指示ですし………」

 

「ったく、フィンの野郎………」

 

「ケンマ、体調は大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ、問題ない」

 

 

鍛練開始から四日目、午前中はベートさんが相手だ。そのサポートに二軍で治癒師のリーネさんとレフィーヤが当てられている。

 

ベートさんとリーネさんの顔合わせも済んだし、時間も限られているので早々に【ライフ・マテリアル】を展開して、【リベホイム】、【リジェネガ】を付与する。更に【プロモーション】で『女王』に昇格するのも忘れない。

 

そして、いざ鍛練開始だとベートさんと対峙しながら構えると、ベートさんは眉を上げた。

 

 

「あん?何の真似だ、おい」

 

「何がですか?」

 

「てめえ、あん時の得物はどうした」

 

 

ベートさんが言っているあん時とは、多分9階層で強化種の青いミノタウロスを討伐した時のことを言っているのだろう。つまり、その得物とは《エクス・デュランダル》のことだ。

 

 

「エクス・デュランダルなら今は整備に出してます。それとあれは人に向けて振るうにはあまりにも危険過ぎるので、人には使いませんよ」

 

「人には使わねぇだ?舐めてんのか、てめえは!!」

 

「舐めてなんかありませんよ。あれは使い方を誤れば本当に危険なんです!それこそ、使い手によって一撃でオッタルも殺せる武器なんです!!」

 

「あの猪野郎を一撃、だと!?」

 

「先代の使い手は、あの剣で空間を切り裂いているんです。更にその前の先々代は、山を切り裂いたという逸話まであるんですからそれを人に向けて使ったらどうなるかなんて簡単に想像付くでしょう?」

 

「チッ!」

 

 

うっかり《エクス・デュランダル》のヤバさについて語ってしまったが、ベートさんがそれを嘘かまたは信じてくれたかは分からない。けれど、舌打ちをしながらもそれ以上は何も聞いてこなかった。

 

 

「それじゃあ、改めてよろしくお願いします!」

 

「ケッ!」

 

「行きます!」

 

 

開幕早々、【瞬歩】で肉薄して木剣で左下からの逆袈裟を繰り出そうとするが、繰り出すよりも先に重い一撃をもらったのか気付いたら床と壁の認識が九十度変わっていた。

 

 

「かはッ!?」

 

「ケンマ!?」

 

 

今、何をもらった?ベートさんは最初と同じ、ズボンのポケットに手を入れたままで身動きしていないように見える。なのに、ベートさんから直角に吹き飛ばされていた。

 

 

「ほう、今の受けてまだ意識があんのか。意外とタフだな」

 

「ケホッ!ケホッ!一体、何が………?」

 

 

痛みからして攻撃を受けた箇所は右脇腹、木剣を左下から斬り上げようとして右半身が僅かに前へ出ている所を狙われた感じだ。

 

右脇腹を抑えながら何とか立ち上がるが、どんな攻撃を受けたのが分からない。蹴りか拳か、全く判断が付かない、圧倒的な速さによる一撃。

 

 

「戦いの最中に考え事とは随分余裕だな、おい!」

 

「はや────ッ!?」

 

「てめえがノロマなだけだ」

 

「────────」

 

 

速いとは思っていた。それから鍛練なのだから何処かで手加減してくれると思っていた。いや、多分これでも手加減してくれているけど、ベートさん場合の手加減は手加減でも俺よりも強いくらいで手加減をしているのだろう。

 

その証拠に全くベートさんから視線を外していないのにも関わらず、一瞬であの人が眼前に迫っていた。そして、ベートさんの声が聞こえた次の瞬間には脇腹と背中に激痛が走っていた。

 

 

「がああああああ!!?」

 

「け、ケンマ!?ベートさん、やりすぎですよ!?」

 

 

あまり激痛で反射的に腹を両手で抱えながら悶える。

 

間違いなく、今の一撃で肋骨が何本か折れたか皹が入ったのだろう。呼吸をするだけでもめちゃめちゃ痛い。

 

 

「チッ、うるせぇなぁ。おい、回復してやれ」

 

「は、はい!」

 

 

俺たちの一分もに満たない一方的な鍛練を見ていたリーネさんは、ベートさんの指示で慌てて俺へと駆け寄り、治癒魔法を行使する。

 

 

「【────────】」

 

「くそッ………!」

 

 

リーネさんの治癒魔法で痛みが無くなり、動けるようになった所で待っているであろうベートに視線を向ければ、あの人は鍛練開始の時と全く同じ場所で同じ格好のまま欠伸をしながら俺のことを見下していた。

 

 

「もう終わりか?なら、俺は行くぞ」

 

「まだ………まだやれます!」

 

 

ここで立ち止まったら駄目だ。自分が実力不足なのは『アンタレス』との戦いで痛いほど痛感しただろう。あの時は、ドライグが言っていた通り、奇跡と偶然が何重にも重なって僅かな可能性を手繰り寄せることが出来ただけ、つまりラッキーだっただけだ。

 

もしも、誰かがまたアルテミスのように涙を流すなら止めてやりたい、救ってやりたい。それを成し遂げるには、あの時以上の実力を付けることが必須だ。

 

 

「なら、掛かって来やがれ!」

 

「うおおおおお!!」

 

 

未だに人を傷付けることに恐怖はある。それを振り払うかのように雄叫びを上げながらベートさんに木剣で斬り掛かる。

 

何度も斬り掛かって、その度に何度も蹴り飛ばされているといつの間にか思考が鈍化し始め、全身あちこち痛いけど何度も俺は立ち上がる。

 

 

「うおらッ!!」

 

「がはっ……!?」

 

「ほら、どうした!」

 

「だはっ……!?」

 

「まだこんなことを続けんのか?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、やれ……ます!」

 

「なんで、そうまでして立ち上がる。てめえは、もう満身創痍じゃねぇか。雑魚なら雑魚らしく地を這いつくばってれば良いだろうに」

 

「後悔、したくないから!自分の実力不足で、後悔したくないから!手を伸ばせば守れるのに、手を伸ばせなかったら絶対に後悔するからッ!!」

 

「………そうかよ」

 

 

俺はアルテミスを救うと決めた時に決めたんだ。 

 

俺は誰かの犠牲の果てに訪れるトゥルーエンドなんて認めない。例え、それが許されないことだとしてもみんなが笑顔で笑えるようなハッピーエンドを目指すって、決めたんだ。それが俺の目指す『赤龍帝』だから。

 

でも、ちょっとそろそろ限界かもしれない。視界が揺れて、足も震え始めてるから。

 

 

「ぁ………」

 

「ケンマ!」

 

 

ずっと保っていた意識の細い糸がプツリと切れてしまったように膝から崩れ、何も出来ずに前のめりに身体が倒れて行く。地面がスローモーションで近付く中でまたしても俺は、自分の実力の無さに悔いる。

 

また、倒れるのか?あの時、ブーステッド・ギアを無茶な使い方をした時みたく。ふざけるな、精神はまだやれるって叫んでる。あとは、前に一歩踏み出すだけだろう!!

 

立てよ、立ってくれ!あと、一歩だけで良い!!

 

 

「ぐっ……ぎッ……がっァァアアアアア!!」

 

「!!」

 

「嘘……!?」

 

「ははは……これでようやく……一撃……だ……」

 

 

肉体的にも精神的にも最後の一滴になるくらい絞りだした最後の一歩、悪足掻きのような一歩で俺は折れた木剣をベートさんの身体に押し当てた。

 

何のダメージにもなってないけど、最後まで足掻き続けた渾身の一撃。それは今回の鍛練で最も価値のあるモノだと俺は思う。

 

あとは、もう疲れた。寝る。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideレフィーヤ〉

 

 

 

 

「ケンマ!ケンマ、しっかり!」

 

「………」

 

 

ベートさんとの鍛練で何十、何百と蹴り飛ばされてもその度に立ち上がって倒れることを拒むケンマだったけど、最後の最後で魂の奥から出されたような雄叫びと共に一歩前に踏み出して折れた木剣をベートさんに押し当てた所で、ついに限界が訪れた。

 

慌てて、ケンマの容態を確かめるとグッショリと汗をかいてるけど、やり切ったような顔で規則正しい寝息を立てている。

 

 

「クソエルフ、イシグロのガキを寝床に運んでやれ。そんなんじゃ、もう戦えねぇだろう」

 

「はい……って、ベートさん!今、ケンマのことを!?」

 

「ケッ、最後の最後に漢の意地を見せやがったんだ。それくらいは認めてやる」

 

 

それで話は終わりだと言わんばかりにベートさんは鍛練場から去っていった。それを慌ててリーネさんが追っていく。

 

二人の姿が完全に鍛練場から消えていくのを見送ったあと、私はケンマの頭を膝に乗せて、未だに汗で濡れている額をタオルで拭いてあげる。

 

 

「凄いなぁ、ケンマは……。あのベートさんに認められるなんて……」

 

「すぅ……すぅ……すぅ……」

 

「お疲れ様、ケンマ」

 

 

本当に凄い。だって、ベートさんが誰かの名前を呼ぶなんて滅多にないことだもの。ケンマの頑張りに私も頑張らないと思っていると鍛練場の入り口から同室であるヒューマンの女の子のエルフィがお昼の時間だと言いに来た。

 

 

「レフィーヤ、ケンマ!お昼ごはん、一緒に食べよ……うよ……」

 

「あっ、エルフィ」

 

「れ、レフィーヤが恋してる女の子の顔をしてる!?」

 

「ちょっ!?」

 

「これは大事件だ!みんなに知らせないと!!」

 

「ちょっと、エルフィ!待って、お願い待って、待ちなさぁぁああい!!」

 

 

好奇心の塊であるエルフィを静止させようとする私の叫びは虚しく、エルフィは勢いよく鍛練場の外へと走り去ってしまった。

 

このあとエルフィによってもたらされる羞恥に頭を悩ませながら、私は思わず八つ当たり気味に膝の上に乗せているケンマの額へ指を弾く。

 

 

「全く、これも全部あなたの所為ですよ、ケンマ」

 

 

エルフィの言う通りではないけれど、無性にこの一時が愛おしい。もしかしたら、これが母性?精一杯、限界まで頑張った我が子を褒めるような感じなのかな?

 

それからもしばらく膝枕でケンマを休ませていると、体力が戻ってきたのかようやく眼を覚まし始めてきた。偶然とはいえ、今は二人きりなので昨晩ヴィクトリア様から伝えられたことをケンマに伝えてみようと私は思った。

 

 

「レフィーヤ………?」

 

「目が覚めましたか、ケンマ?」

 

「あ、ああ……えーっと、この状況は……膝枕?」

 

「そうです。それからケンマ、あなたは人を傷付けることが恐いですか?」

 

「えっ………」

 

「人に傷付けられるのが恐いですか?」

 

「……………ああ、どちらとも恐い。出来ることならば、どちらもない、優しい世界で暮らしていたかった」

 

「では、何故それが叶いそうな生まれ故郷を出たのですか?」

 

「………最初はこの世界に憧れを抱いていた。ダンジョンがあって、魔法があって、レフィーヤみたいな可愛いくて綺麗な女の子との出会いとかな」

 

「不純な動機ですね」

 

 

可愛いくて綺麗な異性との出会いを求めてと聞いて、ちょっとムッとします。

 

 

「そう怒るなよ。でも、今はベルやレフィーヤたちと出会って、初めて心の底から友達と言える繋がりが出来たんだ。だから、俺はこの繋がりを守りたい。あとは泣いている誰がいるなら手を差し伸べて、涙を止めてやりたい、そんな自分勝手な思いがある」

 

「では、もしもその繋がりを絶ち切ろうとする人や誰かを傷付ける人が現れたら、ケンマはその人に剣を振るえますか?」

 

「……わからない。もしかしたら激情に任せて、剣を振るってしまうのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。出来ることならば、どんな糞野郎でも殺したくはないな」

 

 

ケンマの心の底からの言葉を聞いて、私はこのタイミングだと思った。

 

 

「人を傷付け、殺すことは無意識にしろ、意識的にしろ、自分や誰かの命や想いを背負って剣に載せて振るう。それがある意味では生きることであり戦うことである」

 

「それ、誰の言葉なんだ?」

 

「ヴィクトリア様の言葉です。ケンマがラウルさんとの鍛練から不調が続いていたので、つい聞きに行ってしまいました」

 

「よく居場所が分かったな」

 

「ロキから聞きました」

 

「ああ、『神会』か………」

 

 

ヴィクトリア様の居場所を私に教えたのが、ロキであると分かるとケンマは『神会』で居場所を突き止めたのだろうと納得した。

 

すると、体力が大分戻ってきたのかケンマは私の膝枕から身体を起こして、立ち上がり、折れた木剣を拾い上げてしばらく眺めるとギュッと握り直しました。

 

 

「まだ価値観が拭えた訳じゃないけど、もしも俺が誰かを殺したらヴィクトリアとレフィーヤの言う通り、そいつの命や想いを背負って剣に載せて振るう"覚悟"は出来た」

 

 

静かでありながらとても心強い声音でケンマがそう言うと、折れていたはずの木剣から赤と黒を混ぜたようなモヤがケンマの襟首から下を全て覆い込んで服装を黒に統一したコートような物へと変えており、更には木剣がいつぞやの『怪物祭』で見た黒い刀に変化していました。

 

ケンマの姿の変化が終わると、ケンマから放たれる威圧感に私は覚えがありました。それは、数週間前に『中層』の未開拓領域で見たあの赤い鎧にとても似ている。

 

つまり、ケンマがまた強くなったことを意味している。

 

 

「ありがとう、レフィーヤ。俺はまた一つ上の階段に登ることが出来た」





レフィーヤがちゃんとヒロインしてる………だと!?

レフィーヤが雌の顔をしてる……だと!?

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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