臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百二十二話

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

「午後は儂が相手じゃ、思う存分掛かってこい!」

 

「なら、遠慮なく」

 

 

ベートさんとの午前中の鍛練で『魔剣創造』が禁手に至った後、俺はレフィーヤと共に昼食を取ってから午後鍛練でガレスさんと鍛練場で対峙している。そして、ガレスさんが思う存分攻めて来いと言っているので遠慮なく最初から全力全開で挑ませてもらうことにした。

 

午前中に至ったばかりの『魔剣創造』の禁手を使いこなすために試せる相手は限られてくる。その点ではガレスさんで助かる。

 

意識を集中させて魔剣のオーラを高めに高めて一気に全身へと巡らせて解放、『魔剣創造』の禁手を発動させる。

 

 

「卍解・天鎖斬月(仮)!」

 

「な、なんじゃそれは!?」

 

「午前中の鍛練でベートさんとレフィーヤ、リーネさんのお陰で使えるようになった俺の新しい奥の手です!」

 

 

『魔剣創造』の禁手は、名前の通り某死神代行の卍解にとても似ている。防具の見た目や武器もまんま同じ、ただし細かい部分や能力が違う。

 

細かい部分でいえば、黒いコートが普通の布ではなく、俺のは小さな鎖の集合体。つまり、鎖帷子のような物だと思ってもらえればいいだろう。次に能力だが、これは面白いことに『天鎖斬月(仮)』はコートと武器は別々に属性や能力を付与または上書きが可能なのだ。つまり、コートも魔剣の一部ということである。

 

 

「お主の奥の手の一つか、是非もない!掛かってこい!」

 

「行きます!」

 

 

まずは小手調べという感じで普通に地面を蹴りつけて、ガレスさんに斬り掛かる。けれど、やっぱり禁手に至ってもLV.6 との差は直ぐには埋められずにしっかりと大楯で受け止められてしまう。

 

 

「ぬうッッ!?」

 

「やっぱり受け止められるか!」

 

「何を言っておる!今のお主はLV.4 の上位と変わらん一撃だったぞ。お主は本当にLV.2か?!」

 

「一応、LV.2……ですよッ!」

 

 

普通に真正面から攻めたら駄目だ。この禁手の戦い方は、多分某死神代行と同じで速度にモノをいわせる高速戦闘こそが持ち味。そう考えたら直ぐにガレスさんから距離を取って、【瞬歩】による高速ステップで撹乱してながら攻めることにした。

 

さすがのガレスさんでも急に俺の速度が上昇したことに驚くが、即座に老戦士として冷静に俺の動きを分析しようとしてくる。

 

 

「速いな。それとチョロチョロと鬱陶しい!」

 

「ありがとう、ございますッ!」

 

「褒めとらんし、甘いわ!!」

 

 

高速機動からの辻斬りを繰り出すが、既に俺の動きは見極められていたのか魔剣に向かって拳を当てて、俺の魔剣をへし折ってみせた。

 

 

「いやいや、嘘でしょう!?」

 

「なんじゃ、自慢の速さも剣がなければ攻めれんか?」

 

「あー、それは大丈夫です。折れたなら修復すれば良いので」

 

 

即座に折れてしまった魔剣を修復すると、ガレスさんに呆れたような顔を向けられる。その顔に俺は、とてもデジャヴを感じるのは気の所為?

 

 

「お主、確か専属契約していた鍛冶師が居ったな」

 

「はい。居ますよ」

 

「其奴から鍛冶師泣かせ、と言われんか?」

 

「…………よく言われます」

 

「じゃろうな」

 

 

気を取り直して、【プロモーション】で補正を掛けてから攻め直す。

 

 

「【プロモーション・クイーン!】」

 

「それがレフィーヤの言っておった基本アビリティに補正をかける魔法か」

 

「そうです。なので、さっきより速くなってます!」

 

「本当に速くなりおってからに!?」

 

 

さっきと同じで高速機動で翻弄してみせるけど、今回は緩急を付けてみることにした。すると、さっきよりもガレスさんが鬱陶しそうに眉に皺が寄っているので上手くいってると思う。

 

更にもっと翻弄してやろうと前後だけでなく、天井も利用して上下左右前後と三次元による撹乱攻撃でガレスさんの意識を目一杯に翻弄してやる。

 

 

「その動き、まるでスカル・シープみたいじゃのう」

 

「まだ深層に行ったことがないですけど、そんなに似てますか?」

 

「黒い衣にチョロチョロした鬱陶しいその動き、まさにそっくりじゃあ!」

 

 

『スカル・シープ』、『深層』に生息するモンスターでその身体に纏っている黒い衣が暗いダンジョンでカモフラージュになっているため、とても発見し難いとアニメでリューさんが言っていた記憶がある。

 

でも、相手はガレスさん。深層に生息するモンスターとも数多く戦ってきたはずだ。なら、俺がやるのはスカル・シープにはなかった戦い方、すなわちオーラによる斬撃の強化。

 

 

「ガレスさん、強いのいきますよ!」

 

「望むところじゃあ!」

 

「はああああッ!!」

 

「うおおおおッ!!」

 

 

赤と黒が混ざりあった禍々しいオーラを乗せた魔剣でガレスさんの大楯目掛けて振り下ろす。振り下ろされた魔剣と大楯が衝突すると『黄昏の館』が衝撃波によって揺れ動くが、俺とガレスさんはそんなことを気にしてはいられなかった。

 

ただ、ただ、目の前の戦士の防御を突破したい、戦士の攻撃を押し退けてみせたいの一心のみが俺たちの闘争本能を熱く動かしていた。

 

 

「チッ、これでも駄目か!?」

 

「温いわ!この程度で儂の守りを突破できるとでも思うてかッ!!」

 

「だったら、意地でも突破しやる!」

 

「やれるものならやってみろ、小童!」

 

 

そこからは完全な意地だった。鍛練ということが頭から完全に抜け落ちて絶対にガレスさんの守りを突破してやる、それだけが頭の中を占めていたが故に後先考えずに【魔力操作】で無茶苦茶なことをやろとしていた。

 

 

「俺の最弱を以って、あなたの最強を打ち破る。一刀修羅!!」

 

「さすがにこいつは儂も本気でやらんとヤバいかのう……」

 

「フッ!」

 

 

禁手状態での【一刀修羅】。強化倍率が三桁を超えているためか、ガレスさんに肉薄するその瞬間、蹴った石畳が周辺の物も含めて全てが粉々に砕け散る。砕けていないのは俺の目の前にある石畳のみだが、一歩また一歩と前に進もうと石畳を踏みしめれば結果は同じだった。

 

それ程までに身体能力が爆発的に強化されている証拠でもある。これならば、いくらガレスさんの堅牢な守りであっても突破することができるはずだ。

 

 

「「うおおおおおッ!!」」

 

「待て!ガレス、ケンマ!!」

 

 

魔剣と大楯が衝突する瞬間、鍛練場の入り口の方から切羽詰まったようなフィンさんの声が聞こえてきたけど、もう遅い。

 

俺の魔剣とガレスさんの大楯が衝突した刹那、今までにないほどの衝撃が魔剣から手に伝わってくる。けれど、刀身は大楯を縦に裂いてガレスさんの腕に到達。

 

がしかし、そこであり得ない、認めたくないことが起きた。それは大楯を構えているガレスさんの腕に刀身が到達して皮膚を切り裂いて筋肉に刃が入った。そう確信した瞬間、ガレスさんが雄叫びを上げながら筋肉に力を込めると俺の魔剣を筋肉の力のみでへし折ってみせたのだ。

 

 

「ふんッッッぬァァアアアア!!」

 

「!?」

 

「天晴れじゃあ、ケンマ。だが、儂を倒すにはまだまだ足りん。強くなれ」

 

「くっ……そっ……!」

 

 

ガレスさんからのエールとへし折れてしまった魔剣の刀身が砕けた石畳の上を弾む、金属音を耳にしながら『魔剣創造』の禁手状態での【一刀修羅】で体力も精神力も全てを使い果たしてしまい、禁手の維持もまま成らず精神枯渇によって俺の意識は暗闇へと沈んだ。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideフィン〉

 

 

 

 

 

「まったく、随分派手にやってくれたね」

 

「ん、フィンか……」

 

 

執務室で執務をやっていたら、とてつもない衝撃がホーム全体に行き渡り、硝子に皹が入ったことで慌てて衝撃の発生源である鍛練場に来てみれば、床は原型を留めておらず、壁に幾つもの亀裂が走っている状況から相当な力の衝突があったのは明白。

 

更には、衝撃を発生させた原因たる二人のうち一人は全てを出し尽くしたように力無く床に倒れ伏したままで、もう一人は腕を少し斬られたくらいのようだ。

 

 

「何をしたらこんなことになるんだい、ガレス?」

 

「ケンマの新しい奥の手とやらを試していた」

 

「へぇ、ケンマの新しい奥の手、ねぇ……。それで、手応えは?」

 

「奥の手とやらを使った途端にLV.4 と何ら変わらん程度までに強くなりおった。それからフィン、ケンマがゴライアスを倒した方法が分かったかもしれん」

 

「それは本当かい!?」

 

「ああ、最後の最後で使った『イットウシュラ』とかいう身体強化の魔法。ありゃとんでもない魔法じゃ、まさかLV.2 の小童に腕を折られるとは思ってもみなかったわい」

 

「ッ!?」

 

 

ガレスのその発言に僕は驚きを隠せなかった。ガレスが嘘を言っているとは思わないけど、彼の腕を見れば、斬り傷から血が流れている腕をもう片方の腕で抑えている所を見るに、本当にケンマはガレスの腕を折ってしまったのだろう。

 

魔法や奥の手を使ったといえど、LV.2 の第三級冒険者がLV.6 の第一級冒険者の腕を折れるかと問われたら、普通は否である。 やっぱりケンマは僕たちの予想を軽く上回ってくるようだ。

 

 

「さすがは世界を救ってみせた、『英雄』と言えばいいのかな?」

 

「さぁな。しかし、アンタレスを討伐してみせた本当の奥の手とやらは出してもらえんかったな。それだけが心残りだ」

 

「いやいや、古代のモンスターを討伐してみせた奥の手をこんな街中で使われたら周辺の被害がこんな程度じゃ収まらないだろう」

 

「それもそうか。さて、ケンマを医務室に運ぶついでに、儂も腕を治してくるかのう」

 

「鍛練場の修繕費はガレス持ちだからね?」

 

「………分かっておるわい!」

 

 

鍛練場の修繕費で返答に少し間があったけど、しっかりと言質を取ったあとガレスは折れていない方の腕で気絶しているケンマを担ぐと鍛練場を後にした。

 

彼らを見送ったあと、僕は鍛練場の中へと入って、原型を失ってしまった床や無数の亀裂が走っている壁などを指でなぞりながらどんな身体強化の魔法を使ったらここまでの損傷を与えるのかを調査する。

 

 

「イットウシュラ………どれだけ強化する魔法なんだ?」

 

「フィン!!」

 

「団長!!」

 

 

一足先に鍛練場の損傷具合を確認していると、リヴェリアとティオネが遅れてやってきた。その後ろには他の団員たちも続いていた。

 

 

「な、なんだこれはッ!?」

 

「一体、なにが………!?」

 

「リヴェリアにティオネか。これはガレスとケンマの仕業さ」

 

「ガレスは分かるがケンマもこれをやったのか!?」

 

「団長の言葉を疑う訳じゃありませんけど、ケンマはLV.2 ですよ!? どうやったら、鍛練場をこんな………」

 

 

リヴェリアとティオネの言葉は最もだ。僕もケンマが全力でガレスに挑む光景を目にしていなければ、信じられなかっただろう。

 

けれど、目の前の光景が全てを物語っている。

 

 

「ガレス曰く、ゴライアスを倒した魔法と新しい奥の手を使ったケンマに腕を折られたそうだよ」

 

「は?ガレスがケンマに腕を折られた?!」

 

「いやいや、団長それはさすがに………マジ?」

 

「本人が腕を庇いながら言ってたから本当だと思うよ」

 

 

LV.2 のケンマにLV.6 のガレスが腕を折られたと聞いて、リヴェリアとティオネだけじゃなく他の団員たちにも動揺が走る。

 

そんな中、レフィーヤだけが周りの団員たちとは異なり動揺することなくケンマのことを心配し彼が何処にいるのかを僕に尋ねてきた。

 

 

「あの、団長!ケンマはどこに?」

 

「ああ、彼ならガレスと一緒に医務室へ向かったよ」

 

「分かりました、ありがとうございます!すみません、通してください!」

 

 

一人だけ人混みの中を掻き分けて医務室へと向かうレフィーヤを見て、彼女はケンマがガレスの腕を折ることには驚いていたけど鍛練場の有り様には驚くことはなかった。

 

レフィーヤの一連の反応を見て、ふと以前聞いた『怪物祭』と18階層での話を思い出した。前者は赤い籠手を装備したケンマがLV.1 でありながらLV.4 に匹敵する食人花を単独討伐、後者はイレギュラーで出現した『黒いゴライアス』を赤い鎧の冒険者が殴り飛ばした話だ。

 

二つの話と鍛練場の光景を照らし合わせて考えると、ちょっとした推測に至った。それは─────

 

 

「もしかして噂の赤い鎧の冒険者は………ケンマ、キミだったりするのかな?」

 

 

後に、この推測は間違っていないことを僕は知ることになるのだった。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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